〜機動戦士ガンダム00×オルタネイティブ〜   作:ガンダム・刹那・FF・セイエイ

6 / 8
第6話「決意の瞳」

純夏「タケルちゃんがこの世界に来たのも因果導体にされたのも全部わたしのせいなの!」

武「なッ!?」

 

急に己の核心を告げられ驚愕する武、そして純夏から語られた真実。

脳と脊髄のみにされた純夏の「タケルちゃんに会いたい」という想いと平行世界で武が他の人と結ばれた際の純夏の嫉妬が全て集まり偶然淡さり、本来なら絶対に発動しないであろう卓越された力が働き武を地獄そのものなこの世界に呼び寄せてしまった事。

その中で何度もループし、純夏に辿り着くまで悲惨な経験を繰り返させてしまい漸く前回会えたのだが結果は恐らく伴わなかった事実を告げる。

 

武「じゃあ…俺は…」

純夏「何回繰り返したか分からないけど、わたしの記憶では3回目なんだよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、自然と全て納得した様子で。

 

夕呼「あたしと社は鑑が目覚めた一昨日から聞いて知っていたけど、それでも第4計画や社の出生を知っても、極めつけに鑑を見ても妙に落ち着いているから気になってたのよね。あんたも実は薄々気付いてたんじゃない?」

 

横槍を入れたのは純夏に説明を委ねた夕呼で、普段なら見知らぬ事情には焦り散らす武がらしくない態度を取るのに指摘する。現にガンダムに対してだけはかなり動揺していて。

 

武「あ、……いや………気のせいだと思ったんですよ、本当。けど純夏を見ても俺はこうなる事を、00ユニットやあの脳が誰か知っていた様な感覚があって。でも夕呼先生に話したようなハッキリとした主観記憶がある訳じゃないから」

夕呼「…前回の記憶にロックが掛かってるか」

 

それを聞いた夕呼が推測を立て。

 

夕呼「鑑も実際確りとは覚えていないみたいだし…」

武「えっ…?」

純夏「…ごめんね、タケルちゃん。わたしが覚えてるのは前回漸く副司令がわたしを完成させたのと、タケルちゃんに調律して貰った事、わたしの意地で喧嘩しちゃったけどそれでもタケルちゃんが受け入れてくれて、甲1号目標の重頭脳級を倒した事だけなの…」

武「…あ」

 

申し訳なさそうに告げた純夏の言葉を聞いて武の脳内で鮮明な記憶が蘇る。

最初の理論が完成しない為平行世界に戻りそちらの夕呼から数式を持ち帰った事は時間の違い以外今と同じく。新しいのはそれから因果導体質のせいで純夏以外の人物は特定出来ないが平行世界の純夏を含む何人か犠牲なり影響を受け何十億の人が危険に晒され、此方に帰ったら00ユニットが完全していて脳髄が純夏本人だと明かされた事、当初は虚ろな目でBETAに対する殺意以外の意思が欠落していて調律でなんとか回復し、純夏の拒絶と記憶を見せられたが最後には結ばれた事、そしてオリジナルハイヴを攻略してあ号標的を倒した事。

しかし記憶が飛んでいて誰を失ったり何をどうしてハイヴを攻略したかはまだ明確には思い出せず。

 

武「…兎に角今はまた一緒に居れる、んだよな?」

純夏「……いいの?」

 

考えても仕方ないと一先ず区切れば純夏を真っ直ぐに視線を向け、告げられた言葉に聞き返し。

 

武「いいもクソもあるか!つーかさっき散々引っ付いてきて何今更なこと言ってやがる。俺はお前が傍に居なきゃ俺じゃないんだって前にも言っただろ?」

純夏「タケルちゃん…」

夕呼「…恋人気分を楽しむのは後にしなさい」

 

見つめ合う二人に再度注意が飛ぶと姿勢を正す武と純夏。そんな様子とこれを見ても無表情な刹那に夕呼は本日何度目かの溜め息を吐いて。

 

