さあ──『喜劇』を始めよう!   作:Sakiru

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今後の方針

「おい、お前が【未完の英雄(リトル・ルーキー)】か!?」

 

「如何にも! この美男子、ベル・クラネルこそが【未完の英雄(リトル・ルーキー)】だ! 猛牛殺しを成し遂げ、【ランクアップ】を果たした!」

 

「お、おぅ……美男子かどうかはさておいて、本当にあのミノタウロスを倒したのか!?」

 

「如何にも! 仲間と力を合わせ、死闘を演じ、倒してみせたとも! ドヤァ」

 

 迷宮都市(ダンジョンとし)オラリオ、北西のメインストリート──通称、『冒険者通り』。その一角。

 一人の白髪紅眼の少年が、注目を集めていた。少年が目抜き通りに立つや否や、声が掛けられる。

 

「どうやってミノタウロスを倒したの!?」

 

「フフッ。お嬢さん、それは企業秘密サ!」

 

「えぇ〜、教えてよ〜!」

 

 その少年──ベル・クラネルは誰の目から見ても分かる程に調子に乗っていた。

 顔はだらしなく緩み切っており、「エヘエヘ」と奇妙な笑い声を上げている。

 周囲の冒険者達はそれに引きながら、しかし、好奇心に満ち溢れた目で【未完の英雄(リトル・ルーキー)】を見ていた。

 

「【ランクアップ】したって事は、『中層』に行くんだよな!?」

 

「ああ、そうだとも! 近日中に向かう予定だ! ドヤドヤァ!」

 

「マジかよ、すげぇ! 俺なんて、何年も冒険者やってるのにまだLv.1だっつぅのに……」

 

 落ち込むヒューマンに、ベルは声を掛けた。

 

「落ち込む事はない! 貴方の頑張りは、他の人がきちんと見ているさ! 腐る事なく努力を重ねれば、きっと報われる!」

 

「本当か!?」

 

 肩を組み、ベルはヒューマンの冒険者と笑い合った。

 

 ──雄牛(ミノタウロス)、討伐。そして世界最速記録(ワールドレコード)の更新──それを成し遂げた冒険者の真名は、ベル・クラネル。

 

 それは瞬く間に、迷宮都市(オラリオ)中に広がった。

 まず神会(デナトゥス)に参加した神々が口伝し、そこに管理機関(ギルド)の正式な発表が加わった事により噂は確定した真実の情報となったのである。

 新たな『英雄候補』の誕生を、民衆は歓迎した。

 ベル・クラネル──【未完の英雄(リトル・ルーキー)】。

 人類の『悲願』を果たす存在とならん事を願って、『世界』はその名を新たに刻む。

 

「なぁ、【未完の英雄(リトル・ルーキー)】! お前が【ランクアップ】したのはやっぱり『スキル』が関係しているのか!?」

 

 何重にもなっている層を掻き分けて現れた、一柱の男神が陽気にそう尋ねる。

 途端、それまであった喧騒は静まった。

 それは、この場に居た全員の思いを代弁した問いであった。

 

「やっぱり答えられないか?」

 

「……」

 

 超越存在(デウスデア)たる神は、下界の住民の嘘を看破する事が出来る。

 これは、それを利用した尋問であった。

 まばたきするベルに、男神がイヤらしい笑みを隠す事なく浮かべた。

 しかし、次のベルの言葉にそれは吹き飛ぶ事となる。

 

()()()! そのような『スキル』を私は所持していない!」

 

 ざわ、と外野が揺れる。

 神の瞳と、ベルの深紅(ルベライト)の瞳が交わった。

 ややあって、最初に口を開けたのは神だった。

 

「……驚いたな。俺の質問に答えたのもそうだが……何よりお前、嘘を言ってない」

 

「無論だとも。貴方を含め、神は崇めるものだからな」

 

 男神の呟きに、ベルは澄まし顔で答える。

 

「お前、面白いなぁ。ヘスティアの所に居るのが勿体ないぜ。どうだ、俺の派閥に改宗(コンバージョン)しないか?」

 

 二度の、ざわつき。

 男神の率いる派閥(ファミリア)迷宮都市(オラリオ)に於いてそれなりの力がある。等級(ランク)は【C】。

 正面からの勧誘(スカウト)に、ベルは満面の笑みではっきりとした口調で答えた。

 

