第一章 ~ウサギの耳と狗の耳~
鈴仙side * * * *
「ちょっと鈴仙」
私は水差しと手ぬぐいを持ち、お師匠様のお部屋のふすまを開けた瞬間だった。
「どこで、あんな満身創痍な状態の子を拾って来たのよ」
「どこって……竹林の川の所で、です」
持っていた手ぬぐいを手渡す。お師匠様はありがとう、と言って手に取り汗を拭き始める。
「なんで、川にあんな血みどろでボロボロな子がいるのよ。竹林の案内人はなにやってるの」
「それを私に言われても……今てゐに妹紅さんを呼びに行ってもらってます」
そう、と呟きながら息を吐き、椅子にもたれかかるお師匠様。やっぱりちょっとお疲れの様子。無理もない。さっきまでその川に居た子を治療していたのだから。
「しかもあの子。狗族のような耳をしていたけど、全くと言っていいほど妖気が感じられなかったわ」
「それ、私も思いました。でも人の匂いも殆どしないのです」
コップに持ってきた水差しから水を汲み、手渡しながら伝えた。
手渡した水を一気にあおると、お師匠様はにやりと笑って、
「……面白いわね、あの子。良いわ、色々と話が聞きたくなってきた。あの子を治療と称してここに住まわせます」
あぁ、また悪い癖だ。天才ってなんで何事にも興味深々で一度疑問に思ったら誰かれ構わず行動に移してしまうんだろう。でも、これで私が実験台になるのも少なくなる。彼女には悪いけどホッとする。
鈴仙、もう一杯とコップを突き出すお師匠様。私はそれをもらい、水差しから水を注ぐ。丁度よい所で水差しの水が切れた。どうぞ、と手渡すと、私は立ちあがって水を汲みに行く。
「お師匠様が決めた事に異論はないですけど、まずは彼女が起きてからですね」
私は、片手で空になった水差しを持ち、空いた手でふすまを開けた。
「あら、何を言っているの?」
私の背中にお師匠様の声がかかる。
「あの子、男よ」
思考が飛んだ気がした。
「……え?」
「あの子を治療するときに脱がせたから確かよ。付いてたもの。でも、あの子とても綺麗な顔をしていたわね。鈴仙。あなた負けてるんじゃない? あ、そう。鈴仙、あなた、彼の世話係ね」
「ええぇぇええええええええええええええええっ!!!」
その声は、幻想郷に響き渡ったという。
* * * * *
夢を見てる気がする。どんな夢か、それは僕にもわからない。でもわかる事は、この夢はとても温かいものだという事。ここにいたら、ずっと幸せなんだろうなぁ。そう思わせる。
でも、夢は終わるんだ。そう、目覚める様に。
東方人妖期 第1章 ~ウサギの耳と狗の耳~
目が覚めると、僕の視界を知らない天井がいっぱいにした。
「……ここはど――ごぼぉ、げほっ」
声を出した瞬間、肋骨辺りにとてつもなく痛んだ。白い布団を紅く染めながらも、痛みは止まらない。何度も咳き込み、何度も吐血した。騒ぎを聞きつけたのか、いきなり、ふすまが開いた。
「あ、起きたのね――って凄い血!! 大丈夫?!」
見慣れない服装をしている女の子が、僕に近寄ってきた。うわ、綺麗な子だ――ん? ……耳?
「み、みみぃぃぃぃぃぃ!! うさ、うさぎ、みみ、うわ、わあああああ――ごぼぉ」
「また血ぃぃ!!」
この数秒後、貧血状態になり、布団の上で倒れたことは言うまでもない。
* * * * *
「……落ち着いた?」
「はい……お騒がせしました……」
頭上の僕の耳が力なく、しおれている。
あの後、ウサギの耳をした女の子に、真っ赤になった布団を変えてもらい、僕は申し訳なくなりながらも横になっている。
「とりあえず自己紹介しよっか」
ウサギの耳がピョコンと跳ねた。
「私の名前は鈴仙(れいせん)・優曇華院(うどんげいん)・イナバ、鈴仙でも、うどんげでも、イナバでも好きに呼んでくれて構わないわよ」
「え、うど? イナ……え?」
……少なくとも僕の近くにはそんな長い名前の子は居なかったよ。
「鈴仙・優曇華院・イナバ、よ。貴方は?」
今度はわかりやすく一つ一つを区切る様に言ってくれた。
「す、鈴宮雪正、です」
身体に負担が掛からない様に、小さな声で名前を言う。
「雪正、ね。よろしくっ」
そう言うと、彼女は僕に微笑みかけた。
――か、かわいぃ。僕の「よろしくおねがいします」という声は鈴仙さんの笑顔を見て、段々と小さいものになっていっていた。
「そういえば、貴方ね、もう3日ほど眠っていたのよ。憶えてないでしょ?」
そんなに!? と心の中で叫び、ビックリして目を見開いてしまう。
「憶えてないみたいね。でも、あんな格好で倒れてたから、死体が流れ着いたのかと思ったわよ」
そう言えば、川を探している所から記憶が曖昧だ。
「……あの、鈴仙さん、ここってどこですか?」
僕の問いかけに鈴仙さんは、
「ここは永遠亭、竹林の中にあるお屋敷よ」
聞いた事無いなぁ。家の近くにそんな名前のお屋敷あったっけ?
