さあ──『喜劇』を始めよう!   作:Sakiru

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晩、『豊穣の女主人』での一幕

 

 燦然(さんぜん)と輝く太陽が西空に姿を消し、その代わりに現れたのは、くっきりと浮かぶ満月だった。 

 労働者が、冒険者が迷宮都市(めいきゅうとし)に居る全ての人々が一日の終わりに笑顔を浮かべ、(テーブル)を囲んで夕餉を楽しんでいた。そこに陽気な男神(おがみ)や美しい女神(めがみ)が混ざり、子供達を見守っている。

 

「ヘスティア、今日も太陽が沈んだ。人々を明るく照らす象徴が!」

 

「ああ、うん、そうだね。太陽……太陽かぁ……うわっ、嫌な(やつ)を思い出した……」

 

 往来が激しい西のメインストリート。北のメインストリートである『冒険者通り』では冒険者が多く見られるが、この目抜き通りは一般市民の姿が多く見られる。

 迷宮都市の主産業は魔石製品の製造及び輸出である。『魔石(ませき)』は魔物達の生命の源であり、世界で()()地下迷宮(ダンジョン)を保有する迷宮都市はこの特質を余すことなく活かしている。

 管理機関(ギルド)は魔石製品を製造する労働者を多く抱えており、世界中に求人を出している。ともすればそれは、冒険者よりも多いと言われているほどだ。

【ファミリア】に加入していない無所属(フリー)の労働者達は西の区画に住居を構え、働いている。正しく、此処は彼等にとって本拠(ホーム)なのだ。

 そんな大通りを一組の男女が(はぐ)れないようしっかりと手を繋ぎながら歩いていた。

 兄妹(きょうだい)と言っても通ってしまうその身長差から、殆どの市民は一度勘違いしてしまうが、すぐに女の子が女神であることに気付き、畏敬の眼差しを送っていた。

 

「こっちには全然来ないから新鮮だなぁー」

 

「そうなのか?」

 

「うん。アルバイト先の担当エリアだったら別の区画に行くことはあるんだけどねー」

 

 ヘスティアがアルバイトとして(つと)めているジャガ丸くんの屋台は都市の至る所で見ることが叶う。安くて美味しいという理由から、老若男女問わずとても人気だ。特に迷宮都市に初めてきた者達はその美味しさに絶賛するのが常となっている。

 そんな屋台にはそれぞれ担当エリアがあり、ヘスティアの担当は主に都市北部に該当していた。

 

「今日はごめんね。すっかりと遅くなってしまった。新人くんが盛大なミスをしてしまってね」

 

「そうか……それは災難だったな。具体的にはどうだったんだ? 差し支えなければ教えて欲しい」

 

「調理するジャガ丸くんを間違えるというものでね。ほら、ジャガ丸くんは沢山の種類があるだろう?」

 

「ああ、なるほど……」

 

 ジャガ丸くんが人気たる要因には、味の種類の豊富さも大きく関係してくる。熱狂的なファンも居るほどで、新商品が発売されると聞いた時には目を光らせ、情報収集に勤しみ、発売日当日の開店時間に並ぶ程だ。

 

「間違えてしまったから作り直す必要があるだろう? そのお客さんは待たせてしまうし、それだけじゃない。他のお客さんにも迷惑を掛けてしまう。さらには材料も一個分余分に使ってしまったからね、大変さ」

 

苦情(クレーム)は来なかったか?」

 

「迷惑を掛けてしまったお客さん全員にサービスをして許して貰ったさ」

 

 まあ、それが妥当だろうなとベルは納得した。

 信頼関係を構築するにはそれなりの時間が必要だ。しかし、その努力は些細な事で崩れてしまうもの。

 店主は正しい判断をしたと言えよう。

 

「でもその代わり、今日のノルマが増えてさー。達成しないと定時では帰さない! だなんて言われてね」

 

「女神を扱き使うだなんて、おばちゃんは凄いねぇー」と、ヘスティアは何処か達観したように嘆息した。

 良くも悪くも、迷宮都市の住民と神々の距離が近いことの証左だろう。

 

「それで? 目当ての酒場は何処だい?」

 

「うぅーむ……人が多くて中々みつからないな。すまないヘスティア。もう少し掛かると思う。疲れているだろうが、もうひと踏ん張り頑張ってくれ」

 

「ボクはもちろんだけど、ベル君も身長が高い訳じゃないから仕方ないさ。それに、眷族(きみ)と長く手を繋げられると思えば悪くない」

 

 人気のなかった早朝は様変わりし、西のメインストリートは本来の顔を出していた。

 小人族(パルゥム)とノームが歌を歌い、ドワーフが酒を(あお)りながら歌唱会を見物する。獣人の女性が大胆な服装で客引きをしているかと思えば、それ以上に露出度が高い女戦士(アマゾネス)の一行が羞恥心なんてものはまるで捨ててきたかのように我が物顔で闊歩し、男子(おのこ)の視線を集めている。

