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意味:劇場に入って貰う『客入れ』の時に鳴らすブザー音や鐘の事。
ダンジョン、10階層。
正規ルートから外れた
片や、【ロキ・ファミリア】所属──【
もう片や、【フレイヤ・ファミリア】所属──【
どちらも、
その二人が、ダンジョン10階層という比較的『上層』にて相対していた。
「そこを、通して下さい……。その奥に、私の友人が居るんです……!」
最初に口を開けたのは、アイズだった。
この遭遇が偶然ではないと内心で確信しながらも、自分の目的を告げる。
今のアイズにとって、目の前の【
だが──。
「ならん。俺は、止まれと言った筈だ」
オッタルはアイズの言葉を切り捨てた。
錆色の瞳を剣のように細め、アイズを射止める。思わず言葉に詰まるアイズに、オッタルは言った。
「【
アイズは金の瞳を目いっぱい広げ、驚愕の表情を浮かべた。
「何で……!?」
その疑問に、オッタルは答える。
お前は一体何を言っているのだと、至極当然と言った顔で。
「俺達は敵対派閥。ならば、こうなるのは何も可笑しくあるまい」
「そう、かもしれないですけど……!」
納得出来ないと、アイズは言った。
オッタルが所属している【フレイヤ・ファミリア】とアイズ・ヴァレンシュタインが所属している【ロキ・ファミリア】は敵対派閥である。
だが両派閥とも都市最高戦力であり、もし全面戦争なんて事になれば周りへの被害は尋常ではないだろう。文字通り、世界が動く事となる。
緊張は常時あるが、少なくとも、雌雄を決するのは今ではない。
それが両派閥の共通認識だった。
だった筈だ。
「本気、なんですか……!?」
アイズが尋ねる。
オッタルは、それに、抜剣する事で答えた。
「来い、【
「──ッ」
戦闘は【
踏み込みからの袈裟斬り。下級冒険者なら視認すら出来ない神速の一撃。
だがそれを、【
「──温い」
火花が飛び散り、空間を一瞬照らす。
至近距離で両者は瞳を交錯させ、互いの意思を見逃さぬようにする。
【
「そこを、
「
オッタルはアイズの言葉を再度切り捨てると、空いている片手で殴り掛かった。
アイズはそれを、上半身を横に倒す事で避ける。眩い輝きを持つ金髪が宙を舞った。これ以上は危険だと判断し、アイズは一度大きく跳躍。剣の間合いから脱出する。
静寂が
「うおおおおおおおおおおおッッ──!」
『ヴゥアアアアアアアアアアッッ──!』
人間の雄叫びと『怪物』の咆哮。
耳朶を打ったそれに、アイズは顔を歪めた。今こうしている間にも、少年はミノタウロスと戦っている。この
今すぐにでも助けに行きたい。死なせたくない。
『彼』と、話したい事が沢山ある。
だがそれは出来ない。眼前に居るのは『最恐』であるが故に。
「此処を通りたければ、俺を倒す事だ」
それは、あからさまな挑発だった。
「──ッ! 【
詠唱を口にし、アイズ・ヴァレンシュタインは『風』を纏い直す。アイズの激情に呼応してか、『風』は平生よりも荒々しく、『暴風』と言っても差し支えなかった。
だが、オッタルはそれを見ても表情一つすら変えない。大剣を構え直し、待ちの姿勢を取る。
刹那、アイズは地を蹴っていた。先程の比ではない速度で剣の間合いに入る。
「ああああああああああッッ!」
連続攻撃。
一撃一撃が途轍もない破壊力を持つ斬撃を、アイズは行う。
直撃すればオッタルとて無傷ではいられない攻撃。
その全てを、オッタルは大剣で迎え撃った。真正面から受け止める。
そして、武人は呟いた。称賛を僅かに込めて。
「そうか──新たな高みに至ったか、【
それは紛れもなく、【
『器』を昇華させ、昇格を果たした『英雄候補』を、【
「だが、足りん。まだ温い」
「……ッ!」
圧倒的な経験値の差。
それこそが、【
「それなら──!」
【
『暴風』をさらに強くし、剣に纏わす。それは
そして、【
「──リル・ラファーガ!」
