さあ──『喜劇』を始めよう!   作:Sakiru

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斯くして、時計の針は遡る Ⅲ

 

 リリルカ・アーデは復讐(ふくしゅう)を始めた。

 発現した変身魔法【シンダー・エラ】を用いて架空の人物に成り済まし、無力で弱者の『才無き者(サポーター)』として臨時パーティに紛れ込んだ。そして従順な振りをしながら隙を見計らい、冒険者達の装備やヴァリス金貨を盗んでいった。

 被害者の中には自分の所属派閥【ソーマ・ファミリア】も含まれており、成功した時には少し溜飲が下がる思いだった。

 だが、リリルカ・アーデはそれで復讐をやめる事を是としなかった。

 変身魔法はあまりにも『劇薬』だった。この『魔法』は使用者の使い方によっては良い事にも悪い事にも使える。そしてリリルカ・アーデは復讐が(もたら)す快楽に抗えなかった。『悪』に身が()ちた以上、待っているのは破滅のみ。『悪』の迎える最期を、彼女は何度も『暗黒期』の時にその目で見てきた。

 それ故に彼女は今更足を洗えないと思っていたし、そのつもりは全くなかった。

 自分の瞳がすっかりと(にご)っていると気付いたのは、ふと、道具屋(アイテムショップ)に置いてある等身大鏡を見た時だった。ダンジョンからの帰り、ボロボロのローブにモンスターの黒灰を被る自分はあまりにも滑稽だった。それでいて手には眩く光る盗品があるのだから、そのリアルに思わず笑いそうになってしまった程だ。

 リリルカは、自分が不幸だとは思っていなかった。否、そう思うようにしていた。

 何故ならば、自分よりも酷い境遇の人間は星の数程居るからだ。

 不器用なドワーフが庇いたてしてくれたおかげで、娼館(しょうかん)に売られずに済んでいる。もし娼婦になっていたら、今頃は純潔などとうに、犯され尽くされているだろう。

 迷宮都市(オラリオ)に『奴隷制度』がないおかげで、『奴隷』としてではなく『冒険者』として活動出来ている。

神の恩恵(ファルナ)』を曲がりなりにも授かっているおかげで、一般人とは一線を画す超人的な身体能力と生命力を持っている。

 変身魔法が発現したおかげで、真っ暗だった人生に、たった一筋とはいえ光がさした。

 そう、何も悲観的になる事はない。自分よりも劣悪な環境で生きている人間はごまんといる。それなら多少は我慢しなければ彼等に失礼だろう。

『上』には『上』が居るように、『下』には『下』が居る事を忘れてはならない。そして頂点が存在する『上』とは違い、『下』はあまりにも泥沼で底が見えないのだ。

 齢十三歳の少女がして良い思考ではない。だがあまりにも凄惨な人生を送っている彼女の価値観は既に壊れており、それを指摘する者も当然居なかった。

 たった独りで完結している人生。それがリリルカ・アーデの物語となっていた。

 

「──お前さんだろう。最近巷で有名になっている『盗賊』は」

 

 盗賊活動に本腰を入れ始めてから一年と半年が経った。この時リリルカ・アーデは十四と半年を迎えており、冒険者達の間で彼女の存在は囁かれるようになっていた。

 曰く『サポーターとして活動している盗賊が居る。多くの被害が出ているが、その正体は不明。分かっているのは小さな体格の持ち主であるという事のみ』というもので、下級冒険者を中心に広がっていた。

 そして、一番最初にその盗賊がリリルカ・アーデだと突き止めたのは、赤いトンガリ帽子を被った髭を生やしている地精霊(ノーム)だった。

 

「はて、何の事を仰っているのでしょう」

 

 ドクンと震えた心臓の音を巧妙に隠しながら、リリルカは目の前の地精霊(ノーム)を観察する。

 精霊とは、神に最も近いとされている種族だ。神時代に入る前、『古代』の時代では『英雄』に力や武具を授けたと伝えられている。現代でも他種族から尊敬されている亜人族でもある。

『ノームの万屋(よろずや)』という骨董品店(こっとうひんてん)を発見したのは本当に偶然だった。リリルカは試しで利用したその時に、この店を贔屓にする事を決めた。ノームは宝石や金属に関しての目利きが優れているという伝承があるのは知っていたが、それが正しかったのだと知ったからだった。また『神に近い』と言われているだけあって、その地精霊(ノーム)──ボムは小さな身体のリリルカを目にしても差別や偏見の目を向けてくる事はなかった。あからさまに嘲笑してくる店も数多くあった為に、リリルカはそこを高く評価した。

