vsデミパラケルスス
霊薬を使う描写を入れてませんが裏でガンガン使ってるようです。
戦闘シーンは難しいですね。上手く伝わっていたら幸いです。
起源弾
FGOにて、エミヤオルタが使っている宝具を、生前の士郎が使うとしたら、というイメージで書いてみました。
Fate関連の作品の設定を色々お借りしてます。
よろしくお願いします。
6話 魔剣、そして魔弾。
才能という物は、使われてこそ価値がある。ああ、でも勘違いしてはいけない。
所謂。世の中の為に使う、ということでは無いよ。
自分の為にこそ、使われるべきだ。自分の探求にこそ使われるべきだ。
そこへ行くと、世の中の為に使う、では無く世の中を自分の為に使う、と言い換えた方が良い。
自らの真理の探求の為に、世の中の、数多いる凡夫を。彼らの命をこそ使うべきだ。
そんな風に考えている。其処に偽りは無いし、間違いもない。
ある時、同じ学内の同級生にそんな話をしたら、君は孤高の存在なんだね。なんて言われた。
うん、そうだ。
僕は、孤高の存在である。何しろ僕の視ているものは、君たちには見えていない。
物心がついた頃、僕の世界は色鮮やかだった。なにしろ、全ての人間に色が付いて見えるのだ。
それが、その人間が元来持つ魂の色、属する四元素の色だと理解するまでに大した時間は掛からなかった。
火水地風。
世界を構成するそれらは人間に深い繋がりを持ち、魂の色の強さはそのまま、その人物の魂の強さを表している。
その、色を操る事で、僕は魂を操作するのだ。丁度、パレットの上で絵の具を調色するように、指先で色を取り、交わらせるだけでその人の色を変える。
時には魂を強く調色し、
時には魂を弱く調色する。
そういった繰り返しをする内、魔術師が奇蹟と呼ぶものの一端に触れる事が出来るようになった。
即ち、魂の操作。
そう、僕は魔術師が魔法と呼ぶ深奥に、生まれながらに辿り着いたのだ。僕の手には今、一振りのナイフがある。死んだ母が父の形見だと寄越したものだ。
僕にはそれがなんであるか、理解の必要が無かった。何しろそれは、この能力の補助存在として作られた、僕の身体の一部と言って良い。身体が識っているものを理解する必要は無い。
僕は僕の好きな事をする。
なに、魔術師というのは好き勝手にやるものさ。時計塔はそう教えているだろう?
このナイフの名は魔剣。我が系譜の名を冠する。パラケルススの魔剣だ。
ホテルのクローゼットを開けると、衛宮士郎は中から黒いスーツを取り出し、袖を通す。
もはや、形式でしかなく、大した戦闘的アドバンテージもないが、義父の仕事のスタイルを真似ているのである。
肩からホルスターを提げ、義父の形見である、古式の単発装填式銃トンプソンコンテンダーを挿す。
「シロウ」
此方の準備の頃合いを見計らった様に、セラが入ってきた。
「ライダーはなんだって?」
「予想通りです。マキリゾォルケン、間桐の翁は一度だけ、魔蟲の魔術を供与しています」
「パラケルススか」
「そうです。類稀な才能の持ち主同士、気が合ったのかも知れませんね。お互いにホムンクルスと蟲の魔術を供与し合ったようです」
「そうか。なら、あの蟲は間桐の蟲と同じと考えるべきだな。例の、図書館資料は?」
聞かれて、セラはいくつかのページコピーを差し出した。
「ふむ。或いは、パラケルスス「本人」かと思ったけど、間違いなく彼は現代の人間の様だな」
衛宮士郎にとって、もっとも危惧すべきは、対する相手が英霊本人である事だった。
「ええ。系譜にはキチンと現代のヴァン・スミス迄の家系図が記されています。その可能性は薄いでしょう」
500年も前の人間が生きている。常識的には笑い話だが、相手が魔術師となるとそうもいかない。
実際に「生きていた」例もある。
「まあ、だからって油断出来る相手じゃない」
