その中心、天高く
「……」
美の神フレイヤは悠然と
もしこの場に画家が居たら、その人物は美神の様子を後世に伝えようと奮闘するだろう。己の才能、これまでの努力はこの瞬間の為だけにあったのだと、そんな妄想に
従者達が主の時間を邪魔しないよう
静寂に包まれた空間。
それが、
「お待たせ致しました、フレイヤ様」
訪問者が声を掛ける。低く、重みのある音色が彼女に届いた。
フレイヤは眼下の景色を目に焼き付けると、銀の長髪を揺らしながら振り返った。訪問者を見ると、ぱちくりと瞬きし、声を立てて笑う。
「ふふ、ふふふっ」
「……」
「ああ、ごめんなさいオッタル。あまりにも貴方の姿が見慣れないものだから、つい笑ってしまったわ」
「…………いえ、お気になさらず。私も滑稽だと自覚しておりますゆえ」
フレイヤは再度謝罪し、無言で引かれた椅子に腰掛けた。「ありがとう」と今度は礼を言い、そこで改めて、直立している自身の眷族を見る。
オッタルは普段の装いではなく、
偉丈夫の上に重ねられたそれは、ただ硬い『鎧』ではなく堅牢な『城壁』を思わせる。
「その鎧は何処で買ったのかしら」
「今回一度きりの使用となりますので、適当な武具屋で購入致しました」
そう、とフレイヤは
さらに彼女は、腰に提げられている長剣に視線を送る。
「大剣を背中に吊るしていない貴方も随分と久しぶりね。『暗黒期』……【
「……仰る通りです。今回は自身の得物ではなく、相手に合わせた方が良いと判断致しました」
「なるほどね……。その剣は?」
「防具と同じく、適当な武具屋で購入致しました。ただし、
なら良し、と主神は自身の
大仰に畏まる眷族へ苦笑を浮かべながら、彼女は「さて」と話を切り出した。
「報告によると、あの子のサポーターは今日、月一回の【ファミリア】の集会でいないわ。つまり──」
「……
「ええ、その通り。あの子は孤立していなければならない。巨大で強大な壁に直面しなければならない。そして、たった
それは相手のことをまるで考慮しない、自分本位の考え方だった。
「時間が惜しい。あの子はもうダンジョンに潜っているわ。オッタル、最終確認を行いましょうか」
「……畏まりました、フレイヤ様」
それから二人は『計画』に綻びがないかを確認していく。
女神が尋ね、武人が答える。時には、その逆もあった。
数十分後、問答が終わり、残すは『計画』──否、『試練』の開始のみとなった。
「それでは、私は此処で失礼致します。必ずや貴女様の
眷族は
最後に一礼し、彼が
女神が「オッタル」と言い、彼を呼び止めた。振り返る彼に、彼女は静かに尋ねた。
「あの子と会う前に聞きたい。今貴方は、あの子にどんな印象を受けているのかしら?」
「……」
「
「…………」
「だから、聞いておきたいの。貴方があの子に抱いている印象を」
主神の問い掛けに、暫し、眷族は沈黙を返していた。
秒針が一周した時、彼はおもむろに口を開ける。
「私は
女神の銀の双眸をまっすぐ見詰めながら、武人は、そう断りを入れる。
「構わないわ」と言うフレイヤに、彼は感謝の言葉を述べてから質問に答えた。
「
紡がれた言葉。
都市最強、『
「ありがとうオッタル、行って頂戴。任せたわね」
「はっ!」
最敬礼し、今度こそオッタルは
そして、オッタルが来る前にしていたように再び窓際に立つ。継ぎ目のない巨大な窓
彼女は目を細め、眼下の景色を眺める。
「さあ、『最強』を相手に貴方はどうするのかしら。戦うのか、逃げるのか、それとも……──私は
──ねえ、ベル? と。
そんな呟きが、彼女の唇から零れた。