夕呼「鑑がそういうなら、白銀が平行世界から来たというのはこれでほぼ確実として。問題はどうしてまたループしたか」

 

このまま純夏に任せていたらまた良い雰囲気等で話しが進まないと思った夕呼が再び率先して話す。

他の者も武と純夏のやり取りから全員夕呼に注目を戻し。

 

夕呼「これは十中八九鑑と、それから白銀自身に何かあると思うわ」

白銀「俺達…自身に?」

 

原因が武達だと推測する言葉に己を指差し。

 

夕呼「それはそうでしょう?前の世界群で原因だった鑑の想いが何らかの形で解決して白銀は因果導体から脱却した…にも関わらず再び世界は巻き戻り、それによって原因がまた発生して白銀をこの世界に再び留めた―――または白銀自身がこの世界の滞在を懇望した」

武「!!」

 

思い当たる節はありまくるといった表情の武。記憶が曖昧で断言は出来ないも前の結末を何処か認められず、その想いが意外な位大きかったのを理由云々抜きに強く自覚して顔を顰める。

 

夕呼「どうやら図星みたいね。…続けるわ。今の白銀は結局は前回の延長線上で半因果導体であり仮に力に干渉するだけの思念が生まれたとしたら……差し詰め今のあんたは時空特異点に極めて近いけど原理やらは逸脱しているナニカといったところかしら。それがこの世界と白銀を強制力で繋ぎ止めてる…或いは思念の中にこの世界の元々の白銀である残留思念も混ざり結果を確立し易く、そこからこの場に居る白銀を構成しているか」

 

仮説を前提として純夏から聞かされた話しも組み込み推論を並べる。

 

夕呼「これなら異世界単位で遥か離れた宇宙の存在…かもしれないセイエイをこの世界に引き込むのも可能だと考えるわ」

刹那「……」

 

刹那へ目線を向けて。

時間や空間にも縛り概念が適用されないならば原因が解消される前に戻り、再びこの世界に因果導体の武を戻すのも、その力に干渉して平行世界の武の変わりに溢れた思念を媒体にするのも、外宇宙の刹那をこの宇宙のこの地球に降ろすのも可能だと推察し。

なので最初に夕呼が"だった"と表現したように今の武は半分は因果導体でもう半分は特異点である存在と仮定する。

 

夕呼「あとは何故そんな現象が起きたか、白銀は自分が因果導体から脱した原因を覚えている?」

武「……いいえ」

 

その問いに首を横に振る武に「そう…」と一声漏らす。

 

純夏「………しょうがないな〜、タケルちゃんは」

武「あ?…って!す、純夏お前!まさかそれも覚えてるってのか!?」

 

横から聞こえる純夏の言葉に武をこの世界に呼んだ張本人ならばと思ったのか唯一記憶を共有する相手へと期待の眼差しを向ける。

 

純夏「へ!?い、いや覚えてないよ!?わたしはただタケルちゃんの忘れっぽさに呆れただけ!」

 

しかし返ってきたのは期待外れの言葉だが、それよりも見事にブーメランな物言いに。

 

武「な、なにをーッ!んな事言ったら純夏だって忘れっぽいじゃねーか!!」

純夏「あいたーーっっ!」

 

チョップを降り下ろすと共に猛反論する。それを喰らった純夏も頭を押さえ涙目で睨み付け。

 

夕呼「……兎も角、二人の証言から恐らく第一条件が白銀が鑑に辿り着く事、第二条件がオリジナルハイヴの制圧。こんなところでしょうね」

 

気付けば頬を引っ張り合い戯れる二人へ最早気にせずといった風に観念して続ける。

 

遙「では当面はオリジナルハイヴ…でしょうか」

夕呼「そうね」

 

今まで記録に集中していた遙が口を開き、その問いに夕呼も肯定する。その間も霞はずっと沈黙していて。

 

刹那「…どうした?」

霞「え…?」

 

その様子を訝しんだ刹那が霞へ視線を向けて。

 

