『
今日は
西のメインストリートにある『豊穣の女主人』から目的地に行く為には、そのまま、
「ベルさんは、オラリオに来てからまだ日が浅かったですよね?」
シルの確認に、ベルは頷いた。
「ああ、その通りだ。ようやく一ヶ月が経とうとしているな」
「それまではどのように過ごされていたんですか?」
「これは以前言ったと思うが、祖父と暮らしていた。地図にも載っていない小さな村で、農業を営んでいた」
「まあ、そうだったんですか。つかぬ事をお聞きしますけど、【デメテル・ファミリア】に入団しようとは思わなかったんですか?」
話に挙がったのはオラリオで一番の農業系【ファミリア】だ。
経験があるならすぐに戦力になったでしょうと言うシルに、ベルは「うぅーむ」と悩ましげな声を出した。
「言われてみれば、その道もあったかもしれないな」
だが、と彼はすぐにその可能性を否定した。
「私がこの地にやって来たのは、様々な理由がある。まずは祖父が亡くなったからだ」
「……! ごめんなさい、私……」
「いいや、謝る必要はないさ。祖父は愉快な人物だったから──こう言ってはなんだが──あまり悲しまなかった。話を戻そう。彼は私にとって育て親でもあったから、身寄りが無くなった私が生活に困り果てるだろうことは容易に想像ついた」
村で援助を申し出てくれた大人が居なかった訳ではない。だが、ベルはそれを断った。
「これは契機だと思った。──私は祖父の葬儀を済ませると、すぐに旅立ちの準備をした」
「それから、
こくりと、ベルは肯定する。
ベルの話は珍しい話ではない。
『世界の中心』である
「シルの言う通り、私には農業系【ファミリア】の方が良かったのかもしれない。しかし、私は冒険者になりたかった。最初こそ貧しい思いを経験しなければならないが、成功すれば巨万の富を築くのは不可能ではないし、何より──」
「『英雄』になりたいから、ですよね」
引き継がれた言葉に、ベルは口角を上げた。
シルは少年の夢を笑わない。それは彼の純粋で綺麗な想いが美しいと思うからだ。
愚直なまでに想い続けているベル・クラネルのことが、シル・フローヴァは好きだった。
「ところで、シル」
「はい、何でしょうか?」
こてんと首を傾げる彼女に、少年は鈍色の瞳を真っ直ぐに見詰めた。
そして笑顔で爆弾を放り投げる。
「その私服、とても似合っている」
「〜〜!?」
「給仕姿の貴女も魅力的だが、今日は何倍も美しい。普段は仕事上、お団子に髪の毛を纏めているが、今日は下ろしていてとても新鮮だな」
「〜〜〜〜!?」
「特にその
「〜〜〜〜〜〜ッ!?」
シル・フローヴァは瞬く間に頬を熟れた林檎のように染め上げた。無邪気に褒めて来た少年の顔が直視出来なくて、俯いてしまう。
暴れる心臓が身体から飛び出そうな感覚に襲われる。全身に血が駆け巡り、顔の火照りは暫く収まりそうにない。
彼女は、自分が情けなくてしょうがなかった。普段は自分が客相手にしていることなのに、少年にはそれがまるで通じない。
最初はただの客として接するつもりだった。だが、たった三回会うだけで彼に気を許している自分が居る。ましてや相手は──。
(ベルさんは歳下。振り回されてばかりじゃ駄目!)
