それこそが、ヘスティアが意識を取り戻した時に抱いた身体の異変だった。
「怠い……」
身体を起こそうとするも、自分の思うように身体が動かない。力を入れようと試みるもまるで上手くいかない。視界は
とてもではないがこれは無理だと、ヘスティアは起き上がるのを渋々ながら諦めた。その代わり今にも閉じそうな眼を強引に開け、事態の把握につとめる。
目の前にある天井は、自分がいつも目覚めた時に見る物ではなかった。ボロさ、という点では共通しているが、ヘスティアの知っている
顔を左に向けてみれば、やはり、見慣れた景色はそこにはなかった。【ヘスティア・ファミリア】の
うんしょ、と、ヘスティアは顔を反対側に向ける。そこで彼女は部屋の全容を把握した。ロッカーの中には沢山の空き瓶や医療器具だと思われる物が仕舞われている。壁の一角に置かれている本棚には沢山の本が並べられていて、そこから取り出したのだろう、テーブルの上には何冊もの本が塔となって積み上げられていた。娯楽品といったものは全然なく、生きていくうえで必要な物だけがこの一室にはあった。
そして再び仰向けになろうとした時、クシャッ、という物音がヘスティアの鼓膜を打った。思うように動かない右手を懸命に動かして枕元に手を伸ばし、それを摑む。手触りが、羊皮紙のそれだと教えてくれた。
それを顔面に引き寄せ、そこに書かれている文面を読む。読み終えた彼女は「ああ、そうか」と納得がいったように溜息を吐いた。
「ボク達の
その事実だけが、ヘスティアの胸中を満たした。
そして彼女は、自分の置かれている状態を正確に把握する事に成功した。
「あー、ミアハに土下座をしないとなぁ……」
此処は、【ミアハ・ファミリア】
そして、その豪雨はまだ続いている。窓を鳴らす雨音に、ヘスティアは思わず重い溜息を吐いた。
「ナァーザ特製の粥だ。味は美味く、栄養も満点。其方の疲弊し切った身体を癒してくれるだろう」
「ありがとう」と小さな笑みと共にヘスティアは感謝の気持ちを伝え、一口、お粥を口に入れた。
「……うん、美味しいよ。とてもね」
「そうかそうか、それは実に良かった。心配はあまりしていなかったのだが、その様子なら味覚は正常のようだな」
「……おいおい、恐ろしい事を言わないでくれよ」
ヘスティアがそう指摘すると、薬神は「すまぬ、職業柄故にな」と申し訳なさそうに謝った。
それを受け、うぐっ、とヘスティアは言葉に詰まる。彼女としてはあくまでも冗談のつもりだったのだが、真面目な
──ヘスティアが目覚めてから、数十分が経った。
メモが遺された羊皮紙を読んだ後、ヘスティアは如何にして自分の覚醒を伝えようかと悩んだものだが、それはすぐに
「しっかし……まさか、殆ど一日中寝ていたとはねぇ……。全然その実感がないや」
ヘスティアが呟いたように、壁に掛けられている時計は十八時を指していた。彼女の記憶が確かなら、
つまりそれ程の長時間、ヘスティアは
ミアハはその呟きを拾うと、
「其方の眷族が運んできた時はもっと酷い状態でな、とても驚いたぞ」
「ハハハ……。迷惑を掛けてごめんよ……」
シュン、と項垂れるヘスティア。
落ち込む女神を、ミアハは「気にするでない。其方が無事で誠に良かった」と笑顔と共に慰めた。
それを受けたヘスティアは思わず胸を抑えて、
「おぉう」
と、呻いてしまう。
それを状態の悪化だと勘違いして焦る男神を他所に、ヘスティアは心底思った。
(な、なるほど……これが噂に聞く、ミアハの『スケコマシ』ってヤツか)
自分が処女神じゃなかったら堕ちていたかもしれない。
「ど、どうかしたのか!?」と尚も勘違いし純粋に心配してくれるミアハが、処女神には恐ろしく映った。
「──ベル君はダンジョンかい?」
動揺を抑えつつ、目覚めてから気になっていた事を口にして尋ねる。
ミアハは無言で頷くと、居住まいを正した。そして、ヘスティアが眠っていた数時間の出来事を説明した。
「ベルは意識を失っていた其方を『青の薬舗』に運ぶや否や、其方の診察を頼んだ。そして命に別状がないことを知ると、今度はダンジョンに行くと言い出してな。衣服はびしょ濡れ、身体は消耗し、
「
「──その通りだ。そして、私達はベルを言い負かす事が出来なかった。ベルの目が、自分は絶対に引かないと如実に物語っていてな。私達は
手紙? と首を傾げるヘスティアの前で、ミアハは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
ヘスティアはそれを受け取ると文字に目を通す。普段から自伝を書いているだけはあり、ベルの字はとても達筆だ。だが今回は慌てて書いた為か形が崩れてしまっている。濡れた手で羽根ペンを走らせたのだろう、水の跡が数箇所ついていた。
「えっと──『拝啓、我が愛しの主神よ! この手紙をご覧になっているという事は目が覚めたのだろう!