刹那「言いたい事があるなら言った方がいい」

霞「あ…………いえ、なんでもありませんっ」

夕呼「はいそこ。あまり社を困らせないで」

 

次いだ言葉に間を開けるも何でもないを装い、その反応に余計疑問に思うも直ぐ様夕呼の横槍が入り別の話題に持っていかれ。

 

夕呼「二人の記憶が戻る度に何かヒントも出てくる筈。それよりも今はセイエイをどうするかよ。原因解明や送還方法は現時点では不明だし、いっそ判明するまで此所に滞在する方が懸命だとあたしは思うけど」

刹那「…此所に?」

 

今のところ手詰まりだと告げならばと提案を持ち掛ける。

 

夕呼「ええ。仮に白銀が原因だとしたら近くに居た方がいいでしょうし、1ヶ月前の行き詰まった状態から推定した予定よりも随分速く00ユニットが完成したし余力も十分。力を貸してくれるならあたしも全力でバックアップするつもりよ?あんたの世界での在り方を見るに入隊は抵抗あるだろうから、正式な軍の傘下に入らなくてもあたし直轄という事で進言しておく。……かなり破格の条件じゃないかしら?」

 

言うようにそれは間違いなく破格の提案だった。要は国連軍に属さずとも夕呼にさえ協力していれば問題無いわけで。寧ろこの様な無茶苦茶な事柄が通るのかと疑わしく思うが、それを可能に出来るだけの権限を今の夕呼は有している。

秘匿の一つや二つ増えた処で今更であり、それが人類にとって圧倒的に有利に働くのなら本質的には国連内で不服に思う者はいないだろうと。

また組織の活動が出来ないこの世界では刹那も行動の制限はほぼ無く。

 

刹那「…確かに悪くはないが、実際俺はなにをすればいい?」

夕呼「そうね。強いて言えば……今まで通り武力介入、して貰おうかしら」

 

 

 

 

 

―――――――――――

――――――――――

―――――――――

――――――――

―――――――

 

 

 

 

 

遙「でも本当によかったの…?」

刹那「……何がだ?」

 

全員での協議を終えて目先の方向性も定まると一先ず解散し、刹那は割り当てられた兵舎の一室を借り更に基地内に居ても違和感が無いよう国連軍の野戦軍装を支給されてそれに着替えを済ました頃。

サポート役を任された遙も同行してノーマルスーツからジャケット姿になった刹那を眺めながら問う。

 

遙「国連軍の私が言うのもおかしいけど、セイエイ君が副指令に協力する為にこの世界の戦いに参加してもいいのかなって。…軍にいるの、抵抗ない?」

 

結局夕呼の提案に同意した事について再確認したようで、元の世界での刹那の立ち位置も鑑みて心配している様子を見せ。

 

刹那「構わない…何処に居てもやる事は変わらないしな」

 

そんな遙に対して寝台へと腰を下ろして顔も向けず目を閉じたまま端的且つ淡白に答える。

 

遙「…そっか。私達としてもセイエイ君が協力してくれると心強いけどね…」

刹那「………」

 

悪く言うと冷めた装いだが気にした様子も見せず。

微笑を浮かべる遙に尚も反応が薄い刹那。

 

遙「本当に……神様が与えてくれたチャンスみたいだよ…」

 

胸に両手を当てて染々と感慨深く囁くように前の戦場で見せたガンダムの力は人類の難敵に対して有利を通り越し殆ど一方的な殲滅を可能としていた。

 

思い返すだけでも無意識に勝てると自信がつく程なまでの力に自然と呟いた言葉。それに珍しく刹那から反応を示す。

 

刹那「…この世界にも、神なんていない」

遙「…え?」

 

ハッキリと反発する言葉に伏せ気味な顔を上げるといつの間にか遙を見ていた刹那と目線が合い、その鋭く通って己を射抜きそうな眼差しに思わずたじろぎ。

 

刹那「そして俺も……戦う事しか出来ない破壊者だ」

 

尖った視線を向けたまま立ち上がりその場で遙を見続け、刹那の形相に何を意味して発せられた言葉か理解が追い付かないでいる。

 

