壁から、天井から、至る所から
つまり──
人類が子供から大人へと発達と成長、そして老人へと老化を辿る一方で、彼等にはそれがない。
モンスターは産まれた瞬間からモンスターであり、生物として
再度述べるが、ダンジョンはモンスターの『
だがしかし、これ以上のことは何も分かっていない。
広大な地下世界が
ダンジョンへの疑問は絶えない。
何故、何故、何故──? 多くの学者達が日々議論しているが、真相には至っていない。
全知全能である筈の神々は、子供達に何も教えない。意図して隠しているのか、それとも、彼等でさえ知らないということなのか。
とある
『未知』に挑み続ける冒険者の究極的な使命。
それこそが、ダンジョンの謎を解明することであり、最終到達点であると言われている。
「ぜえ……ぜぇ……」
一人の少年が、肩で息をしていた。
そして
──冒険者ベル・クラネルは
彼の担当アドバイザーは「足に自信があるなら短剣の方が良いんじゃない?」と以前
「やはり
つい今しがた倒したモンスター──『ゴブリン』の『魔石』を回収しながら、ベルは深々とため息を吐く。
ベル・クラネルが冒険者活動を始めて、二週間と少し。彼は最近、
──
文字通り、
そしてダンジョンでは、
単純に、
仲間が居れば連携が出来るが、
ましてや、ダンジョンは
「せめて私以外にも眷族が居れば……」
しかし、パーティを組むことが難しい冒険者が居るのも事実だ。
ベルが所属している【ヘスティア・ファミリア】のような新興したての派閥は構成員が少ない。つまり、パーティを組む仲間そのものが居ないのだ。
とはいえ、
だがこれも難しく、そもそも【ファミリア】という組織は内の結束は強くとも、外との繋がりが全然ないのだ。両派閥の
ましてやベル・クラネルはLv.1の駆け出し。ようするに、
「
ベルが酒場──『豊穣の女主人』を利用してから、一日が経過していた。
そしてつい
「せめてもう少し下の階層に行けたら……」
現在、ベルが探索している階層は1階層である。
薄青色に染まった天井に壁。曲がり角、十字路、登り坂、下り坂等、一定間隔で道が形づけられており、太陽の陽が射さないのにも関わらず、内部は明るい。
『シャアッ!』
「……! 来たか!」
『グシャアアアアッ!』
一匹のモンスター──『ゴブリン』が雄叫びを上げながらベルに襲い掛かる。
考え事をしていたベルは判断が僅かに遅れたが、慌てることなく、
ある程度腕が立つ冒険者がこの場に居たら、そしてベル・クラネルが駆け出しだということを知っていたら、その人物は
それはとてもではないが、
瞬時に於ける意識の
「……ふっ!」
ゴブリンの一撃をベルは余裕をもって避けた。
武器での
『……グビャ!?』
自身の必殺技が軽々と対処されたことにゴブリンは驚愕する。そしてそれは純然たる怒りに変貌し、口から
「今度は私の番だ!」
その宣誓と共に、ベルは
背中に刻まれた『
ゴブリンが『……ッ!?』と目を見張った時には、既にベルは彼に肉薄していた。
「うおおおおおお!」
叫びながら直剣を閃かせた。
銀色の軌跡が走り、それはゴブリンの首を切断する。どす黒い血が宙を舞い、地面に落ちた。
この
彼の存在を証明するのは、小さな
それを確認してようやく、ベルは肺に溜めていた二酸化炭素をゆっくりと吐き出した。
「ふぅー……勝てた!」
いよっし! とガッツポーズを作る。そして勝利を喜んだ。
他の冒険者が居たら指をさしてベルを笑うだろう。
何せゴブリンは数多くいる
そのような小物相手に一喜一憂しているベルは笑い物の対象だ。
しかしベルは喜んだ。どこまでも無邪気に喜んだ。
「ははは! まさかこの私が、ゴブリンを真正面から倒せる日が来ようとはな。いやはや、『
