永遠亭に来てから2週間。
「ユキ、どう? 立てる?」
僕は布団から出ると両手を使い、ふらふらになりながらも、立つ事が出来た。
「……やった! うどんげ、立てたっ! 立てたよ――っと……」
裸足で走りまわった足も、かさぶただらけだけど、立っても痛みはあまりなかった。
でも、立った瞬間、下半身に血が巡る感覚がして、足がじんわりと痺れる感触があった。その感覚で足に力が入らなくなり、うどんげに支えてもらう形になってしまった。
「もうっ、ふらふらじゃない。大丈夫?」
「えへへ……うどんげ、ごめんね。まだ君に助けてもらう日々が続きそうだね」
「――~~っ!! わ、私は別に……」
顔が真っ赤になって俯くうどんげ。初めてわかったのだけど、うどんげって僕より身長が頭半分くらい低かった。ウサギの耳を足すと僕より大きいけど。
「うどんげって、ホントに可愛いね」
「――!!! っ~~……」
浮かんだ言葉がそのまま口に出てしまった。
頭から煙を出したり、顔真っ赤にしたり、うどんげって器用だなと思った。
「とっ、とりあえずっ!」
「あ、今声裏返った」
僕がうどんげを笑うと、真っ赤な顔のうどんげは拗ねたように、ぷいっとあっちを向いてしまった。
「もうユキのバカっ! 知らない!」
その仕草も可愛い。母様は僕をこういう女の子にしたかったのかな?
なんて変な事を思いつつ、僕はうどんげに謝る。
うどんげに肩を借りながらも、僕らは永遠亭の廊下を歩いて行った。
今日は初めて、竹林を散歩しに行く。ずっと室内に居たし気分転換も兼ねてだ。
* * * * *
時を同じくして。ウサギは竹林を抜け、とある店に来ていた。
人里からの道を行き、魔法の森の入口。古びた和風の外装。
因幡てゐは、香霖堂(こうりんどう)に来ていた。
てゐside * * * *
不機嫌だった。とにかく不機嫌だった。この頃鈴仙が私を構ってくれない。それはまだ良い。あの子の世話をしなければならない事も、お師匠様が決めた事だから。
それにあの子を発見した時も、私から見ても悲惨な状態だった。だからまだ我慢できる。
だが、「鈴仙の代わりにおつかい」をするのはとても面倒だった。
「ぶー、どーして私かなぁ」
と呟くけど、鈴仙が世話をしているという事は、動けるのはお師匠様か輝夜様しかいない。頭ではわかってるんだけどさ。
それでもやりきれない気持ちがあってか、私はやや乱暴にドアを開けた。
「いらっしゃ……これはまた珍しい客が来た」
「なによ、私が来たらダメだっての?」
森近 霖之助(もりちか りんのすけ)はややだらけた声で、別にと言った。
「なにはともあれ客は客だ。いらっしゃい」
私は店の中に足を踏み入れた。埃っぽくてじめじめとしている。
「ねぇ、換気とかしないの? 湿っぽくて敵わないんだけど」
「日の光は嫌いだ。それなのにどこぞの天狗は新聞を投げ込み障子を破る」
店主は顎で窓を差す。そちらを見ると、確かにここだけ障子が新聞で直されている。
「そーゆーところ、輝夜様に似てるわ」
あの方も出無精な所がある。私は雑多に置いてある棚の商品を眺める。
「誰かに迷惑をかけていない。だから問題ない」
「現に今私に迷惑がかかってる」
店主は呆れた様な顔をして言い放った。
「なら店に来なきゃいい。どうして今日に限って鈴仙ではないん――」
「そうよ! そこなのよ聞いてよあんた!」
店主は目を丸くしていたが、その言葉で私はもう止まらなかった。
そこで物を買ったのは喋り通してかれこれ2時間ほど後だった。
「へぇ……永遠亭に外来人が……これはスクープですね。新聞を届けにやってきたのですが、やはり噂好きの兎は良いネタを持ってきますね。そうと決まればまずは取材です――」
私は話に夢中で、外で何かが飛び立った音など聞こえてはいなかった。
* * * * *
場所は戻り竹林。
僕らは永遠亭の周りを山菜を採りながら散策していた。山菜と言っても、筍くらいしかないけど。僕もゆっくりだが一人で歩けるほどになって、今は自分の足だけで歩いている。
うどんげの機嫌も直って、2人で話しながらゆっくりとした速度で歩いていた。
「それでね、私はそこで気絶しちゃって……」