遙「……それはあなたも……BETAと同じってこと…?」

 

然し意外にも自然と出てしまった言葉。彼が話した向こう側での在り方は世界を変革させる為に武力を以て戦う事、それは他者からすれば大規模兵器を使ったテロにも等しく…それ故に自然と漏れ出た言葉かは当の遙も判らず。

 

刹那「…或いはそうかもしれない」

 

それを否定しない刹那。根本的には違えども"あの戦い"を経て己が破壊者に過ぎないと再認識した。それでも―――

 

刹那「それでも俺は戦う。世界を変える為に…」

遙「………」

 

今度は迷いなき目で。これ以上は遙も何を喋ればいいのか判らず、不透明な思考だけが残り。

 

その後は何も無かったように振る舞い時は過ぎ、サポートを任された為に刹那の隣部屋へ移住の変更を課せられた遙は荷物を整理しに一度自室に戻る。

「困った事があればいつでも」との声に「必要ない」と返された時には少なからず不満を抱いたも、ただそれが遙の頭を占めて机の前の本を持ったまま沈黙しているわけではなく。

 

遙「孝之くん……」

 

囁いたのは嘗ての想い人の名。今は亡き彼にも戦う理由がありそれは自分も、人類も皆持ち合わせている。

 

遙とて不意に思う時がある。この世界の命は一瞬で散り行くほど軽く、直ぐに誰かが逝ってしまうと。

 

遙「この世界に神はいない、か。……確かにいたら…恨んじゃうよ…」

 

果たしてそういう意味で謂われたのか、刹那の言葉を今一度紡ぎ答えの出ない思考で、ただ明確で揺るぎないのは一つだけ。

 

遙「…決着がつくまでは、止まれない」

 

黙々と部屋を片付ける中に遙の意志が響く。

 

 

 

 

 

―――――――――――

――――――――――

―――――――――

――――――――

―――――――

 

 

 

 

 

夕呼「で?」

純夏「…えっと…?」

 

武、刹那、遙、霞の4人が執務室から退席した後も次の【甲21号作戦】の細部を話し合うという名目で残った純夏に向けた夕呼の声に当人は首を傾げ。

 

夕呼「呆けてるんじゃないわよ。…白銀に言わなくていいのかってこと」

 

その反応に呆れ顔を浮かべ掻い摘んで補足する。

 

純夏「ああ〜〜…なるべく心配させたくないなって。タケルちゃん、あの様子なら覚えてないだろうから…あ、それにほら!香月副司令に対策もして貰いましたし!」

 

それで合点がいき掌を叩いて表すと暫し間を置いて心情を吐露し、あっけらかんと言ってみせる様子だが身持ちより表情は曇りが帯びそれに気付かない筈もないといった感じに。

 

夕呼「対処と言っても一時凌ぎみたいなものよ?」

純夏「うぅ〜…やっぱり駄目ですか…?」

 

敢えて要所のみ指摘してやると純夏も暗い顔を隠さなくなり尋ね。

 

夕呼「駄目かどうかなんて、計画に支障が出ない範囲ならあたしが決める事じゃないわよ。飽く迄二人の問題なんだから」

 

これも現実的で一切の私情を挟まぬ意見を述べて回答する。とは言え当然の事を言っただけで。

 

純夏「………」

 

正論に押し黙る純夏。膝に着いた拳がギュッと握られ迷いある瞳。

 

夕呼「…あたしから言えるのは此れだけ。兎に角、悔いは残らないよう事に当たりなさい」

 

それを見兼ねた夕呼から溜め息が漏れると内心で「ホント、白銀と似た者同士」などと思いつつも微笑を浮かべ年配者としての助言を授ける。

 

純夏「……大丈夫です…。わたしもタケルちゃんも…きっと大丈夫…」

 

夕呼の言葉に俯いた顔を上げて、ソファーに座る腰が浮きそうな程身を乗り出し何度も大丈夫だと唱えた。純夏の瞳は一時の迷いが消えた決意に満ち―――

 