昼間、ロビーで子供を殺したやり口から、手段を選ばない人間だと断定出来る。
「敵の強さは、計りが知れませんが、図書館で妨害を行った事を考えると、英霊本人でない事に、何かしらの弱みはあるでしょう」
「たしかに」
そう。昼間から、衛宮士郎の脳裏にずっと引っかかっている事だ。
いつでも殺せる、と豪語した割には、仕掛けてこなかった。衛宮士郎の勝ち目は間違いなくそこだろう。いや、そこしかないと言える。
その事実に、セラは目を伏せる。その肩に巻かれた包帯と出血の跡が痛々しい。
「・・・それでも、いくのでしょう?」
「ああ。そうでなければ、俺は生きてる意味がないからね。「あんなこと」やめさせなきゃならない」
言い放った男を、人形の女は優しく抱き、詠唱する。
少しでも、この男が死地から還ってくる可能性を上げるための治癒を。
深夜零時五十九分。
静まり返った病院の中庭は、冷やりとする冷気と静寂に包まれていた。
秋の虫達も泣く事を止める刻。光源は公園灯と非常口常夜灯のみ。
東屋の屋根に設置された大時計が、電波式で正確な時を刻み続け、秒針がピタリと頂点を突くと一時を示した。
数秒後、緑の常夜灯横の非常灯が点灯し、けたたましいサイレンが鳴る。
それに導かれる様に、ポツリポツリと人影が非常口や正面玄関から現れ始めた。看護婦以外は、みな入院用のチュニックである。
人影はどんどん増え続け、いつしか、病院内の殆どが中庭へと出てきた。
だが、人々の顔には生気がない。何かに操られて出てきたのだ。
「人数は?」
病院から約200メートル離れたビルの屋上で、衛宮士郎は小型マイクを内蔵したスマートイヤホンに問う。
「・・・およそ二百五十人。なりすましたホムンクルスも含めて、ほぼ出払いました」
スマートイヤホンから返ってくるセラの声。
衛宮士郎がいるビルの、駐車場に停められた車の中で、セラは用意していたラップトップコンピュータと機材で病院をモニタリングし、バックアップしているのだ。
突然訪れた病院の非常警報は、セラのクラッキングによって起こされた。そして、サイレンの音に暗示の術を施し、聴いたものを外へと導いたのである。
「ほぼ? 未確認は何人だ?」
「お待ちください。仕掛けた暗視カメラで顔認証を行なっています・・・くっ」
セラの動揺がイヤホンを伝わる。
「どうした?」
「恐らく、外に出ていないのは小児科病棟の数人。「まだ、生きている」子達です」
聞いて、衛宮士郎は暗視スコープの双眼鏡で小児病棟を見やる。
「っ!」
その屋上に。
真っ白な魔術師用のローブをきた美青年が立っていた。その周りには、虚ろな目で宙を見上げる数人の子供達。そして瀬名水渚。人質だとでも言うのか。
「どうしますか?」
「構わない。やるよ」
「わかりました。覚悟なさいませ」
あの医師を殺す為、衛宮士郎が選んだ方法は、病院の爆破だった。
魔術師はほぼ必ず自分の領域を持っており、其れを工房と呼んでいる。そこで自分の魔術を最適化している。有り体にいえば、侵入者に対して罠を張って待ち構えているのだ。
魔術師の特性を少なからず知る衛宮士郎は、其れを爆破をする事で、そもそも戦う事なく相手を殺そうと考えた。
だが、目算を誤った。
敵は此方の弱点を知って突いてきた。
重病の少女と仲良く話す様な優しい男に、そんな派手な行為は出来ないと見られたのだ。
けれど。
衛宮士郎は覚悟している。
大事の前の小事に、戸惑う事がない様、努めてきた。戦ってきた。
手元のスマートフォンが判断を促す画面を表示する。
一切の戸惑いなく、衛宮士郎は、肯定のボタンを押した。
一瞬後、昼間小児科病棟の基部に仕掛けたプラスチック爆弾が連鎖爆発を起こして建物が跡形もなく崩壊する。
筈だった。
東屋の時計は、元の静寂を保ったまま、刻を刻み続けている。
「やられた、か」