それは言うなれば、風の閃光。
超大型、若しくは、階層主専用の神風が一直線に突き進む。
全身の筋肉を隆起させ、それまで片手で扱っていた大剣、その柄を両手で強く握り締める。
そして、大上段から勢いよく大剣を振り下ろした。
「ああああああああああああ──ッッッ!」
「オオオオオオオオオオオオ──ッッッ!」
神風と剛閃。
【
そして、爆音が巻き起こった。
全身を殴り付ける衝撃波。一瞬後、両者は反動で後方に吹き飛ぶ。
攻撃の相殺が発生した。
「……嘘」
尻餅をついたアイズが、呆然と呟く。
相手を殺さぬよう無意識の手加減をしていたとはいえ、今の一撃──『リル・ラファーガ』は紛れもなくアイズ・ヴァレンシュタインの『切り札』である。喰らえばひとたまりもない。
そうだと言うのに。
オッタルは立っていた。超然と佇み、纏っている覇気は微塵も衰えていない。
『最恐』の武人は純粋な『力』のみで、アイズ・ヴァレンシュタインの必殺を防いでみせたのだ。
「見事だ、【
オッタルが、心からの称賛の言葉をアイズへ送る。
武人の身体には幾つもの裂傷が出来ていた。纏っていた防具は壊れ、破損してしまっている。大剣は刀身が折れ、事前に置いていたのであろう、オッタルは壁に立て掛けていた
そして、最初の位置──
どうする、とアイズの中で焦りが募っていく。アイズの切り札を以てしても、オッタルを抜ける事は出来なかった。
敵対派閥云々はただの建前である事など、アイズはとうに分かっていた。理由は不明だが──オッタルは本気で、アイズを少年の元へ行かせまいとしている。
「どうして……貴方は……」
地面から立ち上がり、アイズは尋ねた。答えが返ってくる事はないだろうと予想しながら。
だが、その問いに、オッタルは答えた。
「【
「……」
アイズは押し黙り、オッタルの言葉を肯定した。
アイズとて、分かっている。分かっているのだ。
聞こえてくる雄叫びは決して絶えず、無くなる気配は全く感じられない。
「まさか俺達が、それを否定する訳にはいかんだろう」
それはオッタルなりの、諭しだったのかもしれない。
あまりにも言葉足らずだったそれは、しかし、事実だった。
「……」
だがそうだとしても、アイズは。
アイズ・ヴァレンシュタインは。
或いは、『彼女』は。
それを認める訳には行かなかった。
「そうだとしても……! 私は、あの子の所に行く!」
「……そうか。ならば、言葉を交えるのはこれで終わりだ。何度も言おう。此処を通りたければ、俺を倒す事だ」
そう言うと、【
【
そして、緊迫した空気が爆発を迎えようとした──その時。
「アイズ、やっと追い付いた──―って、何で此処に【
驚愕の声と共に現れたのは、
アイズの横に並び、「どういう事!?」と説明を求める。
「えっと……──ッ!?」
状況を説明しようとしたアイズだったが、それは出来なかった。
そんな暇は与えないと言わんばかりに、オッタルが攻撃した為だ。
それをアイズは、何とか長剣で受け止める。
激しい剣戟を繰り広げる二人を見て、ティオナは状況がさっぱり分からないと首を傾げた。
だが、それは一瞬。表情を変えると、戦闘領域に躊躇いなく入った。
「【
「あっ、【
眉間に皺を寄せるオッタルを見て、ティオナが心底不服だと言う。その思いを乗せ、自身の得物である超大型近接武器を振り回す。
ティオナの参戦により、戦況は変わりつつあった。
さしもの【
だが、それでも【
「やっぱり、強い!?」
後方に吹き飛ばされ、壁に直撃したティオナが「痛てててて」と言いながら、自身の得物を杖にしながら立ち上がろうとする。
だがそれよりも、オッタルの方が早かった。アイズをティオナの逆方向に追いやり、身体を反転。此処で仕留めるとティオナに迫り、大剣を上段から振り下ろす。
「ティオナ!?」
アイズの悲鳴が
だが、ティオナが斬られる事はなかった。二人の間に割り込んできた一人の獣人の蹴りによって、受け止められていたのだ。