 

 

 

 

―――――――――――

――――――――――

―――――――――

――――――――

―――――――

 

 

 

 

 

遙が自室に戻り漸く部屋に一人になれた刹那は先ずは情報の入手と再確認の為に動く。国連が持つデータを一定の機密部分まで残されたタブレット(曰く階級も持たぬ特別待遇の刹那が情報に疎いのはマズイとの談で)を夕呼から貰っており、それを手に序言された通り片っ端から情勢や歴史等を閲覧していく。

 

刹那「カシュガルに甲1号が落ちた後は…気になるのは東西ドイツでの項目か」

 

機密ベースに記された部分に着目したのは光線級の先行駆除を目的とした通称・シュヴァルツェスマーケン、中核を為していた第666戦術機部隊は18年前に解体され、BETAの侵攻により母国を失ったドイツ軍も今は殆どが主に国連のフィンランド欧州連合傘下に加わり散々した、と書かれ当時の詳細はほぼ無かったがドイツという国家内で内紛が起きたのは記事にも伝わっている。

 

刹那「他は…この基地に居る御剣冥夜…」

 

XFJ計画項目までこれまでの重要事項や過去の文献にも一通り目を通した後、注意したのはこの横浜基地に居るメンバー。

此所に来るまで自分を追い囲ったのは香月夕呼が直轄の特殊部隊A-01で、それぞれ00ユニットの適合候補者で構成。更に訓練生に国連事務次官や内閣総理等の"ワケアリ"の子が多く属し、その中でもこの世界の日本の内政からして注意すべき者の名を見る。

政威大将軍の煌武院悠陽の双子の妹であり将軍家縁者として秘匿された女性。

 

刹那「…必要が無いなら、関わらないに越した事はないか」

 

以上の面々には関与しないのが最良と判断するも元から人との関わりを避けている刹那には杞憂だろうと、本人自身も自覚して次はBETAや戦術機含む兵器について調べようとした時扉から声が響く。

 

『お〜い、居るんだろ刹那?メシ食いに行こうぜ!』

 

その騒音に内心では憂鬱やら鬱陶しいやらまだ面識も浅い声の主に色々と酷い心情を向けつつも寝台から立ち上がり静かに扉を開く。

 

刹那「…白銀武」

武「よっ!つーかフルネームかよ?かたっくるしいなぁ…俺の事は気軽にタケルって呼んでいいぜ」

 

姿を現した刹那に呼ばれ不満気に尚且つ気安そうに砕けた言葉で目の前に立つ武へ更に刹那は面倒そうに。

 

刹那「何の用だ?」

 

その心情を隠しもせず訪問理由を短く問い。

 

武「いやいや、だからメシ食いに行こうぜって。つーか刹那こそ電気もつけないで何してたんだよ?」

刹那「……この世界についてだ」

 

そんな刹那にも遠慮なしに来訪時と同じく名前で呼んで臆しもせず要件を告げた直後、向こう側の部屋が真っ暗なのに気付いて覗き込みながら逆に聞き。

そんな武の顔を手に持ったタブレットで覆い視界を遮り、予め周囲を確認してからこれも端的に答える。

 

武「へぇ〜…まぁ勉強熱心なのもいいけどよ、息抜きも必要だろ?」

 

漸く距離を置いて腕を組み感心する様子は兄貴面しているようで、実際一つ上なのとそもそも関心の無い刹那は気にせず。

 

刹那「必要ない」

 

きっぱりと断る間も身動きせず表情を一切変えず。

 

武「ぐぬぬっ…!そ、そう言わず頼むよー!皆に連れて来るって言っちまったんだ〜!!」

 

頑固を通り越し一切関心を示さない様子にしびれを切らした武は遂に両手を合わせて深々頭を下げながら懇願してきて。

 

刹那「―――…あまり騒ぐな」

 

視線を張り巡らせるとそこかしこからこの事態に此方を伺う通り掛かり、或いは移住者の数名が見え、注目されるのをよしとしない刹那が折れた様に部屋から出て扉を閉める。

その行動に肯定と見出だした武はガッツポーズで。

 

