〜機動戦士ガンダム00×オルタネイティブ〜   作:ガンダム・刹那・FF・セイエイ

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第7話「殲滅者」

恙無く食事を終えた刹那は自室へと戻ろうと歩みを進ませる。あの言葉に最初こそ静寂がPXを包むも直ぐに雰囲気は戻り、他の人も力を有する者からの忠告だと認識して気を引き締める事はあっても悪い空気にはならず。

それでもやはり多少刹那への独特な気まずさと遠慮が抜けず会話が弾んだのも結局は刹那以外。

 

武「刹那!」

 

当の刹那も戻ってデータ収集の続きという目的に頭の大半は占めていてただ黙々と歩を止めず、そこに駆け足で追い掛けて来た声を背中に受けて足を止める。

 

刹那「…雰囲気を壊した事は謝るが、撤回するつもりもない」

 

近付く武が何を言おうとしているかは刹那の中で予想がつき先手をうって先に謝辞を述べ。

 

武「そういうんじゃなくてッ!…いやアレを容認する訳じゃないけどよ」

刹那「要領を得ないな…」

 

然し予想は裏切り否定するも直後に肯定とも取れる台詞を投げあたふたと忙しなく身を動かす様子に刹那にして基地に来てから何度目かの溜め息を吐き、ハッキリと指摘してやれば武も何とか落ち着きを取り戻し。

 

武「まぁなんだ…つーかさ、こっちこそまだ謝ってなかっただろ?」

 

漸く冷静になった頃には逆に謝罪する意を催す言葉に向き直った刹那は疑問に思い表情にも現れ。

 

刹那「……?」

武「そこは不思議がるなよな。…お前がこの世界に連れて来られたの俺のせいかもしれないじゃん?だからさ……御免!!!!」

 

正面から合った目線より訝しむ顔に正直恨み言の一つも出るだろうと覚悟していた為、予想の斜め上な反応には呆れるしかなく。

本気で理解不能な様子に観念して速やかに謝る理由を述べては来訪時よりも深く頭を下げ。

 

刹那「…何故謝る?」

 

だが謝ってもその理由さえ理解しない刹那に流石の武も困惑して頭を上げて合わせた掌も崩し。

 

武「何故って…巻き込んじまったんだから普通申し訳なくなるだろ?」

刹那「なら問題ない…気にしていないからな」

 

仕方なく謝罪理由から述べるも一変しない薄い反応が返ってくるばかりで、気に病む必要すら無いと断言されては言葉に詰まり。

 

武「でもよ…」

刹那「それに俺はこの世界に滞在し続けるつもりもない」

 

なんて言えばこの気持ちが伝わるか頭で試行錯誤するも見付からず後頭部に掌を当てて申し訳なさそうに刹那へ視線を向け、再び黙りかと思えば続け様に言われた事へ耳を傾け。

 

刹那「ここにいる間は力を貸す。奴等の排除もハイヴ攻略も俺の意志で手伝う…だが帰還方法が判明し次第、俺は直ぐにでも向こうへ還る。やり残した使命を遂行する為に」

武「刹那……」

 

何処までも信念を貫き通すかのような強い眼差しは先程PXで見せたアレと同等、揺るがない意志と共に吐露されると最早名を呼ぶのみしか言葉が出ない。

 

刹那「謝罪だけが用件なら、気にしていないから俺は部屋に戻る」

 

その後は武の心情の有無も無視してハッキリと告げれば踵を返して再び部屋への帰路目指して歩み出し、そんな刹那の背中を今は見送る事しかできないまでもここで問題が一つ。

 

武「……俺、隣の部屋なんだけど」

 

これも仕方なしに今までのやり取り上、動向して傍らを歩む気にはなれず肩を落としながら刹那と距離を置いて武も部屋へ戻る。

 

 

 

 

 

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時間を僅か遡り他の面々より先に食事とささやかな談笑を終えて自室へと戻った御剣冥夜は同じく部屋に控える月詠から渡された資料に目を通す。

 

冥夜「………」

月詠「白銀武でさえ城内省のデータベースに残されているのに、この男は何処にも…」

 

月詠が気になっているのは当然、先程PXで一同と会し食事と取っていた刹那の事である。

以前軍でいうところのKIAが確認された武へ問い詰めたのは記憶に新しく結局種は分からず、人となりは害する様な存在ではないと判断し見送っているが今回更に増えた謎の機体の乗り手。基地副司令の夕呼は直属の特務官としてそれ以上の事は明かさなかったも鵜呑みにする月詠ではなく、刹那が横浜基地を訪れたと同時に大至急、帝国斯衛軍の部下達に調べさせたのがこれまでの経緯。

結果は国外にも国内にも該当する人物はいなくそれを冥夜に進言しようと部屋に押し掛けたのが現在。

 

 

冥夜「…いや、よい」

月詠「しかし!」

 

短い間無下にする事なく応じていた冥夜も直ぐに資料を突き返し、暗に問題無いと示すも看過できぬと反論し。

 

冥夜「くどいぞ。それにあの者は一応国連軍の枠内で、風貌を見るに恐らく中東の出身者…それに本人も先程コードネームだと言っていたであろう。本名が分からぬ以上調査など…」

 

尚も引き下がらない月詠を制する様に推論を並べ。

 

月詠「素性も知れない相手を冥夜様の側に置くなど危険すぎます!」

冥夜「香月副司令のお墨付き…で、月詠は納得してくれまいか…」

 