 以後、リリルカは盗品をこの骨董品店に持ち寄っては地精霊(ノーム)に鑑定して貰い、それを売っていた。

 

「お前さんも同業者じゃろうから、その盗賊の噂を一度は耳に入れた事があるじゃろう」

 

「ええ、そうですね。知っていますよ。しかし店主様、その盗賊は『正体不明』なのではなかったのですか?」

 

「そうじゃな。確かにそのように聞いておる」

 

「それでは、何故?」

 

 にっこりと人好きのする笑みを浮かべ、リリルカが尋ねる。その質問に対して、ボムは真剣な表情を浮かべた。

 

「根拠は三つある。一つ目は、被害者達の盗品と同じような物を、お前さんが持ってきておる事。二つ目は『正体不明』ながらも、その体格は分かっておる。お前さんと同じくらいの小さな背丈であるという事」

 

 チッ、とリリルカは胸中で舌打ちした。

 二つ目は仕方ないとはいえ、一つ目は己の失策だったか。普段なら盗んでから暫く日を置いてから鑑定して貰っていたのだが、今はどうしても欲しい道具(アイテム)があってすぐに依頼していたのだ。それが仇となってしまったか。

 そしてボムは、三つ目の根拠を口にした。

 

「最後に、爺の『勘』じゃな」

 

「……はい?」

 

「おお、そのような目を向けるでない。お前さんのような娘に馬鹿にされたような目を向けられると、心が折れそうになるからのぅ」

 

 傷心しているボムに、リリルカは言った。

 

「お爺さんの根拠とやらを黙って聞いていましたが、それは根拠とは言えないのでは。似たような物を持ってきたのはたまたまでしょう。その盗賊の体格が小さいのは私も知っていますが、しかし、それも偶然です。第一、この世界には小人族(パルゥム)という亜人族(デミ・ヒューマン)が居ます。私は獣人の子供ですからまだ小さいだけで、それでは彼等に対して風評被害甚だしいでしょう。一族の勇者である【勇者(ブレイバー)】が聞けば憤慨ものでしょうね」

 

 頭の中で事前に考えていた言葉を、リリルカはすらすらと口にする。

 

「そして三つ目ですが、論外ですね」

 

 そう言って、リリルカはボムの憶測を一刀両断した。

 これだけ言われたら普通の感性の人間なら多少なりとも堪える素振りを見せるものだが、しかし、ボムはそれを微塵も見せなかった。

 

「爺はなぁ……これでも精霊じゃ。お前さんも知ってはいるじゃろうが、精霊は基本自我を持っておらぬ」

 

 急にいったい何の話だとは思いつつも、リリルカは話を聞く姿勢をとった。

 

「『古代の大精霊』のような大それた力を爺は持ち合わせてはおらぬが、これでも精霊じゃ。神々がこの下界に降臨するまでは、精霊(ジジィ)達が『英雄』に『力』を授けてきた」

 

「つまり、何が言いたいのでしょうか?」

 

「精霊にはそれなりの能力がある、という事じゃよ。例えば、そう、今こうして話しているお前さんが嘘を吐いているか、そうではないか等も分かる」

 

 超越存在の神々のような確実性はないがのぅ、とボムはその白い髭を擦りながら言った。

 

(何ですかそれは、初耳です!? 精霊についてはまだ分からない事も多くあるとはいえ……まさかそのような能力があるだなんて!?)

 

 フードの奥で目を見開き、動揺を表に出してしまう。そして、スッと警戒の眼差しを送った。

 

(ここは裏路地、憲兵を呼ぶ為のブザーを鳴らしたとしてもすぐには来ないでしょう。ここでの最適解は──)

 

 逃走だ、それしかない。

 念の為に【シンダー・エラ】を用いていて良かった。この店から逃げ切ればあとは普段と同じ手口を使えば良い。この骨董品店を今後利用出来ないのは残念だが、まずは身の安全を確保しなければ。

 リリルカはそっと、ローブのポケットに手を入れた。そして、常備している煙幕玉(グレネード)を握る。これを床に投げ付けれた瞬間、室内は煙で充満する。その隙に逃げるしかない。

 