武「よっしゃ、それじゃ早速行こうぜ」

刹那「………(これなら、沙慈・クロスロードの方がまだ簡単だった)」

 

先程までの情けない姿から一転して歩み出し、そんな後ろ姿を眺めつつ今は遠い少し前の隣人を思い出して後に続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茜「お、きたきた!」

千鶴「やっと来たわね」

美琴「遅いよタケル〜。待ちくたびれてボク達もう鑑さんと大分仲良くなったんだからねー?」

純夏「あはは!タケルちゃんの遅刻魔〜!」

 

連れられたPXの中央テーブルに座り賑やかに声を掛ける面々を見て更に憂鬱になる刹那。そして何よりもつい先程関与を拒んだ者達の一同に会すこの場に珍しく額を押さえたくなるかの如き頭痛を味わい。

 

武「わりぃわりぃ、刹那が中々口説けなくてさ」

冥夜「タケルは多少強引なところがあるからな。そなたも災難であったが、許すがよい」

壬姫「はじめましゅ…ッ、あう〜〜〜」

 

そんな刹那を余所に頭を掻きながら純夏と冥夜の間の席へ向かう武と代わりに謝る冥夜、その隣で盛大にかむ壬姫。

 

刹那「………」

 

最早言葉も発せられない事態に然し今更引き返すのも余計に面倒事へ発展しそうだと予測し、余所者という点からも穏便を求めて停滞を決め極力離れようと、一角のテーブル内で空いている席は幸い霞の隣側。

 

霞「…どうも」

刹那「…ああ」

 

物静かな彼女なら無駄な話をする心配も無くワケアリな処遇は寧ろ機密人物同士で心得ている為、安堵して着席すると案の定一解釈のみで終わり。

 

遙「えっと…さ、さっきぶりだね…?」

刹那「…荷造りは済んだのか?」

遙「あ、うん。今日から隣人だね」

 

更に隣には部屋まで案内された本日付で名目上サポート役となった遙。前のやり取りで気まずさが残っているのかぎこちない様子にも刹那は淡々と接し。

これならばと思った途端に目の前にガンッ!と景気のよい音を立ててグラスが刹那へ。

 

水月「また会えたわね」

刹那「……誰だ?」

 

グラスを差し出した手の主へ向けば満面の笑顔。

 

見覚えの無い顔に直球で尋ねる刹那。

 

遙「……戦闘中に君を追い掛け続けてたって言えば、伝わるかな?」

刹那「…あの時の機体のパイロットか」

 

当人が答える前に遙が耳打ちで教えると疑問が解けた刹那がグラスを受け取りながら改めて見て。

 

水月「戦闘中は世話になったわねぇ。約束通り倍返しでお礼しに来たから覚悟しなさいよ?」

 

どうやら一筋縄ではいかない事を痛感した、尤も表情には微塵も出さないが。

 

刹那「…騒がしい奴だ」

水月「ぬあんですって!」

 

刹那の正直な気持ちに当然食って掛かる水月。

 

まもり「速瀬中尉」

 

そんな刹那に救いの手が。

 

水月「あ、あはは〜…倍返しは後日にとっておくわ」

 

丁寧な階級呼びと共に向けられたまもりの鋭い目、水月は掌で口許を隠して笑みで誤魔化す。

 

まもり「全くお前達ときたら。彼の言う通り騒がしいにも程があるぞ」

夕呼「あら、あたしは嫌いじゃないけど」

まもり「…副司令ェ?」

 

普段から見慣れている光景にも精神疲弊した様子で頭を押さえボヤくまもりを眺め愉快そうに笑う、そんな夕呼を怨み籠った目で訴えるも尚も態度を崩さずに改めて周囲を見渡す。

 

夕呼「何人か来れないのもいるけどあまり増え過ぎると混迷するから、今は主催の207B分隊と元207Aを代表して涼宮茜、本来なら伊隅を呼ぶんだけどサポート役に考慮してA-01から速瀬。とりあえずこれらを紹介するわね」