 

「おっ! ヘスティア、見付けたぞ! 彼処(あそこ)だ間違いない!」

 

 人波に酔わないようにしながら何とか間隙(かんげき)を縫って移動していると、ベルはとうとう目当ての酒場を発見した。

 石で造られたその建物は二階建てで、やけに奥行がある。大通りの中で一番大きい酒場はカフェテラスも併設しているが、今客は案内されていないようで静かだった。

 

「ほっほーう、此処(ここ)が、えっと──」

 

「『豊穣(ほうじょう)女主人(おんなしゅじん)』だな」

 

 出入口の前に飾られている看板をベルが代読する。

 ヘスティアは共通語(コイネー)を自分でも読み、

 

「店名をそのまま鵜呑(うの)みにするなら、此処の店主は女性なのかもしれないね」

 

「美人な女性だと尚良い!」 

 

「……きみは全然ぶれないね」

 

 主神は眷族に呆れてから、そっと店内の様子を窺った。

 

「おっ、彼女が女将(おかみ)かな?」

 

「何処だ! 何処に居る!? 若くて美人な女将は何処に!?」

 

 ベルは興奮しながらヘスティアに尋ねた。

 彼女は真顔である一点──具体的にはカウンターを指さした。

 それを見ようと純粋な少年は前のめりになり、

 

「……おぅ」

 

 次の瞬間には複雑な表情を浮かべた。

 果たしてそこ、カウンターには一人の女性が立っていた。恰幅の良いドワーフの女性が、フライパンを振るい、酒を振舞っている。

 期待が外れたことにやや落胆しながらも、ベルは厨房に視線を送ると、

 

「おおっ!」

 

 次の瞬間には瞳を希望一色で輝かせた。

 厨房で素早く動いているのは獣人──猫人(キャットピープル)だった。彼女達を視界に入れるだけで(いや)される人も多いだろう。

 浮かれている己の眷族の背中をゴツン! と拳で叩きつつ、ヘスティアは好評した。

 

「中々に良いお店じゃないか。特にベル君のような男子(おのこ)からしたら楽園(パラダイス)のようなものだろう」

 

 彼女の言葉を、ベルは引き継ぐ。

 

「ああ、その通りだとも。何せ、店主を含めたスタッフ全員が女性なのだから!」

 

「──ふふふ、気に入って頂けたようで嬉しいです」

 

 鼻息を荒くするベルに、店内から一人の給仕がやって来て、微笑んだ。

 ベルが「シル!」と喜ぶ横で、ヘスティアは『それ』を見て『違和感』を抱いた。やがてそれは大きくなり、彼女は蒼の瞳を見開く。

 

(なっ……!? こんなことが有り得るのか!?)

 

 ベルは、ヘスティアの異変に気付けない。それもその筈。炉の女神が全力で動揺を顔に出さないとしていたのだから。

 そんな彼女に彼は笑顔を向けて言った。

 

「ヘスティア、こちらこの酒場の店員であるシル・フローヴァ。シル、こちら【ヘスティア・ファミリア】主神、()の女神ヘスティアだ」

 

 ヘスティアは声を震えさせないことだけに集中した。

 

「……ベル君の紹介にあった通りだ。ボクはヘスティア。宜しく頼むよ、給仕君」

 

「こちらこそ、宜しくお願いいたします。女神様の舌を満足させられるよう、精一杯美味しいご飯を用意致しますね」

 

 給仕は、「さあ、中にどうぞ!」と二人を手招きし、

 

「予約されていたベル・クラネル様及びヘスティア様、ご来店でーす!」

 

 そう、声を張り上げた。

 そして刹那、スタッフ全員は作業を一旦やめ、

 

「「「いらっしゃいませ! ようこそ、『豊穣の女主人』へ!」」」

 

 シルに勝るとも劣らない大声を以て、それを歓迎の挨拶とした。

 ベルが「酒場って凄い!」と感動する中、ヘスティアは冷静さを取り戻す。

 

(疑問は尽きないけど……今考えてもしょうがないか……)

 

 そう思ったヘスティアは()()を無理矢理鎮め、「さぁさぁ、どうぞこちらへ!」と案内するシルを追った。

 そして、ベルとヘスティアはカウンター席に座る。丸椅子は座り心地がよく、女将の調理姿を見ることが出来るので、二人はとても喜んだ。

 

「あんたがシルが朝に騒いでいた変人冒険者かい? なんだ、どんな奴だと思っていたら、随分と可愛い顔付きじゃないか!」

 

 挨拶そうそう、女将が笑いながらそう言った。

 

「へん、じんッ……!?」

 

 自分をどんな風に紹介していたんだとベルはシルに顔を向けたが、彼女は素知らぬ顔で注文表を手渡す。

 まあ、そうなるだろうなぁーと本調子に戻ったヘスティアは寧ろシルに共感した。

 

