〜機動戦士ガンダム00×オルタネイティブ〜   作:ガンダム・刹那・FF・セイエイ

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第4話「刹那な邂逅」

特殊装甲車に乗る白銀武は何時にも増して落ち着きがない様子で彷徨った視界は車内のあちこちを見渡す。部隊のCPを勤める遙もそんな挙動不審状態の武を見て苦笑混じりに、だが心配そうに時折様子を伺い、更には他の隊員までもが気にし始めた頃。微妙な空気が屋内を覆う中武の向かい側に手足を組み座る夕呼がついに文句をたれる。

 

夕呼「ったく…少しは落ち着きなさい。あんたがそんな様子じゃ皆の気が散るだけよ」

武「うッ!?…す、すみません。まさか衛士に任官する前に前線に出向くなんて思わなかったので」

 

その声に漸く我に帰った武は周囲を一度見渡した後、現状を認識して慌てて言い訳するが。その言い訳は夕呼相手では苦しいのを次の指摘で気付く。

 

夕呼「へぇ〜……一周目では前線に出た事はなかったのかしら?」

 

突如身を乗り出してきて武の耳許に顔を寄せ、距離の近さに疑問を抱きながらもそこは一般男子煩悩宜しくで顔が少し朱に染まるが、囁かれた言葉に一気に青に変わり。

 

武「!?ちょッ!?………夕呼先生ェ…!」

 

さっきより遥かに動揺して咄嗟にまた周囲へ視線を這わせるも心配する姿こそあれ、それ以外特に変わった様子がなく一息。

安心したのも束の間今度は怨めしそうな目を不服を込めた言葉と共に夕呼へと向ける。

 

夕呼「な〜に?先に変な事言って誤魔化したのは白銀、のはずだけど?」

武「ぐぬぬぬぅうッ」

 

それも躱す博士様にしかし正論なだけに言い返すことは出来ず。

 

武「ま、まぁごもっとも……失礼致しました!香月副司令殿!」

夕呼「ふふ、宜しい」

 

非を認め言葉を改めたのは誠意の証だと、だが上面のやり取りに興味を示さない夕呼は敬礼する武へ尚も弄ぶように言う。

 

夕呼「思うところがあるのは理解しているけど今は状況を優先なさい。何時までもそんな調子じゃ真っ先に死ぬわよ?」

 

身体を離し再び向かい席へと腰を下ろすと直ぐに真剣な眼差しを送り厳しい一言が白銀"訓練兵"へと吐かれるも、武もその言葉に瞬時に気を引き締めて今度はより姿勢を正し敬礼。

 

武「は!再三に渡り失礼しました!」

 

その様子に漸く満足した夕呼は続いて無線機へ。

 

夕呼「ヴァルキリーズ隊の各員に告げる。今回当たる任務は新潟の最前線防衛ラインのBETA侵攻を阻止というのは変わらないわ」

 

夕呼達が乗車している管制用重装甲バスの後方を走るのはそれ等より遥かに大型の車両。戦術機が格納出来る程大型なトラックには夕呼直轄の特殊部隊が配置している。

それぞれが凄腕の女性衛士で構成された部隊コードA-01、部隊名〔戦乙女"ヴァルキリーズ"〕はこれから始まる対BATE戦に皆表情一つ変えぬ真剣な目。まだ任官して間もない新米の数人は緊張と不安を腹に辿々しい面持ちだがそこを指摘する暇は無く。

 

夕呼「今回はこれに加えて近日噂となっている戦術機、通称"戦略機動兵器"の鹵獲を命じるわ」

『!!!!』

 

その作戦内容に戦術機のコクピットで臨戦待機状態の彼女等は戦慄する。事前に遙からブリーフィングで伝えられているが…勿論その場でも驚愕したが、改めて直属の上官から聞かされれば別格の緊張感が漂う。

 

多恵『ですが例の機体が来る保証は…『ちょっ、多恵!』『でしゃばるな築地ッ!上官の作戦に口答えするなバカ者ッ!!』ッ!す、すみませんでした!!』

 

それでも割り切れていない多恵が物申すと直ぐ様部隊の同期である涼宮茜の声と、先輩であり階級でも上の速瀬水月から猛々しい叱責が飛んでは透かさず言動を改める。

 