「一旦下がれ!」
「……ッ、ありがとう、ベート!」
お礼を言い、ティオナは両足に力を入れて戦闘領域から離脱した。安全圏まで後退し、
仕留め損なった
「【
「おい、この猪野郎。
その返答は簡潔だった。
大剣の一閃。
ベートは顔の刺青を歪めると、それを大きく回避。後方のティオナ、そしてアイズの下まで下がり合流しようとするも、猛追撃がベートに迫る。
「させないわよ!?」
だがその寸前で、高速で飛来してきた
「ティオネ!」
アイズが、参戦してきた
土煙が巻き起こり、それは
そして土煙が晴れた時、【
だが、静寂が訪れる事はない。
「うぁあああああああああ!」
『ヴォオオオオオオオオオ!』
奥の
ティオナ、ティオネ、そしてベートがピクリと反応を示し、顔付きをさらに険しくさせた。
そして、ティオネがアイズに小声で言う。
「此処に来るまでの途中、あの子の仲間を名乗る女の子を保護したわ。女の子も、その女の子が必死に守っていた二人の負傷者も無事よ」
その言葉を聞いて、アイズはホッと安堵の息を吐いた。
「……良かった」
「今は団長と
「うん」
ティオネの問いに、アイズは頷いた。
「そう……」と言ったティオネはキッと
「四対一とはいえ、相手はあの【
その質問に、二人は即答した。
「決まってる。押し通る!」
「当たり前の事を聞くんじゃねえよ」
その頼もしい返答に、ティオネはにやりと口角を上げた。
そして、アイズに囁く。
「私達が絶対に隙を作る。アイズ、あんたは先にあの子の所に行きなさい」
「……分かった。その、ごめん……」
アイズは金の瞳を伏せ、謝罪した。
仲間達の強さを疑う訳ではないが、ティオネが言った通り、相手はあの【
だが、そのアイズの謝罪をティオナは受け取らなかった。
「こういう時はね、アイズ! 『ありがとう』って言って欲しいな!」
「……うん。ありがとう、皆!」
「どういたしましてっ!」
ティオナは笑顔を浮かべると、アイズのお礼を受け取った。そして、
「行っくよー!」
威勢よく飛び出した。
弓から放たれる矢のように飛んでいく
「おいこら、このバカゾネス共!?」
それに本当の罵声を出したのは、ベートだった。
「チッ」と舌を打った
「【
「……はい」
「それは何故だ?」
理由を問われ、アイズは戸惑った。
超実力主義を掲げるこの
だがそれを加味しても、今のベートは、アイズの知っているベート・ローガではないように感じられた。
「フィンもお前も、あの只人に随分と拘っている。それは何故だ?」
「何故って……」
「俺には──
普段の粗暴な口調からは考えられない、落ち着いた口調。一人称も変わっている。纏っている雰囲気も、違う。
別人なのではないかと、アイズがそれに混乱する中、
会話する時間的余裕は、ない。だがベート・ローガは話を続けた。
「お前はあの只人に、何を望んでいる?」
その静かな問い掛けに、アイズは。
【
或いは、ただのアイズ・ヴァレンシュタインは。
また或いは、『彼女』は。
「……」
すぐに答える事が出来なかった。
呆然とするアイズを見ても、しかし、ベート・ローガは責めなかった。
琥珀色の瞳を細め、ただ前を見据え、言う。それは彼なりの助言だった。
「この先にあるのは、何人たりとも立ち入る事が赦されない『舞台』だろう。そして私達は、ただの『観客』でしかなく、『舞台』が終わるまで観るしかない」
「……」
「お前がそこに行こうとするのなら、自分の立場と、何を本当にしたいのかを今一度考え直す事だ」
「……ベート、さん。貴方は……」
「──私が奴の姿勢を崩す」
「……っ」
「私から言えるのはこれだけだ」
そう言うと、
「おっそーい!?」
ティオナが文句を言う中、ベートはそれを無視した。獰猛な【
「よぅ、猪野郎。俺達にその座を明け渡す準備は良いか、あぁ!?」
その挑発に、【
【
そこに【
だが、三人の猛攻撃を受けて尚、【
だが、数的不利なのには変わりない。さしものオッタルも、全ての攻撃を捌くのは不可能だった。
