〜機動戦士ガンダム00×オルタネイティブ〜   作:ガンダム・刹那・FF・セイエイ

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第8話「予感と兆候」

待機状態が解除された衛士や各隊員達はそれぞれ通常状態に戻り事後処理がある者は司令部や執務室などへ、その中で衛士である慧は自室に戻りシャワーを浴び終え、電気も殆どついていない室内でまだ封の閉じた手紙を手にし。

 

「……尚哉…」

 

検問済の印が押された自分宛の封をただ見つめ続けて静かに囁く。

 

 

 

 

 

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・帝都某所

 

 

『―――やはり旧甲州での撤退は見誤ったか…これで米国も嬉々として日本国内への干渉権を申請してくるだろう』

 

『いや、あそこで撤退せねば我が同胞にも被害が及んだかもしれませぬ。ですがやはり…』

 

『今動くのは危険であろうな』

 

『…既に帝都内の各施設に手筈を整えてある。今更後戻りも出来ない……米軍の軟弱共め、奥地で歓楽的に構えているからこのような事態に』

 

『例の男の動向も気になる。米国…そして彼のガンダムもこの件に介入されては敵わん。奴らに先手を打たれる前に動くべきだ』

 

『…私は今少しだけ待つべきだと考えます。現在中部地方の山岳部で火山性地震が頻発しており、帝国軍内部でも現地住民の救助活動について協議中のようです。ですが現実的に今の帝国軍にそのような余力はありません』

 

『…ふん、政府の対応が目に見えるようだな。榊の狸め…どうせ被害を最小限に食い止めるため…などと言って住民を強制退去させるのがいいところだ』

 

『奴ら民をなんだと思っておるのだ!将軍家を蔑ろにし民に苦境を強いる…これを専横と言わずなんと言う!』

 

『…だがその事実だけ見れば我々の大義にとっては利になろう…奴らは自ら敵を増やしたようなものだ』

 

『――もはや救い難し。彼の者らには私が直に手を下す…!』

 

 

 

 

 

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・アメリカ合衆国

 

 

『大統領閣下、やはり例の集団に動きがあります。しかし依然尻尾を掴めず…過激派と旧政府主義者の動向もまだ調査中だと』

 

『…我々は一方的に日米保安条約を破棄した身だ。今動く事がどれ程愚かなのか判っていないのか?』

 

『既に事前勧告も無きG弾使用の前科もあります。過激派は是が非でもオルタネイティブ5の有用性を示したいが為に最早見境もなく…首脳会談にも応じない現状では…』

 

『今優先すべきはBETA掃討で、まして国家間の戦争に発展するのだけは避けねばならん。極東の防衛戦が崩壊すれば残るは海とこの大陸のみとなる』

 

『太平洋艦隊に直轄部隊の配備も完了しております』

 

『当然だ。いつでも動けるように首尾は万全に』

 

『―――後の懸念は帝国の所有する機動兵器、か…国連とは言え日本領土内』

 

『情報部を信じましょう。今は一刻も早く旧政府主義者及び過激派の工作を暴き検挙へ導かねば我が軍の即時撤退も叶いません』

 

 

 

 

 

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夜も深ける頃に始まった地下侵攻するBETA群を出現地点で迎え撃つ作戦も終了して翌朝、基地はすっかり通常状態に戻っていた。

訓練兵である武も仲間と共に配備された訓練機の吹雪で待機していたが、出撃する事はまず無いと聞かされていても緊迫は抑えられずにいた為か、作戦完了に伴い一気に脱力して部屋へ戻るなり間も置かずにベッドへ倒れ込んで熟睡し。

そして規定の時間通りに起きるとまだ重たい瞼の先に同居人の顔が移り。

 

純夏「おはようタケルちゃん。昨日はぐっすりだったねー」

武「……お前また人のベッドに」

 

頬を指で突き優しい笑みを向ける純夏が再びシーツへ潜り込んでいる状態に文句を言うと直ぐに意識を完全に覚醒させて起き上がり。

 

純夏「なんだよー。ベッドこれしか無いんだから仕方ないでしょ?」

武「それはそうだけどよ」

 

上体を起こした武の腕に絡み付きながら苦情に反論する様子を眺め、昨日まではまだ訓練兵用の白陵柊に酷似したデザインの制服しか無かったから衣服を纏わずと本人は言い訳しており、まだ建前上は任官前なので時期が来るまでは前回のように正装を渡すわけにもいかず、急遽皆と同じ野戦軍装や就寝用の軽装を配給して貰った。

なので今はちゃんと服も着ていて昨日の様な事態にもならず。

 

武「……お前なんか変じゃないか?」

純夏「えっ?」

 

その事に一安心している武が改めて純夏の行動に疑念を抱き身を離すとそれを問いながら目線を合わし。

 

武「事故で胸触っただけでも殴ってきやがる純夏が、昨日から妙に大胆過ぎるんだよ」

純夏「それは…タケルちゃんが好きだからだよ。それに前はもっと凄い事したんだし、今更…」

 

感じた違和感をありのまま伝えると対する純夏は反論して、今や記憶の中に鮮明に残された内容に僅かに頬が赤らみ言葉尻も弱く。

 

武「その後鉄拳制裁もされたけど………あれ?された、よな?確か…」

純夏「もう!考えるのはやめよ!なにより今はタケルちゃんとの時間を大切にしたいの!」

 

言われて当時の光景が蘇る武も照れ臭そうに頭を掻いて、然し後の記憶が曖昧な様子で自信なさげに言うと遮る如く話しの区切りを無理矢理つけ。

 

純夏「それよりほら、朝ごはん食べに行こ!」

 

更に武の腕を掴んで身を引っ張る。

 

武「だぁー判ったって!そんな慌てるな!」

 

そんな武もこのまま不透明な疑いを向けて問答を続けても、本人が否定し続けるならキリが無いと諦めて強引に起こしに掛かる純夏を宥めては催促に応じてベッドから離れ、お互い身支度を済ませ部屋を後にする。

 

 

そうして二人で訪れたPXには同じ訓練部隊の仲間の姿があり。

 

壬姫「あれ?たけるさんと鑑さんだ」

武「よっ、おはよ」

純夏「おはよー壬姫ちゃん!」

 

朝食の乗ったトレイを両手に空席を探す壬姫が武達に気付いてお互い挨拶を交わし。更に向こうには美琴の姿も見え。

 