そんなやり取りに堅苦しい上下関係にとらわれない当の夕呼はやれやれと肩を疎まし、そして立ち上がり手近なパネルを操作すると例の機体に関するデータを各衛士の網膜投影機器へ送り。

 

夕呼「戦略機動兵器の目撃情報はここ数日で山梨、長野、静岡、そして群馬県内における国連軍とBETAの戦闘中に限るのよ。前線かは問わず…無作為に、行き当たる場所で。行動範囲の広さからして新潟に現れる確率は極めて高い。更に旅団規模が事前に観測された事により当然戦闘の激化を免れなず……寧ろこれで来ないようなら一体何処で居眠りしてるのかしらって感じね。納得してくれたかしら?」

 

口頭でも説明。次々と語られる事柄にも一語一句聞き逃さず横槍をいれた多恵も最後の夕呼の言葉に肯定の意を示す。

 

夕呼「だから先ずはBETAの掃除ね。その際に奴が介入して来たら極力離れずに最終的には囲う形にしなさい、後は全てあたしがどうにかする。いい?鹵獲と言っても絶対に攻撃しないように!万が一危害を加えたならBETAなんかにやられるよりも速く斬り殺される事を常に意識して!」

 

より強く言ったのは血気盛んな水月達を意識したのだろう。作戦を無視する行為は十中八九無いと、夕呼とて彼女達を一応信用しているが下手を討って計画に必要な戦力を無意味に失う事象だけは絶対に避けたいという旨がみられる。

 

『了解!!!』

 

それに応える部隊の面々も再度気を引き締め、それは前で会話を聞いていた武も同様だった。

 

 

 

 

 

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遡った時を進め現在、事前の作戦通り目的の機体が現れるまではBETAの駆除に専念する。規模が大きい故に他の大隊や主力部隊も数多く参戦していて戦況は今の処五分五分。

既に先行部隊はBETAも人類陣営も甚大な被害を被っているが戦える衛士は皆手を緩める事なく、戦乙女達も善戦していく。

 

水月「分かってはいたけど数が多すぎるわね……此方ヴァルキリー2、状況に変化は?」

遙『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー2へ。今の処大きな変化はみられません。なので引き続き現状を維持して下さい』

 

突撃前衛長を任される水月は他より前衛をいく。普通ならば戦闘真っ最中冷静に通信を行っている暇など無いがエースと称される彼女は別格で、的確に目の前の要撃級を捌いてはB小隊の援護も加勢して辺りの群を蹴散らした頃、周囲に反応が無いのでそれを問う。

応答したのは最後尾の安全地帯に停めた装甲車内にてオペレーターを勤めるCP将校の遙。常に画面に目を配らせ更新された情報は随時チェックが成されているが、水月が恐らく聞きたいであろう事態を見越してそれ含めたあらゆる意味での解答を告げ。

 

水月「ヴァルキリー2了解。…ったく、来るなら来るでさっさと現れなさいよね…じゃないと―――」

 

変化の有無を聞き届け不満を漏らした後、水月が駆る不知火が自分の小隊に迫る要撃級へ向けて突撃し強硬な腕部を避けるように回り込むと手に持つ長刀で体躯を串刺しにしてやり。

 

水月「コイツら全部、私が駆り尽くすわよ!」

 

豪快に宣言。水月が要撃級を瞬時に仕留めた合間に他の隊員も各所で活躍する。部隊長である伊隅みちるは勿論のことそこに連なる風間中尉や宗像中尉も自身のポジションを維持しながらも状況に応じて前後交代や白兵戦等に徹し、その都度速やかに元通りの陣形を維持し安定行動に専念する。冷静かつ臨機応変な闘い方に倣い後輩達も負けじと食らい付いて割り振られた仕事だけは確実に熟す。

 

新たなOSも手伝って目まぐるしい戦果を挙げる伊隅ヴァルキリーズに周囲の部隊も士気を上げて挑む。近年では稀にみる望ましい戦況を夕呼もモニターで確認しており。

 

夕呼「流石ね。あの娘達も、それに白銀が発案した新OS…実戦で見たのは今日が初めてだけど文句なしの成果よ」

武(ああ、すげぇよ!俺が考えてた以上だ!)