「ホントに? それは凄い」
声を上げて笑うほど、うどんげの話は面白かった。
うどんげの体験談はお師匠様、永琳さんの実験台にされた話。僕らは2週間一緒に居るけど、その類の話は種類に富んでいて、聞くたびに違う話が聞けて面白い。
そういえば、うどんげはとても長生きで僕の何百倍も生きているウサギの妖怪で昔は月に住んでいた事を知った。
妖怪と聞いた時はビックリしたけど……
盗み見る様にうどんげを視界に入れた。
こんな可愛い子が妖怪なんだよなぁ……
竹かごを背負い、僕のやや斜め前を歩くうどんげは、どこか楽しそうだった。
ウサギの耳が歩くたびに揺れる。狗の耳も隣で微かに揺れる。自分の耳が視界に入ると、僕ももう、妖怪なんだよなぁ。なんて思ってしまう。
永琳さんから話を聞くに、狼種――幻想郷では『狗族』と言うらしい――の血を分けられた僕は半分人間、半分妖怪の中途半端な存在になってしまったらしい。でも耳は生えたが、尻尾は生えず。鼻は良くなったが、体つきに変化はない。眼球があった所から入れられたからか、首から上の部分しか変わってないのが現状であり、実際は4分の1ほどではないかと言っていた。「まぁ半人半霊もいるんだし、クォーター妖怪がいてもおかしくは無いわね」と言っていた。『くぉーたー』とは4分の1を表す外の言葉らしい。
改めて、自分の手を見てみる。 ……特に何も変わっちゃいない。
「ねぇ、うどんげ」
なぁに、と振り返る可愛い兎の妖怪。僕は少し真剣な声になってしまった。
「僕って、変じゃないよね?」
「――え?」
「だって、僕、色々とおかしいじゃない。耳はあるけど尻尾はない、くぉーたー妖怪だし、眼だってないし。こんなのもう人じゃないよね」
自分で自分を傷つけているかのよう。自分の言葉で段々と落ち込む。
「このまま人間のいる所に行ったら、絶対に怖がられる……父様や、母様にだって……」
「ユキ……」
僕はいつの間にか立ち止まって、下を向いていた。視界には地面と、うどんげの靴。
その靴は僕の方に向いて歩いてきた。そして、
うどんげは僕を抱きしめてくれた。
「え、ちょ……う、うど――」
「確かに、人間は怖がるかもしれない。でも幻想郷(ここ)には貴方を怖がらない人達が大勢いる。私だって貴方を怖がってなんかいないわ。むしろ……」
「……むしろ?」
そこで、段々と頬が赤くなってるのが、横から見てとれた。
「――かっ、かか可愛いと思ってるし……」
「え?」
そう言われて、僕も耳が熱くなる感覚に陥った。
僕、女の子に可愛いなんて言われたの初めてだっ……
昔から、面と向かって話せるのは父様と母様。後は神社で働いてる人がちらほらとだけだった。『神が降りた巫女』と言う事にされていた為、同年代の友達なんか居なかった。
「あ、あああありが、とうっ……」
二人して真っ赤になって抱きしめあっていると、なんか変な気持ちになってくる。
……うどんげ、良い匂いだなぁ。
「あの~……お取り込み中の所、非常に申し訳ないんだが……」
そう聞こえたのはすぐ隣だった。声が聞こえたと同時に僕らはすぐさま身体を離した。僕の目に飛び込んでくる白い髪と紅白の髪飾り。真っ赤なもんぺの女の子。
「す、すまん。……永遠亭に客人だ、鈴仙」
「えっ、えっ! 誰ですかこの可愛い子っ! 鈴仙さん、誰なんですか? なんで抱き合ってたんですか、ねぇねぇ!」
申し訳なく話しかけてきたのは妹紅さん。竹林を案内していた途中っぽそうだ。
その後ろには、綺麗な緑の髪に白い蛇と蛙の髪飾り。青い巫女服を身に纏った、巫女さん……っぽい女の子だった。
僕らは顔を真っ赤にして黙っていた。
着実と進んできている3話です。(実際は6話)
正直、自分でもびっくりするくらい小説を書いてる事が楽しいのです。
授業やアルバイトの時でも考えるのは小説のネタ。(「イチャネタ」と言ってます=「主人公達がイチャイチャするネタ」)これもひとえに皆様が読んで下さったり、お気に入りや感想を頂けたりと、自分の意欲を掻き立ててくれているからだと思っております。皆々様には多大な感謝を。
なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。