武「たまと美琴だけか?」

壬姫「御剣さんと彩峰さんはもうすぐ来ると思うよ。榊さんは見てないけど」

冥夜「タケルと鑑も起きたか」

純夏「あ、御剣さんもおはよう!タケルちゃんわたし朝御飯取りに行くね!」

 

噂をした矢先に現れた冥夜へと振り返ると美琴を含めたメンバーが揃って朝の解釈を交わし合って一つのテーブルに集まり、純夏が武の分も合わせて朝食を持ってくるとやり取りがあった後駆け出す後ろ姿を眺めてそれぞれ椅子へ腰を落ち着かせ。

 

武「え?あ、俺のは自分で………ってもういっちまいやがった」

 

そんな純夏を静止するも既に遅く、やむを得ず武も冥夜の向かい側へ座る。

 

『火山活動の活発化に伴い昨夜未明、帝国陸軍災害派遣部隊による不法帰還者の救助作戦が行われました。現状では大きな混乱もなく14名全員が無事保護され―――』

 

ふと食堂に設けられた旧式の共同テレビの音声が耳に届きそちらへ向くとニュース画面を見て。

 

武(これは……天元山での事か?…そうか!夕呼先生はうまくやってくれたんだな。これで俺達の出番はなくなって時間も稼げる。あの婆さんも助かったみたいだし)

冥夜「…そなた、嬉しそうだな」

 

内容を聞いた武は拳を握り嬉々とし、その途端様子を伺う冥夜から鋭い睨みと共に非難めいた声が武に向けられ。朝食を取るのも中断して剣呑な顔をする彼女に武は訝し気に首を傾げ。

 

武「なんだよ、お前は嬉しくないのか?人が助かったって言ってるのに」

冥夜「…そなたは本気であのような報道を信じているのか?今の帝国に人道的な救助活動などする余裕があるはずもなかろう」

武「要は強制退去だって…そう言いたいのか?」

冥夜「判っているなら何故そのような顔を!」

 

そしてその騒ぎは周りの注目を集める程大音量になり始め、気付いた武の隣の美琴や冥夜の隣の壬姫も当然振り向いては宥めるべきか躊躇してあわてふためき、その間もやれ「前線を空けてBETAに攻め込まれたらどうする?」だの「国民の生命財産を守る為の帝国軍人だ」等言い争いは絶え間なく続き。

 

武「いい加減にしろ!それが人類の存亡をかけた戦争やってるヤツの言うことかッ!!お前が言ってるのは民間人の言い分を優先した結果、作戦が失敗しようが人類が滅亡しようが構わないって…そういうことじゃないのか!?」

慧「ッ!!」

純夏「え、彩峰さん!?…ちょっとタケルちゃん!御剣さんまで…どうしたっていうのさ!」

 

住民の自由を望むような話題に差し掛かった時、遂には武が机を掌で思いきり叩きながら怒鳴り付けてしまい、偶然にも今まさに注目を終えてきた純夏達にもその喧騒が伝わり、突如手にしたトレイを落として走り去る慧に皿の割れた音で我に返った武と冥夜もその方に向いて目を見張り。

 

武「あ……悪い。つい…」

冥夜「此方も我を忘れていた…許すがよい。言い争うつもりはなかったのだ…」

 

周囲の注目にも漸く気付いて頭を下げる武と冥夜。

それ以降は他の隊員も気にせず戻っていき、改めてお互い謝り合うと壬姫や美琴に純夏へも謝辞を投げ。

純夏に少し説教をされた武が慧の落としたトレイの傍の手紙を目にして拾い。

 

武「津島…萩、治…?………ッ!?」

 

それを見た途端に急な頭痛に襲われた武がこめかみ辺りを押さえ。

 

純夏「タケルちゃん!?どうしたの――――…もしかして…」

 

その様子にいち早く気付いた純夏が駆け寄り、ある予感からか同じく心配した冥夜達を手で制すると身を寄せ耳許で問い掛け、それを聞いた武も頷く。

 

武「―――ああ、デジャヴだ…でも殆ど思い出せねッ……」

純夏「………」

 

以前聞かされた2周目より先がこの世界だと武も今は認識していて、既知感に苛まれた事を自覚するも曖昧過ぎてそれ以上は言葉に詰まり。

 

武「兎に角今は彩峰だ。悪いけど冥夜達の方は宜しく頼む!」

純夏「うん、わかった!」

 

手紙を手に頭の乱れを振り払うと早々に行動へ移そうと駆け出す武の願いに勢いよく頷くと純夏も冥夜達のところへ戻っていき―――

 

 

 

 

 

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刹那「ここが帝都…」

 

司令部を通じて直接夕呼に宣言した通り、事前に入手した位置情報を頼りに刹那は現在帝都を訪れた。

数年前の京都陥落時に東京へ拠点を移して以降、日本の根幹として機能している此所は民間人も多く住まうのでそれに託けて刹那も予め用意しておいた一般服を纏って都心に紛れている。

パーカー姿と中東出身の顔を隠すよう被ったキャップにより周囲の人間も刹那を特別注目することなく通り過ぎるばかり。

 

刹那「…ここは」

 

暫し歩くと建物から離れた場所に辿り着き都民とはまた違った風貌の者が刹那の視界に入り、辺りを見渡すと難民用のテントや簡易的な毛布に包まる子供なんかも居て。酷いところは板等で継ぎ接ぎした寝床も建てられている。

 

刹那(経済都市であるにも関わらず、未だ救助施設が追い付かないか…これも戦いの弊害……)

 

この光景は祖国が滅んだ刹那には見慣れた戦争の痕跡で、国や土地を失った者が必然的になる暮らし。

昨晩の作戦で帝都の在り方を見極めるべく潜入した先で最初に気に留めた光景は街で日常を過ごす住民とはかけ離れていて、そこには僅かに感慨を生むも特に踏み込む事もなく立ち去ろうと歩を再開し。

 

『君、少しいいか?』

刹那「………」

 

その途端肩を掴まれる感覚に眉をひそめた刹那が視線のみを向け、そこに帝国軍の正装を着る男性と秘書のような立ち振舞いをした女性が視界に移り。

男の方はその顔つきからして相当の手練れだという印象が見受けられる。

 

刹那「な、なんでしょうか…?」

 