 

最初から数を惜しまず投入したのも好転して準備万端でのこの防衛戦は誰の目から見ても善戦寄り。

夕呼自らの部隊がその中で一際BETAを多く倒していて機体の推進剤もまだ余力が残っている。本人は戦術機への興味がそれほど無くともやはり本懐を遂げる事には開発の甲斐もあったと少なからず喜はあるのか雰囲気に表れる。

 

その立案者である武も戦場の詳細な動きまでは見れないが次々とA-01に駆逐されていくBETAに内心で浮き立つ。

 

夕呼「このまま機動兵器が現れてくれれば戦局的にも私的にも理想なんだけど」

武「!」

 

だが次いだ夕呼の言葉に一変し武は自然と真逆の浮かない顔で画面を見る。

今まではまだ会話の中でしか出てこなかったからこそ何も感慨が表れなかったのだが、実際戦場を前にして気持ちが揺らぐ。この防衛戦でさえ武の"記憶にない"出来事でこれには判明した当時から困惑したまでも善戦している今はそれほどの動揺は無く。逆にこれまた記憶に全く存在しない従来の戦術機と全く違うタイプの機体が自分の身近に出現、こっちの方が今は悩ましいという気持ちが宿る。

 

 

Side.白銀武

 

 

俺が辿った歴史が違いすぎる…たまの親父さんが来た時にHSST落下が無かった種明かしは美琴の親父さんの口振りからして、夕呼先生が一枚噛んでたっぽいけど…。

佐渡島からまたBETAが新潟に流れて来んのだっておかしいっちゃおかしい。流石にBETAを動かす程のことはまだ関与出来る訳もねぇし…だが細かい変化から状況が変わる事だってあるのは俺にも分かる。

てか今にして思えば一度目の侵攻を俺が事前に教えたからより速く体勢を整えられる事が可能だったはず。ならBETAの撃退も自ずとスムーズにいったかもしれないよな…それで二度目の侵攻が起こったって考えでも違和感はない。

……でもよ、戦略機動兵器だ?こればっかりは簡単に受け止められるモンじゃないぞ!んな凄い機体があるならオルタネイティブ5が発動する前に絶対になんらかの動きがあった筈で、前線にだって出てた俺がそれを知らない!!

第一夕呼先生も、いや基地の誰もが知らないのに計画に入ってる訳がねー!それとも俺が世界を知らないだけで実は隠し弾を用意してたとでもいうのか!?

くそっ!考えれば考えるだけ埒があかねーし…普通に考えりゃ心強い味方がいるのは寧ろラッキーだろ?

 

…………………………………味方、だよな…?

 

って正体不明言ってたじゃん!つまり敵でもなけりゃ味方でもない―――少なくともBETAにだけ攻撃してる内は安心していいのか?駄目だ…どうにも胸騒ぎが治まらねー。

 

武「夕呼先生、本当に大丈夫なんですか?」

夕呼「なにがよ?」

 

なにがって、そりゃあ先生が待ち焦がれてるモノに決まってるじゃん。

 

武「その戦略…えっと」

夕呼「戦略機動兵器。正式名ではないけどね」

武「その事ですよ。危険はないんですよ、ね?」

 

恐る恐る聞いてみる。

 

夕呼「白銀ェ、あんた何今更?危険が無いなんて事あるわけないでしょ」

武「ぇえ!?」

 

そんで返ってきたのは決して安心できるもんなんかじゃなく。

 

夕呼「当たり前よ。殺生能力がある物は分別無く危険が伴う。それは戦術機然り、BETA然り、銃は勿論ナイフだって…」

 

武「そ、そういう事を聞いてるんじゃなくて」

 

いきなり飛躍っつーか、拡大しないでくれよ。それを言ったら俺達人間だって含まれるじゃないかよ。

 

夕呼「同じよ、要は扱う側がどうするか次第。そして私達は謎の機体を使っているパイロットの事を何一つ知らない。無知や未知っていうのは殆どのパターンで該当するけど危険と何かしら隣接状態にあるの」

 

くっ…前なら「また始まった」なんて言って聞き流すのが俺だったけど、今は先生の言ってる事が痛い位にわかる。

BETAがそのいい例だ。

 

武「……」

 

こんな事で押し黙るしかできないなんて、やっぱ俺もまだまだだな。

 

夕呼「…ま、白銀の気持ちも理解出来ない訳じゃないけれど…―――安心しなさい。あたしが絶対に危険なんかにさせないから」

 