「アタシはミア・グランド。見て分かると思うが、この酒場の店主さ!」

 

「はじめまして、ボクはヘスティア。こっちがボクの眷族の──」

 

「ベル・クラネルという! 今はまだ、ただのベル・クラネルだが、(いず)れ『英雄』になる者だ! 宜しく頼む、豪傑(ごうけつ)な女主人よ!」

 

 その宣誓は店内に大きく響いた。給仕は足を止め、冒険者は大言壮語を宣う愚か者を笑い、市民は何だなんだと食事を中止する。

 ヘスティアが『うわぁ……これ、追い出されるんじゃね?』と戦々恐々となった。

 店内が静寂に包まれる。

 店員達がギギギと音を立てて女主人に顔を向ける。彼女達は知っている。我らが偉大なドワーフの女将は、店を騒がす輩はたとえ客であろうと、それこそ神々であろうとも、その逞しい拳骨を全力で振り落とし、そして店から追い出すことを。

『あんの白髪頭(しらがあたま)、ニャにをバカなことをしでかしてくれたニャッ!』と猫人(キャットピープル)の店員が内心でベルに罵声を飛ばしながら、恐る恐るミアの様子を見守っていた。

 この場に居る全員が固唾を呑み──

 

「あっはっはっはっ!」

 

 ──突然出された笑い声にぎょっと目を剥いた。

 発生源は一人の女性。ドワーフの彼女はドワーフらしく豪快(ごうかい)に、豪傑に、大口を開けて笑い続けた。

 店員達が幻覚なのかと目を疑うのは仕方あるまい。

 数秒後、息を整えた彼女はニヤリと笑い只人(ただびと)を見下ろした。

 

「あっはっはっ──ベル・クラネルと言ったね。気に入った! 若造は大願を抱いてこそだ!」

 

「奇遇だな、私もこの店を気に入ったぞ! 掃除が行き届いている清潔な店内、美人なスタッフ、客席から漂う美味な匂い! 何よりも──この酒場には笑顔が()いている」

 

「当然さ! 此処は『豊穣の女主人』! どんなクソッタレな時であろうとも笑顔で美味い飯を食べられる場所だ!」

 

「とても素晴らしい! 私は貴女を尊敬する!」

 

 ヒューマンとドワーフ。

 種族の垣根を越えて、彼等は笑みを交わした。

 

「「あっはっはっはっはっはっ!」」

 

 その光景をヘスティアは目を細め、焼き付けていた。

 彼女は己の眷族が誇らしかった。どうだ、凄いだろう! と胸を張って神友(しんゆう)に自慢したかった。

 店内の雰囲気は最高潮(ピーク)に達した。上機嫌な女将が次々と指示を矢継ぎ早に飛ばし、従業員達は時に悲鳴を上げながらも笑顔で応える。

 

「さて、随分と前振りが長くなっちまったね。此処は酒場だ。話なんざ飯を食いながら幾らでも出来る」

 

「ああ、その通りだな。私もヘスティアも腹が減っていてしょうがない。これから味わうであろう美味への期待でな!」

 

「ははっ、そりゃあ良い。空腹は最高のスパイスだ。そんで、何を頼む?」

 

 その言葉にベルは意味深げに笑うと財布を取り出した。口を開け、上から覗き込む。ヘスティアも自分の財布を取り出し、そして真顔になった。

 ミアが「おいおい」と言いながら、

 

「……まさか金がないだなんて言うんじゃないだろうね?」

 

「まさか! ただ、恥ずかしながら私達は貧乏でな。財布と相談するのは許して欲しい」

 

 そういう事なら仕方ないね、と店主は頷いた。

 ベルとヘスティアは揃ってから笑いすると──あまりにも似ていた為、シルは驚いた──ひそひそと囁き合う。

 

「ベル君ベル君。手持ちはどうだい?」

 

「すまないヘスティア。日雇いのアルバイトをやろうと考えはしたのだが、親とはぐれてしまっていた子供の対応で出来なかった」

 

「それは仕方ないさ。寧ろそこで見知らぬ振りをしていたら怒っていたところだぜ。で、結局どうだい?」

 

「……へそくりを掻き集めたが、1000ヴァリスしかない。ヘスティアはどうだ?」

 

「ボクも似たようなものさ。給金が入るのは暫く先だからね。ボクの所持金は500ヴァリスだ」

 

「合計1500ヴァリスか……。これだけあれば充分──」

 

 だな、と言葉を(つむ)ごうとして。

 注文表をここで初めて見たベルは(うめ)いた。「ベル君!?」と心配してくれるヘスティアに彼は無言で渡す。

 

「た、高い……ッ!」

 

「うちは細部まで食材を選り好みしていますから。他のお店よりは少し高いですね」

 

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!? この額は『少し』なんてものじゃ……!?」

 

 基本的に、一度の食事は50ヴァリスもあれば充分だ。しかし、『豊穣の女主人』で出されている料理は全てその数倍から数十倍の価格だったのだ。

 流石に高過ぎるとベルは指摘しようとするも、

 

