二つの顔を持つ緑谷出久   作:青二才

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投稿間隔が二か月近く空いてしまって申し訳ありません。とてつもなく難産でした。文章がめちゃくちゃな自信があるけど温かい目で見て下さると幸いです


特訓と慈善活動、かつての憧れとの再会

あれから更に数日後、僕はオールフォーワンに用意されたトレーニングメニューに目を通すことになった。

 

「......先生?これ、下手したら僕のほうが死にませんか?」

 

僕はオールフォーワンの修行内容を見て、思わずそう声を上げた。

 

「だが君も自分で僕があげた『進化』の個性を伸ばしているだろう?それを手助けするだけさ。大丈夫、いくら何でも死なせはしないよ」

 

彼は諭すように僕に言ってくれるが、薄く浮かべている笑みのせいで信用することが微妙に出来なさそうだ。

 

「...先生がそう言うなら良いですけど...それでも個性複数持ちの怪物の性能テストを兼ねて戦うっていうのは怖いですよ」

 

そう、僕の修行とはオールフォーワンとドクターが一緒になって作っている個性複数持ちの怪物、脳無を倒すと言う狂気じみたものだった。

 

「出久君、こいつらは脳無じゃ。わしの悲願たるマスターピース作成のための素となる高尚な存在なのだよ。怪物なんて品の無い呼び方はせんでくれ」

 

ドクターは訂正を求めてくるけど、正直怪物にしか見えないからしょうがないと思う。

 

「あぁごめんなさい、なんか姿形が苦手だったので嫌悪感が出てそう呼んでしまいました」

 

 

「まぁ見るのが初めてなら仕方ないかのう...残念じゃ」

 

ドクターは僕の返答を聞くととても残念そうな顔をして俯いてしまった。

 

「ドクター、まだ試作段階なんだから別に良いじゃないか。それよりも出久君の特訓を兼ねて性能テストをするんだろう?」

 

オールフォーワンは彼を見兼ねたのか、ドクターの背中を叩きながら励ました。

 

「そうじゃな...出久君!まず前提に知っていて欲しい事だが、脳無には4種類ある。下級、中級、上級そして最上級じゃ」

 

立ち直ったドクターは僕にそう嬉々として話してくれた。

 

「...性能は名前の通りと考えて良いんですよね?」

 

 

「ああそうじゃ、君の最終目標は最上級と渡り合うか上級を倒すこと。だが今からでは下級を圧倒するか中級と互角か少し劣るくらいにしかならんと思うね。先生の連れてきた人間という特権でわしが複製した個性を二つか三つくらいならくれてやる。これから入試までの間でそこまではやってのけてみなさい」

 

「強さは戦ってみないと分からないけど、やってみます」

 

聞いている限りふざけているとしか思えない目標を提示された...絶対殺す気でしょ『大丈夫だ、死にそうになったら意識乗っ取って思いっきり離脱してやるから。だから足だけは無事にしといてくれ』....そう言う意味じゃないんだけどなぁ....

 

「フフフ...楽しみにしているよ、出久君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、続けてたら死んじゃわない?これ」

 

初日の訓練が終わっていつものバーに帰った後で僕はそう愚痴を零した。

 

「お疲れ様です、出久さん」

 

カウンターの奥から声が聞こえ、オレンジジュースが目の前に置かれる。

 

「あ、黒霧さん」

 

「全く、先生がたも無茶を言います...中級の脳無でも十分プロヒーローを殺しうると言うのに...」

 

黒霧さんはため息をつきながら僕に心配な目を向ける。

 

「まあ、これから毎日一度は死ぬかも..って思ってますけど、相棒のハロスも居るし何とかしますよ」

 

僕はその目を向けられながらも笑い、安心させるように努めた。

 

「頑張ってくださいね、代わりと言ってはなんですが帰りは近くまで送りますから」

 

「ありがとうございます...あ、今日は家の近くの海浜公園につなげてくれませんか?追加の特訓を兼ねたごみ掃除がしたいので」

 

僕は黒霧さんの申し出を受け、即座に変える準備を始めた。だが、まだ本当に家に帰るわけではないから荷物をまとめただけだ。

 

「そのストイックさを死柄木弔にも見習って欲しいものですね...いいでしょう、お送りしますよ」

 

黒霧さんは何やら悩んでいたが、しばらく瞑目して頭を振ると、ゲートを開いてくぐるようにうながしてくれた。

 

「それじゃあ黒霧さん、またあした!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.....相変わらず凄い量の漂着ごみだなぁ」

 

敵連合のアジトからワープゲートを使って僕が送ってもらった場所は、波の関係で漂着物が沢山流れ着き、今や美しい景観など無くなってしまった海浜公園だ。

 

『掃除のしがいがあるんじゃないか?』

 

ハロスが実体化(といっても今の彼は零体だが)して僕の呟きに返事をしてくれた。

 

「あ、ハロス。全然声かけてくれなくて心配してたよ...もしかして連合の皆のこと嫌い?」

 

 

『連合が嫌いってより、あの先生とドクターってやつが苦手なだけだ。人を人と思ってねえ』

 

 

「あぁ...僕もその気持ちわかるかも。でもさ、他は良いの?」

 

『まぁ、好きなわけでもないが、良いとは思う。曲がりなりにも人を殺すことに目的があるからな』

 

「...よくわからないな」

 

『簡単に言えば、他人の命を使って遊ぶ外道か、ただ何かの目的のために人殺しをする悪人かの違いだ』

 