先天的に『魔法』を使えるエルフや五感が優れている獣人、力が強いドワーフ等、限定された種族なら魔物と戦うことが出来る。
しかし、それ以外の種族は違う。彼等は『古代』に於いて、魔物の進撃に逃げることしか出来なかった。
ところが、神々の到来によりそれは変わった。
『
「もっと大きければ苦労しないのだがなぁ……」
『魔石』を回収しながら、ベルは忌々しそうにボヤいた。
ベルが先程の戦闘の際、モンスターの弱点である『魔石』を狙わなかったのは、『魔石』の単価を少しでも上げる為だ。
『魔石』が大きければ大きい程、管理機関での換金率は上昇する。
個体によって変わるが、ゴブリンやコボルトから取れる『魔石』は指先程の大きさしかない。
少しでも稼ぎを増やす為、ベルは
「仕方がない……次層に行くか。2階層だったらエイナ嬢も怒らないだろう」
本音はもう2階層程下に潜りたいのだが、ベルは担当アドバイザーに怒られるのを忌避した。
たとえ第一級冒険者が相手であろうとも、ベルの担当──エイナ・チュールは退かないだろう。それはひとえに、冒険者を死なせない為だ。
「確か……正規ルートはこっちか」
T路地を右に曲がり、ベルは広大な面積を誇る1階層を迷うことなく攻略していく。
エイナが主催している『勉強会』によって、『上層』の構造を完全に網羅しているおかげだ。
ダンジョンを攻略するに当たり、ダンジョンの構造を理解することはとても大事だ。もし、逃走の末に行き止まりがあったら、それは死に直結している。また、自分が何処に居るのか分からなければ延々と
戦闘とはまた違った種類の、
「あー……だりぃ! まだ1階層かよー!」
「文句言うなって。ほら、あと少しの辛抱だ!」
「早く酒飲みてぇー!」
「ったく、お前はいっつもそればかりだな」
2階層に通じる階段をベルが降りていると、五人組のパーティとすれ違った。
探索を終えたのか、早く地上に戻りたいと愚痴を言いながらも、彼等の顔には笑みがあった。
「……?」
だが、そこでベルは自身の勘違いを悟った。
パーティメンバーは五人ではなかったのだ。
彼等の三歩ほど後ろを、一人の
(
他の五人が立派な装備を纏っているのに対して、彼だけが貧弱な装備だった。現在のベルの
そして彼だけが、重たいナップサックを背負っていた。装備の
「ま、待ってくれ……」
話に夢中になっていて聞こえなかったのか、それとも、敢えて無視をしているのか。
どちらにせよ、彼の懇願は届かなかった。
「……俺は、俺はどうして……くそっ……!」
それは様々な感情が複雑に絡まった嘆きだった。
彼はよろよろと足取りが覚束なくなりながらも、置いていかれないようにと歯を食いしばって追った。
──サポーター。
冒険者でありながら、冒険者でない。直接的な戦闘はせず、支援を主な仕事とする
ある冒険者は言う。『
ある冒険者は言う。『
先に述べた通り、神々が授ける『恩恵』によって、人類は
互角以上に戦える、その可能性を得た。
そう──あくまでも『可能性』である。
つまるところ、『
──
サポーターはその典型的な例だ。彼等には才能がなく、最弱モンスターであるゴブリンやコボルトであろうとも、一戦一戦が命懸けとなる。
力がない者、『資格』がない者が辿る末路だ。
また、たとえ『
そんなサポーターへの評価は両極端だが、殆どは蔑視の対象となっていた。
(ああ……くそ、嫌になる)
一団と充分に距離が出来たところで、ベル・クラネルは静かに怒った。
だがそれが『偽善』であると彼は自覚している。深呼吸し、頭を冷やす。
(落ち着け……私に出来ることは何もない。これは彼等の問題だ。他所の派閥の指針に首を突っ込んでは駄目だ。ヘスティアに迷惑を掛けてしまう)
だが──と、ベルは再度思った。