これも一種の才能かぁ、とヘスティアは眉間に手を当て嘆息する。そして、ミアハに笑顔を見せた。
「まあ、聞いての通りだ。ベル君は今、厄介な問題を抱えていてね。しかも早急に解決しないといけないんだ。だからミアハ、気にしないでくれ」
「……そういう事であるのなら、承知した。──さあ、粥が冷めてしまう。その前に完食してくれると、ナァーザもよろこぶだろう。話はそれからでも良いだろう」
言われるがままに、ヘスティアはスプーンを再度動かして粥を頬張った。
頬を緩ませ、ほう、と感嘆の吐息を吐き出す。
「それにしても、全く、ミアハが羨ましいぜ。これだけ美味しい料理を毎日食べられるなら、男冥利に尽きるだろう」
「うむ、自慢の娘の手料理だ。毎食美味しく戴いているとも。父としては自慢の娘だ、そろそろ、男子を
「そ、そうだね……」
ミアハの言葉に頷きながらも。
本気かこいつ、とヘスティアは半眼をつい送ってしまう。
(どうしてナァーザ君が自分に恋をしているとは思わないのかなぁ……?)
彼の唯一の眷族、ナァーザ・エリスイスは他ならないこの
どうして目の前の
「改めて、謝罪と感謝をしたい」
夕食を平らげたヘスティアは、真剣な顔を浮かべてそう切り出す。そして、【ヘスティア・ファミリア】の主神は深々と頭を下げて言った。
「ボク達を助けてくれて、本当にありがとう。君達が居なければ【ヘスティア・ファミリア】は文字通り壊滅していただろう。今回の出来事、そして恩を決して忘れはしないと、ボクの
「うむ。その言葉、この私──
「其方達【ヘスティア・ファミリア】が新たな
「わあっ、それは嬉しいな! ありがとう
「はっはっはっ! 実に都合のいい言葉だが、其方が言うと全く気分を害されないのだから不思議だな!」
ミアハはそう爽快に笑うと、そこから一転、同情の眼差しをヘスティアに送った。
「しかし、其方達も不運が重なるな。新興派閥がここまで厄介事──失礼、面倒事に巻き込まれるのは聞いた事がないぞ」
「待ってくれミアハ。言い直して貰った所悪いけど、それ、あまり意味がないからね」
「すまん。まあ、私も神だからな。許してくれよ」
ミアハは神の中では神格者だ。しかし彼が『娯楽』を求める神である事に変わりはない。
ヘスティアは「ハア……」と深々と溜息を吐くも、それ以上追及するのはやめた。彼女がミアハの立場なら、恐らく、似たような態度を取るだろう。つまり、お互い様という事だ。
「始まりはひと月前。【ロキ・ファミリア】が取り逃した
【ヘスティア・ファミリア】と【ミアハ・ファミリア】は正式に同盟を結んでいる訳ではないが、実質的にはそのような関係を築いている。
それ故にヘスティアは、何か大きな出来事が起こればその都度報せていた。
「余程の不運が重ならなければ、こうはならぬと思うのだが」
「ベルは余程の
「
やれやれだぜ、と頭を振るヘスティア。
ミアハは愉快そうに笑いながらも、助言を送る。
「しかし、それが
「【ファミリア】の拡充、かぁ……」
「如何にも。今はまだ眷族はベル一人しか
「偉大な先達である君にそう言われると、言葉の重みを感じずにはいられないね」
「『偉大な先達』か……。私達には似合わぬ響きだな」
失笑するミアハを見て、ヘスティアは眉を顰める。
「……おいおい、らしくないじゃないか。今でこそ【ミアハ・ファミリア】は
「……誰がそのような事を其方に吹き込んだのだ?」
「ヘヘン! 決まっているだろう! ボクの神友、ヘファイストスさ!」
「……で、あろうなぁ」
ミアハが遠い目をする目の前で。
神友の鍛冶神から聞いた情報をヘスティアは記憶から掘り起こした。
──『暗黒期』。
七年前、
『正邪決戦』、或いは──『歴史の転換期』の一つ。
【ミアハ・ヘスティア】は『正義側』として参戦、医療という分野で大活躍したのだと聞いている。
「昔は【ディアンケヒト・ファミリア】と並ぶ程の医療系【ファミリア】だったそうじゃないか」
【ファミリア】には幾つかの系統がある。
最も多いのは
そして、医療系。この派閥は文字通り、医療を提供している。とはいえ、この派閥は数える程しかない。それには幾つか理由があるが、今回は割愛とする。