「ん? 文句があるのかい?」

 

 パキパキと手の骨を鳴らすドワーフを前に、ベルは屈した。ヘスティアも同様である。

 その代わり、せめてもの抵抗で、二人は睨む先を注文表に移した。

 結局彼等が料理を頼んだのは一番安いパスタで、それも来店してから優に二十分が経過した頃だった。

 

「おいおい、酒は要らないのかい?」

 

「ああ、不要だ。私もヘスティアも酒はあまり好まないからな。寧ろ苦手だ」

 

「冒険者の方がお酒を嫌うのは珍しいですね」

 

 まあ、と口元に手を当ててシルが驚いてみせる。

 

「ボクとしては嬉しいかな。ベル君はまだ十四だからね、この歳でお酒にハマるのは避けて欲しいものさ」

 

 眷族を想う主神として、ヘスティアはそう言った。

 

「……それよりも給仕君は仕事をしなくて良いのかい?」

 

「ええ、はい。今日はベルさん達がお越しになる前に精一杯頑張りましたから。今はその分休憩時間を貰っているんです」

 

 そうですよね? とシルは女将に確認する。ミアは頷きながらも、こう言った。

 

「お得意様が来るまでの間だよ。それまでは自由にするが良いさ」

 

「ありがとうございます、ミアお母さん」

 

 感謝の言葉に『お母さん』と呼ばれた彼女は無言の笑みで応えてみせた。

『豊穣の女主人』では、女将のドワーフは従業員のことを『娘』と呼び、『娘』は『お母さん』と呼んでいた。それは彼女達の絆の証であり、何人たりとも断ち切ることは出来ない。

 と、ベルが母娘の会話から疑問を一つ拾った。

 

「お得意様? 顧客でもいるのか? いや、この素敵な酒場なら居そうなものだが……」

 

「まあ、ベルさんったらお上手ですね。質問に答えると、その通りなんです。とある【ファミリア】の女神様が当店を偉く気に入ってご贔屓して頂いて……本日ご来店される予定となっています」

 

「へー! その女神は誰だい? もしかしたら神友かもしれないよ」

 

「ふふっ、秘密です。ですが、お二人とも驚かれると思いますよ?」

 

 可愛らしく唇に人差し指を当てて、シルはそう笑った。

 やがて熱々のパスタが二人の客の元に運ばれる。大丸皿一杯にでかでかと盛り付けられており、ベルとヘスティアは「おぉっ!」と瞳を輝かせた。

 

「美味そうだな! これなら()()高くても許せる!」

 

「そうだねベル君! この量なら()()()()()値段が高くても許容の範囲内さ!」

 

 相場よりは高いことを懲りずに言うものだから、これにはシルも苦笑いだった。

 

「「戴きます!」」

 

 ベルとヘスティアは合掌し、まずは一口分よそった。熱気を放つパスタをふぅー、ふぅーっと適度に冷やし、口の中に放り込む。

 

「「……ッ!」」

 

 変化は劇的だった。

 無言で一口、また一口と休む暇もなく手を、そして口を動かす。夢中になって食べ進める様は、傍目に見ていても味に魅了されていることは筒抜けだ。

 ものの数分で大丸皿は空皿に姿を変えた。ぷはぁーと水を飲んで息を整えているベルに、シルが尋ねる。

 

「パスタ、如何でしたか? 満足出来ましたか?」 

 

「ああ、とても! 想像を遥かに超えた美食だった。これなら何杯でも食べられそうだ」 

 

 その最上級の賛美に、従業員と女将は笑みを交換し、新しい顧客の誕生を喜んだ。

 

「ほら、特別サービスさ! 遠慮することはない、受け取りな!」

 

 みずみずしい数個の果実がデザートとして出された。ベルとヘスティアは「ありがとう!」と礼を告げてから、今度はじっくりと味わうように食べ始める。 

 食後のデザートを楽しみながら、二人の客と給仕は談笑する。話題は『豊穣の女主人』のこと、シルのこと、ヘスティアのアルバイトの生活のこと、そして何よりも盛り上がったのはベルの冒険記録だった。

 

「──ベルさんは凄いですね。私、ゴブリンなんて……とてもとても。出会っただけで腰を抜かしちゃう自信があります」

 

「今はまだ『上層』だから出会うモンスターは少ない。その為ゴブリンやコボルトしか居ないが、そのうち、もっと凶悪なモンスターが現れるだろう」

 

「まあっ! ベルさんは怖くないんですか?」

 

「フッ! 全然怖くないさ! ドヤァ!」

 

「こらこら、嘘を吐くんじゃないぞ! 給仕君、ベル君はこう言っているけどね、彼が初めてダンジョンに潜った時、ゴブリンを倒しただけで本拠(ホーム)に戻ってきてボクに報告してきたんだぜ? 『凄いぞヘスティア! 私でもモンスターを倒すことが出来た!』なんて言いながらさ」