「丁重にお断りしよう! まず、私はまだ炉神(ヘスティア)の眷族になってからまだ一年経っていない!」

 

 異なる派閥へ改宗(コンバージョン)する為の条件の一つを提示し、ベルは神に対して(ことわり)を説いた。

 そのまま、ベルは続ける。

 

「次に、私の主神(ははおや)は彼女だと決めている! 運命の出会いをした、その時から!」

 

「最後に!」と、ベルは声を大きくして言った。

 

「黒髪ツインテール巨乳ボクっ娘は、私の性癖の一つだッ! 私は性癖に従うッ! 男子(おのこ)なのでッ!」

 

 シン、と大通りは静まり返った。

 事態を見守っていた人々、勧誘(スカウト)を試みていた男神が揃って呆然と口を半開きにする中。

 

「なぁぁぁにを言っているんだァァァァ、キミはァァァァァ!?」

 

 怒号と共に小さな身体が飛んできた。

 刹那、

 

「ごほぅ!?」

 

 情けない悲鳴を挙げ、ベルの身体は吹き飛んだ。

 地面をごろごろと転がり、そのまま道具屋(アイテムショップ)の壁に激突。店主が悲鳴を上げた。

 

「へ、ヘスティア……暴力は良くないと思うナァ」

 

 眷族(ばかむすこ)の抗議を、主神(ははおや)は胸の下で組み鼻を鳴らした。

 

「暴力? 違うぜ? これは、躾だよ」

 

「おっと、これはまた新たな扉が開かれ──」

 

炉神の聖なる拳(ヘスティア・パンチ)!」

 

「ぐへぇええええええ!?」

 

 地面に沈むベル。そして、それを見下ろすヘスティア。

 周囲の人々は、突然始まった茶番劇(コント)にどう反応したら良いか戸惑っていた。

 だが、それを意に介さない者も居る。神だ。

 男神は「よぅ」とヘスティアへ気さくに声を掛ける。

 

「ヘスティア、神会(デナトゥス)振りだな。いや、こうして話すのは数千年振りか?」

 

「そうかもね。それでだ、ボクに何か用かい?」

 

「いや、お前の眷族面白いと思ってな。お前が要らないなら、俺が貰っても──」

 

 それ以上、言葉が続く事がなかった。

 ヘスティアのツインテール、その髪先がまるで矛のように男神へ向けられた為だ。

 幼い女神が放出するその神威に、男神は顔を引き攣らせる。

 

「ベル君はボクの眷族(むすこ)だ。渡すつもりはない。そしてこれは老婆心からの忠告だ。この子の面倒を軽々しく見るだなんて言わない方が良いぜ」

 

「お、おぅ……」

 

「この子が調子に乗ったのは謝罪しよう。話はこれで終わりだ。ほら、分かったらさっさと行くんだ」

 

 手で雑に払われ、男神はそのまま、追い立てられるようにして去っていった。

 それに続き、野次馬達も散っていく。ベルに憧れの眼差しを向けていた男性冒険者も、ベルを格好良いと囃し立てていた女性冒険者も、主神に折檻されたボロボロのベルを残念な人を見る目で一瞥すると離れていった。

 

「ああ、私の新しい応援者(ファン)が……」

 

「君にはあのシル(なにがし)がいるじゃないか……」

 

 ぼそりと呟くヘスティアの言葉は、がくりと項垂れているベルには届かない。

 そのまま、英雄日誌に書き込む。

 

「綴るぞ、英雄日誌──『未完の英雄(リトル・ルーキー)】ベル・クラネルは更なる応援者(ファン)の獲得に失敗するのだった』──フッ、だが大丈夫。私にはまだ、数多くの根強い応援者(ファン)が居るのだからな! ワハハハハハ!」

 

「根強いと言うか……一人、ガチファンがいるけどね……」

 

 

 往来の人々から奇異の眼差しを送られようと、主神が遠い目になっていようと、ベルは口角を上げて笑った。

 その様子を、彼の主神は呆れたように見て、重い溜息を吐く。

 

「あのねぇ、ベル君、昇格したのだからもう少しそれ相応の振る舞いをしたらどうだい?」

 

「善処しよう!」

 

 反省した素振りさえ全く見せないベルに、ヘスティアは再度溜息を吐いた。

 そして、ヘスティアはベルが立ち上がるのを待つと言う。

 

「ボクはタケミカヅチと会ったら、ヘファイストスの所に行く予定だ。ああ、打ち上げには間に合わせるから、そこは安心してくれ」

 