(ああ……不愉快だ……)
そんな時だった。
『『グビャビャビャ!』』
二匹のコボルトが壁から産まれ出た。ぱちくりと瞬きしながら、視界を慣らしていく。
近くに居るこいつは同族だと本能が理解していた為、共食いすることはなかった。
彼等は何処かに餌が落ちてないかと辺りを見渡し、発見した。
『『グビャ……? グビャアアアア!』』
彼等は獲物を見付けると、自分が先に喰らうと主張しながら、嬉々としてベルに襲い掛かる。
だが、それは悪手の悪手だった。
「……」
ベルは無言で抜刀した。そして。
──一閃。
心臓部である『魔石』に、深々と傷が刻まれる。致命傷だった。
コボルト達は呆気なく絶命した。断末魔を上げる暇もなく、短い生を閉ざしたのだ。
「冒険者には全員が全員、憧れてなるものではない。
様々な種族が己の野望を抱いてこの地を訪れる。
だが、全ての人間がそうではない。
また、人々はオラリオの『光』ばかり見ているが、都市東部には
『世界の中心』と言われていようとも、多くの国、街、村と同じように、『光』と『闇』どちらも内包している。
「……
ベル・クラネルには
「ん……?」
砕け散っている『魔石』を集めようと
それは『ドロップアイテム』と呼ばれる物だった。
基本的に、倒されたモンスターは『魔石』しか
「どうやら今日の私には運があるらしい。まさか二個もゲット出来るとは!」
コボルトのドロップアイテムは『コボルトの爪』だ。
ベルは上機嫌で鼻歌を歌いながら『魔石』と『コボルトの爪』を回収した。
ドロップアイテムもまた、『魔石』と同様に、
その後もベルは自分のペースで探索を続けて行った。ゴブリンやコボルトと遭遇しては剣を振るい、一刀のもとに斬り伏せる。
「──現在時刻は……もうこんな時間か」
腕時計は夕刻を指していた。
ベルは思案してから、来た道を戻っていく。今日は
それから幸運にも、ベルはモンスターと遭遇することはなかった。三十分後には『始まりの道』の
『冒険者通り』を早足で通り、荘厳な大神殿を目指していると、見知った顔の女性とベルは偶然にも出会った。
「こんにちは、クラネル様」
「……? おお、アミッド女医! 久し振りだな!」
挨拶をされ、ベルは笑顔で再会を喜ぶ。そんなベルにアミッドと呼ばれた女性は微かに表情を崩した。
彼女はアミッド・テアサナーレ。医療と製薬の派閥【ディアンケヒト・ファミリア】に所属している。神々から授けられた二つ名は【
「相も変わらず、アミッド
会って早々ベルがそう言うものだから、アミッドは困ったように長い睫毛を震わせた。
アミッドは事実、美少女であった。
そんなアミッドとベルは
道端に移動したところで、アミッドが尋ねる。
「クラネル様──失礼しました。ベルさんはダンジョンからのお帰りでしょうか?」
職業柄、アミッドは物腰柔らかで丁寧な口調で話す。余程のことがない限り名前で呼ばず、
しかし今は友人との雑談ということで、アミッドは少しだけ砕けた口調にした。
それを知っているベルだから、先程の『クラネル様』には何も反応しなかったが、だがしかし、美しい
頬を緩めながら、ベルはアミッドの尋ねに頷く。
「ああ、そうだ!」
「随分とお早いお帰りですね。以前会った時はもっと遅かった筈ですが……」
「……凄いな。そんな昔のことを覚えているのか」
ベルがアミッドと最後に会ったのは五日前である。
月日の経過とともに記憶というのは朧気になるものだが、彼女はしっかりと覚えていた。
ベルの感嘆をアミッドは誇ることもせず。
「職業柄、記憶力には自信があります。薬の調合方法や疾病の症状などを完全に覚えなければいけませんから」
その言葉を聞いてベルは益々感心した。