(カウント、開始。五、四、三、二……──)

 

 一、と胸中で呟き身体を動かそうとした、その時だった。

 

「のぅ、教えてはくれないか。どうしてお前さんは、他人から物を奪う……?」

 

 その言葉を聞いた時、ピタリと、リリルカの身体は止まっていた。

 彫像のように固まる盗賊へ、地精霊(ノーム)は言葉を投げ掛けた。

 

「お前さんは既に何度もウチを利用しているのぅ……。ヴァリス金貨が欲しいにしても、ある程度は纏まった金額を得ている筈じゃ。違うかのぅ?」

 

「……」

 

「まだ若いじゃろうに、何をそんなに焦っておる。莫大な借金を抱えているにしても、何か理由がある筈じゃ。それを爺に教えてはくれまいか?」

 

 リリルカは何も答えられなかった。ただ、地精霊(ノーム)を見詰める事しか出来ない。

 

「……」

 

 考えが纏まらない、思考が乱れる。

 生まれて初めて向けられる、気遣うような視線に、リリルカは何も反応出来なかった。

 神に近しいとされる、精霊。神々が下界に降臨した今なお、他種族から畏怖される存在。その意味が、リリルカは何となくわかった。

 

「安心せい、話を聞いた所でこの老耄(おいぼれ)には何も出来はしない。一応ブザーは置いておるが、こんな寂れた場所にある店じゃ。鳴らした所で意味はないじゃろう」

 

「……」

 

「お前さんの話を聞かせてはくれまいか?」

 

 穏やかな口調で、あくまでもリリルカの意思に委ねるとボムは言った。

 久し振りに掛けられた、あたたかい言葉。それにリリルカは絆されてしまう。そして彼女は俯きながら、ポツポツと話し始めた。

 

「リリは……(リリ)は……──」

 

 設置されている大型時計(オールクロック)が静かに針を刻む。

 長い時間を掛けて、リリルカは己の誕生から現在に至るまでの、これまでの人生を全て言った。

 

「──なるほどのぅ……」

 

 それまで沈黙していた地精霊(ノーム)が、おもむろにそう呟いた。彼は髭を擦りながら、複雑な表情を浮かべていた。

 

「『暗黒期』が終わった今は『新たな時代』の節目ではあるが……これはまた、難しい問題じゃ」

 

 地精霊(ノーム)は深刻な表情のまま、さらに続けた。

 

()()()()()()()()()()()。『英雄候補』は先の大戦で入れ替わったが、未だに『最後の英雄』は現れず。ただ……『平和』という『停滞』がある」

 

「……」

 

「『百』を救う『英雄』は未だ()らず。先の大戦で救われなかった『一』が、お前さん達のような存在なのじゃろうな……」

 

 地精霊(ノーム)が何を言っているのか、リリルカはさっぱり分からなかった。ただ何となく、自分達とは違う視点を持っているのだと、漠然と分かった。

 

「よし、決めたぞ」

 

 ボムはそう言うと、リリルカに穏やかな笑みを向けた。

 

「お前さん、名前は?」

 

「何故、それを……?」

 

「ええい、良いから言うのじゃ。顧客の名を覚えておいて損はないじゃろう」

 

「全く、これだから最近の若者は……」とブツブツ呟くボム。

 彼の質問に答える義理はない。寧ろ真名()を伝えたら、それこそ管理機関(ギルド)や【ガネーシャ・ファミリア】に通報されるかもしれない。それが自殺行為なのは明白だったが、全てが面倒に感じていたリリルカは投げやりに答える。

 

「リリルカ。リリルカ・アーデです」

 

「そうか。それじゃあ、リリちゃん。お前さんさえ良ければ、これからもウチに来なさい」

 

「……え?」

 

「お前さんの行いは世間から見れば褒められたものじゃあないだろうがなぁ……話を聞いた上で、爺はリリちゃんが『悪』だとは断言出来なくなった」

 

『悪』という言葉に、リリルカはぴくりと反応する。第三者から言われたその言葉を、彼女は噛み締めていた。

 

「爺はこれからも、お前さんとの取引をやめるつもりはない。リリちゃんはどうじゃ?」

 

「……そうですね。お爺さんがリリを管理機関(ギルド)や『都市の憲兵(ガネーシャ・ファミリア)』に連れていかないと言うのなら、それで構いません」

 