帝国軍人ならばと己の素性を探られると後々面倒になる可能性を考慮した刹那は警戒から表情と口調を繕い気弱そうな少年を演じ。

 

帝国軍男性「ああすまない、随分身形が綺麗だったのでな。…此所へは最近来たのかい?」

刹那「…はい」

 

厳しそうな風貌の男性だが難民の少年だと思われているようで柔らかい口調で尋ね、刹那も乗り掛かり肯定の意を告げ。

 

帝国軍男性「そうか。見たところ日本人では無いようだが…」

刹那「両親がイラン出身です。僕が産まれる前に祖国はBETAのハイヴが…だから知人がいるこの日本に非難したそうです…」

帝国軍女性「!甲2号目標…では貴方は…」

 

帽子越しでも刹那の顔を見て見破ったのに内心で舌打ちするも予め考えた対処策を滞る事なく口にする。

余談だが刹那の嘘にはある程度の信憑性もある。この世界には存在しない小国のクルジス、そして隣国であるアザディスタンはカスピ海とペルシャ湾の間に位置して、中東出身の刹那がイランやアフガニスタン出身の両親から産まれたと言えば疑う者は居なく。

現に帝国軍人の二人は何の疑念も持たず眼鏡を掛けた女性は驚愕までして。

 

刹那「日本生まれです」

帝国軍男性「……祖国を生前に奪われ、第二の故郷となったであろう日本の地まで―――…やはり許し難し…ッ!」

 

それを聞いた帝国軍の男は次第に血相を変えてゆき、怒気を孕む瞳と握り締めた拳にも力が籠り。

 

沙霧「私は帝国本土防衛軍、帝都守備連隊所属の沙霧尚哉大尉。この国は直に変わる…今暫くの辛抱だ」

 

男が、沙霧が名乗ると刹那と目線を合わせ。

 

沙霧「故に少年、その懐に控えた銃の引き金は決して引いてはならんぞ」

帝国軍女性「!?」

刹那「…!」

 

その言葉を聞いた瞬間、刹那の目が僅かに見開き、沙霧の傍らの帝国軍の女性も驚愕の表情を浮かべ。

自己防衛の為常に携帯用の銃を手離さない刹那は当然エクシアのコクピットにも用いり、機体から降りれば服の中に隠しておく。国連から念のため支給された銃は現在パーカーの中に在り、更に沙霧はそれを見破っていた事に繋がる。

 

沙霧「若者が撃つのは人類の敵だけで十分だ」

 

刹那の肩に手を置いて真っ直ぐ芯が込められた眼差しを向けられ、物怖じはせずとも目線は逸らさず。そう告げては横を通り過ぎ、去っていく背中へ刹那も振り返って見据え。

 

刹那「……あの男…」

 

沙霧の瞳には覚えがあった。己の理念と目標の遂行の為に決意を宿した目。それはソレスタルビーイングの者なら誰しもが持つモノで、刹那もまた同等の目をしている。

演技の奥にその眼差しを見出だしたのかは定かでは無いが沙霧が告げた言葉は刹那の脳裏を巡り。

然し己と同じならばこそと刹那の中で沙霧に対する警戒心が強まり。

 

刹那「………」

 

軈て姿が見えなくなったところでそれ以上は特別気に留めず、用も無しとこの場を離れるべく再び歩みを進めようと思った矢先にまた肩を掴まれる感触に背後を振り返り。

 

女性「悪いな引き留めて。時間は取らせん、貴様があの男と何を話していたかを聞きたいだけだ」

 

黒いコートにスーツを着込んだ先程の長髪の女性とはまた別の、肩までで揃えたショートボブの黒髪に眼鏡を掛けた女性が振り向いた刹那の視界に移り。

 

刹那「………」

女性「…因みに、こういう者だが」

 

これ以上他者に関与されるのも厄介だと手を振り払い立ち去ろうとするも、沈黙したまま動かない刹那へ反応を促そうと黒髪の女性が続け様に身分証を掲げ。

またそれを見た刹那も思い留まり。

 

刹那「国際情報管理省、欧州局一課…」

グレーテル「参事官のグレーテル・イェッケルンだ」

 

国際情報管理省。刹那もこの役職はデータベースで拝見していて。外務省と情報部を統括し、場合によっては国外にも活動が許可された国連枠内の組織というのを心得ており。また日本にも情報省外務という組織があり活動内容はこれに類似しているともいえる。

国連軍が一枚岩では無いように情報省や国連事務次官も当然活動は主に自国での事象であり、日本と米軍ほど因縁深くもなく関連性も薄い欧州連合に所属する彼女が来日…それも帝都にいる事は多少なりとも異質であり、つまり許可が下りるだけの何かが起こっている可能性が高く。

それに付け入るように看過せず、帝国軍人の二人へ接した時の演技も無く鋭い視線を送る。

 

刹那「…EUが俺になんの用だ…」

グレーテル「言っただろう?話しを聞きたいと」

 

或いはこの遭遇も必然だったのか―――

 

 

 

 

 

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横浜基地の司令部では現在、夕呼と基地司令であるラダビノッドが重い雰囲気を漂わせて議論している。

 

ラダビノッド「…困った事になったな」

夕呼「まさかこの土壇場で米国がXG-70の譲渡を拒んでくるとは…」

 

予てより00ユニットを最大限の武器として活用すべく対BETA・ハイヴ攻略用の要となる機体を開発元の米軍より国連に譲渡するよう取引が行われていた。

HI-MAERF計画凍結に伴い保管されていたXG-70をオルタネイティブ4に接収しようと開発が再開され、計画の中核である夕呼が居る日本に移送される申請が検討中だったが、それを白紙に戻すと通達が下ったのが早朝での出来事で。

 

ラダビノッド「昨晩の戦果を鑑みれば当然ではあるのだが…」

夕呼「仰る通り…ですが不審点も幾つか散見されています」

 

ガンダムを投入した撤退作戦が此処でも尾を引いていて、取引の有無はタイミング的にどう考えても米軍増援部隊の全滅が皮切りである事は明白だ。

寧ろ今にして思えば増援部隊を寄越した理由もその結果も策略の内だったと予測され、それをお互い同意見とばかりに不審な動向から疑惑を持ち合う。

更に譲渡の拒否を言い渡したのは今の政府や直属の開発チームではなく、現政権を維持する保守派である。それに繋がりが深いであろうオルタネイティブ5推進派も恐らくは企てに関わりがあり、要は第4計画の妨害工作が実で加えて日本への干渉権も強引に取り付けようと動いていると夕呼は予測している。