立場上ただの国連軍所属の見習い衛士で納まらないのは本人も重々承知しているつもりだが、これが当たり前でも世が世なら拘っていてもキリが無いのもまた事実と。

副司令を盾にはできないのは武の前例で証明されていてどうしたものかと額を押さえる。

 

冥夜「…少なくともあの者の…セイエイの目は真っ直ぐ前だけを見つめていた。それはタケルも同じ…無論それだけで事が丸く修まらないのは分かっているが、私は信じるに値すると思っている」

月詠「冥夜様…」

 

言葉が表す通り真っ直ぐに月詠へ向いて断言する。その瞳には一切曇が無く。

 

冥夜「それにこうも言っていた。全ての争いを駆逐すると…それはBETAだけでなく人の内紛も含めた物言いであった」

 

少し前を思い出し、大半は仲間や先輩や上官との近日稀に見る賑やかな一時。

その最中刹那が初めてハッキリと自分達に向けられた言葉は決して穏やかな内容ではないもその瞳の奥にある信念は疑いようも無く、それは衛士になるべく日夜精進していた他の仲間も同じ気持ちだっただろうと。

 

月詠「……では更に申し上げますと、鑑純夏。刹那・F・セイエイが現れたこの日に急な配属……これは偶然なのでしょうか?」

 

意見が揺らがないと月詠が次に挙げたのは純夏で、本人も言ったように武とはかなり親しい関係にあり此方はデータベースにも改竄の痕跡なく唯一残されていた最後の記録は『負傷による集中治療』のみ。

諸々の不自然さを指摘するも当の冥夜は笑いながら。

 

冥夜「鑑か!あの者もあの者で中々変わっていたな。このような世界であんなにも幸せそうに笑う女性がまだ居ようとは…タケルとの仲は少し妬けるが、私は好意的に感じているぞ?」

 

PXでの話した印象や内容に武との半ば漫才じみたやり取りを思い返し、口許を折り曲げた人差し指の第二関節で隠して笑う。

 

月詠「…変わられましたね、冥夜様は…」

冥夜「そうか?……ならばそれは今宵の鑑やセイエイ、そしてなによりタケルのお陰であろうな」

 

その様子を見て呆気に取られた月詠は以前までの彼女では考えられない程和かい笑みにただ思うままの感想を述べてしまう。

そんな月詠に絶えない笑みを向けると彼女も僅かながら口端を上げたのは冥夜の気のせいか否か。

 

 

 

 

 

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Side.夕呼

 

 

楽しくなかったと言えば嘘になるけど、終始セイエイの動向を気に掛けていたあたしからしたら結果今回の催しはまさに天国と地獄の隣り合わせ。それはあいつを計画に巻き込もうと算段した時点で概ね分かっていたし今更かしら。

思えば同席者のまりもともあれほど長く私情で話したのはお互い学生の時以来かもしれない…と、感慨に浸るのはこれ位にしよう。何せ幾ら犠牲を出そうと計画は絶対に止められないのだから。

 

大小気掛かりな点は多くある。特に最近BETAが異様な頻度で侵攻を繰り返すのには正に今人類の希望が誕生するという段階で絶望にも等しかったのだから。

まりも達の前では動揺を悟られぬよう振る舞ったが、佐渡島ハイヴから旅団が攻めてくると確定された時には正直今度こそ帝都を含め日本の本体であるこの基地の壊滅を覚悟したけど吉報も届いた。

 

1つは00ユニットが覚醒して、その鑑が言うループと白銀の代替世界に関する情報。そして2つ目は正体不明だがBETAに敵対的機体の存在。

 

前者は白銀にも言えるけど例え未来の情報でも分岐した世界では根本的な解決にはならず、00ユニットの本懐を為すXG-70が届かない現時点では物理的には意味を為さない。

そんな時に現れたのが後者の機体。圧倒的な物量差も覆すくらいガンダムの性能は底が知れず…航行速度も機動性も出力も恐らくは装甲強度も、あらゆる意味で戦術機とは桁違いであり、それを可能にしているのは凡そ背部のあの粒子を散布した動力源。

BETAのG元素と同じく製造法や全てが謎の包まれた異次元の技術。それが一時的だがあたしの手中に…このチャンスを逃す訳にはいかない。

 

夕呼「絶対に解明してみせる」

 

ガンダムエクシアはあれ以降動く様子が無く、多分だけどセイエイの認証無しではコクピットも開かない様に厳重な処置がされている。なら解析は独学でやるしか…。

あの様子を見るにセイエイは多分機密を漏らすことはない。尋問など非人道的な策を取ってもましてや軍の全女性隊員を使って身体で懐柔しようと口を割らないだろう…下手をすれば彼が、ガンダムが敵になったら?XG-70が完成していない今の人類ではそれこそ1ヶ月も保たないわね。

何にしても共闘できるならそれに越した事はない。

 

夕呼「イオリア・シュヘンベルグ…」

 

向こう側の世界でガンダムを…GNドライヴの開発に繋げる理論を構築した人、生きているなら会ってみたいわ。どんな企てで戦争の根絶なんて理念を掲げたのか。

 

 

Side.out

 

 

 

 

 

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次の日の朝。

刹那が仮住居する部屋の前に遙は訪れていた。一応サポート役として、また夕呼にも気を配るよう命が下されている為、今日から優先的に行動を共にする必要があると判断したからだ。