だけど夕呼先生が自信たっぷりに言うと心強くて大丈夫だって思える自信と反面、違う意味で余計不安になるのはきっと永久に変えられないんだろうな。

 

 

Side.out

 

 

それからも暫く戦闘が繰り広げられる。

しかし時間が過ぎ連戦が続くほどに衛士の披露も高まり今までは優勢に傾きつつあった状況もいつの間にか徐々に押され始める。基地や安置までには及ばなぬも着実にBETAの侵攻は距離を詰めてきており、最前列の海岸は既に戦線領域から離れ放棄された市街地跡の廃墟も超えた崖道や荒野にまで達していて。

 

美冴「何度叩いても次々に湧いてくる、相変わらずキリがないね」

祷子「この分ですと先行組の全滅も時間の問題ですわね」

美冴「はは…そうなれば今よりも多く奴等がこちらに流れ来るだろうな」

 

茜「何時までもしつこい!でやあああッ!」

多恵「くぅ…ッ!茜ちゃん大丈夫!?」

茜「ナイス援護よ多恵!先輩方に遅れを取ってられないんだから、これくらいの事で…!」

晴子「だね。ここでへばってたら後で速瀬中尉になんて言われるか」

水月『か〜し〜ら〜ぎぃ〜、聞こえてるわよ!』

 

またA-01部隊も宗像美冴と風間祷子は突撃砲を両手に精度の高い射撃で射程範囲内の大型種を撃ち抜き、涼宮茜を始めとした元207A分隊の新米少尉も各々拮抗しているがBETAの物量に中々突破出来ないで、取り零した個体を抑えるので手一杯になっている正にその時、地上から放たれた閃光の線が空を裂いてその圧倒的なまでの存在感を示す。

 

そして―――――

 

美冴「光線級の照射!あの方向は!?」

 

迫ってきた小型種の団体を祷子との連携で全滅させた美冴が見上げ。

 

祷子「いえ、これは…!」

 

その祷子も続け様に空へ視線を移し。

 

水月「大尉!あれを!」

 

部隊の周囲に散開していた要撃級連隊の最後の一匹を長刀で絶命させた水月が直ぐ様部隊長へと伝え。

 

みちる「ああ。…やはり来たか、謎の戦術機!!」

 

伊隅ヴァルキリーズの部隊長であるみちるが応えると遅れて全てのA-01メンバー、そしてこの戦場に居る衛士達が介入者に気付く。

 

 

武「!」

夕呼「来たわね!」

 

それは最後方にいる夕呼や武達も同様で。

 

刹那「…エクシア、世界の歪みを駆逐する!」

 

射角内に捉えた飛行する物体を射抜くべく照射されたレーザーに対して機体を瞬間加速させて難なく避けるガンダムエクシア。

一通り回避すると早々に己へ撃ってきた光線級の場にライフルモードの粒子砲弾を放ち何体もの小型BETAを吹き飛ばすと空中から降り立ち、これもまた間髪を容れず急速に分散された要撃級へと突撃しては展開した刀身で真っ二つに斬り抜け次から次へ大型種を薙ぎ倒し小型種にも容赦なくライフルと左腕の粒子バルカンの嵐を降らして一掃。

 

刹那の到来で今までは拮抗していた戦況は大々的に変わりエクシアの通った道は突破口へと繋がる。

 

『な!?』

『あの数の要撃級をしかもあんな一瞬で!?』

 

偶々その場に居合わせた衛士達はその鬼神っぷりな戦いに度肝を抜かれたようにエクシアの去った方角を見てただ驚く。

 

『報告通りだ。全機通信を切り替え動ける者は直ちに前線へ迎え!』

『ガルバルディ隊了解!』

 

GN粒子による通信障害の影響を考慮した指示が下ると多少ノイズが混ざるも辛うじて繋がる音声に従い何機もの戦術機部隊が戦線に復帰していく。

何匹ものBATEの亡骸や既に朽ちた戦術機の残骸を置き去りに疾走するエクシアが最後尾の要塞級を捉える。

 

美冴「見つけたぞ!」

麻倉「香月副指令!例の機体と合流しました!」

祷子「要塞級に向かっていきますわ!!」

 

更に別の場所で戦っていた美冴達A-01C小隊も横道からエクシアと要塞級を発見し接近。

 