双眼鏡で、再び屋上を見ると、犬歯を剥き出しにして笑う美青年の姿が見えた。
「それなら・・」
衛宮士郎は、足元に準備していたライフルを構えた。
目論見が外れ、次の策に出る。
WA2000。
そんな型式の、世界でも珍しいオートマチック式のライフル銃だ。
弾倉とチャンバーには、既に起源弾・切嗣が装填されている。
かつて、魔術師殺しと呼ばれた男は、この弾丸で幾人もの魔術師を葬ってきた。着弾した瞬間に、被弾した者の魔術回路をめちゃくちゃに繋ぎかえる。魔術師達が何百年も掛けて積み上げてきた、魔術回路というジグソーパズルを支離滅裂に並べ換えるのだ。
「オマエの一族がどんな研鑽を積んで来たか知らないけど、詫びるつもりはない」
WA2000のスコープに映し出された細面の麗人に、トリガーを引く。
通常よりも貫通力に優れた起源弾ならば、人間の頭など容易くザクロの花の様に散らせる事が出来る。
が、打ち砕かれたのは、此方の予想だった。
低い轟音と共に撃ち出された弾丸は、違いなくヴァンスミスに向かっていたが、当たったかと思われた瞬間、静止したのだ。
いや、運動エネルギーを殺しきれない弾丸はビリビリと震え、更にはその力を自らの身体で相殺していく。
かくして、空中で不自然に遮断された起源弾は、グシャリと潰れて床に転がった。
「やれやれ、カッコ悪いったらないな」
衛宮士郎は苦笑する。
自信のある策を二度までも防がれ、形無しである。
「ですが、どうするんですか? だからと言って魔術師の工房に踏み入るのは愚の骨頂ですが」
セラの皮肉に、溜息を漏らす。
「わかってるさ。なら、ロケランでもぶっ放してみるかな」
冗談交じりに言うが、あながち冗談ともいえない。それ程、魔術師の工房に踏み入るのは愚策なのだ。
「だけど、ここまで来て其れを許すような相手じゃない、よな」
これほどまでに工房の守りを固めた魔術師が、攻撃して来た者を放って置くなどと言うことがあるだろうか。
双眼鏡を覗く衛宮士郎の視界に、その答えが映し出される。
ズブリ。
幼く白い肌に突き立てた魔剣は、なんの抵抗もなく、その剣身を半分埋めた。
今回の遊び相手は、中々に多彩だ。
なるほど彼は色んな意味で魔術師とは異なる人間性を持っているようだ。
工房を恐れて建物ごと爆破しようとし、それが叶わなければ目標を狙撃する手際の良さ。
それも阻まれた彼はどうするだろうか。屋上に集めた子供を巻き添えにする覚悟を持ち合わせながら、昼間はアレと仲良く話なんてしてみせる。
彼の深い人間性を読む為、更に二択を掛けてみよう。
「こうしたら、君はどうする? それでも、此処まで来るつもりはないのかい?」
つまりは、この魔剣を突き立てた先である。
ここまでされて、彼はどうするのか。
先程狙撃して来た場所で此方を見ているであろう、彼に対して、手招きをする。
そして、魔剣を持つ手を、すいっと横に引いた。
高圧洗浄機の様に飛び散る紅い飛沫。
びゅるびゅる、どちゃりどちゃり。
細長い臓物が先を争う様に床に散らばっていく。
見慣れすぎて欠伸が出る光景だが、彼には刺激的だろう。
「さあ、どうする? それでも其処から見ているかい?」
ヴァンスミスは、要らなくなった血袋を屋上から投げ捨てた。
「・・・!!!」
其処で展開される、常軌を逸した光景。一体、どんな思考回路が有れば、そんな行為を行えるのか。
衛宮士郎はWA2000をその場に捨てて、別途準備していたアサルトライフルを腰に提げる。
「なりません、シロウ。あれが敵の挑発だとわかっているのでしょう?」
双眼鏡をモニタリングしていたセラが、先んじて言ってくる。が、
「わかってる、わかってるさ。でも、アレを見せられて、自分が仕掛けた事でああなった物を、放っとく訳にはいかない!」
それがエゴだと分かっている。衛宮士郎は、今殺された子供を巻き添えに病院棟の爆破をしようとしたのだ。