 

遙「……居ない」

 

ノックをしても声を掛けても反応がないので仕方なく扉を開けて室内を見渡すももぬけの殻。

 

遙「まさか…そんなわけないよね……」

 

基地を抜け出した可能性もあるがそれなら何かしら警告がある筈。それが無いとすれば部屋以外の場に移動したかと普通は思うが、ベッドの掛け布団が見当たらずある可能性が過る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遙の予感通り刹那は現在、エクシアのコクピットの中にいた。仮眠を取るためと寝台から拝借した布団を身を掛けて。

理由としては単純明快でセキュリティを基地に委ねた部屋でおちおち睡眠を取るわけにはいかず、要は完全に此処の人間を信用したわけではないと。何かあれば直ぐに起きるよう警戒は怠らないも機体内ほど安全な場所は無く、BETAが居る外では満足な睡眠も取れていなかったのもあり一気に不足分を解消するためにと最も安心できる場で寝たかったからであり。

そんな睡眠も十二分に取って現在はエクシアの機体チェックに勤しんでいる。

 

刹那「粒子チャージ率…問題なし。各部損傷も該当はない…いつでも出撃可能」

 

最後の確認を終えると機体を完全閉鎖モードに切り替えて、布団とタブレットを片手にコクピットから降りる。

 

『うわっ、お前まさか機体で寝てたのか!?』

 

ハッチを閉めて厳重にロックを掛ける装置の携帯型スイッチを押したところで脇から声が響き刹那はそちらへ振り向き。

 

刹那「誰だ……」

アルベルト「おう!俺はアルベルト・フォイルナー!ここの整備士だ!」

 

活発に名乗る視界に移した男は刹那と同年代くらいの金髪蒼眼の青年。

整備士といった通りつなぎの作業服を着たアルベルトは片手に持った工具ともう片方の手の身分証を刹那に見せ。

 

刹那「…刹那・F・セイエイだ」

アルベルト「刹那か〜宜しくな!あ、因みにフォイルナーっていってもあの公爵家の人間じゃねーからな。あんな怪力女と一緒にしないでくれよ?」

 

その元気さのまま刹那の肩を叩いてニカッと笑うアルベルトは急に一人で喋り出す。

 

アルベルト「偶々姓と髪色と眼の色が一緒ってだけで絡まれてさー、弟扱いしてきて参ったぜ。一年前はドーバー基地に居たんだけどいきなり剣術だー体術だーって、俺は衛士適正落ちてんのに身体を鍛えようってその後も構ってくるから、結局逃げる感じで日本基地に来たけどイルフリーデにはいつかぜってぇ報復してやる!」

刹那「…?ああ、そうか」

 

次から次へ語り出すアルベルトだが当の刹那は何一つ聞き覚えのない要素に相槌しかうてず。ドーバー基地という単語は昨晩データで確認したのでフィンランドの欧州基地という点は分かるがそれしか把握していなく。

 

アルベルト「んな感じでここで整備士やってるんだけど……なぁ、この機体いじってもいいか?」

刹那「断る」

 

一通り自分について語り終わった途端にエクシアを見つめて口にした要望に対して刹那の目が鋭くなり。

 

アルベルト「即答かよ!ま、冗談だけど…俺ごときが触ってもG元素並の未知の素材で出来てるくらいしか理解出来ねーし」

 

そんな睨みもアルベルトは気にせず。

 

刹那「…よく喋るな」

アルベルト「俺からすりゃお前が無口すぎんだよ…そんなわけで俺を含めた数人が外装だけは綺麗にしといたからよ。……まさか人が乗ってるとは思わなかったけどな」

 

そう言って背後を指すと戦術機用の清掃具と思わしき機材がまだ片付け途中でデッキに散乱している。

その光景に刹那がGNソード部などを見ると付着した血痕が綺麗さっぱり拭き取られていて、言葉の意味を理解したらそれ位は容認するのか表情歪めず。

 

刹那「そうか……助かる」

アルベルト「てかBETAと戦ったん…だよな?向こうの94式と比べて大分綺麗なのなんでだよ…」

 

移した視線の先には同じ区画の4つほど離れた場に置かれた不知火がありまだ整備中といった様子で何名かの作業員と乗り手の、刹那からすれば見知らぬ女性衛士(風間祷子)が居る。

言葉の裏にはまさかサボってたのか?といった疑念の目が向けられ。

 

刹那「好きに解釈して構わない」

 

そんな目線にも無表情かつ無愛想に答える様子に呆れて溜め息が漏れ。

 

アルベルト「まぁいいけどさ。んじゃ俺は今からPXに行くけど、よかったら一緒にどうよ?」

 

デッキやエクシアの足下に置きっぱなしの機材はどうやらそのままにするようで朝食を共にと誘われた刹那は暫し考えるも特別何かあるわけでは無いと頷き。

 

刹那「…ああ」

アルベルト「決まりだな」

 

相変わらず口数は少ないも早くも刹那の人となりに慣れたみたいで特に気にせず笑顔のまま歩き出したアルベルトに続くよう刹那も歩を進ませデッキから降りて移動する。

 

 

道中も基本的にアルベルトが一方的に話し掛ける形で己の話しや刹那について聞いたりと会話は絶えず、また一応聞いているのか要所で相槌や答えられる質問には返事し、遠慮はないが深く踏み込んでこないためか刹那も居心地が悪いといった様子は無く歩み続け。