ベルの言動は
だが、それはそれ、これはこれ。
このままでは自分よりも歳下の少年に手綱を握られてしまう。職場で働いている時以上の気概で臨まなければならないと、シルは決意した。
シルはそれとなくベルを観察する。恰好は普段の冒険者装備と変わっていない。防具は纏っていないが帯剣しており、漆黒の
「ベルさん、武器を変えられたんですか?」
「気付いてくれたか!」
「え、ええ……」
興奮気味にベルは捲し立てる。
「実はこれ、友人から貰ったものなんだ」
「ご友人、ですか?」
「ああ! フィンが私に
ふふん、とベルは鼻穴を大きくした。
シルは笑顔で「良かったですね!」と相槌を打ちながらも、内心では戦慄していた。
少年の口から出た、フィンという言葉。まず間違いなく──【
【
偉大な冒険者が他派閥、さらには駆け出しの冒険者に武器を贈呈する。これの意味が為すことを、少年は知っているのだろうか。
「剣に名前はあるんですか?」
それを悟られないよう、彼女はさらに尋ねる。
ベルは機嫌よく答えた。
「──《プロミス》。それがこの剣の
プロミス、とシルは唇でその音をなぞる。
意味は確か『約束』だった筈だ。
「鍛治職人さんは、どんな想いを込めて名付けたのでしょうね」
ところが、ベルは頬を掻きながら衝撃的なことを言った。
「いや……それが、造り手は不明なんだ」
「……はい?」
「嘘ではないぞ」
「そこは疑っていませんが……」
シルは思わずぱちくりと目を瞬かせた。それから改めて、
自身はよく知らないが──辛うじて、
漆黒の鞘に装飾は一切されておらず、それは『刀身を入れる』以外の機能は必要ないと訴えているようだ。
「なら、これは
「【ヘファイストス・ファミリア】のテナントだ。これは私もつい先日知ったのだが、『バベル』の上階を丸々使って、
「……でも、【ヘファイストス・ファミリア】には確か支店が幾つもありましたよね?」
「何でも、【Hφαιστοs】のロゴを使うのが許されているのは
なるほど、とシルはその説明に納得した。
ある程度の品質でなければ、お店の名前を使うのは
名称独占資格に近いかもしれないな、とベルは思った。
「でも、打った人の名前が不明だなんて……そんな事があるのでしょうか?」
「私も気になって尋ねてみたのだが、
「ベルさんはその上でこの剣を選んだんですよね? 何か理由でもあるんですか?」
もしかしてこれは名剣で、ベルはそれを見抜いていたのでは? とシルは期待する。
そんな彼女に、ふっ、とベルは格好付けて言った。
「何となく!」
「えっ」
「目が引かれたのがこれだったんだ。一目惚れとも言えるが──そう、私はこの剣に
渾身のドヤ顔でそう言われると、突っ込みを入れる気力が無くなる。
シルは暫く悩んでいたが、何も言わないことに決めた。もし
逆説的に言えば、剣の性能は最低限備わっているということになる。
話していると、
「これは……凄いな!」
ベルが驚愕の声を上げる。
「驚かれましたか? 此処の目抜き通りは観光街です。観光客や旅人を泊める宿屋や、見ての通り、屋台も多くあるんですよ」
東のメインストリートは既に多くの人で混み合っていた。大通りの両端に立ち並んでいる多くの出店は盛況であり、至る所で雑踏を生み出している。
頭上に紐で吊るされているのは二種類の
「シル、あれはいったい?」
「獅子のシルエットが
「ということは、【ガネーシャ・ファミリア】がこの
「ええ、その解釈で間違っていません。より正確には
ベルは気になる点が幾つかあったが、疑問を心の内に留めておいた。
「参ったな……まさかこんなにも混んでいるだなんて。完全に想定外だ。開場の時間まであと一時間はあるのに……」
慌てるベルとは対照的に、シルは落ち着いていた。
「これでも少ない方ですよ?」
「そうなのか?」
「ええ、寧ろ私達は充分に早い方です。これから益々増えて行きますから。私、去年は出遅れてしまって……その時は
「……それは凄いな。いや待ってくれ。それだけの大人数を収容出来るのか?」
「もちろんです。あの
「
「ふふっ、
ベルは開いた口が塞がらなかった。
小さな村で生活を営んでいた少年からすれば、