死ぬのなら、どんな形でも同じ事。爆破されても、腹を裂かれても。
そんな事は分かっている。
それでも「自分が仕掛けた事」を達成しないまま、人が殺されるのは納得がいかない。
「ああ、そうだとも」
衛宮士郎は、壊れている。
その人間性が歪に破損している。
照明が消え、非常照明しかない薄暗い地下へと続く階段。
その片隅に、ぽつりと小さな灯が点った。
それは、一つ二つと数を増していき瞬きほどの時間であっという間に増えていく。
蛍の群生地を思わせる幻想的な光景だがその正体を知れば、正反対のものだと思い知ることになる。
目玉を緑色に灯すそれは、数センチの芋虫のような物体。其れが、地下階段をみっしりと埋め尽くしているのだ。
刻印蟲。かつて、ある翁が造り出し、その魔力源として生物を糧とする魔術生物だ。
一匹一匹が、口に鋭利な牙を持ち、 魔力を求めて蠢いている。そこに、他の生命が介在する余地はなく、非常照明に誘われた羽虫が一瞬にして捕食されていく。
その、異形が蠢く空間に、衛宮士郎は足を踏み入れる。
当然、刻印蟲が其れを見逃すはずも無い。一斉に襲い掛かる。
が、衛宮士郎は動じる事なくコート裏に装備していた催涙弾を放り、ガスマスクを顔に当てた。
放られた催涙弾はコン、と乾いた音を響かせると催涙ガスを吐き出して行く。
「一匹ずつ相手が出来るほど、時間がないんでね」
足元の蟲だけをアサルトライフルで撃ち払いながら悠然と歩いていく。
格好の獲物が闊歩するなか、刻印蟲達はピタリと動きを止め、煌々と輝かせていた眼の光を失っていった。
催涙ガスに見えたのは、獅子劫界離が渡してきた成分表を元にセラが作った「殺虫ガス」だったのである。
無論、ただのガスではない。魔力を帯びた生命を標的に、呼吸器を誤作動させて、その魔力を外に排出させるのだ。
かくして、如何なる生命も歩みを止める地下階段は、なんの変哲も無い、元の静寂を取り戻した。
(見取り図だと、この辺りか)
地下二階、昼間の調査で作った見取り図によれば、この階段を降り切った通路の先に広めの手術室がある事になっている。待ち構えるのに、これ程の場所は無い。
果たして。
救急のストレッチャーごとはいる事が出来る大扉を油断なく開け、中に身を翻すと、そこに、あの男がいた。
ヴァン・スミス・ホーエンハイム。
部屋の広さは凡そ10平米。奥の壁に窓があり、手術室が見える事から、待合室だと思われた。
ぱちん、と指が鳴る音が響く。眼前の男が鳴らしたのだ。
「やあ、エミヤシロウくん。こんなところまで、ご足労いただいてありがとう」
「どういたしまして」
無論。トンプソンコンテンダーは構えている。
「おいおい。気が早すぎじゃないかな? 僕は君ともっと話がしたいのに」
ぱちん。冗談めかした音がまたひびく。
「残念ながら、オレにはもうない。お前は殺すべきだと判断した」
「そうか、残念だよ。君とは仲良くなれそうな気がしたのに」
ぱちん。今度は落胆だとでも言いたいのか。
「そんな事はどうでも良い。指を鳴らすのを止めろ。次は撃つ」
「鳴らさなくても、撃つ癖に」
今度は鳴らさず、左手で、側にあったストレッチャーから何かに手をかける。
「ッ!!」
衛宮士郎は、即座にトリガーに掛けた指に力を入れる。
ヴァン・スミスが手にしたものが、短剣だったからだ。
英霊パラケルススの特に有名な逸話の一つ。四元素を操る魔術短剣の始祖。
間違いなく、仮想宝具レベルの何かだ。
一気にトリガーが引かれ、起源弾が発射される。先程の狙撃では防がれたが、10メートルに満たない、この距離ならば、当てる事が出来るかもしれない。
その、百分の一秒にも満たない瞬間。
ヴァン・スミスの左手、つまり短剣を取った手が閃いた様に見えた。
(何かの攻撃がくる!)