横浜基地は基本地下構造で昨晩閲覧したデータベースから此所が元ハイヴだったのを心得ているので納得もいき、戦術機も殆ど地下に収納されているため当然ながらエクシアも現在地下に在り、そこで寝ていた刹那と整備士として作業中だったアルベルトもPXへ行くには一度地上へ上がるか限られた通路を使う必要がある。

直接基地司令部及び訓練校やPX等の各施設に繋がる道は屋内でも数通りあり、刹那が一度寝具などを置いてくる為にと兵舎へ続く通路を選び。

自室の前まで到着した刹那が荷物を置きに行く間アルベルトは扉前で待ち。

 

『どわあああッ!!お、お前なんで此所に!?』

『えへへ〜、昨日から此所にわたしも住むんだよ。隣はセイエイ君が使ってるからね!……聞いてないの?』

『知らん!つーか服を着ろ服を!』

アルベルト「あん?なんだなんだ?」

 

その間突然扉が半開きになっている隣の部屋から声が響き渡り、気に留めたアルベルトがそちらへと近付き。

 

武「だぁー!シーツに包まればいいって訳じゃねぇだろ!?帰れッ!」

アルベルト「アバターッ!?!?!?」

 

耳当てするか覗き見するか定かではないが顔を寄せた瞬間に勢いよく扉が開いて結果思いきり顔面を強打したアルベルトが撃沈。

 

純夏「だから帰るも何も此所がわたしの―――……へ?」

武「あ?誰だよ俺みたいな雄叫び上げ―――――……マジで誰?」

 

原因となった部屋主の武と続いてシーツを身に纏った純夏が顔を出し床に倒れたアルベルトを見て。

 

刹那「…お前達は何か問題を起こすか騒いでいないと生きていけないのか?」

武「あ…よ、よう刹那」

純夏「あわわわっ!お、おはよう」

アルベルト「…床冷てぇ……ガクッ」

 

そこに丁度寝具とタブレットを置いてきた刹那が扉から出てきて地に伏せてたった今気を失ったアルベルトを流し見て、気付いた武と己の格好故に慌てて扉奥に身を隠し顔のみだして解釈する純夏に内心呆れながら無表情で視線を向け。

頻繁に問題を起こすという点では刹那は俗にいう「おまいう」だが。

 

武「いやだって純夏がよ」

純夏「タケルちゃんが意地悪なのが悪い!!」

刹那「………」

 

それでも尚も言い争おうとする二人に付き合いきれず一旦倒れたアルベルトの腕を掴んで引き上げた後に肩を貸して支え。

 

遙「やっと見付けた…!」

刹那「…今度はあんたか」

 

そんな時に刹那を探していた遙が僅かに息を切らせながら駆け寄り。

 

武「あ、おはようございます涼宮中尉!」

純夏「お、おはようございます…」

遙「えっ?あ…う、うん。おはよう白銀君、鑑さんもね」

 

衛士訓練を受けていた遙は直ぐに息を整えると挨拶した武達へ笑みを浮かべて返し、次第に人が増え始めた事に羞恥心も増す純夏は遂にアホ毛部分のみ出し。

 

遙「セイエイ君昨夜はどこに?」

刹那「その前に手が空いているなら手伝ってくれ…」

 

解釈を済ませれば本題を切り出し目の前に立った遙へ質問に答えるよりも先に肩でぐったりするアルベルトを見せて助力を頼み。

 

遙「フォイルナー軍曹!?…あ、そっか!セイエイ君は医務室の場所…!」

 

それを見て何事を目を見張るも基地に来てから案内もしていない刹那が医務室の場所を知らない可能性に気付き、力なら足りているもその意図に気付いた遙が直ぐに側へ寄って必要云々は関係なく反対側の腕を肩に回して支える姿勢を安定にし。

 

遙「こっちよ!」

刹那「ああ…」

 

慌ただしく医務室へと向かい去る二人と負傷者(?)一人の背中を見送り一気に静かになった兵舎の通路。

 

純夏「なんか悪いことしちゃったね…」

武「まったくだ。…仕方ねーな、部屋戻るぞ」

 

角を曲がり姿が見えなくなるまで見据えていると漸く扉から出てきた純夏に余計な力も抜け、落ち着いた頃には頭に掌を添えて撫で回し。

 

純夏「え…いいの?」

武「またそれか?とりあえずはだ。……流石に目の毒だから服は着てくれ」

純夏「うん!!」

武(…そういや前の周回ではこの時期たしか霞と一緒に暮らしたっけ)」

 

同衾するかはともかく同室の承諾が下り嬉しそうに腕に抱き着く純夏。武も満更ではない顔でふと思い出した記憶を内心呟くと二人共に室内へ戻り、今度は扉も確り閉める。

因みにリーディングで今の呟きもバッチリ聞こえていたのかこの後大胆な行動に出たり出なかったり。

 

 

 

 

 

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無事医務室までアルベルトを送り届けた刹那は予定通りPXに来た。遙も同伴を申し出たので了承し、まだ質問に答えていない事と後々の追求も面倒なのが了承の理由らしい。

 

遙「やっぱり機体に居たんだ…どうして部屋で寝なかったの?」

 

道すがら昨晩の動向も伝え済みで当然次の疑問が生まれれば臆せず聞き。

 