一ヶ月が経ち慣れたと思っていたが、どうやら、それは自分の思い過ごしだったらしい。
「私達も並びましょう」
「あ、ああ……」
ベルが神々が言うところの『カルチャーショック』を受けていると、ぎゅっと、繋がれる手に力が込められた。
見ると、シルが優しく微笑んでいた。ベルは呆気に取られてから、すぐに調子を取り戻す。
それから列は少しずつ進んで行った。その間二人は、久し振りに会えたカップルのように話に花を咲かせる。
「──一昨日は、フィンと一緒にダンジョンに潜っていたんだ。私の戦い振りを直接見たいと言ってくれてな」
「まあ、そうだったんですか。どうでしたか?」
「控え目に言って、とても楽しかった。沢山の
「むぅー、【
多くの人が暇と戦う中、二人に話題は尽きなかった。
「──つい先日、あるお客さんが大層お酒を飲まれたんです。度数が高いお酒を何杯も注文なさって。冒険者の方だったのですが、何でも、失恋されたそうで……」
「なんと。それは気の毒だ」
「ええ。その方が狙っていたのはギルドの受付嬢だったそうなんですが……」
「彼女達は冒険者と一線を引いている節がある。特に恋愛なら尚更だろう。冒険者は常に死と隣り合わせだから、愛を誓い合った相手が帰らぬ人となっても可笑しくはない」
「私はその方の
「彼女は無事だったのか!?」
「ええ、リューは強いですから。返り討ちにしていましたよ。寧ろ怪我をしたのは冒険者の方で……。ミアお母さんも『うちの娘に手を出すとは随分と舐めた真似をしてくれたじゃないか!』って怒ってしまって、出禁になってしまったんです」
「……私も、いつ、そうなっても可笑しくないな。うん、これからは控えよう」
「ふふふ……ベルさんはすっかりとお母さんのお気に入りになっていますから、大丈夫だと思います。けれど、気を付けて下さいね? そうなったら私、とても悲しいですから」
どちらも話し上手、聞き上手だ。
ベルが話す時はダンジョンでの出来事が、シルが話す時は『豊穣の女主人』での出来事が挙がった。
和やかに談笑していると、大きな歓声が飛んだ。【ガネーシャ・ファミリア】の構成員が野太い声を張り上げた。
「
『
ベルは統制が取れた組織に敬意を評したく思った。それから彼女に注意を促す。
「シル、絶対に手を離さないでくれ。
「もちろんです……と、言いたいところですが。もし仮に私が迷子になっても、貴方なら必ず見付けてくれるでしょう?」
「……ああ! 必ず!」
程なくして二人はゲートを潜り、闘技場の中に入った。
受付のロビーで
そこでようやく小休憩が叶った。シルが差し出してくれた
「これが、
「もう、ベルさんったら。今日はそればっかり」
「いやだって、仕方なくない!? これで驚かなかったら何で驚くんだ!?」
大袈裟ですね、とシルは言いながらも、少年の反応がとても面白くて笑みが隠せなかった。
地下には祭に使用される様々な物が保管され、また、出場者の待機場所にもなっている。
アリーナは『劇場』の役割を持ち、此処が実質的に
観客席はアリーナをぐるりと囲むよう配置されており、四階に分けられている。一階──アリーナに最も近い席だ──が神々の席、二階が貴族階級、三階、四階が一般市民や冒険者達の席となっている。
観覧席は闘技場最上部にあり、アリーナ全体を一望することが可能だ。未だに誰も座っておらず、「彼処はガネーシャ様の専用席なんです」とシルがベルに説明した。さらに彼女はあることを思い出す。
「すっかりと失念していましたが、ベルさんは
「いや、これが全く。自慢ではないが無知だな」
「なら、私が説明させて頂きますね。
シルはにこやかに笑いながら滔々と説明した。
「
「とはいえ、会得するにはそれなりの『時間』と『技』、何よりも、『才能』が欲しいそうですね」
と、ここでベルが疑問の声を上げた。
「
「企画自体は
謝罪する彼女に「充分だ。ありがとう」とベルは言った。
(
神々が天界から降臨した『神時代』の前──『古代』。その遥か前から、大陸の片隅には『大穴』があった。その起源が何か、未だに究明されていない。
ただ唯一分かっていたことは、その『穴』が