 

「おっと、これは参ったな。我が愛しの女神よ。そこは男として見栄を張らして欲しかった」

 

 神々に『嘘』は通じない。下界では『神の力(アルカナム)』は封じられているが、それでも、彼等が超越存在(デウスデア)であることに変わりはなく、子供達の『嘘』など見通しなのだ。

 ベルが恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いても、しかし、シルは笑わなかった。それどころか。

 

「他には何かありませんか? 私、ベルさんのお話、もっと聞きたいです!」

 

 童女のように話を急かす。

 ベルは可愛い女子(おなご)からのお願いにすっかりと気分が良くなって、己が繰り広げた冒険を──時に脚色しながら──シルに聞かせた。

 

「──以上だ。どうだった?」

 

「とても面白かったです。ベルさん、話すのがとてもお上手で……語彙力も高いですし。ついつい耳を傾けてしまいました」

 

 手放しで褒められ、ベルは「照れるな!」と後頭部を掻いた。

 一方、ヘスティアは内心で舌を巻いていた。シルは『嘘』は言っていなかった。しかし、神の直感が告げていた。この正体不明の娘は人をその気にさせる『技』を所持していることを。

 だがそれを責めるつもりは毛頭ない。シルがやったのは自分の気持ちを意図して増加させただけなのだから。

 

「ベル君、今日はそろそろお暇しようか」

 

「……む? おお、もうこんな時間か。そうだな、今宵の夕餉はもう終わりにしようか」

 

「ええっ!? もうお帰りになられるんですか?」

 

 残念そうにシルが振る舞う。

 これにはさしものベルも苦笑いを禁じ得なかった。

 

「すまない。私は冒険者活動が、ヘスティアはアルバイトが明日もあるからな。睡眠を取らなければ活動に支障をきたしてしまう」

 

「……そういう事なら、仕方がありませんね。ですが、絶対にまた来て下さいね? 約束ですよ?」

 

 シル・フローヴァの本心からの願いだった。

 それが分かっているから、ベルは頷いた。

 

「ああ、約束だとも。私は約束を決して違えない。そうだ、今日の貴女との出会いを書き記しておこう」

 

「おいおい、今日も持っているのかい?」

 

 と、呆れるヘスティアにベルは当然とばかりに頷いた。

 

「人生何が起こるか、それは神々も分からない。そうだろう?」

 

「あの、書き記すって……?」

 

 シルが疑問の声を上げる。それに答えたのはヘスティアで、「……まあ、見ていれば分かるよ」と言った。

 ますます意味が分からずシルは首を傾げたが、言われた通り黙って待つことにした。

 ベルは懐から一冊のノートと羽根ペンを取り出し頁を捲る。そして言葉を紡いだ。

 

(つづ)ろう、我が英雄日誌! ──『ベル・クラネルはある日の早朝、一人のヒューマンの女性と運命的な出会いをする。満月の夜、彼は主神と彼女の酒場に行った。そこで彼は楽しいひと時を過ごすのであった』── 冒険だけが物語(みち)ではない。そのことを今宵はもう一度認識することが出来た」

 

 そう言って、パタンと本を閉じた。

 シルは最初ぽかんと呆然としていたが、我を取り戻すと、今日一番の笑みを浮かべた。

 

「自分の活動記録を(のこ)すなんて、とても素敵ですね!」

 

「ありがとう。そう言って貰えると嬉しい。やはり貴女は素敵な女性だな」

 

「そ、そんな……素敵だなんて……!?」

 

「待たせたなヘスティア。それじゃあ行こうか」

 

 また女子(おなご)を口説いているぞ……とヘスティアは思った。しかも巫山戯ているのではなく、本心で言っているのだから恐ろしい。

 最後に女将に挨拶をしようと、二人が口を開けた──その時だった。

 

「ミア母ちゃーん! 来たでー!」

 

 陽気な声が出入口から出される。

「むむっ、この声、何処かで聞いたことがあるような?」とヘスティアが記憶を想起する中、声主は店に入る。

 

「お、おい……!」

 

「まさか!?」

 

 客達が目を見開き、驚きの声を上げる。

 状況が摑めないベルとヘスティアへ、シルは得意そうに胸を張りながら言った。

 

「ベルさん達もご存知でしょう。此処、迷宮都市(オラリオ)──いいえ、世界中に名声を轟かせている派閥を!」

 

「まさか、【フレイヤ・ファミリア】か!? ()の美の女神が此処に!? 何それ凄い! 是非一目見たい──」

 

「ではなくて──いえ、合っていると言えば合っていますが──他の派閥です。ここまで言えば分かるでしょう?」

 

 シルの問い掛けに答えるように、一人のエルフのウェイトレスが騒ぎを一刀両断して宣言した。

 

「ようこそ、【ロキ・ファミリア】の皆様。お待ちしておりました」

 