刹那「寝込みを襲撃される可能性を考慮した」

遙「そんな!……ううん、確かに昨日今日で信用するのは無理だよね」

 

それは暗に基地内の人間が自分へ危害を加える可能性を疑惑として持つ事を意味していた。

最初こそ否定しようと声を上げた遙だが、此所に来てまだ一晩しか経っていなく更に異世界からの来訪者という点や圧倒的性能の機体を有するなら刹那が疑うのも当たり前な思考であり、それは遙とて理解に及ぶ。

 

刹那「エクシア自体は俺の認証無しでは起動しないが、俺自身ならどうとでもできる…」

遙「……そっか、セイエイ君も人間だもんね」

刹那「…何故嬉しそうなんだ?」

 

淡々と言う刹那の語りに無意識に微笑が浮かぶと人間であるのは当然だと思いつつ、微笑の理由が分からずに指摘しては遙も今の心情を自覚し。

 

遙「えっ、……あ。その…なんていうかね、ちょっとだけ距離が近く感じたのが嬉しかったのかも」

刹那「……?」

 

慌てて両頬を触ると僅かに顔が熱いのが分かり、年下の男に見抜かれたのと冷静な指摘の内容が故に恥ずかしく、素では照れ屋な遙は顔を赤くして素直に思った気持ちを告げるもその状態も話す内容もイマイチ理解出来ない刹那はただ疑問が深まり。

 

京塚「おや、遙ちゃんじゃないかい。一緒に居るのは見ない顔だね…?遙ちゃんが一緒って事は……ああ!あんたが昨日から入ってきた特務官様かい?」

 

PXは昨日も利用したが食堂として注文するのは今日が初めての刹那は遙に促されキッチンエリアへ向かうと臨時曹長である京塚志津恵が出迎える。刹那の存在を知っているのは昨晩夕呼から聞いていたからだ。

 

遙「おはようございます」

刹那「………」

京塚「なんだい、覇気のない坊やだねー。名前は?」

刹那「刹那・F・セイエイ」

 

然し刹那の淡白な様子に眉間を寄せると名乗りにも覇気は微塵も無く。

 

京塚「セツナだね。よし!じゃあ特別にあたしが精のつく料理を出してあげようじゃないか!初日サービスで勿論おごりだよ、サポーターの遙ちゃんもね!」

遙「えっ?あ、ありがとうございます…あの私は普通の豚角煮定食で!」

刹那「いや…俺も普通のを……」

 

階級こそ下だが年上でおばちゃん肌の京塚に礼儀正しい遙はつい敬語で。そんな京塚の豪傑で威勢のいい言葉に刹那の声は届かず遙の注文のみ「あいよ!」と答えて早々に調理場へと離れ訂正が利かず。

そうして暫く待つと遙の前には事前の注文通り合成豚角煮定食が、そして刹那の前には皿に唐揚げや野菜炒めが山盛りで積み上がり丼サイズの豚汁に茶碗から飛び出した極大盛の白米なる合成スペシャル定食が置かれる。

 

遙「………」

刹那「……なんだこれは…」

京塚「あたし特製の合成唐揚げ定食に野菜炒めと豚汁を付けた極超大盛り合成スペシャル定食だよ!残さず食いな!」

 

出てきた朝食の量に目を見開き戦闘時でも無いのに珍しく驚愕する刹那へ一辺の曇ない笑顔で言い親指も立てる京塚のおばちゃん。とその光景に開いた口が塞がらない遙。

 

刹那「…何かの手違いか?」

遙「あはは…多分手違いはないと思うよ」

 

仕方なしと大人しく用意された定食を持って空いているテーブルへ行きお互い向かい側に座り。

 

刹那「………」

遙「い、いただきます…」

 

問題無く(?)食事が開始される。

こんなところで刹那の性格による弊害が出るとは自覚している本人も思っていなかった。

 

 

 

 

 

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『――もしもし…あぁ、あたしだけど』

 

『…そう、例の天元山の災害救助出動の件。訓練部隊にも出動要請が来てたわよね?悪いけど、彼らは今あたしの直轄で動いてもらってるから…今持ってかれると困るのよね』

 

『―――さあね、それはご想像にお任せするわ。…そう、じゃあそういう事で』

 

『…手段?それはそちらが考える事でしょう?』

 

『もっとも……取れる選択肢はそう多くないでしょうけどね―――』

 

『………ふぅ。白銀の進言通りにしたけど…果たして吉と出るか凶と出るか』

 

 

 

 

 

 

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自室に宛がわれた部屋に戻って寝台に座る刹那は今日一日の疲労に苛まれていた。あれから大量の食料を胃に入れて平然を装うも消化さねばと遙の制止も構わずランニングや様々な運動を熟した。トレーニングにもなり満足に食事を取っていなかった問題も解決し今は確り消化も済んだ為、結果的には得に繋がったが。

その最中に遙や水月、茜以外のA-01のメンバーと会った時の記憶が過り。

 

みちる『貴様がガンダムの衛士か…A-01部隊の伊隅みちる大尉だ。隣の宗像は男嫌いだから色気を出すなら気を付けろよ?』

美冴『大尉…私は男嫌いではありません。気持ちよければなんでもいいだけです。…改めて、宗像美冴中尉だ。宜しく頼む』

祷子『ふふ、美冴さんは相変わらず…初めまして、私は風間祷子少尉ですわ。困った事があったらいつでもいらっしゃい』

晴子『柏木晴子少尉だよ、宜しくセイエイ特務官!本当ならさっきまで築地多恵少尉と高原少尉、麻倉少尉って娘もいたんだけど…タイミング悪かったね〜』

 