刹那「やはりいたか…超大型生物兵器」

 

対する刹那は美冴達の不知火に見向きもせず目の前の巨体を見据える。

ここ数日人類とBETAの戦争に介入していた刹那は当然のようにその存在を知っていて、要塞級に接触するより前に機体を上昇させる。距離を完全に把握したように巨体を飛び越えてはそれ以前にエクシアがいた箇所に溶解液が射出されるが当然そこには既に標的はいなく。

 

刹那「遅い!」

 

要塞級が背後に回ったエクシアに正面へ振り返る間もなくその際肩と胴体を繋ぐ結合部が落下時にGNソードで斬られ、そのままビームサーベルを抜刀されては尾節の結合部も斬り付けられ、その流れで逆側の肩部も同様に斬り裂かれて、トドメとばかりに頭部を真上からビームライフルに撃ち抜かれる。

 

麻倉「ッ!要塞級すらあんな軽々と!?」

美冴「まるで解体ショーだな…しかもあんな隠し武器まで持っているとは」

 

溶解液の噴射以外攻撃はおろか行動さえも許されず返り血も浴びぬ程の速さで何度も巨体を華麗な機動で斬り裂く圧巻さ、映像には写っていなかったが故に情報にない刀身全てがビームで形成された刃もしっかり確認すると流石の美冴も舌を巻く。

 

祷子「…ッ!?……こちらヴァルキリー4、対象をロストしてしまいました」

みちる『ヴァルキリー1からヴァルキリー4へ、了解した』

 

その間も接近の速度を緩めず先行していた祷子の不知火が横道を抜けて公道へと出た時には既にエクシアの姿は無く、目前に転がる成れの果て同様に2体分と思われる各部位を切断されて転がる要塞級の亡骸と辺りに飛び散る鮮血のみで。中には尾から触手を出したまま伏せた個体もおり恐らく爪状に尖った衝角で攻撃した時切断されたのだろう。

 

難攻していた防衛戦もたった一機の登場で一気に巻き返され後方部隊に大幅な余裕が生まれる。

 

茜「くっ…駄目、引き離されるばっかりでまったく追い付けない…!」

多恵「うぅ…ッ、……こっちももうちょっとで推進剤が切れちゃうよ…」

 

そしてA-01B小隊はその隙に何とか崖の頂上付近を飛ぶエクシアを捉え、走行して開けた道の地上から追尾を試みるが現状引き出せる最高速度でも僅かに届かずこのままではC小隊同様に見失う可能性が高まり、新兵にしては信じられないほど長く食らい付いている涼宮茜と築地多恵も驚異的な速度に疲労が溜まる一方となり。

 

水月「二人とも良くやった。だがもういい…お前達はA小隊に合流して確固陣形に参加しろ。あの機体は私が追うッ!」

茜「ッ!大丈夫、です!まだまだ…!!」

 

これ以上小隊での追撃は後輩二人に負担を掛けるだけだと判断した水月から出された指示に足手まといだと宣言された気になった茜は意地を張るが。

 

水月「その気概は嬉しいけど、だったら尚更伊隅大尉達の力添えになりなさい。あ、予め言うけど別にあんた達が邪魔で言ってる訳じゃないからね?」

茜「で、ですがそれでも速瀬中尉お一人でなんて無茶ですよ!!」

 

茜の考えを見透かしたような弁解を付け加えて諭すも尚も引き下がらない。言葉とは裏腹に次第に涼宮機及び築地機と水月が駆る不知火との距離に差が出始め。

 

水月「…無茶ですって?」

遙『ヴァルキリーマムより各機へ。光線級の全滅を確認、高度2千mまでの安全が確保されました!』

 

その間にヴァルキリーズのCP将校である遙からの通信を聞いた水月は―――

 

水月「突撃前衛長を、ナメんじゃないわよッ!!」

 

茜や多恵、そして追う機体へ向けて吠えた瞬間、急激に加速して突撃前衛仕様の不知火が本来なら決して行われない様な上昇走行を披露し依然と開きつつあったエクシアとの差を瞬間加速で一気に縮めていく。

 

多恵「ええええ!?」

茜「ウ、ソ…でしょッ」

 

完全に取り残された二人はあまりに荒唐無稽な出来事に驚き思考がフリーズ、今まで食らい付いてきたスピードは瞬時に態を潜めて失速していく。

 

