東方人妖期   作:黎悠明

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~狗と兎と蛙の蛇と~

 夢を見ていた。僕が楽しそうに笑っている夢。

 小さな家に沢山の人、妖怪(ひと)、妖精(ひと)、神(ひと)。

 その中で僕は笑っている。でもなんか困った笑いみたいだ。

 あれ、良く見たらうどんげもいる。他の人達は全く分からない。でもみんな優しそうだという事が、見てとれる。誰かが言った。

 『この世界も今となっては悪くないでしょう』

 僕の答えは決まっていたらしい。

 

 目が覚めると、もう日が昇っていた。そんなある日の夢事情。

 

*     *     *     *     *

 

 「いやーまさか永遠亭に薬を貰いに来たら、鈴仙さんと知らない女の子が抱き合っていたなんて」

 緑髪の巫女さんは永遠亭の客間でお茶を啜っていた。永琳さんから二日酔いを緩和する薬を頂いていた巫女さんの話によると、同居人2人が酒の早飲み競争をし、見事に二日酔いにやられてしまったらしい。

 「その話はもうやめてって!」

 横では顔を真っ赤にして叫んでいるうどんげ。

 聞こえなかったかのように、緑の髪の少女は酔いしれる様に思い出し語っている。

 「あの薄暗い竹林の中、2人は抱きしめあい、愛を誓う……ああ! ロマンチックですねぇ。百合の花が咲き乱れます」

 「だーかーらー、違うって言ってるじゃないですか! それと百合違う!」

 彼女の話を聞いていると、わからない言葉もあるけど、僕も恥ずかしくなってくる。でもあの人、僕の事……

 「あ、そこの鈴仙さんの恋人さん。申し遅れました。私は東風谷 早苗(こちや さなえ)、守矢神社で巫女をしているものです」

 姿勢を正し、深々とお辞儀をする彼女。僕もそれにつられて、ご丁寧にどうも、とお辞儀をしてしまった。

 「貴女は? 見た所、狗族の半妖……みたいですが」

 ほんのちょっと一緒に居ただけでここまで正体を理解している。流石は巫女さんだなと思う。でも、全部は理解できてないらしい。

 「あ、自分こそ申し遅れました。鈴宮雪正。訳あって、ここで居候をしている身です。あと、恋人じゃないです」

 僕がそう言うと、東風谷さんは石の様に固まった。

 「――え? ゆき……まさ?」

 固まった東風谷さんに、うどんげはこう伝えた。

 「ビックリでしょう? こんなに可愛い顔して、男なのよ」

 

 「ええぇええええぇぇええええええええ!!」

 

 「――っ! ぅあっち! タバコがっ」

 その声は、永遠亭の外で一服していた妹紅さんの耳にまで届いたという。

 

*     *     *     *     *

 

 「やっぱり勘違いしていらしてたんですね」

 僕は座卓を境に向い合って座っている東風谷さんに話しかけた。

 「そんなに可愛い顔をして、勘違いしない訳ないじゃないですか!」

 「うどんげも最初は僕の事を女だって思ってたらしいですよ」

 

 うどんげは、永琳さんに呼ばれ席を外しているので、今は二人きりで客間でお茶を飲んでいる。

 「しかも、下手すれば私より可愛いんじゃ……」

 「いえ、東風谷さんの方が可愛らしいですよ」

 僕に聞こえないようにしているのか、とても小さな声で呟いているが、『この耳』のお陰で何なく聞き取れた。

 「へっ? ――あっありがとうございます……」

 顔を赤くしながら語尾が小さくなっていく東風谷さん。うどんげとは違う可愛さがあるなぁ。

 うどんげの可愛さは、耳からきていると思う。あのピコピコしたのが可愛い。

 「あ、あのっ、鈴宮さん……?」

 「何で疑問形なんですか?」

 いきなり話かけられたかと思い、言葉を返すと、焦ったかのように答える。

 「いや、何て呼んだらいいかわからなくて……」

 「好きに呼んでください、名でも氏でも」

 「で、では雪正さんで……」

 と自分の胸で「雪正さん……雪正さん」と反芻している。微かに頬が赤く見えるのは気のせいかな。

 何度か呟いた後、東風谷さんは、此処に来られる前はどちらに? と、話しかけてきた。

 「僕は幻想郷の人間ではないので、外の世界の鈴宮神社と言う所からです」

 「そ、そうなんですか? 実は私も外の世界の神社から来たんです」

 僕は驚く。東風谷さんはそのまま話を続ける。

 「私の場合は、守矢神社で風祝をしていたのですが、外の世界では信仰が薄れて……」

 