「ああ、約束じゃ。爺の真名()──ボム・コーンウォールの名にかけて誓おう」

 

 真名(なまえ)にかけて誓ったとしても、平然と約束を破る者は沢山いる。目の前の地精霊(ノーム)もその一人である可能性がある。『約束』という薄っぺらい言葉がリリルカは大嫌いだったが、もはや全てが面倒臭くなっていた為、その言葉に頷いておいた。

 これ以上ここに長居したくない、リリルカは今それしか考えていなかった。適当に挨拶をして店を出ようとする彼女の背中へ、引き留める声が届く。

 

「その代わり、条件がある」

 

「……? 何ですか? まさか、やめろだなんて言うつもりはありませんよね?」

 

 もしそうなら今の話はなかった事にすると暗に伝えるも、ボムは「そうではない」と言った。

 それならいったい何だと怪訝(けげん)になるリリルカへ、ボムは言った。

 

「お前さんは普段、『サポーター』としてダンジョンに潜っているのじゃろう?」

 

「ええ、そうですが」

 

「それなら、お前さんは『サポーター』としての仕事を全うするんじゃ。それで尚、お前さんの仕事度合いに見合った報酬が意図して支払われなかった時に初めて、冒険者から装備や金銭を奪うのじゃ」

 

 何だそれは! とリリルカは思わず激昂(げっこう)しそうになった。今でこそ『サポーター』としての仕事は適当にやっているが、最初は真面目にやっていた。一生懸命に働き、少しでも冒険者の役に立とうとした。

 だがそんな自分達(サポーター)を嘲笑うかのように、奴等(ぼうけんしゃ)はそれに全く応えなかった。

 だと言うのに今更、真面目に働けだと? そんな綺麗事を言えるのはその現場を一度も見た事がないからだ。

 頑張れば頑張った分報われる? そんなのは決して叶う事のない、弱者が願うただの幻想だ。

 ボムへ振り返ったリリルカは、そう言おうとした。しかし、それは出来なかった。

 

「……ッ!」

 

 地精霊(ノーム)の浮かべている表情が、今日見てきた中で最も真剣なものだったからだ。

 思わず怯むリリルカへ、地精霊(ノーム)は優しく諭すように言った。

 

「必ずどこかに、お前さんを正しく評価する冒険者が居る」

 

「……そんな人、居ませんよ」

 

「いいや、そんな事ある。『英雄』と同じじゃ。ある日突然、リリちゃんの前に風のように現れるじゃろうて」

 

 そう、強く断言する地精霊(ノーム)

 リリルカはそれに、何故か反論出来なかった。何故かは分からない。彼が確信を持っているからなのか、自分がヤケになっているのだけなのか──恐らくは後者だろう。

 そして気が付けば、リリルカは言っていた。

 

「……分かりました。ただし冒険者が応えなかった場合、リリは容赦なく彼等に牙を剥きます。それで文句はないですね」

 

 それだけ言い残して、リリルカは骨董品店をあとにした。

 これが『盗賊』リリルカ・アーデと『精霊』ボム・コーンウォールとの出会いだった。それは見方を変えれば、『古代』にあった、『英雄』と『精霊』の契約のようでもあった。

 

 ──それ以降、リリルカ・アーデは『サポーター』と『盗賊』の二つを本格的に兼業する事となる。

 

 予想通り、彼女がいくら真面目に働いて役に立ったとしても、冒険者達が対応を変える事はなかった。それ所か忙しなくダンジョンを動き回る小さな『サポーター』を馬鹿にし、見下していた。これが現実なのだと彼女は思っていたので、特にショックを受ける事はなかったが。だがその反面、今まで僅かながらに感じていた罪悪感は綺麗さっぱりと無くなっていた。自分の働き具合を計算出来るようになるまで成長していた彼女は犯行に及ぶ際、それを基準にして盗みを行うようになっていた。とはいえ、あまりにも酷い『外れ』を引いてしまった時はそんなの関係なしに『魔剣』や高等回復薬(ハイ・ポーション)、ドロップアイテムなんかを遠慮なく盗んでいたが。

 そうして、何十、何百と臨時パーティに同行していくと、本当に──本当に稀ではあったが、リリルカへきちんと報酬を支払う冒険者が居た。

 

「あ、あのありがとうございました! あなたのおかげで、モンスターととても戦いやすかったです! 僕達のパーティの稼ぎじゃこれが限界なんですけど……もし良かったら、またお願いしたいです!」