水月「さあ、鬼ごっこといきましょうか!」

刹那「―――?後方に追跡機…エクシアの速度に匹敵する?」

 

 

最後の光線級を闘士級ごと粒子砲で撃ち抜いた刹那は周囲の異形反応が無くなりBETA前衛部隊が全滅したと判断してはエクシアを再加速させる。その途端、機内で鳴る接近警告音に訝しみ、後方モニターを拡大画面で開くと追撃してくる水月の不知火に気付き。

負けん気で追ってくる機体を躊躇無く振り切るべくしてGN粒子の放出量を上げ更に加速するも水月も負けじとスピードを増して対抗していく。

 

刹那「チィッ…あの機体、今までの奴とは違う」

 

この状況に砲撃、もしくは近接武装で白兵戦を仕掛け振り払えないならば撃墜するか否かを考慮するが水月の不知火がまだ発砲してきてもいない内に己から危害を与えるのは紛争根絶を目的とする組織の理念にそぐわず、後方に控える異形の殲滅を優先する意で己を納得させた刹那は追撃機を警戒しながらも放置する選択を取る。

 

水月「もう逃がさないんだから…ッ」

遙『水月!?茜から聞いたけど無茶は禁物だよ!』

 

最初こそ攻撃されるのではと内心ではヒヤヒヤするも一先ずBETA以外に戦意をみせない目標に一寸の安堵を覚え。

それでも一切の集中力を途切らせる訳にはいかず細い一本道に差し掛かった処で改めて操縦桿を握る拳により力が込められる。直後に単独先行を聞き付けた遙からの通信が届く。

 

水月「大丈夫だってッ…こんなの神宮司教官の鬼扱きに比べたら…!!」

遙『でも……』

水月「それに―――」

 

虚勢を張っている様子が無いのは親友として伝わるが、それでも心配事は拭えぬといった表情を操縦の傍らで見ると対妨害技術である程度GN粒子の影響を緩和させた前方を映した機体の映像データを転送し。

 

遙『!これって…!』

夕呼『…へぇ』

武『ッ!?…マジかよ』

水月「あいつの前の方が案外安全だったりして…勿論、追い付ければの話だけどね…ッ!」

 

送られてきた映像を見た遙、それに武までもが息を呑む。対して夕呼は特別驚いた様子は無いが感心の意を宿し。

水月の前を飛ぶエクシアが少し前に後方のBETA群と遭遇し間もなくまず突撃級へ距離が縮まるまでの間ライフルモードの粒子砲を絶え間なく撃ち続け、直進のみの個体は一切誤射なく命中。装甲殻ごと身を射抜かれた突撃級は何体も転倒して真後ろの同種に弾き出され、そのBETAも前へ出た途端ビームの餌食となり同様の屍が出来上がる。そして接触した矢先に両肩から柄を2本手にそこから粒子砲同様のビーム刃を形成して縦横無尽に振り回し次々と突撃級を両断。

 

前衛が全滅すると続いて現れた要撃級の群。ビーム刃から両腰側部にマウントされた短長二種のGNブレイドに持ち変えてはこれも特段苦もなく片っ端から斬り裂いていきBETA側は反撃の隙すら与えられず、またただでさえ崖道の横幅に余裕がないのに加えそれがより狭隘な場に差し掛かるとブレイドからGNソードに再度切り替え、振り下ろしたまま推進していくと粒子を纏った実剣は縦から真っ二つに切断。狭隘な道がBETAの屍で埋め尽くされていく。

ここまで開ければ光線級のレーザーが飛んでくる筈も今は亡き最前線組が奮闘したのだろう、その姿は何処にも見当たらず遙が言った光線級全滅の報に誤りが無かったのが証明される。

勿論この際には水月も速度を緩め二挺の突撃砲で一応エクシアを支援する形を取るがあくまで距離を合わす為の行為であり、現に今も尚追撃機を抜かず離されずに食らい付いている。

 

水月「それでも奴等の薄汚い血が何故か私の不知火にだけぶっかかるのは癪に障るけど、ねッ!」

 