 

夕呼「最初はガンダムとの物々交換を持ち出される可能性も予想していましたが……流石はプライドが高い派閥連中…他国の兵器を羨望したと認めるのは許さないのでしょうね」

 

米軍には日米保安条約の破棄等、信用を害する行為を散々受けているがここまで露骨に行動されては現政府の全体が絡んでいるとは到底思えず。

あくまで仮説として証拠も無い現状に敢えて派閥と捉えて話しを進める夕呼。

 

ラダビノッド「…策はあるのか?」

夕呼「……当初はその算段が立っていましたが…何らかの方法で権利を得たなら、政府や元々交渉していた彼等に訴えても無駄でしょう。やはり今回の首謀者とその組織の裏を暴かねば現状厳しいかと」

 

期待の眼差しを向ける司令へ偽りない事実で答え、脳裏では数々の推察を浮かばせていき。

 

 

その後も僅かに方針等を話し合い一段落すると夕呼は執務室へと戻り。

 

夕呼「そういう訳だからお願いできるかしら」

左近「例の件に間に合いますかなぁ…」

 

自室でもある程度考察してから背後へ振り返り、壁に寄り掛かるハットを被ったコート姿の男性へ視線を送る。帝国情報省外務二課の鎧衣左近はハットで目許を隠し問い掛けに応じ。

 

左近「流石に支障が否めない場合は保証し兼ねますよ?事態は後戻りを出来ないところまで進行しています。万が一事が起これば、そちらを優先させなければこの国は潰えるでしょう」

夕呼「ええ、構わないわ。少なくとも米国に借りさえ作れていれば今後どうとでもなるでしょうし」

左近「では速やかに…―――」

 

返答に不満なさそうに頷くと左近も行動を起こすべく早々に立ち去る。

 

夕呼「…それにしても解せないわね。政府もこの機会に日本の再従属化を目論んでもっと踏み込んでくるものだと思ったけど…どういう心境の変化かしらね」

 

一見すると米国全体が働いているように感じるも、作戦後の国連協議対談で映像越しに顔を見せた現政府や米軍指揮官は驚くべき事態は真に目を見張り、然し何か疑念や兆候があるのか日本に対して苦言を呈する事も譴責の言葉も無く、それが不自然さを際立たせ。

或いはそれだけやり過ぎたか…その言葉を残して室内は静寂に包まれていく。

 

 

 

 

 

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行く手を遮られた刹那は少し前に出会ったグレーテルに連れられて都市部の喫茶店に赴いていた。

とは言え彼女が聞きたかった刹那が何者か、帝国軍人と何を話したかという本題は既に終わり、彼女の中のある点の誤解も解けている様子で。

 

グレーテル「まさか貴様が難民で、偶々絡まれていただけにだったとは…すまなかったな。お詫びに好きな物を頼んでいいぞ」

刹那「…いや」

 

そもそも格好を見れば…という点はあるが刹那も話しの流れで本筋を理解した為か、またはわざわざ口にする必要を感じないのか特に指摘はせず。

聞くと先程邂逅した沙霧が所属する軍隊の動きに気掛かりな点があるとの密告を受け、別件で欧州から那覇基地まで来日していたグレーテルが帝都に移動して調査をしていたところに前の現場を目撃したという。

向かい合わせで座るグレーテルの早とちりからくる居た堪れない様子に依然表情を一変もさせずただ短く気にしていない意を示し。

 

刹那「必要ない…これで十分だ…」

 

そう言って双眸を閉じながら勝手に注文され出てきた紅茶を口にし。

 

グレーテル「そうか。……だがやはり似ているな…」

 

刹那が無口なのは質問に淡々と答える節々から把握しているのかそこに不快感を感じた様子はなく。

だが刹那の目を見て思うところがあるのか囁き。

 

刹那「…?」

グレーテル「ああいや、目の雰囲気がな……気にしないでくれ」

 

小さく紡がれた言葉を確り耳に聞き届けた刹那だが、当然該当する人物は判らず訝し気に伺うと気付いたグレーテルも両手を前に出して聞き流すよう促し。

 

グレーテル「…実は我々が日本に来た本来の目的は、とある機動兵器を調査する為なのだ」

刹那「!……」

 

そして話題を変えようと思ったのか突然元々の来日目的を口にする。

然し難民設定として伝えた刹那にこんな事を言うのは不可思議であり、やはり何か感慨深いように語る様は話題を逸らした甲斐も無く。類似する人物が抜けきれていないのは明白だがそれよりも心に響いたのは刹那自信に関わる話しで、一瞬紅茶を持つ手が止まるも正体を悟られない為に下手に反応しないよう務め。

 

グレーテル「無論その性能などの噂も気掛かりだが…彼の戦術機で一番引っ掛かったのがレーザーヤークトの速さにある」

 

自分のカップを持ち紅茶へ視線を落としながら尚も意味深に語るグレーテルへ刹那はただ耳を澄まし。

実際刹那はBETAと対峙して以来、上空からの襲撃を可能とする優位性を取ろうと光線級の駆除を真っ先に行う戦術を行っている。それまでは従来から伝わる正規の戦法名などは勿論知らずに。

また回避可能な対空狙撃から発射位置を特定し砲撃をし返すのにも端から空中で陽動し地上を撃つ方が手っ取り早く、ガンダムだからこそ可能な戦術だが理に叶っているのは実践で証明されている。

ならばグレーテルが何故そこに着目したのか、刹那が疑問を抱くのも自然な流れであり。

 

グレーテル「こう見えても私は昔、戦術機中隊にいたんだ。その部隊もレーザーヤークトを最優先に当たっていてな」

刹那(…まさか)

 

その疑問は次のグレーテルの言葉で直ぐに解ける事となる。

言葉のみで捉えればただそのままの意味ではあるが、刹那は情報収集の際にほぼ最初に気に留めた事項を思い返して、確定では無いも凡そ見当がつくがそれも表情に表さぬよう注意し。

 

グレーテル「まぁ政治将校での任官だったが…って、私は民間人相手に何を…」

 