 神社に住まう神は信仰の力を強め、姿を維持している神が存在する。だが、信仰が薄れると、神は姿を維持できなくなってしまう。そこで幻想郷に神社を移転させ、ここで信仰を多くしようと来たのだ。とのことであった。

 

 「というと、雪正さんも信仰を深めに?」

 「あ、いえ。僕の場合はそんな大層な話では無くて……」

 「え?」

 そう。僕の神社は信仰が無くても、能力は廃れないのであまり関係ない。神なんて名ばかりだから。

 「少し長くなりますが、よろしいのですか?」

 「構いません。この際、神奈子様にも諏訪子様にも少し待っていてもらいましょう」

 その名前の方が、二日酔いになられた方なのかな、と考えつつも。

 どうぞ。と僕の話を聞く姿勢を取る。そして僕はつい2週間ほど前にあった、決して曇らせてはいけない思い出を語り始めた。

 

*     *     *     *     *

 

 「――えぐっ……ひぐっ」

 「あ、あの東風谷さん、そんなに泣かなくても」

 案の定、彼女も泣き始めてしまった。この世界の住民はみんな涙もろいのかな。

 「だってぇ……だってぇ! 雪正さん、独りぼっちじゃないですか! そう思うと……そう思うとぉ」

 僕はなんとかして東風谷さんをなだめようとする。

 そう言えば、確かに僕はもう身寄りがないんだよな。そう思うのだけれど、不思議と寂しいという感情には至らなかった。それが何故かは検討がつく。

 「……決めました」

 「なにをです?」

 彼女は泣きやむと、静かに炎を燃やしながら、何かを決意した。

 「私! 貴方が寂しくない様に、ちょくちょく永遠亭に顔を出しに来ます!」

 「――え?」

 そう。うどんげの時もそうだった。

 「いっ、いや、いいですよ。ここまで遠いでしょう? 竹林も迷っちゃうし」

 「そんなの、私、『奇跡の力』で空を飛べるので大丈夫です。竹林は妹紅さんに頼めば、ほら大丈夫」

 え? 空飛べるの!?

 「雪正さん。ここでは常識に囚われてはいけないのですよ?」

 僕の驚いた目を見て、にやりと笑った。それを見て、僕も安心して笑った。

 「? どうして笑うんです?」

 東風谷さんが疑問を抱く。だってさ、

 「いえ、泣いていた東風谷さんがようやく笑ったから。貴女は笑っていた方が可愛いですよ」

 「――~~っ!」

 そう言うと、まだ少し赤い眼より、紅くなった顔を、俯いて隠してしまった。

 「……るい。そういうの、ずるい……」

 でも、その申し出は素直に嬉しかった。

 

 僕が寂しいと思わない理由。それは幻想郷の皆がこうも温かいからだと思う。

 




 7話です。区切りが悪く、今回はちょっと少なめな感じですがご容赦ください。
 早苗さん、ご登場です。 ただ単に早苗さんが好きだから早くに登場させたかった感は否めませんが。次は誰を出そうかなと考えながらですので、正直まだ次のヒロインが決まって無かったりします。ぼんやりとは決まってるんですけどね。
 
 この小説は、長々とやっていきたいなと思っているので、ヒロイン一人に割く話数が増えてしまう可能性がございます。温かい目で見て頂けると幸いです。

 なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。

 〈軽い説明〉
・ある日の夢事情…雪正の『近い将来、もしかしたら起きるかもしれない「予知夢」』の断片です。彼の能力は「未来を見通す」。それが数秒後にしろ数日後にしろ数年後にしろ。でも、人は行動でその未来を変えるかもしれない。
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