この言葉通り高速白兵戦によりBETAが斬られる度に噴き出す暗赤色の体液はエクシアには殆ど付着せず代わりに水月の乗る不知火が余計に被さる嵌めに。

そうしている内についに崖道を抜ける頃には大型種は殲滅され要塞級も予め全て倒していたのか残るは小型種のみとなる。

主に戦車級のみで編成された群を上空から突撃砲で撃ち抜き続ける極めて単純な作業を熟す間もエクシアから注意を離さずに、刹那も不知火の動向を探りつつ戦車級へ淡々とビームライフルを放ち。

 

『こりゃすげぇ…』

『ああ、文字通りBETAの死骸が山になってるようだぜ…』

 

『第404戦術機甲部隊、並びに各突破部隊機へ告ぐ。残りは戦車級のみとは言え油断せずに排除作業にかかれ』

『了解!』

 

暫し砲撃を続けていると追尾隊や別動隊の不知火数機を先頭とした撃震等の戦術機が各所の道から海岸まで到着し、惨状に息を詰まらせつつも散開してそこかしこに蔓延る戦車級へと攻撃を開始していく。

 

水月「厚木基地の部隊…?いや他の所属部隊も。やっと追い付いたって訳ね」

 

援軍の到着に水月も気付くと網膜投影モニターに映る残弾が僅かなのを見て砲撃を止めると戦況を伺いつつエクシアへ更なる注意を払ったその時。

 

刹那(そろそろ潮時か)

 

先程まで粒子砲を放っていた動作を留め加勢してきた国連部隊が難なく戦車級を駆除していく光景を確認すると戦線から退けようと機体を下がらせていく。

 

水月「!まずい…ッ!」

 

それに間髪を容れず気付いた水月が並走姿勢を取った時には既にエクシアは空域から離脱すべく海上方向へ飛び、潜水で姿を眩まそうと機体を降下し始め。

 

水月「高度を下げた?それにそっちの方角は……ま、まさか海の中に!?」

 

目標の機体の行動理由に加え進行方向を見て疑問を抱くも直ぐに理解した水月だが、水陸両用のガンダムとは違い戦術機は海中にほぼ適性が無くその事を知らずまでも潜られたら見失う可能性が高いと予測し、然しただ見逃すわけにもいかず水月の不知火も刹那のエクシアに追尾を再開し。

 

刹那「……!」

 

機体を海面に向けて尚も降下する最中、今まで散々追撃してきたと思わしき深紅に染まった不知火が再度接近してくるのをレーダーが反応して捉える。

刹那も後方へ振り返り先程までいた海岸沿いも視界に移すと今も援軍部隊がBETAへ砲撃や斬撃を浴びせる光景が遠目から見え、そことは別の高く聳える岩山を挟み遮蔽された地点に佇む一機の戦術機を発見し。

 

衛士「応援もきたんだ……大丈夫、きっと助かる…」

 

右腕部が間接から千切れて飛躍ユニットが取り付けられてたであろう接続部もそれより先が喪失され所々異常が重なり動けぬ撃震。

今まで隠顕に徹し偶々運良く見付からずに済んでいたのだろう。その機体の女性衛士は管制ユニット内で祈りながら機が訪れるのを必死に待つが……

 

衛士「ッ!?く、来るなッ!!!」

 

ついにその存在がBETAに見付かる。岩山や海を伝い己の撃震へ向かう6匹ほどの戦車級に気付くと無我夢中に操縦を試みるも、結果は虚しく機体は殆ど動かず悪足掻きに終わり。

 

刹那「………チィッ!」

 

後方カメラを拡大で映し一部始終を見た刹那は暫時悩むも直ぐに機体を急速旋回し着水寸前で大量の水飛沫を上げながら急加速で引き返す。

 

水月「え、ちょっ!?くぅうううッ!!…あーもう!なんなのよ!!」

 

その突拍子もない行動に訳もわからず見開く水月。

追い掛けていた筈の機体がいきなり反転しては自機へ向かってきて間もなく擦れ違い、続け様に水飛沫を被ると衝撃で身体が揺れ思わず目を瞑るも間一髪で機体を停止させ水没だけは免れるとめげずにエクシアへとまた不知火を飛ばし。

 

水月「!!」

 

撃震へ向かうエクシアを追う事で漸く水月も今まさに戦車級が中破した機体の脚に組み付く窮地を捉える。

 

刹那「くっ…」

女性衛士「えッ!?」

 