そこで漸く我に返る。

どういう了見で気になったかまでは部隊に所属していた事象以外は語られず中断されるもそれだけで十分把握した刹那はグレーテルの心境までは探る気はないと追求せず。

 

刹那「用が済んだのなら、俺は行く…」

 

会話も区切りがつくとまだ紅茶も飲み切っていないのに席を立つ。

 

グレーテル「あ、ああ。結局最後は自分語りになってしまったな…改めてすまない」

 

そんな刹那を引き留める事はなく再度諸々含めた謝罪を告げ。

 

刹那「―――…やはり新たな紛争の火種が…」

グレーテル「え…?」

 

最後に呟いた刹那は既に店を出るべく歩み出し。

 

グレーテル「……民間人、か…」

 

その背中を眺めながらグレーテルは先程までの雰囲気を消し、目線を細めて同様に呟き。

 

 

 

 

 

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朝のPXでの件から暫く経ち、武は断念した朝食も含めた昼食と夕食の間の時間に再びPXへと赴いていた。

 

武(彩峰のやつ…結局何を隠してるんだ?)

 

あの後手紙を届けるついでに、封が閉じられているにも関わらず検問済となった不自然の手紙の真偽も尋ねるべく慧の部屋へ訪れた。

然しそこで待っていたのは机に同じ封が何枚も置かれ、更に背後から奇襲を受けた武が慧と床や寝台で一悶着起こし、結局は説得も虚しく答えぬまま部屋を強引に叩き出され。

 

武「…俺を殺したくない、ね…ん〜〜〜〜〜〜」

 

慧ともめた時に開口一番で告げられた台詞を気に掛けつつもどうするべきか悩み続け。

 

壬姫「でも珍しいね。ヤキソバの日に彩峰さんがいないなんて…いつもなら真っ先に飛んでくるのに…」

武「―――ヤキソバ?……それだあッ!!」

美琴「うわっ!?」

 

そんな時に隣で昼食を取る壬姫の言葉に反応し、途端に声を上げる武。それに驚く向かい側の美琴の図。

 

武「おばちゃん!大至急、合成ヤキソバを追加で!あと合成コッペパンって残ってる!?」

京塚「な、なんだい藪から棒に?因みにコッペパンなら余ってるよ。一体どうするつもりだい?」

 

思い立ったら吉日とばかりに壬姫達を残してキッチンへ向かい、着けば間を置かず京塚へと要件を手早く告げて。

いきなりの要望に流石に驚いて訳を問われ。

 

武「頼むよおばちゃん!世界の命運を掛けた一大事なんだ!」

京塚「またおかしな事言ってるよこの子は。…直ぐ用意してあげるからちょっとは落ち着きな」

武「恩に着るよ〜!!」

 

訝しそうな目を向けられるも半ば呆れ顔で了承が得られ、その事に大袈裟な位両手を合わせて感謝の意を表し。

京塚に用意して貰ったヤキソバとコッペパンをトレイに再び壬姫達の席に戻ると直ぐに製作遂行に移り、出来上がるとまた二人を残して立ち去り、再三に渡る武の意味不明な行動に唖然と顔を見合せる。

 

 

向かうは慧が訓練や講義以外で大抵居座るであろう屋上。武が扉を開くと案の定フェンスに乗り掛かった慧の姿を捉え。

 

武「彩峰!」

慧「白銀……しつこい。顔も見たくない」

武「なっ!?」

慧「…冗談」

 

傍に寄ってくる武に気付くと早々に邪険に扱い多少はショックを受けるも崩れる身体を踏みとどめ。

 

武「ま、まぁいい。今回はお前にただ素晴らしい食べ物を提供しにやってきただけだ」

慧「…ヤキソバ?」

武「ふっふっふっ、君のイマジネーションではそのあたりが限界だろう…」

 

慧のノリに流されないように改めて先手を切り出すと手にした物を掲げ。

 

武「これが俺独自の発想で生まれた究極のメニュー!その名もヤキソバパンだッ!!」

 

京塚に頼んだヤキソバを付け加えて貰った中央を縦に切り開いたコッペパンに押し込んだ元の世界"だった"物の産物を見せて自信気に宣言する。

 

慧「!!」

 

それを見た瞬間慧はフェンスから降りて武の下へ猛進行、両手でヤキソバパンを掴みながら「食べていい?」と言う割りには力が込められ殆ど奪い取りそうな様子を醸し出し。

 

武「い、いいから取り敢えず力抜け」

 

何度も頷いて武の言い付け通り手の力を緩めると改めてそれを受け取り、間髪容れずにヤキソバパンを一口齧ると。

 

武「ど、どうだ?」

慧「……おかわり」

 

直ぐに食べ終えて追加を要求してくる。どうやらお気に召した様子で。

 

武「残念だが…ない」

慧「………へこむね」

武「そ、そんなに上手かったのか…?」

慧「うん。控え目に言って、歴史が動いたね」

 

返答に「そんなにか」と。然しこれで漸く本題を切り出せると思い立ったら先ずは勝手に部屋を物色した事を無断入室も含めて謝罪し、それを機に手紙について再度触れたところで好物に目を輝かしていた慧はまた表情に影がさし。

それでも武は自分の気持ちを隠さず伝えていく。

 

武「率直に言うけど、俺は最初お前がなんかの陰謀に巻き込まれてるか…最悪手を貸してるんじゃないかと思ってた。けど思い返してみると彩峰が工作員か何かなら、手紙を落とした上に机の上に置きっぱなしとか…どう考えても間抜けすぎる。寧ろ見せる為に態とやったって考える方が自然だろ?」

慧「…凄い想像力だね」

 

それでも慧の反応は薄く頑なに真意を見せず。

 

武「別に洗いざらい話せなんて言わねぇっつーの。だがもしお前が困ってるなら…一人で抱え込むな。これは207小隊の戦友としての言葉だ。そして一人で解決できる問題ならそれで構わないし深入りもしない…これは国連軍隊員としての言葉だ。俺が言いたいのはそれだけだ…」

 

それでも対話を続ける武。最後は真剣な顔と口調で告げるも慧は踵を返し―――

 

武「おい…」

慧「……………おいしかった。また作って…」

 

そう言い残して屋上の扉を開き訓練校内へと戻っていく。

 

武「え、…お、おう…」

 