自己紹介の部分は覚えているがそれから何を話したかは思い出せないでいる。

余談だが刹那は基地での立場上で夕呼から特務官任命されており、正式な階級は与えられていないが殆どが大佐クラスの扱い…なのだがそこも事前に夕呼から上下関係は無しと通達されている為直轄部隊は全員が気軽に話し掛けてくる。

これも刹那にとってはメリットとデメリットを併せ持つが。

 

刹那「…なんだ」

 

一旦記憶探りを止めて、今晩もエクシア内で睡眠を取ろうと立ち上がった途端に机に置かれた通信機器が反応し、耳に掛けてマイクを口許に持っていき。最も現状態で掛かってくる相手はコードを知り支給した人物のみで。

 

夕呼『早速だけど武力介入をお願いしたいわ』

 

送話主の夕呼から単刀直入に出撃依頼が届き、それと同時に基地内に警告音が鳴り響き『防衛基準態勢3発令』の通達が。

 

刹那「了解。ミッション遂行の場と内容を」

夕呼『話しが早くて助かるわ。場所は山梨県旧甲州市の東北…詳細はデータで送ったから頼むわね。侵攻を許せば此所や帝都が危ないの』

 

手早くノーマルスーツに着替えヘルメットと任務内容が記された機器の画面を拝見しつつ格納庫へ走る。

今回観測されたのは地下侵攻における最大大隊規模のBETAで山梨県旧甲州市の詳細地図にあるマークが出現地点。厚木基地の戦術機中隊が出撃予定で横浜基地と横須賀基地も状況に応じて順次出撃―――ここは恐らく刹那次第だろう。また光線級の確認を認めずという事から第一陣は凄腕揃いだが数は最小規模で押さえるようだ。

 

刹那(レーザー種が居ないのは気になるが…)

 

粗方確認をすれば格納庫へ辿り着き何もないデッキへと駆け出し、朝食後に念の為エクシアの外部迷彩皮膜で透視化を施していた。

周りを窺えば何人もの整備士やデッキ上には頻繁に見掛ける戦乙女の衛士が強化装備を纏って不知火の管制モジュールの側にいる。

 

刹那「GNシステム、リポーズ解除…プライオリティを刹那・F・セイエイへ。―――外壁部迷彩網膜解凍…GN粒子散布状況のままブローディングモードへ…」

 

機体の許へ駆けながらも耳に掛かる己が所有する数少ない元の世界の小型機器を押し、認証言語を通してはコクピットは明るみを戻し各機能が再起動、迷彩皮膜が解除されて透過状態からエクシアが姿を現し粒子を通常モードで散布し。

突如透過を解除した機体を視界に移した隣側のデッキに居る茜が同じくデッキに上がり走る刹那と目が合い驚愕の表情を向け。

 

茜「―――…ッ」

刹那「………」

 

出撃準備態勢の緊張と共に昨晩気まずいまま以降顔を合わせていない事に言葉が詰まり、そんな茜を一望するも直ぐにコクピットへと乗り込み。

ハッチが閉まると何者かが可動デッキを操作しているのか道が開け。

 

『各戦闘部隊は戦術機管制ブロックで待機、即時出撃態勢指示が下るまで現状を維持せよ』

夕呼『尚本防衛戦の第一陣としてガンダムエクシアは出撃させるわ』

茜「ッ!?」

みちる「!」

 

通常のCPからの音声の後に普段ならばまず無い夕呼からの指令が発せられ部隊の面々は驚愕。

 

刹那『ミッション了解。…エクシア、出撃する』

 

本来は格納庫から直接出撃する場合カタパルトを使うのだが戦術機の機構に造られたのとエクシアが使用可能かテストもしていない為そちらは使わず、低く浮上して周囲への風圧等の被害を与えぬよう鈍い走行で出口を目指し、カタパルト上に辿り着けば出撃を模様する言葉と共に一気に加速して射出路を抜け。

 

茜「セイエイ…」

 

ガンダムが出撃していく光景を見送る茜。本来一機のみで向かうのは異常事態だが刹那に関しては正に特別でありその枠に囚われず。それでも万全を重んじる茜はどこか複雑な心情で姓を囁いて。

 

 

 

 

 

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女性CP「厚木基地第404戦術機甲大隊、旧甲州市でBETAと接敵!」

ラダビノット「始まったか…」

 

横浜基地の中央作戦司令部は帝国軍厚木基地の司令部と通信を取り合い戦況を確認する。

地上に這い出たBETA大隊と戦術機大隊が交戦を開始した事を報せるCPの声に基地司令のラダビノットがモニターを注視し。

 

夕呼「陽動はあくまで甲州市内に留めるよう作戦は下っています。大月市または北都留郡まで侵攻された際も最小限の被害で応戦すれば問題ありません」

ラダビノット「むぅぅ…このような作戦を認めざる終えないとは…」

 

作戦内容を話す夕呼に顔を顰めて唸る基地司令。

 

夕呼「…要請した増援部隊は既に到着済みらしいです」

ラダビノット「くっ…厚木基地の作戦司令部は何を考えているのだ」

 