然程距離はなかったのか直ぐに到達すると恐怖を抱きながらも接近してくる正体不明機に驚愕する。

撃震の左腕を掴んで上昇しその間際にGNソードのライフルモードで2体の戦車級をまとめて撃ち抜く。

 

水月「あいつ…!」

刹那「………」

 

その場から上空へ飛ぶことで一時の危機は脱するも片脚部に纏わり付く戦車級が1匹、対して使える武装は右側のマニピュレーターにマウントされたGNソードのみでGNバルカンは使えず、仮にライフルモードの粒子砲またはソードを放棄してGNバルカンの使用を可能にしようにもこのまま攻撃すれば安定感の無い撃震に当たる確率も考慮し、更に後方には未だ追撃する不知火を確認した刹那はエクシアの加速を徐々に緩めていき態と水月に追い付かせるような行動を取り。

 

水月「!…私にやれっていうわけ?ったく、散々自分勝手に暴れて今度は協力を仰ぐなんてね…」

 

意図を察した水月はそんなエクシアを睨んだ後迷いなく突撃砲の銃口を戦車級の頭らしき箇所に向け―――

 

水月「ありったけ受け取りな!高く付けてやるから覚悟しなさいよ!」

 

残り全ての弾丸を撃ち込み戦車級の手足が吹き飛び身がバラバラになって地へ落ちていく。

 

 

 

 

 

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助けた撃震を安置へ送り届ける為第2次防衛戦の最後尾まで水月が誘導の下訪れると無事別部隊に引き渡して現在、刹那のエクシアも水月の不知火もお互い見合って動向を伺う。

 

水月「………」

刹那「………」

 

然しこれ以上この場に留まる理由が無い刹那は機体を逆方向に反転して一歩踏み出した瞬間。

 

『おっと、待ってもらおうか』

刹那「ッ!」

 

いつの間にかエクシアの周囲を前後左右斜めまで機体が通れる隙間なく不知火が降り立つ。

 

みちる「折角来てくれたんだ、歓迎くらいさせろ」

美冴「でないと此方も無作法というものだろう?」

祷子「ご要望とあれば、腕に縒りを掛けた演奏もご一緒させていただきますわ」

水月「逃がさないって言ったでしょ」

茜「……ッ」

多恵「茜ちゃん…」

晴子「チェックメイト、だね」

麻倉「これでやっと」

高原「何処にも行けないはず…」

 

計9機の伊隅ヴァルキリーズの不知火がエクシアを囲うように隊長であるみちるを正面にそれぞれ立ち塞がり、陣形には参加してないも気付けばそこかしこに同タイプや形状の似た機体群がこの場に居るのを認識して。

 

刹那「またGN粒子の通信妨害を掻い潜ってきた?…やはり拠点まで来たのは失敗だったか」

 

何度か経験した音声のみ一方的に此方へ送る会話に応答はせず。

無表情にそれらを見て上空へ飛んでも前の水月と同様に追ってくるだろうと予測して、それでも振り切る自信があるのか飛翔しようと意を固めた瞬間。

 

『初めまして…でいいのかしら?』

刹那「!」

 

今度はノイズ混じりも無い確りとした声が刹那の耳に届く。

 

夕呼「漸く会えたわね。俺がガンダムださん」

 

エクシアを囲い進行の妨げとなる複数の機体、その向こう側から軍事用の装甲車が此方に走行してくる光景が画面に映り、次いで届いた言葉に刹那の瞳が鋭くなりその真意を探り。

 

遙「ヴァルキリー1の対遮断光学カメラ起動、修正完了。モニターに映します」

 

車内に数ある通信危機と違う無線機を手に取り不適な笑みを浮かべる夕呼。その間にオペレーター席に座る遙が精密機材に繋がれたキーを慣れた手つきで操作し今まで録られた物より鮮明なエクシアの映像を伊隅機より映し表示する。

それを見ては更に笑みを深め。

 

武「GUN…DA…M……ガンダム…?あれが――」

 

数ヶ所の拡大映像も同時にアップされるとその頭部、装甲に刻印された[GUNDAM]なる文字を目にして武が呟く。

 

刹那「……何者だ」

 

今日この日、この地に降り立って以来の刹那と国連軍の対話が成立する。

 




満を持して出会った武と刹那

人間を淘汰し得る絶望に、新理論確立の希望が生まれ

次回
「オルタネイティブ計画」

その男、運命に抗う

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