話に挙がった【ディアンケヒト・ファミリア】は医療系【ファミリア】の頂点に位置する派閥と言っても差し支えない。多くの
その【ディアンケヒト・ファミリア】と、【ミアハ・ファミリア】は嘗てライバル関係にあったのよ──神友から聞いた言葉を頭の中で
「……とはいえ、それも其方が言ったように昔の事だ。今ではその【ディアンケヒト・ファミリア】に多額の
「でもそれは、
「……ヘファイストスにはそこまで言った記憶はないのだが」
「そりゃあ、そうだよ。だってナァーザ君から直接聞いたからネ!」
パチン、とウィンクするヘスティア。ミアハが真顔になる中、彼女は表情を正すと優しく言った。
「そして君はそれを後悔していない。ボクは君の、そういう所が本当に凄いと思うし尊敬しているんだ」
だから自分を卑下しないでくれよ、とヘスティアは諭した。
長い付き合いで今更ではあるが、どうもこの男神は自己評価が低い。
尊敬している神友が必要以上に卑下するのが、彼女には我慢ならなかった。だから彼女はそれが傲慢だと分かっていながら、思っている事をそのまま口にした。
「女神である其方にそこまで言われれば、これ以上はよそう。確かに、私は悲観的になっていたのかもしれぬな。気付かせてくれてありがとう、神友」
「うん、どういたしまして! しかし、君がまさかそこまで思い込むだなんて。無理には聞かないけれど、今月分の返済額は用意出来た、あるいは、出来そうなのかい?」
「それは……。まあまあ、と言った所だ……」
ミアハは困ったように笑うと、ヘスティアから視線を僅かに逸らした。
誠実な男神にしては珍しい仕草に、鈍臭いと自覚しているヘスティアでさえも察してしまう。
「あー……えっと、ごめんよ」
ミアハは「謝る必要はない」と言ってから、言葉を続けた。
「承知の通り、私達【ミアハ・ファミリア】は【ディアンケヒト・ファミリア】に借金をしている。それもかなりの多額──いや、
「居候させて貰うのだから、幾らか出そうか?」
「その申し出はとても嬉しいが、それでは私達の関係が
ヘスティアは「なら良いけどさ……」と引き下がりながらも心配だった。
彼女は【ミアハ・ファミリア】の事情をミアハ本人から聞いているが、その全容までは流石に知らない。つまるところ、どれだけの額を借金しているのか分からないのだ。
知己の仲とはいえ、踏み越えてはならぬ一線というものはある。ヘスティアも重々それは分かっているので、追及は出来ないでいた。
「……しかし、其方達の厚意を
「モチのロンさ!」
「とはいえ、ベルが定期的に
私には商才がないのだろうか、と首を傾げるミアハ。
「容姿が整っている
「最初の一回目は好感触なのだがなぁ……。どうしても二回目、三回目と繋がらぬのだよ」
「あー、ボクもその気持ちは分かるなぁ。ほら、一応ボクも『ジャガ丸くんの屋台』で働いているけどさ、常連さんを作るのは大変だと、そう、ひしひしと感じているんだよね」
下界の子供達と同じ目線に立ち、苦楽を共にする。それが、神々が下界に降臨した理由の一つである。
「私も大通りに足を運んでは、
「そりゃあ、また何でだい? 君の誘いを断るだなんて、そんな子供がいるとは信じられないよ!」
──ましてや
という言葉を呑み込みつつ、ヘスティアは問うた。
「いや、無視をされるという訳ではないのだ。此方が話し掛ければ、皆、話には付き合ってくれる。だが、
「へえ……何か理由でもあるのかな?」
うむ、と
分かっているのなら勿体ぶらないで教えてくれと、ヘスティアは思いながら目で続きを促す。
するとミアハは奇妙な事に、どこか嬉しそうな表情を浮かべた。そして、言う。
「其方も知っているであろう──アミッドだ」
「……? アミッドって、あのアミッド君かい?」
「ああ、そうだ」
話に挙がった人物を、ヘスティアは知っている。
アミッド・テアサナーレ。【ディアンケヒト・ファミリア】に所属している、都市最高位の
だが、そのアミッドがどのように関係しているのだろうか。疑問を浮かべるヘスティアに、ミアハは説明した。
「これは噂で聞いたのだが、最近、アミッドは