慧の去る姿を見えなくなるまで見詰めた武は1人屋上へ取り残され、遅れて反応するも既に相手はこの場に居なく、今日は諦めるしかないと溜め息を漏らすと肩の力も抜けて座り込み。呆然と夕焼けの空を眺める。

 

 

 

 

 

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夜更けの帝都内に1人路地裏を歩く男が居る。

歳相応の貫禄を感じさせる男性の身なりは路地裏を歩くには相応しくなく。

 

『内閣総理大臣ともあろう者がこのような…どういうつもりだ、榊是親』

是親「……沙霧尚哉」

 

その男、声の言うよう日本の内閣総理大臣職を背負う榊是親が振り返る。

視線の先には刀を手に持つ沙霧が対峙し。

 

是親「貴様こそ一人で来るとは…否、そこは貴様らしいと称すべきだろうな」

沙霧「…戯れ言を。警備が尋常では無かった上、貴様が此所に居るという情報までもが…ならば誘い出した事を後悔させるまで」

 

一触即発といった雰囲気で互いに交差する鋭い視線で牽制し。内閣府の警備を強化して自らは居場所を報せ、恐らくは影武者辺りを立てたか偽装工作を働いたか…兎に角この暴挙には当の沙霧も異常事態に内心で焦りが生まれ。

 

是親「閣僚達を殺させては叶わないのでな…沙霧尚哉大尉よ、踊らされている自覚はあるのだろうな?」

 

距離を保ったまま事の発端を見透かして聞き。

 

沙霧「…ここで起たねば日本の民は二度と己の両脚で立つこともなくなる」

是親「立ち上がって転ぶ程度なら良いのだがな。それが民に何を強いるのか…分からぬでもあるまい」

沙霧「将軍殿下を民から遠ざけ、国政を思うままにした貴様が何を言う…!」

 

問答を己が意思と共に投げ合い、本来なら内閣府の中で起きていたかもしれない言葉の応酬。

次第に沙霧の手に力が入り刀の鞘から指で鍔を弾いて刃を僅かに出し。

 

是親「ああ、そうだな。……だがしかし、どのような覚悟があろうと貴様がその身を汚泥に晒す事もまた許されん」

沙霧「…なにを」

 

その様子にも全く臆さずに一度刀へと視線を送ると直ぐ様戻し、合わせた目線のまま言葉を続け。

 

是親「貴様はこの国にまだ必要な人間だ…その道は今は早すぎる。その志が戦後の日本になるべく多く必要なのだ―――誤るな。民諸とも、生きてさえいればなんとでもなる」

沙霧「ならば私も言わせて貰う。既に我が逝くは血塗られた外道…引き返す道理はなし。……先に逝くがいい」

 

榊是親の思想と理念、然し民の自由尊重を蔑ろにして日本の未来を語る様についに沙霧は刀を抜き、夜の闇に光りを宿す刃が鋭利に獲物を捉えんばかりに切っ先が向き。

 

沙霧「逝く前に問う。貴様を今傀儡とせし根源はなんだ…最早ただの米国人ではなかろう」

是親「…私は一度とて魂までも差し渡したつもりはないのだがな。……日本の、いや世界の未来を先導する力が現れた」

沙霧「!」

 

だが抜いた刀身が是親を害する事はなく、再び問いを投げる。それに双眸を閉じて確りと告げられた返答に沙霧は目を目張り。

 

沙霧「…国連が企てる兵器か…いや、………彼の機動兵器…ガンダム…ッ!」

 

そして是親の例えた力にその存在を認識した沙霧が先程よりも更に怒気を含む目を向け。

怒りを強めた沙霧にも構わず、ただ世界の未来だけを見据え。

 

沙霧「…ッ、性根までも国連に…米軍に陥たか…」

是親「ふん…ガンダムを奴等と同じくして見るか、それはまだ判断が尚早過ぎるのではないか?…そして日本が破滅の道を辿っているのもまた事実」

 

ただ自国を守るのに手一杯な日々は終わらせようと。

 

是親「だから私は賭けてみようと思う。国連でも米軍でもない…新たな標に。罰を受けるのはその後だ…」

 

だからこそ、縋る様な思いで。

国々の柵に囚われない力ならその刃はBETAにしか向かず、今の祖国の威信や自国主義者から大小あれど内紛も立て続くこの世界にはそういった存在は重要で、対BETAに最も適していると言う是親。

在り方こそ不明で根拠も何も無い。だが所有権を訴えているのは横浜基地のあの香月夕呼のみで、ここに何かあると予感めいたからこそ賭けに出た。

噂に違わぬ力を有しているなら生半可な事では他国に利用される不安もなく、仮にガンダムが本当にそんな存在だったならそれを知る多くの者の補助は世界への貢献に大きく左右され、勝利に繋がる可能性も飛躍的に高まるはず。

一方で得体の知れない力でもあり、だからこそ見極める必要があると、その先駆者になるかもしれないのなら此所で朽ちる訳にはいかず、沙霧が日本に必要と称した様に是親自身もその裁定が完了するまではまだ死ねぬと自負している。

今までも例え売国奴の汚名や強硬な精神を非難される事は味わった。此所で折れやれる事を遂行しなければ"彼"にも顔向け出来ないと裁きを求む自らを律し。

 

沙霧「またしても余所者の力に頼ろうなど、米国の悪事も忘れた傲慢なその血は最早諸悪の根源ッ!」

是親「ぐ、ぬぅぅ…ッ」

 

その時沙霧の刀がとうとう振るわれる。咄嗟に避けようと試みるも政治家と凄腕軍人の差は埋まる事なく、幸い急所は外れるも脇腹を斬られて流れる血を手で押さえ。

 

沙霧「…殿下の御心を蔑ろにした重罪、その命を以て償うがいい」

是親「……ッ!」

 

だが地に足を踏みとどめるだけの余力も無く吐血と共にその身は倒れ、重症を負う中でも意志は一切揺らがず、トドメを刺そうと突の構えを取る沙霧を睨み付けるも既に懐に控えた銃を取る気力も残されていなく抵抗は叶わず。

そんな時、路線裏の向かい側から銃声が響く。

 

『今のは威嚇だ。これ以上接近するなら当てる』

沙霧「……ッ、やはり護衛が控えていたか…!」

 

銃弾こそ当たらずも足下など行き手を阻まれ、声のみ聞き届けるも暗闇で狙撃者の姿は捉えられず。

 