「分かった。私も、管理機関に行ってエイナ嬢と今後について打ち合わせしてくる」

 

「それじゃあ、また後で。いいかい、ベル君。くれぐれも! 面倒事は引き起こすんじゃないぞ!」

 

「ははっ。分かってるわかってる」

 

 鷹揚に何度も頷くベルに対して、ヘスティアは暫く疑惑の眼差しを向けていたが、約束の時間が近付いているのを腕時計で確認すると、再三同じ事をベルに言い聞かせてからピューっと、離れていった。

 ヘスティアを見送ったベルは「よし、私も行くとしようか」と独り言を呟くと、大神殿(パルテノン)へ足を運ぶ。

 

(想定はしていたが……視線が、増えてきているな)

 

 ギルド本部へ近付けば近付く程に向けられてくる視線の数々。

 その殆どが、同業者だ。

 他者の気配に敏感なベルにとって、それは勘違いではなく事実として認識される。

 

(好意的な物もあるが……それはどちらかと言うと少ないか)

 

 ベルは苦笑した。

 世界記録の更新という、新たな『偉業』を成し遂げたベル・クラネル。

 それを聞いた全員が、素直に称賛出来る訳ではない。先程の男神や先達はどちらかというと少数側だろう。

 

(若干の敵意は感じられるが……直接手を出してこようとする気配はない。ここは互いに、様子見が最善か)

 

 ただ見られるだけなら、実害はないと判断する。

 ベルはいつも通り、鼻歌を歌いながら呑気に歩いた。

 

 ──ギルド本部は普段と変わらず賑わいを見せていた。

 

 多種多様な亜人族、数多くの冒険者が訪れている。少数ではあるが男神や女神といった超越存在の姿もあった。

 

「ベル君、こっち!」

 

 出入口で、ベルはすぐに声を掛けられる。

 見ると、眼鏡を掛けた妙齢のハーフエルフがそこには立っていた。

 

「やぁ、エイナ嬢!」

 

 片手を挙げ挨拶をするベル。

 エイナはベルに近付くと、周りに聞こえないよう声を潜めて言った。

 

「まずは移動しよっか。面談用ボックス、予約しておいたから行こう」

 

 言うや否や、エイナは動き出した。

 ベルは黙って、その後をついて行く。受付窓口を何となく見ると、ミィシャと目が合った。口パクで「【ランクアップ】おめでとう!」と祝ってくれる友人に、ベルは笑みを返した。

 エイナが言った通り、面談用ボックスは事前に予約されていたようだった。最奥のボックスに案内されたベルは、ローテーブルを挟んで、担当アドバイザーと向き合う。

 

「改めて、【ランクアップ】おめでとう」

 

「ありがとう!」

 

「【未完の英雄(リトル・ルーキー)】。素敵な『二つ名』だね。『英雄』を目指す君に、ピッタリだと思う」

 

 そう言うと、エイナは柔らかく微笑んだ。

 

「これから君は、『ベル・クラネル』と呼ばれる事が少なくなると思う。きっと、【未完の英雄(リトル・ルーキー)】って呼ばれる」

 

「……。……そうか」

 

 間の置いたベルの相槌に、エイナは首を傾げた。

 そんな彼女へ、ベルは誤解を与えないよう慌てて言った。

 

「ああ、いや! エイナ嬢の言う通りだよ。この『二つ名』はとても素晴らしいと思うし、有難いとも思っている。ただ──」

 

「……ただ?」

 

 首を傾げて聞き返すエイナに、ベルは苦笑いしながら言った。

 

「名は体をあらわす、と言うだろう。私は、他者からそのように在れと言われて傷付いてしまった英雄(ひと)を知っているから……少し、この『二つ名』というものが苦手なんだ」

 

「……そんな人が居るの?」

 

「……ああ。とはいえ、あくまでも英雄譚でしかその英雄(ひと)の事は知り得ない。ただ……私の憧れた英雄(ひと)が辿った末路を思うとな……」

 

 深紅(ルベライト)の瞳を伏せ、ベルは静かに微笑んだ。

 そして次に瞼を開けた時は、ベルはいつものように笑った。

 

「すまない、せっかく祝ってくれたのにな! 話を進めよう!」

 

「う、うん……」

 