無邪気に送られてくる尊敬の眼差しにアミッドは微かに身動ぎしてから「こほん」と咳払いをする。
「……話を戻しましょう。何かお怪我でもされたのですか?」
尋ねながら、アミッドはベルを観察する。
その顔は
「……どうやら、外傷は何もないようですね」
「怪我は一つもない。モンスターからは一撃も食らわなかったからな」
「そうでしたか。『逃げ足』に自信があるというのは本当だったのですね」
「あはは……まぁな。実はこの後
「……まあ、そうでしたか。申し訳ございません、私の勘違いで時間を無為に取らせてしまいました」
そう言って、アミッドは深々と頭を下げた。
道の往来で
これにはベルも苦笑いを浮かべるしかない。片頬を右手で掻きながら、
「どうか頭を上げて欲しい。貴女のような美人にそのような行いをさせては
「しかし……いえ、承知しました」
アミッドは微かに頬を赤らめながらも頭を上げた。
「貴女が謝罪することは何もない。私のことを心配してくれたのだろう? なら、私が貴女に感謝することこそあれ、怒りを抱くようなことはしないとも」
それに時間は充分に余裕があるから気にしないで欲しい、とベルは笑い掛けた。
アミッドも「ありがとうございます」と言い、笑みを零す。
「アミッド女医は何か用事でもあるのか?」
「ええ、市場に行くところです」
「ほう……調合に使う素材集めか?」
「はい。とはいえ、今日はあくまでも下見ですが……」
それから二人は立ち話を楽しんだ。
ベルはアミッドから製薬について尋ね──【ファミリア】の機密情報はもちろん聞いていない──アミッドはベルの冒険者活動について尋ねる。
「そういえば、ベルさんは知っていますか?」
「……? 何をだ?」
「先日、ミノタウロスが『上層』に出現したそうです。そのような噂が一部の冒険者の間に広まっています」
「……具体的にはどのようなものだ?」
「【ロキ・ファミリア】が『中層』でミノタウロスの群れを『上層』まで逃がしてしまったと。近いうちに
「……そうか。そのような噂が…………」
一瞬、ベルの表情が強張ったのをアミッドは見逃さなかった。銀色の視線が
「私の推測が間違っていたら申し訳ございません。それでも私は確認せずにはいられません。ベルさん、もしかしたら貴方は──」
「いいや、何もなかったとも」
「……!」
ベル・クラネルが話し手の言葉を遮ることはごく稀だ。
アミッドは表情を崩したが、すぐに元に戻した。そして自分は関与してはならないことを悟る。
「……これだけはどうか言わせて下さい。くれぐれも無理は
「ああ、元々そのつもりだ。私の担当アドバイザーからも耳にタコが出来るくらい言い聞かされている。『冒険者は冒険をしてはならない』とな」
「私も同意見です。冒険者の方々が『未知』に挑むことは承知していますが……
「
自虐する彼女にベルは不思議そうに尋ねた。
「誰もが傷付かないことを願うことの何が悪いんだ?」
「ですが……
「なるほど……確かに主神の方針というものは大事なものだ。本当……【
「ベルさん……?」
アミッドが怪訝な声を上げる。
ベルは
「
「……嘗ての時代に比べれば、今世は平和なのでしょう」
「ああ、そうだろう。だがしかし、今尚、
「……停滞、ですか。確かに長年に渡って未到達階層は更新されておりませんが……しかし、人類は前進している筈です。より高度な文明を私達は
停滞という言葉は不適切では? とアミッドが指摘する。ところが、ベルは彼女の言葉に頷きを返しつつもこう言った。
「アミッド女医、知っているか? 現代に於いての国家間戦争での
「無論、存じております。
「その通りだ。そして私は、これこそが停滞だと考える」
「……と、仰いますと?」
「──『
その末路が