 都市最大派閥──【ロキ・ファミリア】。

 数多くの【ファミリア】が存在する迷宮都市、その(いただき)に降臨する探索(ダンジョン)系【ファミリア】だ。

 冒険者の誰もが彼等のように()りたいと願い、冒険者という職業を嫌悪する市民であっても、彼等を特別視し、支持する者は圧倒的に多い。

 店内は予期せぬ人物達の登場に大いに盛り上がった。

 

「あれが【剣姫(けんき)】……すんげえ上玉だな……」

 

「おい、やめろって。不用意に近付くと斬られるぞ」

 

「嗚呼……リヴェリア様……美しい」

 

「何で王族(ハイエルフ)が此処に居るんだろうなって、俺、いつも思ってるよ」

 

「キャー! フィン様よ!」

 

「可愛い──ヒッ、何処からか殺気が!?」

 

「おおっ、あれが歴戦のドワーフ、ガレス! なんて逞しい身体だ! まさに(おとこ)! そこに痺れる憧れるゥ!」

 

【ロキ・ファミリア】の構成員は主神の性癖がそのまま反映されている。男女比は女性の方が圧倒的に多く、彼等彼女等は例外なく美男美女だ。

 誰もが色めき立つ中で、しかし、その中で唯一沈黙を貫いている者が居た。

 ベル・クラネルとヘスティアである。

 彼等はシルを盾にして──当然、彼女一人では盾になる訳がないが──見付からないよう身を隠していた。

 

「べ、ベルさん……? ヘスティア様……?」

 

「……すまない給仕君。ボク達と彼等には実はちょっとした因縁があってね、なるべく顔を合わせたくないんだ」

 

「ええ……?」

 

「私からも頼む。特に【剣姫(けんき)】とあの狼人(ウェアウルフ)には絶対に見付かりたくない」

 

「ええっ!?」

 

 シルは割と本気で狼狽えた。

 冗談を言っていると思いたかったが、彼等の目は本気(ガチ)だった。特にヘスティアの顔は凄く、言葉では言い表せられない表情になっている。

 

「……分かりました、と言いたいところなんですが……私もお仕事がありますし……」

 

 ちらりとシルがそちらに一瞥すると、ちょうど、【ロキ・ファミリア】の団員達が席に着いたところだった。店内では収まらないので、外のカフェテラスをフルに使って──貸切状態である──ようやくである。

 そして一番の問題なのが、ベル達が警戒している人物は【ロキ・ファミリア】の中枢を担う冒険者である為、店内に居ることだった──幹部達は店内、それ以外はカフェテラスに案内された──。隅の席ならまだ何とかなるものの、ベル達がシルによって案内されたのはカウンター席である。もし彼女が席を離れればすぐに見付かるだろうことは想像に難くない。

 他の客の存在を気に掛けるとは思えないが、彼等は規格外の冒険者。五感は常人を遥かに凌駕するので、絶対にないとは言いきれない。

 

「シル!」「給仕君!」

 

 ──助けてくれ! 懇願の眼差しを送られる。

 シルが女将に『どうしましょう?』と視線を送り、相談すると、ミアは数秒の沈黙の後に溜息を吐いた。

 

「……シル、あんたは今日これで上がりな。あとは好きにするが良いさ」

 

「良いんですか?」

 

「仕方がないだろう。寧ろ因縁とやらで問題を起こされる方が困る。──その代わり! 今度うちに来た時はもっと多く注文するんだよ! じゃないと承知しないからね!」

 

 後半の言葉は脅しであったが、しかし、あたたかいものだった。

 ベルとヘスティアは忽ち笑顔になり、そして声を揃え、

 

「「ありがとうー!」」

 

 堪らずにシルは目眩を覚えた。ミアもやられたのか、一瞬、動揺を露わにする。

 それを見た猫人(キャットピープル)の従業員が「んにゃっ!?」と自分の目は節穴ではないかと疑った。

 

「よし、ベル君。ボクの髪の毛を下ろすんだ!」

 

「なるほど! 流石はヘスティアだ! 髪型を変えれば印象は大きく変わるだろうからな!」

 

 声を抑えながら騒ぐという高等技術を披露しながら、ベルとヘスティアは【ロキ・ファミリア】対策をしていく。

 ベルは主神の神意に従い、彼女のアイデンティティであるツインテールを解いた。髪を下ろした彼女はとても魅力的で、大人びている。

 

「だが困ったぞ。私はどうすれば……?」

 

「出来るだけ身体を小さく纏めるしかないと思います。幸いベルさんは大柄ではないですし……私が障壁となればギリギリ隠れられるかと」

 

「くっ……極東に伝わる奥義、『隠れ身の術』を私が会得していれば良かったのだが……致し方ないか」

 

 ベルとヘスティアは顔を見合わせてから、サッと机に突っ伏す。それはさながら酒に溺れているようだった。

 その状態で楽しそうに話をするのだから、シルはつくづく、変な人達だなぁと思った。

 

