「ねぇ、神奈子。最近、早苗が決まって昼から夕方にかけて居なくなるんだけど」
麦わら帽子に似た深みのある『目がついている』帽子からは、綺麗な金の髪。紫を基調とした着物。丈が短いからか、少々幼さが目立つ。
隣には、神奈子、と呼ばれた青の髪の女性。赤い服の胸元にはワンポイントに鏡が。藍色のスカートがなびいている。背中にはなにやら縄が。
「いいじゃあないか。境内も掃除してある。夕食の下ごしらえもほぼ終えている。私等には迷惑をかけていないんだ。たまには好きにさせてやろうよ」
「そうなんだけどー。ここ毎日通ってるのは話によると永遠亭らしいんだよ」
「薬ならもう貰ったんだがね」
「そうなんだよねー。……今度も負けないからね」
「次も勝つのは私さ」
「次も負けるのは、の間違いでしょ?」
「先に倒れたのは諏訪子の方じゃないか」
「神奈子だって、私より一杯少なかったじゃない」
目と目が交差する。その間で火花が散っている様だ。なにやら緊張した雰囲気を醸し出したが、先に神奈子が殺気を消した。
「ま、それも次の呑みで決めようか」
「そうだね。それはともかく、早苗が欠かさず足を運んでいるのは永遠亭らしいのさ」
「さっきも聞いた。……気になる男でも見つけたんじゃ?」
「……へぇ。それは面白い。でも、永遠亭に男なんて居ないじゃない」
「それもそうよね」
「でも毎日楽しそうなんだよね……」
「ほお……どうにかして永遠亭に足を運ぶ理由を知りたいもんだ」
次の日の朝。早苗は、ある方法で知った情報により、二人に質問攻めをされる。
* * * * *
『永遠亭に、顔を出しに来ます!』
その台詞を聞いてから、1週間経った。それからというもの。毎日、早苗さんが永遠亭に足を運ぶようになった。全然ちょくちょくじゃない。そこには嬉しさを感じるのだけど、毎回うどんげと嫌な空気を作るのは止めて欲しい。
『あの、鈴仙さん。私は雪正さんと二人で話したいのですけど』
『そう言う訳にもいかないわ。お師匠様から雪正の世話をするように仰せ付かっているもの』
『では、そのお世話、代わりに私がしてあげます』
『心配いらないわよ。貴女より私の方が彼を良く知っているし』
『あ、そーゆーのずるい! ねぇ、雪正さん、私と一緒に守矢神社に行きませんか? 不自由はさせませんよ?』
『ずるいのはどっちよ! ユキは絶対に渡さないんだから!』
『ユキ! なんて仲睦まじい……!』
や、やめなよ、うどんげ。東風谷さんも。
『う、うどんげ……私の事は早苗って呼んでくれないのに……』
『どーよ、ユキとの仲はバッチリなんだから』
『うー……ずるいずるいずるいずるいぃぃ!』
このやり取りを境に『早苗さん』と呼ぶようになった。
早苗さんが来ると毎回こんな感じにケンカしてしまう。どうして仲良く出来ないんだろう。
夕方頃。早苗さんも守矢神社に帰り、うどんげは夕食の用意をしている頃。僕は竹林を散歩していた。散歩と言ってもここは迷いの竹林。視野に必ず永遠亭を入れるようにし、いつでも帰られるようにする。
幻想郷に来て約3週間。賑やかでちょっとうるさいけど毎日が楽しい。
この前、久々に『予知夢』を見た時。僕の近くに居る人達はうどんげや早苗さんだけではなかった。これからいろんな人たちに出会うのだろう。
もし、その人達とも、うどんげや早苗さんはケンカするのだろうか。そう考えると少し鬱になる。
僕は、肺に溜めた息を思いっきり吐く。そろそろお屋敷に戻ろうかな。
「おや、ため息をつかれては、幸運が逃げてしまいますよ?」
背中にかかる初めて聞く声。僕に緊張が走った。
「……だ、誰?」
「これは申し遅れました。私は射命丸 文(しゃめいまる あや)。しがない新聞記者です」
「は、はぁ……」
「早速ですが、貴方はあのお屋敷、永遠亭に住んでいるのですか?」
本当にいきなりの質問に、僕の緊張はどこかに行ってしまった。
まぁ、と答えつつ。彼女の身のなりを見てみる。黒い短髪に、山伏がかぶる様な赤い帽子。白の着物――うどんげが『シャツ』と言っていたような――に黒のヒラヒラした、袴を思いっきり短く切った様なものを履いており、一本下駄を履いて、宙を浮いている。色合いは違えど、うどんげの服装にちょっと似ているかな。
背中には、黒い翼が見えている。
「おお。では貴方が噂の外来人ですね?」
「確かに外から来たけど、え、僕噂になってるの?」
