『夢』を、見ていた。
それは、記憶。
自分が嘗て体験し、そして、意図的に忘却した忌まわしき『罪』。
『お
『それかい? それはね、リリちゃん。有名な童話だよ』
『……童話?』
『ああ、そうだよ』
『夢』の中で、幼い少女と老婆が話をしている。
幼い少女は、自分。手の中には、
老婆は、自分が本当の家族のように錯覚していた虚像。懐かしいねえ、と口元を
『私もリリちゃんと同じくらいの時には、よく、お母さんに読んで貰ったものさ。読んでみるかい?』
にっこりと、老婆が笑う。
自分は──リリルカは、「お願いします!」と甘い声を出した。老婆の傍に近寄り、上目遣いで見上げる。
老婆は笑みをさらに深くすると、よく通る声で、朗々と読み始めた。
それは今にして思えば、なんて事ない、よくある
悪戯好きの精霊に魔法を掛けられ、絶世の美女に変身してしまうみすぼらしい灰被りの少女。
淡い夢を見る為王宮に向かった少女は王子に見初められるが、魔法が解けてしまい灰被りに戻り逃げ出してしまう。
だが王子は少女を見つけ出し、そのまま二人は結ばれる。
めでたしめでたし。
ハッピーエンド。
幸せな結末。
そんな、よくある話だった。
あたたかな匂いがする──それが、リリルカが目覚めてから真っ先に思った事だった。
しかしそれは仕方のないことだろう。何せすぐ近くに女神の美しい顔があったのだから。
「こら、ベル君! 君ってやつはまた人様に迷惑を掛けて! 怒られるのはボクなんだぞぅ! むにゃむにゃ……」
そう寝言を漏らす神物、
何故、ここに女神が?
「そうだ、リリは、
フラッシュバックする。
薄暗いダンジョンで、自分は『光』を見たのだ。
そうだ、自分は助けられたのだ。自分の復讐劇に巻き込んではならないと思い突き放したのにも関わらず、結局、助けられてしまった。
しつこいくらいに、愚直なまでに『仲間』だと言ってくる、あの少年に。
「助けられたんですよね……
あれからどれだけの時間が経っているのかは分からない。しかし、目を閉じればその時の光景は思い浮かべられる。
「……」
自分を『仲間』なのだと、あの少年は言ってきた。自分が必要なのだと、一緒に冒険をしたいのだと、あの少年はその
こちらが何度強く拒絶しても少年──ベル・クラネルは手を伸ばしてきた。騙されていたことを知らされた後でも、その意志が変わることはなかったのだ。
向けられたその熱い想いに、リリルカはついに根負けしてしまった。
これはもう認めるしかないと──この人の『仲間』になりたいのだと、共に居たいと、そう思ってしまったのだ。
そんな思いをもう一度抱くだなんて、自分はほとほと、愚か者なのだろう。
だから、リリルカは差し伸べられた手を取った。そして、引き上げられた。
その選択が、今、この
この選択を後悔しない──とは思わない。否、思えない。それはリリルカのこれまでの培ってきた人生観によるものだ。後悔だらけの人生を送ってきた自分は、これからもきっと、後悔し続けるのだろう。
だが、それでも。
それでもこの選択を後悔はしたくないなと、リリルカは思った。
少年のあの笑顔をまた見たいと、思う。
「──こらぁ、待つんだベル君! 今日という今日は逃がさないぞー! ──ハッ、なんだ、夢かぁ……」
ガバッと、ヘスティアが突然起き上がった。夢から覚めた彼女は眠たそうに眼を擦っていたが、リリルカの視線に気が付くと気まずそうに視線を逸らし。
「や、やぁ……おはよう、リリルカ君……」
そう、挨拶をしてきた。
リリルカはそれに挨拶を返そうとして……──何て答えたら良いのだろうと思案してしまう。
ヘスティアは
彼女が
(まずは、謝罪……? それとも──)
そんな考えが堂々巡りしているリリルカ見て、ヘスティアは苦笑いを浮かべた。にっこりと綺麗な笑みを浮かべると、両手を大きく広げてリリルカに身体を近づける。
身体が反応をする、その前に──リリルカはヘスティアによって、優しく抱き締められた。
「っ……!?」
突然の出来事に硬直してしまう。
目を見開くリリルカの頭を撫でながら、ヘスティアは耳元でこう囁いた。
「色々と言いたい事はある。怒りも、悲しみもある。でも、その前に──これまでよく頑張ってきたね、リリルカ君」
「ぁ……」
「本当に、君はこれまでよく頑張ってきたよ」
その、何処までも優しい言葉を聞いて。
リリルカは気付けば、静かに涙を流していた。
誰かの温もりに包まれる事の意味を、リリルカはようやく、知る事が出来た。
ヘスティアは身体をおもむろに離すと、リリルカを真正面から見詰めながらこう言った。
「さあ、まずはあたたかな朝ご飯を食べよう。まずは、そこから。そしてそれから、一緒にこれからの事を考えよう」
その誘いに──コクン、と。
ごく自然と、
「行こう! ボクもお腹がペコペコだ!」
女神はそれを見ると朗らかに笑い、少女の手を取る。
それはまるで、迷子の子供を案内するかのようだった。