衛宮士郎は、身体を左に仰け反らす。あの短剣が何であれ、あの直線上にいるのはマズイと判断したからだ。
刹那の後。
バン、と脳天を打ち付けた時の様な、思考の断裂感。電波の受信状況が悪いテレビの様に視界の映像が乱れる。
真っ白と真っ黒が繰り返し交錯し、最初に訪れたのは、左腕を襲う、とてつもない熱。
次は激しい痛み。痛点の神経を束ねて先端を擦り下ろされる感覚。
そして、どうしようもない空白。
トンプソンコンテンダーが火を噴いた、たった一秒の後、衛宮士郎は仰向けに倒れ伏していた。
あの一瞬。衛宮士郎が放った弾丸は、狙撃の時と同じように防がれた。そして左手の短剣をヴァン・スミスが振るったのを見て飛び退いた衛宮士郎の左腕が、千切れとんだ。
「おやおや、一体どうしたんだ? そんなに血塗れになって」
聞いてくるヴァン・スミスの顔に溢れる笑顔。
そして、その手にはあの短剣。
「ぐッ!うぁぁ!」
獣の断末魔を思わせる咆哮を上げて、半死半生の衛宮士郎は、飛び退る。
なんとか、部屋の入口大扉まで逃げ切ろうとしているのだ。
「いやだなぁ、そんなに嫌わないでくれよ。人畜無害が医者をやっている様なこの僕に」
「・・・!」
這いつくばって睨みつける衛宮士郎。その視線の先にはあの短剣。
「ああ、これかい? しょうがない、種明かしをしょう。これは、かの有名な魔剣だが、何か力があるわけでもなんでもない。なにしろ、真に君を攻撃したのはこっちだからね」
ぱちん、と指を鳴らす。その、鳴らした宙空に、ヴァン・スミスは近くにあった紙片を放る。
すると、シュレッダーを思わせる勢いで、紙片が切り裂かれ、粉々になった。
「これは、風の力を使ったブービートラップだ。誘い込んで仕舞えば、なんだって切り裂く」
今度は、狂気の笑顔が浮かぶ。つまりは、魔剣を恐れるあまり、真の攻撃を見誤っていたわけである。
指を鳴らしたところから、衛宮士郎のいる場所まで水平に、見えない攻撃の罠は飛んでいき、滞空する、そこへ誰もが恐れる短剣を餌にそちらへ誘導した。
まんまと、誘いこまれてしまったのだ。
「くっ、そ・・・!」
衛宮士郎は、コートの中に仕込んでいたモルヒネを抜き取り、首筋に打ち込む。
なんとか意識を保てるレベルに痛みを抑え、近くにあったソファーの陰に滑り込んだ。
「はっはっは。そう、君はそうして逃げるしかなくなったわけだ。だが、こうしたらどうだい?」
辛うじて残った上腕部をベルトで止血する衛宮士郎を嘲笑い、物陰から「何か」を引き摺り出した。
「・・・ッ?!」
其処には。
衣服を剥ぎ取られた瀬名水渚が。その身体には刃物で傷付けられたと思しき生々しい傷跡が無数に刻まれていた。
「貴様ァッ!」
痛みなど忘れ、衛宮士郎の顔が激怒に染まる。
「まったく、なんだってこんなモノに興味を持ったのやら。・・・さて、まんまと罠にハマって、濡れ鼠の様に隠れている君だが、こうしたらどうする?」
ヴァン・スミスは、左手で軽々と瀬名水渚を吊し上げ、右手で短剣を逆手に持つ。
「ああ、さっきと同じさ。でも、さっきとは違って、たっぷりと、舐るように」
その美形に浮かぶ、狂気と快楽の笑み。
全ての魔剣の原点、誇り高い筈の剣身は幼い血を吸い上げる。
間違っていると知っている。
愚かだと、知っている。
幼稚だと、知っている。
常々言っているだろう。たった一人の為に十人が死ぬのなら、一人を殺して十人を救えと。
そうしているつもりだ。そうしているつもりだった。それなのに。
ただひたすらに流される、無辜の幼い血。
たった今も。
ガムテープで口を封じられた顔は涙で濡れ、全身は蒼白に色を失う。ガクガクと震える細い脚を伝う限界の雫。
ああ、これが。
これが、オマエが引き起こしたモノだ。