才能がない彼等は戦闘そのものに対する才能がない。つまり、【ステイタス】が微塵も上昇しない。純粋な支援員が『
「だがしかし、敢えて、私は言いたい。『質』と『量』どちらも満たさなければならない、と」
「それは……」
アミッドは言い淀んだ。
ベルの言いたいことは分かる。
分かるが、彼女は彼の考えを『否』とした。
「現実問題として、それは不可能でしょう。大変申し上げにくいですが……ベルさんを含め、殆どの冒険者は未だにLv.1。神々に認められる程の『偉業』を為した者はそれ程多くありません」
「……そうだな。私も荒唐無稽な話をしている自覚はある。上級冒険者を増やすのは難しい。神々に認められる程の『偉業』……その難易度はとてつもなく高い。ならば必然、『量より質』──絶対的な『個』の力が有力視されてしまうのは避けられない」
だが──と、ベルは自身の危惧を口にする。
それは彼が
そしてこれをベル・クラネルが誰かに話すのは、アミッド・テアサナーレが初めてである。
「もし、『世界の中心』と言われている
その質問にアミッドは答えることが出来なかった。
必死に考えるが、正解は見付からない。そんな彼女に、ベルは張っていた表情を緩め、微笑みを携えて言った。
「私も貴女と同じだ。出来ることならば、誰もが笑顔でいて欲しい。誰も傷付かない世界になったら、それはどんなに良い世界になるのだろう」
アミッドはベルの言葉を真剣に聞いていた。
アミッド・テアサナーレは個人的な付き合いという観点なら、現時点では、
彼等は夕餉を共にしたこともあるし、この前会った時は彼に
そして聡明な彼女は、出会った
アミッドの記憶違いでなければ、目の前の少年は未だ齢十四だ。この歳の子供は外で友人達と遊んでいても不思議ではない。もちろん、事情があって冒険者登録をする人間は星の数ほど居るが……つい一ヶ月前だ。ベルが
地図にも載っていない小さな村でベルは祖父と暮らしていたという。
(やはり、『大人びている』と一言で片付けるには無理が……)
普段は歳相応の子供だ。燥ぎ、騒ぎ、そして笑う。
だが時折、ベル・クラネルは纏っている雰囲気を一変させることがある。──正しく、今のように。
子供の背伸び? いいや、断じて違う。
(普段の振る舞いは演じているもの……?)
思考の大海に深く意識が潜り掛けた──その時だった。
「すまない、話が随分と肥大化してしまった」
「いえ……とても実りのある話をすることが出来ましたから、寧ろ感謝します」
「なら良かった」
ベルはさらに言葉を続け。
「アミッド女医のその
「美しい、ですか……?」
戸惑いを見せる彼女に、ベルは「ああ!」と力強く頷いた。彼女の銀の双眸を見詰める。
「私は貴女を尊敬する。貴女のような
「なっ……!?」
「だから、これは私の身勝手な願いだ。どうか、その
アミッドはただただ狼狽えた。
ベルが「すまない、そろそろギルド本部に行かなくては」と別れを切り出し、彼を見送るまで、彼女は呆然としていた。
「困りましたね……」
自身の片頬に手を当てながら、アミッドは呟いた。
彼女が精緻な人形と言われている最大の所以は、彼女の美貌だけではない。彼女は表情を全く崩さないのだ。もちろん、友人と会えば笑うし、あまりないが、怒りをあらわにすることもある。
だがしかし、普段は常に真顔だ。それは
本人の性質以上に、アミッド・テアサナーレは感情労働に
ところが、今の彼女は誰の目から見ても分かるくらいに動揺し、感情を表出していた。
「私ももう、行かなければ……」
アミッドは深呼吸してから、ベルとは真逆の方向に身体を向けた。
目指す先は市場だ。すっかりと習慣になっている行動をすれば、この、気持ちが良い鼓動もじきに収まると信じて、彼女は北西のメインストリートをあとにした。