「ベルさん、ヘスティア様。今はまだ【ロキ・ファミリア】の皆さんは素面ですが、今回は『遠征』の帰還を(しゅく)しての宴会なので、すぐに酔われるでしょう」

 

「ほう、それで?」

 

「私の経験上、三十分も経てば周りに意識を割くことはないと思います。それは宴会が盛り上がる時間帯と、酒場に居る環境に身体が慣れるからです」

 

「……流石は専門職(プロフェッショナル)だねぇ。お客さんのことをよく視ている。ボクも見習いたいものさ」

 

「ありがとうございます、恐縮です。──私が隙を突いて二人を出口まで誘導します。宜しいでしょうか?」

 

 二人は無言でオーケーサインを出した。

 

「くそぅー……どうしてわざわざボク達が連中から隠れないといけないんだ……」

 

 女神ロキが「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなご苦労さん! 今日は宴や! 飲めぇ!」と音頭を取ったところで、ヘスティアが忌々しそうにボヤいた。

 

「えっと……どうして【ロキ・ファミリア】から隠れているんですか?」

 

 疑問に思っていたことをシルは遂に尋ねた。

 さてどう説明すれば良いのかと、ヘスティアは「ぐぬぬっ」とくぐもった声を出した。

 

(実際は向こうが悪いのに……! というか、そもそもロキは何をやっているんだ! ベル君の話を聞くに自己紹介はしていたのだから、ベル君の所属先を管理機関(ギルド)に尋ねて詫びの一つでも入れるのが常識じゃないのか!?)

 

 これでは自分達が【ロキ・ファミリア】に対して何か悪いことをして、逃げているようではないか。

 彼等──いや、()()は楽しそうに騒いでいる。肉をたらふく頬張り、酒を呷り、談笑している。それを意識した瞬間、段々とむかっ腹が立ってきた。

 だがしかし、ここで突撃する訳にはいかないのだ。それでは何も問題の解決にならない。何よりも、騒動を起こせば、この素敵な酒場の女主人と給仕に迷惑を掛けてしまう。

 結局ヘスティアはシルの質問に「すまない給仕君。事情があって答えられないんだ」と答えるしかなかった。

 

「今回の『遠征』はどうだったん?」

 

資料(レポート)は既に渡しているだろう」

 

「せやけどな、直接聞きたいんよ。自慢の眷族(こども)達の活躍を直接な」

 

 宴会の(さかな)になるのは、専ら『遠征』のことだった。主神の質問に、眷族達は答えていく。もちろん、団員以外に知られたくない情報は隠しながらだ。現に冒険者達が【ロキ・ファミリア】の話に興味津々であり、耳を傾けている。

 話が盛り上がるにつれ、料理の無くなる勢いも増していった。積もる前にウェイトレス達は空皿を下げ、代わりに、新しい料理を運んでいく。

 その様子をシルは遠目から眺めていた。猫人(キャットピープル)の同僚が『ヘルプっ!』とアイコンタクトを送ってきたが、自分はもう仕事が終わっている身。友人のエルフが助けを求めてきたら話はまた変わってくるが、ここは気付かない振りをする。

 

「……どうだい、給仕君? そろそろ決行の時じゃないかい?」

 

「うぅーん……そうですね。あと五分ほど我慢して下さい」

 

「あと五分もこの格好か……」

 

 頑張って下さい、とシルは女神を励ました。ヘスティアは微妙な反応を返す。

 シルが【ロキ・ファミリア】の様子を一瞥すると、酒が回ってきているのか、何人かは陶然とした表情を浮かべていた。

 

「お二人共、好機です。私が誘導しますから、付いてきて下さい」

 

「……分かったよ。よし、行くぞベル君!」

 

 ヘスティアが顔を上げ、ベルに声を掛ける。

 

「……」

 

 だがベルは何も反応を返さなかった。

 もしかして……と思いながら、ヘスティアは小さな手で少年の肩を揺さぶる。

 

「ベル君、行くぞ!」

 

「……」

 

「ベル君、ベルくーん!」

 

「…………」

 

 何てこったとヘスティアは思わず天井を見上げた。

 ベルは意識がなかった。

 より端的に言うと──寝ていた。熟睡である。

「ええ……」とシルが驚く。

 

「さっきから無言だったから、珍しく空気を読んでいると思っていたのに……!」

 

 ヘスティアはベル・クラネルの能天気さをすっかりと忘れていた自分を心から恥じた。

 だがしかし、自分を責めていても何も始まらない。今度は先程よりも強く肩を揺さぶったが、帰ってきたのは「すやぁ……」という寝息だけだった。

 どうにか無理矢理にでも起こそうとヘスティアがした、その時だった。

 

「──でもさー、まさかミノタウロスが逃げるなんて思わなかったよね」

 