沙霧「直ぐに裁きに参るッ!」

 

人数も不明な上増援を考慮した沙霧はやむを得ず一時撤退の為に刀を鞘に納めて身を翻し、傷に苦しむ是親へ容赦なき一言を物申しては反対側へと走り去り。

 

是親「ぅ……ぐ…ッ」

『…しっかりしろ!』

 

暗殺者が去るのを確認したかのように入れ替わりで狙撃者と思わしき男が駆け寄り。

周囲の警戒をしながら傍に向かい先ず傷口を確認し、その最中に是親は閉じていた片目を僅かに開き顔を見ると口を開いて。

 

是親「…き、さま…は……刹那…F…セイ、エイ…ッ」

刹那「!何故俺の名を…」

 

介抱を試みる救援者である刹那が呻き声で己を呼ぶのを聞き届けると改めて是親を見て見開き。

 

是親「内閣の…情報網を……侮、るな…ッ」

刹那「…喋ると傷に障る」

 

その言葉で殆ど納得した刹那は冷静に諭し。

ガンダムのパイロットが刹那だと知るのは横浜基地のみで、顔まで一致できるレベルの情報なら恐らくは夕呼経由であると、どういう理由かは推測が及ばないも犯人は凡そ確信に到り。

 

『動くな!』

 

兎に角救助を呼ぶべく携帯支給品の通信機を取った時、二人とはまた違う声が路地裏に響き。

 

刹那「…グレーテル・イェッケルン…」

グレーテル「やはりただの難民ではなかったな」

 

そちらへ直ぐ様向いた刹那が薄暗くも近い距離により確認出来た声の主を見て呼び、その表情には全く驚きが無く予め来るのが判っていた様子で。

そもそも刹那が此所に来れたのは昼間のグレーテルとの対談で不審な傾向が見られると聞いたからだ。それで沙霧と話していた刹那を掴まえ事情を問われ、後は基地内外で不審な挙動が目立つと密告された沙霧を気付かれないよう、要所で別ルートを使い先回りしたり双眼鏡を用いて高台やビルから覗く等組織で鍛えたノウハウを活かし尾行するだけだった。その結果グレーテルの情報通り沙霧は怪しい動きを見せ、最終的には総理暗殺の現場に刹那は急行する事ができた。

 

刹那「…後にしろ、内閣府に連絡を」

グレーテル「何を…!」

是親「構わ、ん…この男は…違う…ッ」

 

是親に素性が割れているなら今は好都合と連絡をし掛けたも、更に信憑性の高い人物が来たなら救助連絡をグレーテルに促し。

まだ刹那を疑った様子で応じずに声を上げる手前で是親に制止される。

薄暗く刹那しか顔が見えなかったも徐々に目が慣れた事で漸く是親の顔も確認するとグレーテルの方が驚愕の顔を向け。

 

グレーテル「ッ!な、内閣総理…榊是親!?」

是親「…ガンダムの…パイロット、よ…ッ!」

刹那「…喋るな…」

 

己を認識したと判れば再度刹那へ向き直り、然しその単語にグレーテルは当然反応する。

 

グレーテル「ガンダム、だと…?一体どういう…」

 

ガンダムという単語に構えた拳銃を下ろすと言葉が向けられた先の刹那を見て。

それが意味するところをそのままの意味で捉えられず事態が事態だけに流石に混乱し。

 

是親「たの、む…ッ、奴を…沙霧尚哉を…助けてくれ…!」

刹那「!」

 

その名には聞き覚えがあった。話しの辻褄を合わせるよう頭で整理し、是親が気を失うと今は救助を至急にと思考をやめ。

 

グレーテル「!…私だ、大至急信号を送った場所に救助隊を要請しろ。…ああ、総理が撃たれた!内閣にはそちらで対応を頼む!」

 

それを察したグレーテルが急いで通信機器を取り出し、仲間へと連絡を入れ。

その間に刹那も上着を一度脱いで傷口を覆うよう是親の脇腹にパーカーを巻き付け、上着は生地が厚く使うには適してないと断念して再度着込み。

一枚だけでは足りないと判断した刹那がグレーテルを振り向いて。

 

刹那「チィッ、悪いが何か布を…!」

グレーテル「くっ、これで足りるか…!?」

 

だがグレーテルも脇腹を覆える程の衣服は殆ど無く、躊躇せずスーツの上着を脱ぐと刹那へ投げ渡し、受け取ると速やかに是親の脇腹へ巻いて辛うじて応急措置を済ませ安静にし。

近場に救急所があったのか路地裏の向こうから直ぐに救急車のサイレンが鳴り響き。

 

グレーテル「異国民の我々が現場で発見されたら面倒だ!同志が上手くやってくれるだろう、今は一時退くぞ!」

刹那「ああ…!」

 

そしてその音を聞いたグレーテルも現場確保は避けたいとその判断が真に正しいか考察する余裕も無く告げ、刹那も同意しその場から走り出し、その後の是親の安否も含め後回しに今は撤退を優先し。

少なくとも一般救助隊の傍に居れば襲撃も無いだろうと、内閣にも連絡が通れば警備も直ぐ着くはずで、テロが紛れている可能性諸々を考慮した処置を早急に要請せねば等グレーテルは頭を巡らせながら刹那とその場を去っていく。

 

 

そうして安全圏まで走り抜けると一旦は息を切らせるもお互い直ぐに整え、逃げた先の建物に入り。

グレーテル先導なので彼女としては此所は安全だろうと刹那も警戒を僅かに緩める、その分グレーテルへの警戒が強まり、それは彼女も同じくして刹那を睨み付けながら口を開き。

 

グレーテル「…まさか貴様がガンダムのパイロットだったとはな…カマル・マジリフというのも偽名だろう?」

刹那「………」

 

何らかの裏情報取引に使ったであろう工場跡地にて、勝手知ったると照明を自分達の佇む区画だけ灯し。

仮にも総理の言葉ならばとグレーテルの中で話しは鵜呑みになり、刹那をガンダムのパイロットと既に断定して話しを進め。然し問い掛けに刹那は応えず。

 

グレーテル「沈黙は肯定の証だと捉えるぞ。…貴様、何者だ?」

刹那「…刹那・F・セイエイ。後は横浜基地にでも尋ねてみろ…」

グレーテル「横浜基地だと?……国連軍か。あそこには魔女が居たな…なるほど、確かに…」

 