 

「今回はあんがとさん。ほれ、持っていけ。それにしてもアンタ、凄いねぇ。【ファミリア】に居場所がないって言っていたが、もし良かったらウチに来ないか? 主神なら俺が説得するからよ!」

 

「ま、まぁ……? あんたには世話になったし? 別に感謝していなくもないし? えぇい、良いからこれを受け取りなッ!」

 

 彼等からその言葉を受け取った時、リリルカの胸にじんわりとあたたかいものが広がった。それが身体全体へ伝わると、ポカポカした。心地よかった、嬉しかった、久しく流していなかった涙さえ流れた。

 この時リリルカはようやく、これまでの過酷な人生が少し報われた気がした。傷だらけの『こころ』が少し癒えた気がした。

 この出来事によって、地精霊(ノーム)の言った事が事実なのだと認めざるを得なかった。

 以降、リリルカはボムへ信頼を寄せるようになる。嘗てのトラウマが蘇らなかった訳ではなかったが、『ノームの万屋』へ赴く際は細心の注意を払うようにした。

 だが本当の意味で、彼女を必要だと言ってくれる存在はまだ居なかった。

 

 そして──十五歳の誕生日をボムと迎えてから少し経った頃。

 

 リリルカ・アーデはある日、ダンジョン探索中にある噂を拾った。

 それは、先日の怪物祭(モンスターフィリア)での出来事。何者かが、【ガネーシャ・ファミリア】が捕獲していたモンスターを檻から街へ解き放った事件だ。

『モンスター脱走事件』と呼ばれるこれを、【ロキ・ファミリア】をはじめとした大派閥が解決する中で、一人の駆け出し冒険者が銀の野猿(シルバーバック)と死闘を演じ、見事討伐して見せたという内容だ。

 あまりにも胡散臭い話だ。

 リリルカも初めて聞いた時はそのように思った。だが、少し調べてみればあまりにも疑問点が多かった。というのも、その噂の広がり方があまりにも奇妙だったのだ。『娯楽』に飢えているこの都市が、信憑性は兎も角として、これだけの話題をわざわざ寝かせる訳がない。

 この都市に於いて、噂は噂の域をすぐに出て明るみになる。

 つまり、何者かが意図して噂の範疇(はんちゅう)に押し止めているのだ。それでいて下級冒険者を中心にゆっくりと広がりつつあるので、奇妙だと判断するのは当然だろう。

 だがすぐに、リリルカは興味を失った。話の真偽は兎も角、何者かが意図している以上、下手に探りを入れたらどうなるのかは分かりきっている。首を突っ込むのは愚か者のする事だ。

 

 ──そう思っていたリリルカだったが、幸か不幸か、彼女はその噂の人物と出会いを果たす事になる。

 

 とあるパーティから『クロッゾの魔剣』を盗んだ際、変身魔法を解除する場面を追手に見られてしまったのだ。

 大剣使いの大男から逃げている時に、リリルカは運悪く一人のヒューマンと美しいエルフと鉢合わせてしまう。二人に構う事はせず走り続けたおかげで、幸いにも追手を撒く事は出来たが、バックパックを現場に残したままだった。追手が回収しているだろうなと半ば思いつつも時間を置いてから戻ると、そこではヒューマンとエルフが会話をしていた。

 そして彼女は、そのヒューマンこそが噂の人物なのだと確信に至った。

 名は、ベル・クラネルというらしい。

 話を盗み聞きすると、どうやら怪物祭(モンスターフィリア)以前に【ロキ・ファミリア】が起こした事件『ミノタウロス上層進出事件』にも深く関わっていたようだ。

 銀の野猿(シルバーバック)に、さらには猛牛(ミノタウロス)まで。偶然生き残ったとは到底思えない。

 あとの話はとても簡単だ。ベル・クラネルに興味を持ったリリルカは偶然を装って彼に接触を図った。もちろん、本来の姿ではなく、【シンダー・エラ】を用いて犬人(シアンスロープ)に変身した上でだ。単独(ソロ)で活動しているのは遠目から見てすぐに分かったので、いつもと同じ手法を用いて接近した。

 そうして、リリルカ・アーデは、ベル・クラネルとパーティを組むようになったのだ。

章題とは別に各話にサブタイトルは? (例:『1話』→『始まり』)

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