今回第一陣出撃作戦の指示を出したのは厚木基地の方でその裏で夕呼が出したのはガンダムの投入。なので実際の作戦立案は向こうの司令部と夕呼だが便宜上は厚木基地司令部の陽動・防衛作戦という事になっている。

 

夕呼「立案したのはあたしもですが…少々無茶なのは否めません」

ラダビノット「いや…博士がガンダムの投入をしなければもっと被害は出ていただろう」

 

厚木側が要請したのは刹那とエクシアの増援のみ。これは今や夕呼にも良策ではあり。

 

夕呼「別動隊で米軍の太平洋艦隊が相模湾沖に展開しているのは事実です。恐らくガンダムの存在が影響してると思いますが…」

 

最前線の日本から撤退した米軍がアジア圏での発言力回復させるべく内政干渉等を企てている可能性は数々の証言から日本側に伝わっており、そんな時に国連軍であり日本基地でもあるこの横浜が秘密兵器ガンダムを所有すると前の新潟防衛ラインの戦闘で知れ渡っていればあちらは僥倖といった感じで部隊を派遣するのは見当がつく。

現在も機密扱いではあるがあれ程ハデに暴れては隠せるとは思っていなかったが…

 

ラダビノット「しかし艦隊を寄越すのが早すぎる」

夕呼「ええ。…他に何か要因があったか」

 

ラダビノットの言う通り、飽く迄ガンダムを夕呼直轄の特務機体としたのは先日。然し目撃されたのは数日前で米軍にも問い合わせた件を鑑みるなら活動範囲的に日本へ向かうのは理屈としては通る。

それでも準備等の期間も合わせれば急遽で、夕呼は何か別の思惑があり偶々、或いはそれほどガンダムに着目しているかのパターンで推論を立て。

 

ラダビノット「増援部隊にも国連軍の米国兵が混じっている…これ以上介入される事態になる前に叩かねばならんな」

夕呼「仰る通りです(セイエイ…頼むわよ)」

 

切迫した状況を改めて噛み締めると二人は同時に頷き意見は一致し、ガンダムの到来を司令部も待ち望む。

 

 

 

 

 

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横浜基地を出てから瞬間加速を最大にして飛び出したエクシアは現在既に月見市を抜けようとしていた。飛翔中に胸騒ぎがした刹那は航行速度を緩めず。

 

刹那「目標地点に到達。……光線級の熱反応?やはり情報に狂いが…介入行動に移る」

 

そして漸くBETA生息地に辿り着き一気に距離を詰めるとモニターから戦闘空域を確認し、光線級を捉えるも構わず。

高度を取っている為少数だが当然レーザー照射が直ぐにエクシアへと放たれるも今回の上空から強襲行動は作戦内に記されていて以降は独自判断でBETAの迎撃を任されている。光線級が居なく支障が無いならと刹那も従うがそれは存在し、だとしても基本的に光線級を優先して狩る為上空砲撃をするのだから結果は変わらず。

 

帝国衛士『レーザー照射だ、恐らく新潟での機体だろう。作戦通り通信を切り替えて各機後退せよ』

部隊衛士達『了解!』

 

エクシアのみ可能とする高度を取った戦法と光線属種照射の合わせ業は既にその存在が判明しやすい行為となっている。

レーザー照射を回避してインターバル時にビームで返すのはお約束と化しているが今回は狙撃の数が少ないので回避と共にGNソードをライフルモードのまま発射地点へ放ち、着弾した場は高出力の熱線により爆発が巻き起こって光線級も直撃すれば溶解し近場にいれば爆風で吹き飛び、今回も3体の光線級が纏めて残骸となって残るは6体。

出力向上から速射性を優先にと切り替えて瞬時に2撃目3撃目が放たれると続く光線級が2体直撃して早くも4体のみとなり、またもレーザー照射が放たれるが上下左右の機動を屈指して難なく避けて再度粒子砲を撃ち残る光線級を爆散。

 

帝国衛士少尉『相変わらずの化け物っぷりだッ!』

 

レーザー照射が止んだ事に早々光線属種が舞台から退場させられたのを察知し、上空から降り立ち目の前で残存個体数の少ない突撃級を次々粒子砲で撃ち抜く様を見ては圧倒され。

 

帝国衛士『よし、帝国軍の各機は撤退行動に移れ!帰投して彼等と合流する!』

 

エクシアが戦列に加わり突撃級を粒子砲や垂直剣で斬り裂き全滅したのを確認した途端、不知火と数機の撃震が後退し突撃級に注意を払いつつ突撃砲で要撃級等の迎撃を繰り返す作業から完全に砲撃を止め月見市の方角に飛び去る。

 

刹那「撤退していく…?」

 

突撃級には突進する特性から地上にて迎撃したも残る要塞級が存在しない大型種の要撃級と各小型種は効率よく捌く為に再び上昇して、上空攻撃の手段を持ち得ない種族に対して一方的に攻撃する。

その最中殆どの戦術機部隊が戦線から離脱するのを見た刹那は疑問に思い。

 

米国衛士『ま、待ってくれ!撤退なんて聞いてないぞ!?くそ通信がッ!……や、やめろ来るなあ!』

刹那「!…まさか!」

 