「へぇー! それはまあ、凄いねぇ!」
「そうだろう、そうだろう!」と、ミアハは何故か自分の事のように胸を張ると、これまた何故か誇らしげに何度も頷く。
「まあ、そのような理由があってだな。ただでさえアミッドは都市最高位の
「なるほど……それは確かに、そうなるのも仕方ないかもね。あの子はとても優しいから」
アミッドは
他人を思いやる心を持った優しい
だがそれとは別に、ヘスティアには腑に落ちない点があった。
「でも、おかしくないかい?」
「……? おかしいとは、何がだ?」
「ずばりミアハ、君の反応さ。アミッド君の人柄は兎も角、彼女は【ディアンケヒト・ファミリア】の所属だろう。彼女の行いによって、君達【ミアハ・ファミリア】は少なからず損害を受けている。だと言うのに、
その指摘に、ミアハは「うむ」と一度肯定した。
しかし同時に、男神は笑いながらもこう言った。
「あの
その理由の一つは他ならない君だけどね、という言葉をヘスティアは呑み込んだ。
ナァーザ曰く、アミッドもまたこの男神に好意を抱いているようなのだ。とはいえ、最近は分からなくなったとも言っていたのだが。
まあそれがなくとも、ナァーザとアミッドが純粋な交友関係を築くのは難しい気がする。ヘスティアに置き換えれば、あの不倶戴天の敵である
「アミッドは昔日から『精緻な人形』だと言われてきた」
「『精緻な人形』か……。それはまた、反応に困る呼称だね」
「……うむ、私も同意見だ。あの美貌も
だが、と男神は続ける。
「ナァーザも感じているだろうが……最近のアミッドは良い意味で変わった。私は、それが嬉しいのだ」
「……そうか、確かにそれなら喜ばずにはいられないね。子供達の緩く、それでいて確かな『成長』を感じたんだ。ああ、君の気持ちが分かるよ」
ヘスティアとミアハは笑いあった。
数秒後、笑みを収めた男神は思案顔になる。そして、顎をさすりながら疑問の声を上げた。
「……しかし、何がアミッドを変えたのだろうな。私が声を掛け、
「さて、ね……。悠久の刻を生きるボク達とは違い、子供達の一生は短い。ほんの些細な出来事で子供達は影響を受ける。良くも悪くもね。そしてそれは、子供達の新たな一面を引き出すのさ。だからきっと、今回もその一つなんだと思うよ」
「……それもそうだな。故に私達は、あの子達の物語を見守る事しか出来ないのだから」
それから、ミアハは「ところで」とヘスティアに尋ねる。
「先程其方が言っていた、ベルの抱えている問題とは何なのだ? 主神である其方を──言い方は悪いが──放置するなど、普段のベルでは有り得ぬ事であろう?」
「い、いやぁー、それはどうかなぁー? ベル君って適当な所があるし、有り得ない事ではないと思うけど!?」
「……ヘスティア、誤魔化すのがあまりにも下手だぞ」
ゴフッ、とヘスティアは呻いた。神友からの容赦なくも鋭い指摘はそれだけ効いたのだ。
多くの神は腹に一物がある。様々な『仮面』を所持しているのは何ら珍しくない。
だがヘスティアはそれが苦手だった。思っている事、考えている事が表情に出てしまう彼女にとって、心理戦など無理だった。
【ファミリア】に神の代理戦争という側面がある以上、もっと上手くやらなければとは思うものの、それが出来ていたら苦労はしていない。
項垂れるヘスティアを、ミアハは慌ててフォローする。
「と、とはいえだ! 人には……ひいては、神にだって得意不得意はある。其方のそれは確かな魅力だ。だからこそ私やヘファイストス、アルテミス、それにゼウスやヘラといった
「その分、アポロンという
思い出したくない顔を思い出してしまい、ヘスティアは顔を顰めながら叫んだ。
ミアハは気の毒そうにしながらも、更なる爆弾を放り投げる。
「そのアポロンといえば、この
「
「うむ、
ミアハは苦笑すると、脱線した話を戻した。
「無理には聞かぬが、もし良ければ教えて欲しい。何か力添えが出来るやもしれぬ」
その何処までも誠実な言葉を、ヘスティアは突っ
激しい葛藤の末、「他言は無用だぜ?」と一応釘を指してから話をする。
「実はベル君は最近、