 ピタリと、ヘスティアは硬直する。

 ゆっくりと声主に視線を送ると、果たしてそこには一人の女戦士(アマゾネス)の少女が居た。かなりの美少女だ。すぐ近くには同じ顔の少女が居て、恐らくは双子だろう。どちらが姉かは分からないが、とある身体の一部分を見て、彼女は妹だと確信した。 

 

「こらっ、この馬鹿ティオナ。その件については箝口令が敷かれているでしょうがっ」

 

「あっ、そうだった。ついうっかり……」

 

 しまったと、ティオナと呼ばれた少女が慌てて口を閉ざす。そして素直に「ごめん」と謝った。

 さらに黄金色の髪色の小人族(パルゥム)が諭すように言った。

 

「ティオネの言う通りだ。少なくとも此処では出さないで欲しい」

 

「だからごめんってばー。反省してるよ!」

 

「なら良いんだ」

 

 良くやったぞ名も知らぬ小人族(パルゥム)君! ヘスティアは喝采した。

 しかし、糸目の女神が疑問の声を上げる。

 

「何やそれ。うち、初めて聞いたわ」

 

「……ロキ、きちんと資料(レポート)を読んだかい? 最後の頁に赤文字で書いてあった筈だけれど」

 

 下手な口笛を吹いて誤魔化すロキ。

 ヘスティアは持てる限りの言葉を以て、不倶戴天の敵に罵詈雑言の言葉を送り、貶した。もちろん女神の矜恃で口には出さなかったが。

 だがしかし、これは最大の好機でもある。ロキが外聞も恥もなく駄々を捏ねる子供のように──というか、子供そのものだった──騒ぎ立てているものだから、眷族達はその対応に追われている。

 あの忌まわしい敵が山吹色のエルフの少女に詰め寄っている今しか機会はない。

 

「ベル君、起きるんだ! 帰るよ! このままじゃ彼等に見付かってしまう!」

 

「…………すやぁ」

 

 相も変わらず呑気に寝息を立てるベルを、ヘスティアは家族に加えてから初めて殴りたいと思った。

 何か妙案は──彼女は天啓を得た。

 

「彼処にフレイヤ──美の女神が居るぞ! ああ、なんて美しい──」

 

 効果は劇的だった。

 ベルは深紅(ルベライト)の双眸を見開かせ、ガバッと顔を上げる。

 

「美の女神!? 何処どこ、いったい何処に!?」

 

「よし、目覚めたね。遅くなってすまない給仕君。ボク達を出口に誘導してくれ」

 

「あ、あははは……はい、分かりました。それじゃあヘスティア様、ベルさん。移動しましょう」

 

 ヘスティアとシルが椅子から立ち上がるまでベルは「美の女神は何処に!?」とこの場に居ない女神を探していたが、謀られたのだとやがて理解すると、ガックリと両肩を落としながら彼女達に続いた。

 なるべく隅の方を歩きながら、出口に向かう。ウェイトレス達が店内を動き回ることでフォローに回った。

 その甲斐あって、とうとう辿り着いた。

 

「とても美味しい料理だった。次来る時はもっと財布が膨らんだ時にしようと思う。ミア母さんにも伝えておいてくれ」

 

「……迷惑をかけてしまってすまない。そしてありがとう、ボク達を助けてくれて」

 

「ふふっ、お礼なんてとんでもありません。知らないかもしれませんが、ミアお母さんが冒険者の方を気に入られるのは珍しいことなんですよ?」

 

「ほう……ならばその期待に応えられるよう、私は精進しようと思う」

 

「次の来店を、一同、お待ちしております!」

 

 別れの挨拶を済ませ、ベルとヘスティアは本拠(ホーム)に帰ろうとする。

 シルが頭を下げて見送る──その横を、一人の女性が通った。誰だろうかと頭を上げ、彼女は瞳を見開かせた。

 

「──待って」

 

 ベルはその声に聞き覚えがあった。

 まだ数回しか聞いていないが、彼女の声は記憶に残っている。その美声を、彼は決して忘れていなかった。

 

「すまないヘスティア。……どうやら見付かってしまったようだ」

 

「……はあ、結局こうなるのか。仕方がないさ、受け入れよう」

 

 だから謝らないでくれ。ボク達は家族(ファミリア)だろう? 主神(ヘスティア)の御言葉が嬉しくて、眷族(ベル)は笑みを浮かべた。

 そして、ゆっくりと身体ごと振り向かせる。深紅(ルベライト)の瞳が『彼女』の姿をしっかりと捉えた。

 果たして、『彼女』は居た。金髪の長い髪、同色の瞳。装備こそ身に着けていないが、間違えようがなかった。

 

「昨日振りだな、アイズ」

 

「うん……昨日振り、だね。こんばんは、ベル」

 

 そう言って、アイズ──【ロキ・ファミリア】所属、【剣姫(けんき)】の二つ名を持つアイズ・ヴァレンシュタインは小さく微笑んだ。

 

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