それでも残る機体は戦場の中央、BETA群に囲まれる形で長刀や砲撃を続けているが突然の撤退と通信障害に混乱し。

容赦なくBETAが射程圏内の機体に迫れば要撃級の腕が管制ユニットを貫いて、戦車級に取り付かれては各部位を破壊されていき、機体の制御が効かず脱出したも群がった闘士級に滅多うちに合う衛士もいる。

それに全てを察した刹那。

 

刹那「チィッ…!こんな行いをする奴等は…!」

 

その光景に嘗てのクルジスでの惨劇がフラッシュバックした刹那が瞬時に思考を振り払い。

一気に精神も戦列も乱れて劣勢となる残留部隊。国連からの増援部隊である彼等は基本的に米国の隣人や米国の日本派遣隊ばかりで、つまり交戦中は体よく前線に使いガンダムが来れば取り残して我先にと撤退する作戦。

現に国連軍でも日本人は一人も居なく蹂躙されているのは全て米国の戦術機であるストライク・イーグルのみで、G弾や日米保安条約を破棄して撤退する横暴は刹那も確認したが今行われているのはその逆だ。

 

米国衛士『ぐわああ!くう…ッ!!』

刹那「!やめろッ!」

 

それでも帝国軍側は別に見捨てたり切り捨てるつもりは無く、ガンダムさえ居れば彼等も撃墜される心配は無いだろうと高を括っていた。

作戦を伝えなかったのは要請に割り込んできた米国側増援部隊との事前連携が取れなかっただけに過ぎず、更に言うなら所詮ガンダムは一機でそれを乗れる刹那は一人だけ。

BETAにやられる事は無くても敵部隊の中央に囲われた機体を守る手段は外縁部から戦う近接特化型のエクシアには少なく、離れた個体を上空から撃つにしても物量差で手が足りずに更にGN粒子の通信妨害は衛士のパニックを増すばかり、これは恐らく帝国軍側も見誤った事態でガンダムの力がBETAを殲滅すると同時に(対策していないなら)人類にも妨害をもたらす矛盾、その結果がこの悲劇を生んで。

 

米国衛士『ぁ―――ッ』

刹那「く…ッ!」

 

状況が悪化し続け刹那もより速くBETAを薙ぎ払い、要撃級を退けてイーグルに迫る戦車級をGNバルカンで全て葬った瞬間、最後の一機となった増援機が錯乱した状態で飛び退こうとしたところを要撃級に飛躍ユニットごと足部を貫かれて誘爆し、遂に残るはエクシアのみとなる。

 

刹那「違う…!ガンダムはこんな事の為にあるのでは…!」

 

それでも尚もエクシアは、刹那はBETAを駆逐し続け――――

 

 

 

 

 

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横浜司令部は現在状況の確認に徹している。ガンダムが出撃して暫く経って帝国軍からの連絡を待ち。

 

女性CP「厚木基地より、第404戦術機甲大隊の撤退完了を確認!」

夕呼「………」

ラダビノット「そうか…」

 

オペレーターからの報せで作戦の第3フェイズまでが完遂されたのを聞いてもラダビノットの顔は浮かず、夕呼も他に知りたい情報があるような素振りで。

 

刹那『…エクシア、敵部隊の殲滅を完了』

夕呼「!…状況は?」

 

そんな時、殲滅作戦の中核である刹那から音声通信が届くと沈黙していた夕呼がいち早く反応を示し。

 

刹那『BETAは残さず全て排除した。……撤退部隊を除く、米国製の機体は全滅』

ラダビノット「なっ!?」

遙「……ッ」

夕呼「……」

 

刹那からの戦果報告を受けるとその内容に司令部のCP達やラダビノットも驚愕の顔を浮かべてざわめき立ち、それが一瞬で静寂に変わるとBETAに勝利したにも関わらず作戦内容から暗い表情で覆われ。

 

刹那『……香月夕呼。俺は基地へは帰還せず、これより帝都へ向かう』

遙「えっ!?」

 

その進言に真っ先に目を見張ったのはサポート役を任された遙で。

 

夕呼「……分かったわ」

 

双眸を閉じて承諾する夕呼も止める気はなく。

国連軍の野戦軍装やましてやノーマルスーツでは目立つ為、この言動から予め私服を用意して機体に持っていったのだろう。資金はある程度渡しているので今日何処かで仕入れたか、その用意の良さや勘の鋭さには夕呼さえも感心する。

 

刹那『報告は以上』

 

戦果と私情のみ告げると一方的に音声通信を切る。途絶えた声に静寂していた司令部が再びざわめき始め。

 

ラダビノット「やむを得まいが……彼が帰ってくる保証は?」

夕呼「正直判りません……或いは帰ってこない方がセイエイにとってはいいのかも…」

 

元々はこの世界の住人ではない刹那が基地を離れても考えれば特別不思議な事は無く、ラダビノットの質問に曖昧な言葉で返すと今後予定していた活動に対する支障やらを考えた後で、刹那の真意を見極めようと思考する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那「日本帝国軍と米軍…仮に紛争幇助の対象となるなら、俺とガンダムは…」

 

刃物のような眼差しが夜の都を捉える。

あらゆる屍を置いてきた戦地を後に、エクシアは夜の空に粒子を残して―――

 




戦争根絶への信念が刹那を突き動かす

帝都での遭遇者たち

そしてついに、クーデター派がその牙を研ぎ澄まし

次回
「予感と兆候」

彩峰慧を揺さぶる焦燥感とは?

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