これが。オマエが守れないモノだ。
「身体は、剣で出来ている」
もはや、猶予はない。
「おや、反撃できるのかい? いいとも、やってみせたまえ。ほら、早くしないと、ナイフが大事なところに届いちゃうよ? そうなったらおしまいだ。あっはっは」
その暴言を、聞く必要はない。
衛宮士郎は、歯でトンプソンコンテンダーの装填ギミックを展開させる。
「投影、起源弾・切嗣!」
通常なら、左手に現れる弾丸が、口元に現れ、噛み取る。そして、吐き出すように装填し、即座に撃ち込む。
狙いなど関係ない。奴の体の何処かに当たればそれで良いのだ。
投影、投影、投影。
次々に起源弾を投影しては、打ち出していく。
無茶苦茶な乱撃であったが、予想外の事が起こった。
なんと、ブレてはいたが、弾丸はヴァン・スミスに全て炸裂したのだ。
「?!」
「意外だったかい? 僕にはどんな攻撃も効かないと諦めた上での乱射だったのかな? 」
少し遅れて、起源弾がその真価を発揮する。その被弾箇所を無茶苦茶につなぎ直したのだ。
「なるほど、こういう絡繰か。だけど、ダメだ」
ヴァン・スミスは、指先を被弾箇所に突っ込むと無理矢理弾丸を掴み出した。
「面白い。切断と接続を同時に行う弾丸か。こんなもの喰らったら、魔術師には致命的な傷だ。何しろ、魔術回路が台無しになる」
摘み出した起源弾を指で弾き飛ばす。
「言ったろう? でも、ダメだ。僕には効かない」
そのまま、指を数回弾く。
「くッ!」
先刻の風の攻撃だと判断し、飛び退いてかわそうとするが、最早死に体の身体は満足に動かず、
左脇腹が削り取られた。
そして、再び倒れ臥す。
手の打ちようが無かった。だが、これは自分の判断が招いたことだ。
罠だとわかっていて踏み込み、相手の領域内で罠にハマったのだ。
当然の結果。なるべくしてなる、愚か者の末路。
「・・・」
肺をやられた為に、口からゴボゴボと血が溢れ続ける。
「・・・・?」
風前の灯となった命を抱えた衛宮士郎が考えるのは、今迄の人生ではなく、一つの疑問だった。
これ程の圧倒的な力を持つ男が、なぜ、ここまで自分を誘い込んだのか。何故昼間の内に、即座に自分を殺さなかったのか。ずっと頭を離れなかった疑問だった。
そして、起源弾を受けたにも関わらず平然としている魔術師。
何かが、おかしい。
視力を失いつつある目で、その答えを探す。ここまで誘い込まなければならない何かが、此処にはあるはずだ。
と、奥の手術室が目にとまる。
いくつかのモニターが煌々ときらめく様子が見て取れる。
そして、薄っすらと見える、人影。
(そう・・・か)
衛宮士郎は、そのギミックに気付く。
だが、それに対する攻撃方法が今の衛宮士郎にはない。
考えている通りなら、もう幾ら起源弾を撃ったところでヴァンスミスには効かない。
ならば、何かないのか。
(ある、な)
思い付くが、其れが可能なのかどうか。予てより、考えていた。
その弾丸の事を。
何年も前。
「なぁ、じいさん。これなんだ?本物?」
切嗣の書斎を掃除していた士郎は、机の小物入れに入っていた金属製の弾丸を見つけた。
「ああ、それはね。おまじないの弾だよ」
「おまじない?」
「うん。それには僕の起源、うーん、なんて言ったらいいかな。僕が生まれ持ってる生き方がおまじないで封じられてるんだ」
「へぇー。何のために作ったの?」
何気ない士郎の問いに、切嗣は苦笑する。
「何のために、か。若い頃、それで沢山の人を救えないか、って躍起になってた時があってね。結局上手くいかなくて。・・・それが最後の一発なんだ」
「ふーん」
士郎は、掌で其れを転がしながら、
「オレにも作ってよ! じいさんが若い時、て事は正義の味方になろうとしてた頃だろ? じゃあ、オレにも必要だよ!」