 エイナは何か言いたげな顔をしていたが、それ以上詮索してこなかった。

 気を遣わせてしまったな、とベルは少しの罪悪感を感じながらもそれを隠す。

 エイナが言った。

 

「【ランクアップ】したら、まずやるべき事があるんだ」

 

「それは?」

 

「【ステイタス】に身体を慣らす事かな」

 

 頭上にクエスチョンマークを浮かべる、ベル。

 そんなベルに、担当アドバイザーは説明する。

 

「昇格は『器』の昇華と同義。いきなり超人的な動きをする事は出来ないけれど、君の身体は、Lv.1とは比較にならない程の潜在性(ポテンシャル)を秘めている」

 

「それはつまり、出来ない事が出来るようになっているという事か?」

 

「うん。概ねはその解釈で間違ってないかな。出力が違う、とでも言うのかな。例えば、初動から全速力までに掛かる時間が短縮した、なんて事もあるみたい」

 

「だからね」と、ハーフエルフの翡翠色の瞳でベルの身体を観察しながら続ける。

 

「勝手が違ってくる。自分の想定よりも、身体が動き過ぎる時がある。所謂、【ステイタス】に振り回されている状態かな」

 

「……なるほどな」

 

「良かった、理解してくれたようだね。こればかりは、何度も戦闘をして身体を鳴らしてズレを修正していくしかない。多くの先達がそうしてきたようにね」

 

 説明を受けたベルは真剣な表情を浮かべ、自分の両手を見下ろした。

 エイナの言う通り、いきなり怪力になった自覚はない。だが、身体の造りが変質しているのは、何となく感じられる。

 

「それなら、暫くは『上層』で調整した方が良いか」

 

「うん。それが良いと思う。実際、昇格したばかりの冒険者があっさりと死ぬ、という事例はこれまでにも数多く挙がっているからね」

 

「それは嫌だな。──分かった。何が出来て、何が出来ないのか。それを明らかにしてくる」

 

 今後の方針を定める、ベル。

 そんなベルに、担当アドバイザーは「ここからが本題」と前置きし、真剣な表情で忠告した。

 

「そして、ベル君。私は、今の君には『中層』へ行かせられないよ」

 

「その理由は?」

 

「一つは、『中層』への理解が足りていないという事。出現するモンスター、地形、様々な迷宮の仕掛け(ダンジョン・ギミック)──それ等を、頭の中に叩き込む必要がある」

 

 ギルド職員の言葉を、ベルは素直に受け入れた。深紅(ルベライト)の瞳でその先を促す。

 

「一番厄介なのは、モンスターの出現間隔(インターバル)。『上層』とは比較にならない程、沢山のモンスターが冒険者(きみ)に襲い掛かる」

 

「……それは厄介だな」

 

二人一組(ツーマンセル)とは言え、その相手は支援職(サポーター)。ベル君が単独(ソロ)であるという事に変わりはない」

 

「……」

 

「寧ろ、支援者(サポーター)が居る分、危険度は高い。もしモンスターに囲まれた時、君は自分だけじゃなくて仲間(サポーター)も守り切らないといけない。ベル君、君にそれが出来る?」

 

 その問い掛けに、ベルは無言で首を横に振った。

 ベルが助かったとしても、戦う術のないリリルカは助からない可能性の方が高い。

 迷宮探索に於いて、絶対の安全というものはない。それ故に、冒険者達は出来る限りよりリスクの少ない選択を取る必要がある。

 

「だが、リリが居なければ私は『中層』に行けないだろう」

 

「うん、それも間違ってないよ。話を聞く限りでは、君のサポーターはとても優秀のようだし、迷宮探索の歴から考えても、必要だと思う」

 

「それなら、どうしたら良い?」

 

 ベルは、担当アドバイザーへ助言を求める。

 そして、答えはすぐに返ってきた。

 

「まずはさっき言った通り、『中層』への理解を深める事。君に発現した『発展アビリティ』の【禍福】を考慮すると、異常事態(イレギュラー)に巻き込まれる可能性は他の冒険者よりも高いと思う。だからこそ、君はどんな事態に陥ったとしてもすぐに対応出来るよう、事前準備をしっかりと行わなければならない」

 

「他には?」

 

「新たな仲間を募る事」

 

 それこそが最も手っ取り早く生存率を上げられる方法だと、ギルド職員は断言した。

 

「新たな仲間か……全く考えてこなかった訳ではないが、もうそろそろ、その時機か……」

 