そして、アイズ達の目的は撃破ではない。
「──仕掛けるぞ!」
僅かに姿勢を後ろへ揺らした【
仲間の
刹那、【ロキ・ファミリア】の冒険者達は打って出た。
「喰らえーッ!」
「喰らいなさいッ!」
【
「ぬぅ……!?」
初めて、【猛者】が苦し紛れの声を出した。
絶対防御に綻びが生まれる。
「喰らいやがれえええええええ!」
【
そしてその一撃は、【
「今だよ! 今しかない! 行って! アイズ!」
ティオナがそう言った時には、アイズは駆け出していた。
「ありがとう!」
仲間達に礼を言いながら、長方形の
──アイズ・ヴァレンシュタインが
瓦礫の山を粉砕し現れるは、【
己が守護していた通路口を見、金髪金眼の剣士を追い掛けようと試みる。
「そうはさせないわよ」
だが【
立場が逆転したのだと、オッタルは悟った。
「──やれやれ、これは困ったな」
緊張に満ちた
「フィン……!」
「やぁ、オッタル。こうして君と、ダンジョンの中で会うのは随分と久し振りだね」
オッタルが頬を歪めると、フィンは旧来の共に再会したかのように、にこやかな笑みを浮かべた。
その背後には絶世の美貌を持つ
「それでオッタル、どうする?」
その質問の意味を、オッタルは正しく理解し──構えていた大剣を静かに下ろし、そのまま納刀した。
「各員に告ぐ。武器を下ろすんだ」
「で、ですが団長!? コイツは──」
「二度は言わないよ、ティオネ」
「────失礼、しました」
ティオネは己の非礼を言うと、
「ありがとう。済まないね、皆」
フィンはそう言うと、「さて」とオッタルに近付いた。
「此処を通して貰っても良いかな、オッタル?」
「……好きにするが良い」
「ありがとう。それなら、遠慮なく。──ティオナ、先に行ってて良いよ。君も彼の事が気になるだろう」
「うん!」とフィンの声掛けにティオナが返事する。そして駆け出そうと……したが、その直前に身体を反転。フィンの後ろにいる少女の所に行き、膝を屈伸させて目線を合わせた。
「ねっ、君!」
「な、何でしょう……?」
戸惑う少女に、ティオナは言った。
「君、ベルのサポーターだよね。リリルカちゃんでしょ?」
「それは、そうですが……。その、どうして私がリリルカ・アーデだと分かったのですか?」
「……? だって私達、一度会ってるじゃん!」
何を言っているの? とティオナは首を傾げる。
それに対し、少女──リリルカ・アーデは驚愕の表情を浮かべた。確かに数日前、二人はダンジョンの中で会話をしている。だがその時のリリルカは自身の変身魔法【シンダー・エラ】により、
そのリリルカを、ティオナは何て事のないようにあっさりと見破ったのだ。これが第一級冒険者なのかとリリルカが戦慄する中、彼女の内心を知る由もないアマゾネスの少女は「リリルカちゃん」と再度声を掛けた。
「あたしと一緒に行こう! その方が早いよ!」
言いながら、ティオナは手を差し伸べた。
そして、リリルカはその手を迷う事無く強く摑む。
「お願いします! どうかリリを、あの人の所へ!」
「うんっ! それじゃあ──行っくよー!」
ティオナは笑顔でリリルカの小さな身体を引き上げた。
「えっ」
素で声を出すリリルカは、ふわりと宙を舞い。そのまま地面へ落下する。
視界が揺れるリリルカだったが、地面とぶつかる事はなかった。
ティオナがリリルカの身体を俵担ぎの要領で、ギシッと固定していた為だ。
これは何か既視感があるような具体的には先程何処ぞの女剣士にお姫様抱っこをされたがと困惑リリルカだったが、この場にもう一人居るアマゾネスと目が合った。
「あー……
「えっ」とリリルカが反射的に聞き返した時には遅かった。
「レッツ、ゴー!」
「きゃああああああああああああ!?」
ダンジョンに響く悲鳴。
通路口に消えたティオナとリリルカの二人を、ティオネはこめかみを押さえながら見送った。
「ティオネとベートも先に行ってて構わないよ」