どうして必要なのか、は聞かず、切嗣は頼りなく苦笑したまま頭を掻く。
「ああ、わかったよ。士郎が大人になった時に考えようか」
結局衛宮切嗣はそれから間もなく亡くなり、起源弾を作る術は分からないままだった。
けれど。
衛宮士郎は、自分が何者かを思い出す。
鋳造し、打ち、作り出す。
自分はそう言った人間だった筈だ。いや、それしか出来ない人間じゃなかったか。
圧倒的な実力差を持つ目の前の敵を倒せるとすれば、自分にはこれしかない。
〈どうせ死を待つだけの身体なら、やって見せろ。
オマエが、この程度じゃないと。
この俺に着いてくるのだと、証明して見せろ。〉
「おおおッ!」
衛宮士郎は、短刀を投影し、振り上げる。無論、振り下ろす先はあの男ではない。
肋骨が露出した、自らの脇腹。
ごぎん。
生々しい音と共に、骨を砕く。そして、短刀を捨て去ると傷口から白い物体を取り出した。
それは正しく、肋骨の破片。
(構造を理解しろ。真意を見抜け。骨子を暴き、材質を構成しろ)
衛宮士郎の魔術回路全てに、一気に魔力が流入する。それは流れ込むというより、氾濫。そもそも、許容量を無視した魔力が回路を焼き切る。
だが、その甲斐あったのか。
右手に握られていた肋骨の破片が、弾丸の体を成していた。
ここまで来て、漸く。ヴァン・スミスは目の前の男の異変に気付く。
あれ程痛めつけた筈の男が、銃を構えていたのだ。
「おお、最後の悪あがきか。やってみたまえ。もう、受けるなんて真似はしない。完全に防いで見せよう」
それは、完全な油断。
その一点に於いて、衛宮士郎は運が良かった。
「身体は、剣で出来ている」
魂に刻まれた言葉を紡ぐ。ハンマーを起こし、引き金に指を掛けた。
「アンリミテッド、ロストワークス」(失われた正義の真価、起源弾・衛宮)
指が引かれると同時に、出来損ないの弾丸は撃ち出される。
そして、違いなく。
「あがぁッ!」
ヴァン・スミスの防御など容易く貫き、左胸に着弾した。
「く、驚かせてくれるね。貫通力だけを強めたか?」
先刻までの起源弾と同じ様に、平然としていた。
「まぁ、よくやったよ。ここまでやって来たんだ。僕は君を評価するよ。それなりにね」
それは勝者の弁。揺るがない自信の顕れ。
「とはいえ、そろそろ飽きて来たかな。明日の朝までに片付けもしないといけないしね」
だからこそ、ヴァン・スミスは自分に何が起こったのかを理解出来なかった。
「ああ、大変だ。だびべんだー。でゃびぃー」
口が上手くうごかせなくなって、漸く、ソレに、気付く。
胸元から顎にかけて、剣が突き出していた。
「なっ? にゃんびゃ!」
恐ろしきはヴァン・スミスの超回復能力か。その奇怪な剣身を自ら抜き去り、直後に傷が塞がっていく。
だが次の瞬間、新しい刃が胸元から「生えて」右腕を斬り落とす。
「なんだっ、これは! 何をした!衛宮士郎!?」
言う間に。
新しい刃は次々にヴァン・スミスの胸元から突き出て来る。
限界を知らない大小様々な刃は、全くの間断なく突き出され、雲丹の棘を思わせる様相を呈した。
「ぐおぉ・・・」
身体中を切り破られたヴァン・スミスは、喋る事もままならずに辛うじて立っていた。
「ひとまず、終わりだ。ヴァン・スミス」
衛宮士郎が呟いた瞬間。
大きな破裂音が木霊し、美しい小児科医は、粉々に砕け散った。
それは、博打でしかなく、敵に当たるまで効果も定かでなかった。
起源弾・衛宮。
衛宮士郎が生まれ持つ起源を込められた呪いの弾丸。
着弾した相手の体内で固有結界を作り出し、敵の魔力で無限に剣を投影し続けるようだ。
想像した以上の効果で敵を「斬殺」した弾丸の効果を喜ぶ時間は衛宮士郎には無かった。
「さて」
ズルズルと身体を引きずるように歩いて行き、奥の手術室の入口前に立つ。