果たして、『穴』の下にあったのは広大な地下世界。数多の階層によって分けられることから『ダンジョン』と命名された。
『穴』を塞ぐ『蓋』をするという名目で、塔と要塞が築かれ始める。これが
(冒険者と市民の間にある
『冒険者』は立派な職業だが、その実態は荒くれ者、無法者達が大半を占める。
彼等のマナーの悪さが一般市民と軋轢を生み、それが何度も重なれば不満になるのは自明の理だ。
(魔石を得る為には冒険者達の協力が不可欠だ。だからこそ、
どうにも腑に落ちないな、とベルは内心で呟いた。
一般市民の溜まったフラストレーションを発散させる為、ガス抜きをするのは理解出来る。緩衝材の役割を担っているのだろう。
(だが、他にも方法はある筈だ。あるいは、
ならば何故、
(駄目だな。隠された意図があるのは分かるが……肝心の何かが分からない)
思考が深くなっていった──その時だった。シルが「ベルさん!」と手を引いて意識を浮上させる。
興奮しているのか、頬を赤らめて言う。
「来ますよ!」
何が、とベルが言葉を発する直前。
「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」
突如として放たれた驚喜の声に、ベルは思わず両手で耳を塞いだ。隣のシルが「うわぁ──!」と
すぐにベルは理由を悟った。
東の大扉がゆっくりと開かれたのだ。
「ベルさん、あの方が
一人の女性が姿を現す。
「ベルさんは混ざらないんですか?」
ベルは静観していた。「おおっ!」と驚きの声こそ上げたが、それは派手な演出にである。
平生の彼なら身を乗り出しても可笑しくない。シルの揶揄うような、それで意地が悪い質問に、ベルは心外そうに。
「今は貴女との
それにと、彼は言葉を続ける。
「シル、貴女の方が何倍も美しい。隠さず言うが、私は今、貴女の一挙一動に目を奪われている」
「〜〜ッ!? あ、ありがとう、ございます……」
シルは撃沈した。
やられたままで良いのかと己を叱咤するが、もう無理だともう一人の自分が泣き喚いている。
そんな彼女に気付かないベルは、呑気そうに「おっ」と呟く。
「どうやら、モンスターが登場するようだ」
ガガガガ! 歓声を覆すのは大きな機械音。観客は何事かと発生源──西の大扉に顔を向けた。
既に扉は開かれていた。しかし、そこには誰も居ない。戸惑う観客。だがそれも、すぐに興奮に変貌する。
『ヴルゥウウウウウゥゥゥッッッッ!』
一体の猪──『バトルボア』が巨体を揺らし、地面を震わせながら登場した。
二
縮まっていく両者の距離に比例して、観客はごくりと生唾を呑み込んで静かになる。
静寂を破るようにして、ザザッというノイズが走った。
ベルとシルは顔を見合わせ、それから、期待に胸を高鳴らせる。
『皆様大変お待たせしました!
大歓声。そして、熱狂。
元来、
最初に動いたのは、彼女だった。
「はあッ!」
気合いの雄叫びと同時に、一歩踏み込む。それだけでアリーナの地面に
「強いな……上級冒険者か……」
「あの方は確か、Lv.3の冒険者だった筈です。二つ名は忘れてしまいましたが……」
『
「行けー!」「格好良い!」「頑張れー!」
観客の声援を受けた彼女は好戦的な笑みを浮かべ、そのまま最上段から大剣を振り下ろした。
しかし、バトルボアは阿呆にもこの間何もしていなかった訳ではない。四足に力を込め、ドシンと構えていたのだ。迫り来るう攻撃に己の牙をもって立ち向かう。
「喰らいな!」
『ヴゥモウウウウゥゥッッッ!』
激突──轟音。
衝撃波が空気を振動させ、それは観客に伝わる。一階の神達は「うひょー!」と騒ぎ、二階の貴族達は「下らない催しだと思っていたが……面白い」と冷静に評論し、三階、四階の冒険者や市民達は「うおおおお!」と叫ぶ。
火花が散り、数秒の均衡が保たれる。
だが、その隙を見逃すバトルボアではない。僅かな溜め──直進。巨体が標的に向かって突進する。
「きゃー!」「危ない!」「避けてー!」
婦人が悲鳴を上げ、
見守られる
彼女が取ったのは回避ではない。小細工が一切ない、真正面からの防御だ。
「来な! あたしが受け止めてやるよ!」
『ヴゥモウウウウゥゥ────ッッッ!』