 

同様に仕切り始めた夕呼に一同は改まり。

 

夕呼「まずは面識ある白銀以外の207B分隊から」

千鶴「はい!…紹介の通り207B訓練部隊の分隊長を勤める榊千鶴よ」

美琴「ボクは鎧衣美琴!宜しくね!」

壬姫「珠瀬壬姫です!」

慧「彩峰慧」

冥夜「御剣冥夜だ。もし分からぬ事があれば何時でも頼ってくれ」

 

分隊長である千鶴が真っ先に、続いて美琴、今度は壬姫も噛まずに言え、慧は普段通り短く、最後に冥夜が確りと。それを聞いたら早々に次へ。

 

夕呼「で、第一期に卒業して任官したのとその訓練兵を指導するのが」

茜「涼宮茜少尉よ。速瀬中尉とは同じ部隊で、そのA-01の涼宮中尉の妹でもあるから宜しくね」

まもり「そして私が衛士訓練学校の教官職務を預かる神宮司まりも軍曹だ」

水月「まぁ茜が言っちゃったしこのまま私も紹介した方が手っ取り早いわね。特殊任務部隊A-01第9中隊・伊隅ヴァルキリーズの突撃前衛長を務める速瀬水月中尉よ」

 

茜、まりも、最後に流れに沿って水月が名乗る。

 

夕呼「涼宮…ああ、姉の方だけど。は二人に先に紹介したし207Bにも白銀達が来る前に済ませたから、皆知ってる社や白銀も含めて省略して…」

 

そして目線で斜め前の茜の前に座る純夏とまりもの前に座る刹那へ視線を巡らせて促し。

 

純夏「あ、はいはーい!鑑純夏です!タケルちゃ…白銀訓練兵とは幼馴染みで、明日から207B分隊と行動を一緒にする事になりました!」

 

向けられた視線で察した純夏が一早く立ち上がり挙手と共に元気よく名乗る。

分隊の面々は既に彼女が(名目上は正式に)試験合格扱いで加わり専用戦術機が届くまではCP等に徹する事情を聞いていて、武の前例があってまた試験も既に突破済みなので誰も不平不満は出ず、更に武が刹那を連れてくるまで結構話しも弾んだようで全員受け入れていて。

 

千鶴「ま、まぁ…精々期待しておくわよ」

 

それは特に衛士試験に躍起になっていた千鶴も同じで照れ臭そうに遠回しな歓迎を告げ、純夏の紹介は一段落する。

 

夕呼「……で、社と涼宮の間に居るのが刹那・F・セイエイ」

 

その流れで…とはいかず腕を組んだまま口を開かない刹那をやむを得ず代わりに夕呼が紹介する。

 

夕呼「実際に戦場で見た者…207Bには夕刻映像を見せた例の対BETA特攻戦略機動兵器、ガンダムエクシアの衛士よ。御覧の通りに無口だけど気にしないで…衛士には良くいる人柄でしょう?」

 

透かさフォローするも尚も黙りの刹那に場も沈黙してしまい。

 

その沈黙を破るように遙がグラスを持ち。

 

遙「そ、そんな事よりも!折角訓練兵の皆が提案して、香月副司令がPXを貸し切りにしてくれたんだしッ!乾杯しよ!?」

水月「は、遙…?」

夕呼「……へぇ〜」

 

席を立ち丁寧に両手を添えたグラスを胸元まで持ち上げ控えめだが精一杯空気を変えようと喋り、そんな遙に普段なら殆どしない行動の珍しさから水月は面を喰らい、夕呼も何やら蛇足の混じる察しを笑みと共に遙と刹那を見比べ。

 

純夏「よ、よ〜し!それならわたし、特技を披露しちゃおうかなぁ!?」

武「えッ!お前特技とか持ってたっけ!?」

純夏「ないけど今はやるんだよ!タケルちゃんのアホアホアホ〜〜!!」

 