「うむ、それは以前聞いたな。名は聞いておらぬが……確か、其方とそう変わらぬ身長の
「その子供が『訳あり』のようでね」
ほう、とミアハは片眉を上げた。
ヘスティアが他者の評価をする際に『訳あり』だと濁らせるのはとても珍しい。
「其方がそう評するのだ、余程なのだろうな」
「やめてくれよ、ミアハ。ボクは傲慢な神にはなりたくないんだ」
「それはすまぬ。前言撤回させて欲しい」
ヘスティアはミアハの謝罪を受け入れると、複雑な表情のまま暫し固まった。
「それ程までに
「……それが、何とも言えないんだ。ボクがその子と会った回数は数える程しかない。
「しかし、ベルがパーティメンバーに選んだのだ。その子供の性格が悪い、という事はないのだろう?」
「……そこもまた、何とも言えないのさ。──『嘘』は何一つ吐いていなかった。それは間違いない。でもミアハ、『嘘』を吐いていないからといって、それが真実であるとも限らないだろう?」
ミアハはその確認に頷いた。そして「なるほどな」と神妙に頷いた。
「表向きは良い。だが、その内面までは完全には推し量れない──つまるところ、その子供は意図的に『自分』を隠している。それもかなり上手に、と言ったところか」
「……全くもってその通りさ」
ヘスティアは嘆息すると、腕を組んで悩まし気な声を上げる。
「さらには、あの子が所属している派閥も問題のようでね」
「ほう……ちなみに、何処だ?」
「【ソーマ・ファミリア】さ」
ヘスティアが教えると、ミアハは「ソーマ……?」と首を傾げる。ややあって、
「そのような
「謝る必要はないぜ、ミアハ。殆どの神も君と同じだろうさ」
ミアハは苦笑を返した。
「──と、まあ、中々に厄介な問題でね。ボクの見解を言わせて貰うと、その子以上に派閥の方が闇が深くて、どうにもきな臭いんだ。ミアハは何か知っているかい? もし何か知っているなら……何でもいい、教えて欲しい」
「ふむ……」とミアハは顎を擦りながら思考を巡らした。ヘスティアは期待の目を向けるが、すぐに打ち砕かれる事となる。
「【ソーマ・ファミリア】か……すまぬ、ヘスティア。私は
「……そっか。いや、良いんだミアハ。元からこれはボク達【ヘスティア・ファミリア】の問題さ。君達を巻き込む訳にもいかないしね」
その言葉に、ミアハは眉を顰めた。
『巻き込む』というヘスティアの表現に、もっと別の意味合いを感じたのだ。
「……もしや其方、『抗争』にまで発展させるつもりか?」
『抗争』。
【ファミリア】と【ファミリア】が衝突し、都市を舞台にして争う。小さなものから大きなものまで、千年の歴史を持つ迷宮都市オラリオでは、数え切れぬ程の『抗争』が繰り広げられてきた。
炉の女神は蒼の瞳を閉ざすと、一拍置いて言った。
「
「……だが、必要になったらするのだろう? 私にはそのように聞こえたぞ」
「どうだろう。ボクは別に未来を見通せる訳ではないから、何とも言えないさ。ただ、きっと、未来のボクが決断をする」
「……何ともまぁ、適当な考えだ。自分の事になると面倒臭くなってしまう……ああ、実に其方らしい」
ヘスティアは苦笑いすると、さらに言った。
「眷族が主神に覚悟を見せた。決断をした。ならば主神もそれなりの覚悟は決めておくのが道理だろう? ボクは格好良い女神でいたいのさ、息子の前では特にね」
「……そうか。ならば私は、何も言うまい」
「ありがとう、
ヘスティアは微笑み、神友に感謝の言葉を伝えた
ミアハは笑い返すと、「あっ」と突然声を上げた。
「どうかしたのかい?」
「……ヘスティア、朗報だ。【ソーマ・ファミリア】──
「ええっ!? それは
「ああ、
「うおおおおおおおおお! それはいったい!?」
にやり、と。
ミアハはドヤ顔で口を開けた。
「我らが【
挙がった神物の名に、ヘスティアは暫し呆然と固まった。そして我を取り戻した瞬間、彼女は自分が体調不良だと言うことを忘れて、
「ガネーシャだってぇえええええええええ!?」
と、叫ぶのだった。
そしてヘスティアは、「俺が、ガネーシャだッ!」と謎のポージングをする
章題とは別に各話にサブタイトルは? (例:『1話』→『始まり』)
-
必要
-
不必要