やれるものやってみろ! 観客はバトルボアからそんな言葉を聞いたような気がした。
二度目の激突。
その衝撃は先程のものよりも遥かに大きい。
戦いそのものに免疫がない一般市民にとって、それはあまりにも刺激が強過ぎた。老若男女問わず、
それはシルも一緒だった。隣のベルの腕に抱き着く。その様子を見ていた、後列に座っている独身男性が役得な少年に殺意を飛ばした。
しかし、この場に居た
「大丈夫」
「……ベルさん?」
「ほら、彼女を見るんだ」
優しい声音でベルがそう言うものだから、シルは恐る恐るもアリーナに視線を送った。
そして、彼女はしかとその目で見た。鈍色の瞳が大きく見開かれる。
「凄い……! 一歩も引かず、本当に受け止めています!」
果たして、彼女の言う通りであった。
あの凄まじい攻撃を
「「「うおおおおおおおおおおおお──!」」」
何度目かの歓喜の声が闘技場に降り注いだ。
重なり、次々と爆発していくそれは正に『声の爆弾』。
一方でバトルボアは、
『ヴゥ……?』
自身の渾身の一撃が効かなかったことが理解出来ず、困惑の声を上げた。
自分の耳が聞いているのは何だ? それは悲鳴ではない。
自分の眼が映しているのは何だ? それは獲物の血に塗れた屍ではない。
困惑、戸惑い、事実の認識──それらは憤怒に変わる。
『ヴゥオオオオオオオオオオオッッッッ──!』
咆哮。猪は眼を充血させ、敵を睨む。
濃厚な殺気を一身に受けている筈の
「良いだろう! 何度もあたしが相手してやる! だがなぁ、屈服するのはお前だぜ!」
雌雄を決する為、両者はぶつかり合う。
猪が荒ぶる闘志を解放する。全力で敵に挑み、フィールドを駆け巡る。躱されては、次は外さぬよう目を細めて狙いを定める。防御されては、次は壊せるよう地面を蹴る足に更なる力を入れ突進する。
いつしか観客はどちらも応援していた。
これは
変化が訪れたのは、とうとう、戦士の見事な一撃によって、猪の牙が折られた時だった。
『……ヴゥゥ』
あれだけの闘志が嘘のように、バトルボアが大人しくなったのだ。
ざわつく観客を他所に、彼女は手を大きく広げてバトルボアに近付く。しかし、モンスターは格好の
「よーし、良い子だ」
鼻を優しく撫でる。それでも尚、バトルボアは動かない。それどころか、甘えるような声を出した。自ら
有り得ない光景に観客が呆然としていると、先程と同じように、ザザッというノイズが走った。
まさかと彼等が顔を見合わせていると。
『
拡声器によって、その報せが風によって届く。
その言葉の意味を噛み砕いて理解するのに、皆、暫しの時間が必要だった。その間にもアリーナでは未だに
「素晴らしい
ぱんぱん、という音が最前列から出された。見れば、一柱の男神が拍手をしている。それは時間を掛けて伝播していく。
『見事に
優しい音が闘技場を包む中、そのようなアナウンスが流れた。口笛を吹く者、褒め称える者、観客はそれぞれの想いを出場者に届ける。
『皆様、如何だったでしょうか? 事前予告もなく
どの階層に出現するのか、どのような特性があるのかを、司会は分かりやすく説明していった。
それが終わると、北南の大扉から合唱団が現れる。【ガネーシャ・ファミリア】が主な主催者ではあるが、他の派閥も提携している。オラリオでも人気の音楽系【ファミリア】の登場に、場は大いに盛り上がる。
それから、様々な【ファミリア】の紹介が行われた。とある派閥は
『──女神デメテル、ありがとうございました! それでは最後に、我らが主神、【
観覧席をご覧下さい! 司会の言葉に従うと、果たしてそこには、象の仮面を被った
「あれが神ガネーシャか……随分と奇抜な恰好をしているのだな」
「ふふっ、気持ちは分かります。でも、素晴らしい男神様なんです。見て下さい、ベルさん! 闘技場の熱気は凄まじいですよ!」
誰も彼もが【群衆の主】を視界に収めようと、首を懸命に伸ばす。
構成員が拡声器を渡そうと近付いたが、彼の男神はそれを手で制した。そして、すうっと身体全体を使って息を吸い──。
「俺が、ガネーシャだ!」
馬鹿でかい叫び声に、ベルは思わず両耳を押さえて「ええ……」と引いてしまった。だが隣の彼女や、他の観客──高潔な