遙の頑張りが純夏にも伝わるのか次いで席を立ち荒ぶるポーズに台無しな武の指摘も淡さりいつしか吹き出す面々。

 

冥夜「こんなに笑ったのはいつ以来であろう」

慧「二人の連携、実に巧妙…」

水月「あっははは!あんた達面白いわねぇ!」

 

普段あまり声を上げて笑わない冥夜も、無表情な慧もこの時ばかりは破顔し、水月に到っては腹を抱えて笑っている始末。

 

茜「ねぇねぇ、白銀と鑑さんってやっぱ―――ッ」

夕呼「はいストップ。今はその宣告が折角収拾着けた場を血に染め兼ねないからね」

 

恐らく関係を追求しようとしたであろう興味本意な茜の口を塞ぐ夕呼。何時もなら率先して混乱発言を招く彼女も今回ばかりは相手が悪く制止役に尽くす。

隣席から背後に回られ掌で口を塞がれもごもご喋る茜に一層場の空気が和んだのを刹那はただ眺め。

何故刹那が黙っていたのか。それは単に愛想が悪いというだけではなく、適当な解釈を装い場に委ねるのが寧ろ一番無難で―――なら黙りを決め込んだ理由は?答えは単純にある記憶を思い出していただけだ。

 

刹那(此所に居る奴等は、沙慈・クロスロードやルイス・ハレヴィのような顔をしている…違うのはいる場所が平和か戦場かだけ…)

 

何も素知らぬ平和浸かりの笑顔は腐るほど見てきた。だがそれを直視しようとしない…或いは出来ない刹那は周囲の顔を冷めた目で伺い見ようともしなかった。然し偶然にも仮住居で隣人となった男とその連れの女は嫌でも刹那にその顔を向けてきて。

度々顔を見せた二人を無意識にでも鮮明な記憶に残してしまったのは問題は生じないも、特に武と純夏を見ているとどうしても沙慈とルイスを思い浮かべる。恐らく戦場の有無以前に本質が彼等に似ているのだろう……ならば自分は?

 

刹那(…俺は破壊者だ)

 

今はまだその結論にしか到れなく、過った思考も戯れと一蹴。

そんな最中でも周りは思い思いに談笑と面識なき者の交流が深まる。霞とて依然として口数は少ないも既に周知なのと傍らの純夏が構うのもあり調和していて、そこに自ら身を引いて浮くのは最早刹那しかいない。その事は全く気にならず逆に楽だとも思うが。

 

『そう言えば此所に来るまでセイエイは何をしていたの?』

 

それは誰が質問したのか…いや、皆少なからず刹那の異端な雰囲気に気にはして複数人が尋ねただろう。

 

刹那「…戦っていた。戦い続けていた」

『!!』

 

現にこの場の全員が始めて反応した刹那を向き、質問したにも関わらず驚愕して食事も中断し目を見張る。

 

刹那「そして今も尚、戦っている…」

 

それはこの地では無い遠き世界。アザディスタンと争い、少年兵になり、洗脳され、親を殺し、戦わされ、攻撃し続け、逃げ回り、そしてクルジスが滅び、同郷と故郷を失い、ガンダムが降りてきたあの日。

 

刹那「…俺のコードネームは刹那・F・セイエイ」

夕呼「………」

 

だから――――

 

刹那「お前達の謂う衛士としてではなく、ガンダムを駆る者…ガンダムマイスターとして。人類の敵も、紛争の引き金になるならば人やその兵器も壊す」

武「!?」

純夏「―――」

 

例え輪に入れずとも、己の矛盾を曝け出そうとも。

 

刹那「全ての争いを駆逐するまで戦い続ける……俺が、ガンダムだ」

遙「…!」

霞「……ガンダム」

 

この世界でも戦い、歩き出そうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渇望する未来へ。

 




紛争行為を根絶する機体こそがガンダムである

激甚する蹂躙の果てに、夜の層雲が晴れ

次回
「殲滅者」

勝利の慶事に必要なのは…屍のみで十二分

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。