質問の意図にガンダム以外での事となんとなく把握した刹那の言葉に合点がいった様子でグレーテルが壁に寄り掛かりながら呟き。

 

刹那「…東ドイツ所属、第666戦術機中隊"黒の宣告"…」

グレーテル「!…知っていたのか」

 

静かに告げた部隊名に反応したグレーテルは何度目かの驚愕を顔に表し。

 

刹那「…部隊メンバーまでは把握していない」

グレーテル「そうか…」

 

唐突に感慨深い表情に変わる彼女に刹那もそれ以降は追求せず、特に会話も問答も無く暫く沈黙した後にグレーテルから切り出し。

 

グレーテル「―――そろそろ移動しよう。少なくとも翌朝までは特定の場所に長居しない方がいい」

 

一先ず互いにある程度素性が知れれば次にと提案するも、刹那は反応を示さず。

そして―――

 

刹那「…グレーテル・イェッケルン、お前に頼みがある…」

グレーテル「…ふっ、ここまで首を突っ込んだしな。話しは移動しながら聞こうか、刹那・F・セイエイ…」

 

あれ程警戒されていたにも関わらずほぼ肯定寄りの返答を返す。

実際刹那が思っているほどグレーテルは警戒していなく、昔の政治将校の癖で先ずは探りを入れようとした言動で。

何より興味深いのだろう。わざわざ来日してきた本来の目的である、ガンダムの存在が…ならばこの出会いは寧ろ僥倖で。グレーテルの意図は計れずとも協力を取り付けられれば問題ない刹那は互いに名を呼び合うと間も無く移動を再開し。

 

 

 

 

 

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―――――――

 

 

 

 

 

各所で陰謀渦巻く中でも横浜基地では殺伐とした様子も今はなく、武による慧のヤキソバパン懐柔作戦が行われた翌朝。

結局自分の思いが伝わったか否か判らず顔を洗いながらそれを思う。

現在室内には武しかいなく、純夏は昨夜から夕呼の手伝いの為駆り出され現在は執務室に居る。本人は漸く00ユニットとしての役目が来たかと緊張したも頼まれたのが資料の洗い直しで、量が洒落にならないと量子電導脳を活用したのが今朝までの出来事。今は執務室で睡眠モードだと先程夕呼から聞かされたのでそちらは任せて慧の事を考える。

 

武(結局何も話してくれなかったな…彩峰のやつ相変わらず考えが読めねぇし…やっぱり何も聞かずに信じるべきなのか…?)

『タケル!起きろ!』

 

顔も濡れたまま思考に更けていると扉からの声にも気付かずに。

 

冥夜「入るぞ…!……なんだ起きていたのか」

武「よう。点呼前にうろつくなんてお前…まりもちゃん怒るぞ?」

冥夜「バカ者!先程総員起こしが掛かったのだ!」

武「うわっ!?なんだよ急に…抜き打ち演習か?」

 

声の主の冥夜が扉を開けて入ってくるなりいきなり説教を受けてたじろぎ。

 

冥夜「判らん。その後は準即応態勢で自室待機としか聞いておらん」

武「……?」

 

何はともあれ純夏が部屋に居ない事に一安心する武。同室なのは周知の事実だがやはり誰かに実態を見られるのが照れ臭いのだろう。

 

冥夜「…そういえば昨日の件だが…彩峰にも謝っておいた。逆に詫びられてしまったが…」

武「ああ…その事か。俺も話したけどよく判らなかったな(流石に手紙の事は話せないよな…)」

 

そうして昨日の慧に関して話し合うと室内に急な警告音が鳴り響き―――

 

『防衛基準態勢2発令。全戦闘部隊は完全武装にて待機せよ!繰り返す―――』

武「(なんだこれ…!?こんな警報記憶に………ッ!あった、思い出したぞ!)冥夜ッ!」

冥夜「判っている!」

 

素早く対応すると野戦軍装の上着を着込み互いに部屋を後にし、辺りの部隊員も全員慌ただしくも迅速に警報に従い行動していて。

一部蘇った武は冥夜に要件を伝えて司令部へと駆け出していく。

 

武「そうだよ……何で忘れてたんだよ…ッ!」

 

全力疾走の末司令部へと辿り着いた武が勢いよくそこへ侵入し。

 

武「夕呼先生ッ!」

夕呼「白銀!?あんたどうやって此所に…ああ、ここってあたしの部屋より機密レベル低かったわね」

 

そんなやり取りも程々に、司令部も現在各所でCP達が情報を伝達し更に夕呼の隣にはラダビノッド司令まで控える事態に息を呑むも悠長に構えている暇は当然なく。

 

武「俺思い……ッ、…帝都内部で軍事クーデターですよね」

夕呼「!…そう、記憶が。どこまで思い出した?」

武「…この後吹雪で出撃するところまでです」

 

周知を気にして耳許で囁くと夕呼も一瞬見開き、直ぐに平然を装うと互いに密談を始め。

 

夕呼「そう…」

左近「…こういうのは初めてかね?白銀武…」

武「うわっ!?…鎧衣課長…やっぱり居たんですか」

 

すると突如背後より夕呼以外の声が聞こえて、突然で驚くも直ぐに既知感から武は無意識に呟き。

 

左近「ふむ、なるほど…」

武「ヤバッ…!」

 

左近の反応によりその事に気付くと口許を押さえるもそれがまた墓穴を掘ったと自覚し負の連鎖になり。

 

夕呼「そういうのは後にしなさい。―――来るわよ」

武「!」

 

そして司令部の全員が大型モニターへと振り向き。

 

沙霧『親愛なる国民の皆様。私は帝国本土防衛軍、帝都守備連隊所属…沙霧尚哉大尉であります』

 

運命の歯車は再び周り始め、今ここに12.5事件が…―――――記憶を封じられた武―――早期に目覚めた純夏―――本来ならこの時帝都に居ないグレーテル―――そしてガンダムマイスターである異世界人の刹那を加え―――――帝都内部によるクーデターが決起される。

 




突きつけられた反逆の刃、陰謀渦巻く戦場に207Bが赴く

そんな中で刹那とグレーテルも行動を起こし…

次回
「帝国の威信」

灰の雪が冥夜を蝕む

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