「ああ、死神からすればただ何か目的があって殺してる方がまだ許せるのか...納得」

 

『...そろそろ無駄話をやめて掃除を始めたらどうだ?やるんだろ?』

 

「うん!奉仕活動はヒーローの基本だからね」

 

僕はハロスとの敵連合に関する話を切り上げてこの公園の掃除に取り掛かることにした。特訓第二弾開始だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた....」

 

開始からしばらくして、僕は今日片づけた一角に大の字に寝そべって脱力していた

 

『そりゃ三時間もやってりゃそうだろうよ。飲み物でも買ってくるから待ってろ」

 

ハロスはあきれ半分でそう言うとふよふよと飛んで自販機に向かった。一応ハロスは半分霊体と完全な霊体の二種類になれるからモノに触ることもできるらしい。

 

「ありがとうハロス...」

 

 

 

 

 

「ん?お金は持って行ったよね?何で......」

 

5分もせずに戻ってきたことを不審に感じた僕は顔を動かさずにハロスに問いかけた。

 

「お前にお客さんだ。そいつが飲み物持ってたから引き返してきた」

 

 

「.......今更何のようですか?NO1ヒーロー」

 

顔を上げてハロスの横にいる男性を見ると、それは痩せすぎて何の力も感じないトゥルーフォームのオールマイトがいた。

 

「...君に、謝罪と訂正、それと身勝手ながら提案がしたくてね」

 

オールマイトは重々しい雰囲気を纏って僕に話しかけてきた。

 

「内容は読めます。だから貴方は何も謝る必要も、訂正する必要もありません」

 

僕はオールフォーワンから聞いていた彼の持っている個性と、以前された話を思い出して言いたいことを先読みすると、先んじてそれを制した。

 

「でも..君はヒ「僕はね、オールマイト」...何だい?」

 

それでも僕に謝ろうとしてくる彼の発言とかぶせるように僕は口を開いた。

 

「貴方に夢を否定された時、あのビルから飛び降りて死のうかと思ってた。でも、奇跡みたいな話だけど今は最高の相棒になってくれた人が力をくれました」

 

 

「それはどういう...?」

 

 

「言う必要あります?まぁでも、その力は単体じゃあまり意味が無かったから、沢山の人と話をしました。ヒーローに憧れたけど個性のせいで諦めて命を絶とうとした人、敵向けの個性だとヒーローに憧れることすらやめて死のうとした人..個性が強くても生まれつき体が弱くて寝たきりの人も居ました」

 

「ああ、子供の持っていた個性が自分の弱点を補完できるからって理由で、愛してた夫が豹変して子供を虐待紛いの特訓を強いたことで精神を病んだ人も居ました」

 

僕は淡々と自分がオールマイトに否定されてからのことを話した。途中で彼が口を挟もうとしていたが、それもさせない。

 

「......」

 

「どこへ行っても個性、個性、個性。正直個性を欲しがってた僕が馬鹿みたいだと思いました。個性を使わないでも、僕をヒーローと呼んでくれる人がいたから」

 

「だから僕はヒーローを諦めた訳じゃない。でも、今ある個性至上主義なヒーローは嫌いです」

 

自分の考えとヒーロー観を伝え、一旦言葉を区切ってオールマイトに発言権を譲った。

 

「....言いたいことは分かった。でも、さっきの話からすると今は君も個性があるのだろう?今活躍しているヒーローと根本では違うわけでは無いじゃないか」

 

「確かにそうです。でも、僕はただの犯罪抑止策としてのヒーローじゃなく、僕は称号としてのヒーロー、遥か昔に失われた本当の意味でのヒーローという存在になって、その本質を取り戻したい」

 

 

「だから、手を貸してくれた人の想いを背負って、僕はヒーローを目指したいんです。言うとすれば皆は一つの目的の為に(オールフォーワン)ってやつですよ」

 

「っっ...!!」

 

「提案は聞きたいですけど、もう遅いので明日で良いですか?日曜ですし」

 

思いの全てを吐き出した中で、僕は敢えて彼が動揺を隠せないだろう人と同じ言葉を使った。予想通りに彼が言葉を詰まらせると同時に僕は背を向けて帰ろうとした。

 

「いや、すぐ済むからそのまま聞いてくれ」

 

「そこまでの正義感を見込んでの頼みだ。私の後継として...個性を継いではくれないか?」

 

言外に断っていたものの、オールマイトはそれを気にせず個性の秘密を暴露した。....何のために僕が断ったのか分からなくなってきた。

 

「えっと...『残念だが、こいつをお前みたいな人身御供(平和の象徴)にさせるのは嫌だ。他をあたってくれるか?』

 

 

「そういえば君は彼の近くにいたが....どんな関係だい?」

 

『俺はハロス、こいつの相棒みたいなもんだ』

 

僕がどう断ろうか考えを巡らせていると、成り行きを見守っていたハロスが口を挟み、オールマイトの提案をバッサリと切り捨てた。

 

「....君に受け取ってもらうのは難しそうだな、ひとまずこれで失礼するよ。長々と引き留めてすまなかったね」

 

ハロスの言葉に流石に彼も諦めたのか、僕に謝罪して家へ帰るよう促してくれた。

 

「僕は多分雄英に入学するので、また同じことを言いたくなったら訪ねてください。では、これからもヒーロー活動頑張って」

 

僕はそう言い残してかつての憧れ(オールマイト)と別れた。

 


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