フィンの声掛けに、しかし、
「いえ、私は団長と一緒に居たいので」
「勘違いすんな。俺は雑魚に興味ねえ。アイズとあのバカが居れば向こうは良いだろうが」
「それに」とベートは
「この猪野郎がいつまた動くか分かんねえからな」
「……俺にはもう、お前達と敵対する意思はない」
「ハッ、その言葉を信じるのは頭がお花畑で出来ている奴だけだろうよ」
オッタルの言葉を、ベートは鼻で笑った。
そこで、
「【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナが【フレイヤ・ファミリア】団長、オッタルに問う。何故僕達と、この時間、この場所で矛を交えた?」
「何故とは面白い事を言う。敵を討つ事に、時と場所を選ぶ道理はない。違うか」
「尤もだ。それでは、重ねて問おう」
フィン・ディムナは碧眼を細めて、己の倍以上の身体を持つ武人を見上げた。臆する事なく、堂々と。体格差などただのハリボテだと告げるその姿は、正に、
「今回のこれは、派閥の総意──ひいては、君の主の神意と捉えて良いのだろうか? 女神フレイヤは、僕達【ロキ・ファミリア】と全面戦争を望んでいるのだろうか?」
「……」
「もしそうであるのなら、僕は
オッタルの顔付きが険しくなる。
ベートとティオネも息を呑む中、唯一、
「だが──」
重苦しい沈黙の中、
「もしこれが僕の勘違いであるのなら。僕はこの勘違いを悪戯好きの主神にバレないよう振る舞うだろう」
そこに、リヴェリアが喉奥で静かに笑いながら乗っかる。
「何て言うつもりだ、フィン?」
「そうだね──『猪かと思ったら牛頭人身の怪物だった! 靄の所為で見間違えてしまった!』なんて、どうかな」
「傑作だな、それは。あの女神も腹を抱えて笑うに違いない」
「そうだろう? 最近出来た愉快な友人を真似てみたのさ」
笑い合う
二人のやり取りをティオネが羨ましそうにしている中、ベートは放っていた戦意を完全に霧散させた。
そして、笑いを収めたフィンが「さて、返答は?」と改めて尋ねた。
そして、先に視線を逸らしたのは
「……俺の独断だ。勘違いをさせたのなら、謝罪しよう。俺は元々、口が達者ではないからな。俺に非があるようだ」
「それはよく知ってるよ。何せ、僕達は『腐れ縁』だからね」
「……生意気な
オッタルは少しだけ口元を緩めると、静かに歩き出した。想い人を馬鹿にされたと思ったティオネが鬼の形相と化す中、それを無視し、フィンの横を素通りする。
「お前達が徒党を組む以上、俺に勝ち目はない」
「そう言って貰えると助かるよ」
フィンが苦笑を返す。
それ以上言葉を交わす事はなく、斯くして、【ロキ・ファミリア】と【
背後で宿敵達が動いたのを、オッタルは感知する。
そして、らしくなく、
「申し訳ございません、フレイヤ様」
謝罪相手は、自らが仕えている美神。
己の力不足をオッタルは恥じ、敬愛している主神からの神命を完全に果たす事が出来なかった己自身に怒りを抱いていた。
「フレイヤ様……今も、ご覧になられているのでしょう。
──ええ、もちろんよ。オッタル。貴方はよくやってくれたわ。
オッタルはフレイヤが微笑を携えながら答えたのを、確かに聴いた。
そして、オッタルの耳は拾う。
雄と雄の魂の咆哮を。雄叫びを。勝利を摑み取らんとする、勝者でもなければ敗者でもない、まだ何者でもない者達の産声を。
「覚悟は見た。そして、『泥』を与えた」
「ならば」とオッタルは続ける。
それは、激励。
それは、冒険者の『頂天』たる【
「次にやるべき事は決まっている。お前が本当に俺のもとに来ようとするのなら、この戦い、乗り越えてみせろ。さすれば、俺達の道は再び交わるだろう」
そして最後に、オッタルは言った。
「──『冒険』を。『英雄』ならば、『冒険者』ならば『冒険』をするが良い。これは、お前が刻む物語だ。誰にも譲らず、自分の物だと声高に主張し、前に進む事だけを考えろ」
次話予告──『2ベル』。