「そりゃあもう。今から私が有名にします。ええ。そこで貴方に質問を少々」
紙と筆記具を取りだす射命丸さん。どこから出したんだろう。
僕はちらりと永遠亭を見やる。ご飯時にはまだ早いかな。
「晩ご飯の時間までなら」
「十分です。では、まずお名前、年齢、性別からお願いします」
「鈴宮雪正、齢は15。男です」
「……男、ですか?」
「はい、男です。そんなに女に見えますか?」
こうも皆に言われると、男として自身が無くなってくる。
「いえ、可愛らしい顔立ちをしていますね」
「答えになってないんだけど……」
彼女の質問は数分続いた。趣味や特技、最近の悩み、その耳はなぜ? なぜ永遠亭に来たのか、等質問は様々だった。ちなみに、幻想入りしてしまった理由は伏せている。
「なるほどなるほど……では最後に、貴方の『程度の能力』を教えてください」
「『程度の能力』?」
僕の頭に疑問符がつく。
「ありゃ、ご存じないので? 幻想郷の巫女、妖怪、神様、妖精など、それらに準ずるものは『程度の能力』というものを持っており、それ相応の力を有しているのです」
「能力というのはわかるけど、どうして程度なの?」
「それ以上でも以下でもないからです。その能力以外の事は出来ませんし、その能力が進化する事もないからです」
ちなみに、応用とかは出来ますよ。と射命丸さん。僕の能力と言ったらやっぱりアレかな。
「未来が見えます」
「未来、ですか。たとえばどんな?」
いきなり、彼女の眼が変わった。
「種類はあります。考えると答えの様に浮かんでくる『考察』。瞑想するように考えに浸る『瞑察』。眠ってる時に見える『予知夢』。全部父様が名前をつけてくださいました」
あと、狼種との戦いで、相手の行動を予知する事が出来る様になった……のかな。
そう言うと、射命丸さんはサラサラと筆記具を紙に滑らせるように書きとめる。
「考察、瞑察、予知夢……ふむふむ、良い名です。その相手の行動を予知する能力。名前は無いのですか?」
「ないですね。父様に見せた事がなかったので」
正確には、見せる事が出来なかった、だけど。
「では、その能力『瞬察』、と名付けられてはいかがですか? お父様の名づけ方にあやかったので、そこまで変ではないでしょう」
瞬察、かぁ。なんかカッコイイな。僕はその名前が気に入ったのでそれを貰う事にした。
すると、永遠亭の方から、なにやら良い香りがしてきた。今日は魚を焼いているらしい。くぉーたー妖怪になってからか、鼻が良くなったのは利点である。悪い事だけじゃない事に感謝だ。
「そろそろ晩ご飯の様です、では自分はこれで。射命丸さんが聞き巧者なので色々と話してしまいました」
「――っ、い、いえ。私もまだまだ修業の身。もっと聞き出せてこその記者です」
ほんの少し、どもった様に聞こえたのは風が吹いたからかな。でも、少し顔が赤い様な。
「取材に協力して頂きありがとうございました。新聞が出来上がった暁には、永遠亭にもお届けにあがりますので、是非眼を通してください。では里に帰って記事を書きます故、私もこれで」
射命丸さんは空高く飛んだかと思うと、空に一本の線を作ったかのような速さでどこかに飛んで行ってしまった。
凄い人に会ったものだ。丁度お腹の虫が騒いだところで、僕は永遠亭に向かって歩き出した。
8話です。
あやや、登場。ですが今回はまだヒロイン格ではない模様……。
この頃小説に夢中になりすぎまして、睡眠時間を削っていると、流石に限界だったのでしょう。授業中に大爆睡しました。 友人にも心配をかけてしまった……。ちょっと反省。
なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。
〈軽い説明〉
雪正の能力…「未来を見通す程度の能力」これには段階的な種類が存在する様です。細かい説明は省きますが、
第一段階『瞬察』…相手の起こす行動を予知する。狼種との戦いから取得。3~5秒程度を視れる。
第二段階『考察』…考える様に未来を視る。疲労に比例し予知範囲が短くなる。5秒~1分程度を視れる。
第三段階『瞑察』…目をつむり、座禅をくみ、未来を視る事だけを考える。1時間~1日程度を視れる。
第四段階『予知夢』…夢を視る様に未来を視る。『とある夢事情』は予知夢。1日~約1年程度を視れる。
なお、期間が長くなればなるほどその未来も書き変わる可能性を秘めている。未来が一つとは限らない。