うんうんと唸っていると、雪正はどこから? と質問が飛んできた。
「鈴宮神社から」
そう言うと鈴仙さんは目を丸くした。
「貴方、外来人だったのね」
「――え?」
聞きなれない言葉を耳にした。外来人? なにそれ?
「雪正には色々と教えなきゃいけない事があるようね」
そう言って、鈴仙さんは僕に色んな事を話してくれた。
鈴仙さんの話を要約するとこうだ。
僕の住んでいた世界では無くて、『幻想郷』という所だと。僕はなんらかの理由により幻想郷に迷い込んでしまった――鈴仙さんは『幻想入り』したと言った――らしい。幻想郷には神社が2つしかなくて、そのどちらでもない事から、僕が外から来た人間だという事がわかったと言っていた。
「幻想入りした人間は、博麗神社の巫女が外の世界に戻してくれるのだけれど、雪正はまずは身体を治してからだね、臓器がちょっとおかしくなってるし、なにより、その眼、だからね」
「あ……」
言われてみて思い出した。僕にはもう右目がない事を。僕の耳が狼種の耳になってしまったこと。僕はその事実を突き付けられ、泣きそうになった。
「ねぇ、よければさ、雪正の話も聞かせてほしいな。ほら、誰かに言ったら楽になるって言うじゃない」
この時ばかりは、鈴仙さんの申し出が嬉しかった。誰かと話していないと、僕は気持ちに潰されていただろうから。
僕は弱々しい声だけどしっかりと言葉を紡いだ。だってこの記憶だけは忘れてはならない、間違ってはいけないと思ったから。
* * * * *
「――っく゛、え゛く゛っ、ゆ゛、ゆ゛き゛ま゛さ゛ぁ゛……た゛い゛へ゛ん゛た゛っ゛た゛ん゛た゛ね゛ぇ゛……」
……鈴仙さんは、僕の話を聞いてからずっとこの様子。
「れ、鈴仙さんっ、もう大丈夫ですから、ね?」
「そ゛ん゛な゛こ゛と゛な゛い゛! た゛い゛し゛ょ゛ふ゛な゛ん゛か゛し゛ゃ゛な゛い゛! わ゛た゛し゛に゛は゛、あ゛ま゛え゛て゛い゛い゛か゛ら゛ね゛ぇ゛!」
駄目だこの人。
こうして、僕の幻想郷の生活が始まったのだった。
第1章(の途中まで)です。タグから見てとれる様に、私は『ハーレム状態』な小説が書きたいので、章を重ねるごとに段々と度合いも増してくるかと思います。その展開が嫌だという方もいるとは思いますが、好みの違いです、ご容赦ください。
投稿してからまだ4日程。『東方』というブランド名(?)があってか、やはりUA数が日に日に増えています。これの上に胡坐をかかず、やっていけたらなと思っていますので、どうか暖かい目で見ていてください。
もし「どうしてこの表現を使ったの?」や「ここはこう書いた方がしっくりくるのでは?」と思う事がございましたら感想としてご一報ください。初心者の私ですが、私なりの考えがあって書いた表現だと思います(ただ言葉が浮かばなくて使った可能性も多々ありますが)語彙が少なく上手く説明できないかもしれませんが、出来る限りご説明します。
さらに、「○○の事を詳しく知りたい」例)「蟲毒ってなに?」など、不明な点もございましたら、感想とともに記載ください。自分の知識内ですがお教えします。(ググった方が早いです)
〈軽い説明〉
「side視点」…この小説は『ほぼ』一人称視点で書かれています。殆どは主人公である雪正視点ですが、それだけでは説明不足、他の視点からの方がしっくりくる等の理由で、東方キャラの視点に変わり動くというものです。お好きでは無い方も居るでしょうが、割愛ください。