 腕を組み、ベルは唸った。

 

「Lv.2になった君に、声を掛けてくる人は多いと思う。冒険者、鍛冶師といった専門職(プロフェッショナル)、神でさえも」

 

 ベルは先程の出来事を思い出す。

 あのような勧誘(スカウト)は序の口で、もしかしたらもっと過激なものもあるのかもしれない。

 

「仲間を増やすのには私も異論ない。だが、エイナ嬢。私の不可解な経歴、【ヘスティア・ファミリア】の現在の立ち位置、さらにはリリというサポーター、それらを考えると、それは難しくないか?」

 

 仲間に名乗り出た人物が、ベルひいては【ヘスティア・ファミリア】の敵である可能性がある。

 それだけではない。

 もしその人物が、リリルカの生存を疑った【ソーマ・ファミリア】から送られてきた刺客だったとしたら。派閥の主神は、場所の特定は無理だが眷族の生存を把握出来る。酒神(ソーマ)は派閥運営に興味がないという話だが、リリルカの内部告発により管理機関(ギルド)が動いた時、さしもの酒神(ソーマ)も動きを見せるだろう。そしてまず真っ先に酒神(ソーマ)が疑うのは、行方をくらませる前にリリルカが最後に契約していた相手──すなわち、ベル・クラネルに他ならない。

 

(やはり、時期尚早だったか……?)

 

 脳裏に、そんな考えが頭を過ぎる。

 あの『冒険』が間違いだったとは思っていない。彼の雄牛──好敵手(ライバル)から逃げ出す事なんて、ベル・クラネルには絶対に出来ない。もしあの場面に何度戻ったとしても、ベル・クラネルはリリルカ・アーデに叱咤され、共に『冒険』に臨むだろう。

 だが、その代償とでも言うべきものがあった。

【ファミリア】の基盤が整っていない。これに尽きる。

 何段階もの階段をすっ飛ばしたベル・クラネルひいては【ヘスティア・ファミリア】の、大きな弱点。

 仲間が欲しい。だが、その仲間が危険な人物の可能性がある。このジレンマが、【ヘスティア・ファミリア】を襲っている。

 

「焦る事はないよ、ベル君」

 

「……え?」

 

 下を向いていたベルが顔を上げると、エイナは微笑んで言った。

 

「仲間を募る事は確かに大事だけれど、言ったでしょう? まず君は、『中層』というものを勉強する必要がある。それはすぐには終わらないし、終わらせるつもりもないから」

 

「えっと、それって、どういう……?」

 

 困惑するベルに、エイナはにこりと笑い掛けた。

 そして、宣言する。

 

「久し振りに、『勉強会』やるから」

 

「……『勉強会』?」

 

「そう、『勉強会』」

 

 ベル・クラネルは思い出す。

 そう、あれは冒険者登録をしてからまだ日も経っていなかった時の事だ。

 ダンジョンに行きたくてウズウズしていたベルの首根っこを掴んで、目の前のハーフエルフは面談用ボックスへ強制連行した。そして、一回数時間に渡る『勉強会』を開いたのである。

 

「私が許可を出すまで『中層』には絶対行かせないから、そのつもりでいてね」

 

「……はい」

 

「そして、『勉強会』と並行して信頼出来る人を仲間にする。分かった?」

 

「…………はい」

 

「声が小さいよ」

 

「イェス、マム!」

 

「うん、宜しい」とエイナは綺麗な笑みを浮かべた。

 ベルにはそれが、女神のものにも見えたし、悪魔のものにも見えた。

 顔を青くするベルに、エイナは真剣な声音で言う。

 

「『冒険者は冒険をしちゃいけない』──私は、この言葉を変える気はないよ」

 

「……ああ、分かっている」

 

「私は、君に死んで欲しくない。ダンジョンに一緒に行く事が出来ない私には、これくらいしか君に協力出来ないから」

 

「そんな事はないさ。エイナ嬢にはとても世話になっている。大変だとは思えど、迷惑だとか面倒だとかは決して思わないさ。だから、頑張るよ」

 

 それからベルは今後について軽く打ち合わせをした後、ギルド本部をあとにする。

 そして、その足は行きつけの酒場へ向けられていた。今日この後、『豊穣の女主人』でベル・クラネルの昇格を祝う会が開催される予定となっているのである。

 ベルは鼻歌を歌いながら、出される料理に期待で胸を膨らませるのだった。

 

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