手術室には、一つの人影があった。
先程まで相手をしていた美青年と雰囲気は似ているが、様相は全く異なる。
長く伸ばした髪は汚く脂っぽい。背は低く、美しいという言葉とは程遠いところにある顔立。
「本体は、随分凡庸だな。ヴァン・スミス」
言いつつ、衛宮士郎は手術室のドアを蹴破った。
「なんッだ! 一体オマエはなんなんだ!」
満身創痍の衛宮士郎に怯え、転がるように部屋の奥へと逃げる男。
「なんでもないさ。ただ、オマエを殺すってだけの人間だよ」
起源弾・切嗣を投影し、トンプソンコンテンダーを構える。
そう。先程衛宮士郎が気がついたギミック、ヴァン・スミスの正体はこれだったのである。
先祖より受け継ぐ、類稀なホムンクルスの技術と、マキリから伝えられた蟲の魔術によって、精巧な自分の偽物を作り、蟲から供給される魔力で、無敵の人形を操っていたのだ。
恐らく、近くで操らなければ満足に力を使えない、などの制限があるのだろう。だからここまで衛宮士郎を誘い込んだのだ。
セラが倒したあの看護婦は、元々はこうして直接彼が戦う事自体を、避ける為に召喚霊薬を与えられていたのだ。
「流石に、今なら効果あるだろ?」
一切の躊躇もなく引き金を引き、ヴァン・スミスの左胸に命中させた。
「ぎゃッ! ああああああッ!」
起源弾が、漸く本来の効果を発揮する。
ヴァン・スミスの魔術回路を無茶苦茶に繋ぎ替えたのだ。
その痛みは計り知れない。焼き切れた神経を溶接されるなど、比べるべくもない程だ。
ヴァン・スミスが叫ぶ。
「おのれ! おのれ! 衛宮士郎ッ! かくなる上は!」
鮮血を吹き出しながらも、ヴァン・スミスは近くにあったPCに飛び付く。そして、マウスで画面の何処かをクリックしようとした。
が、その悪足掻きも虚しく。衛宮士郎は、今度はハンドガンで両肩を撃ち抜く。
最後の足掻きも虚しく、床に崩れ落ちるヴァン・スミス。
「何をしたかったのか知らないが、データは触らせない。諦める事だ」
最早、死に体だと思われたヴァン・スミスの肩が震える。笑っていた。
「召喚霊薬のデータを何処かへ移すとでも思ったかい?」
「ああそうだ。その霊薬はこれっきりにする」
「そうかい。なら、僕の勝ちだ」
「なんだと?!」
直後、PCの画面に表示される、アップロードコンプリート、の文字。
「・・・まさか?!」
「そのまさかだ。召喚霊薬のデータは、今アップロードを終えた。もう止められない! 拡散されたデータで、デミサーヴァントが無限に増えるんだ!」
「くっ、そ!」
ハンドガンで、PCに数発を打ち込む。
「遅い遅い! データは君がここに突入した時点でアップロードをはじめたからね! そもそもの前提が違う!」
「わかってるのか? オマエは今、世界中に呪いを振りまいたんだぞ?」
「わかっているさ。だが、そうさせたのは君だ。君がここに来なければ、召喚霊薬は、世界に投じられなかったかも知れないんだ!全ては君だ! 君がッ・・・」
ドンッ、という銃声と共にヴァン・スミスの命は突然に終わりを告げた。
衛宮士郎が、眉間にハンドガンの弾を撃ち込んだのだ。
或いは、そうだったのかも知れない。
だが、それは唯の可能性だ。
其れを恐れて行動しない、という選択肢は衛宮士郎にはない。
「さて・・・」
朦朧とする意識を叩き起こし、衛宮士郎はフラフラと手術室を出て、先程のロビーに戻る。
そして、「千切れた自分の左腕」を拾い上げ、呟いた。
「さあ、本命だ」
その足取りは重く、辛い。
補足
キリツグの起源弾がパラケルススに通じないような描写にしてますが、これは士郎が投影した劣化版だからという解釈です。
オリジナルは、ヴォールメンハイドラグラムも貫通しますからね。