波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活 作:働かない段ボール
カイネさんと私が話しているうちにイオリ・モノルは姿を消していました。宣言通り彼女も好きにするのでしょう。
「なんとかするって、キーラさんは何を……」
「このままシエナさんとお兄さんの進む方向を考えると、庭園に向かうと思われます。クリーチャーたちもそれについていくはず。これをうまく利用しましょう」
「庭園は人も少ないし、高さのある建物もないし、それなりの広さもあるけど……。庭園まで来たらどうするの?」
「城壁の外にクリーチャーたちを移動させて、そこで戦闘がしたいんですよね。そこならある程度暴れても問題ありませんから。庭園なら都の端ですし、障害物も少ないので、おおざっぱに風魔法で吹き飛ばして移動させることもできるでしょう」
「手慣れてる……」
シエナさんとカイネさん兄が庭園につくと、クリーチャーたちは距離を縮めていくのがわかりました。
今日の庭園は人も少なく、周りに妨害されることもなく襲うのは簡単でしょう。
風の幻素には物体の運動に寄与する性質があります。
よって、まずクリーチャーたちを強風により上空に押し流すことにしました。
突然の強風にシエナさんがスカートを抑えているのが見えます。
また、感覚的にクリーチャーたちが上空に巻き上がったのもわかります。このまま、都の外へ流してしまいましょう。……ちょっと抵抗されているみたいで、うまく押し流されません。
その時、一見何も見えない空に何本かの筋が走りました。
「あ」
「どうしたの?」
「矢か何かわかりませんが、モノルがクリーチャーを吹っ飛ばしたみたいです」
むむむ、見えないのに当たりをつけたらしく、都の外までクリーチャーが吹き飛ばされていきます。
「カイネさん、私走ってあれ追いかけますので、では!」
庭園の端から端までの距離を超えてさらに少し進んだところ。都の中と外の境界です。
昔は城壁があったらしいですが、庭園側には今は壊れかけの壁が少し残るのみ。反対側であればもう少ししっかりした壁が残っているのですが。
境界の向こう側は、人は基本的に住んでいない外の世界で、森や草原が広がっています。
壊れた建造物の残骸が転がっており、レンガが残されています。
地面にはコウモリ型のクリーチャーが5体転がっていました。
どうやら、イオリ・モノルが例の魔道具の効果を消したようで、視覚的にもはっきりとその姿をとらえることができます。大きさは成人男性の腰の高さほど。結構大きいですね。こんなものが街中を飛行していたとはとんでもないことです。
1体は死亡、4体はまだまだ元気なようで、私が接近したことに気が付いたのか、
「あばばばばばばば、耳が」
通常のコウモリは超音波により位置の特定をしますが、こやつらは超音波によって攻撃を仕掛けてきました。いやな進化です。振動により奴らの周囲の建造物の残骸がさらに崩れていきます。すぐに減衰していたので、おそらく彼らにとっては初手の牽制だったのですが、周囲の音を拾いやすいようしていたことと、人よりも良い耳を持っていたことにより、私は当然大ダメージです。
物に柔らかさを与える水魔法により耳をかばったものの、うっかり左耳の鼓膜をやぶいてしまいました。あちゃー。
ひとまずレンガを投げることで牽制します。飛んで接近してきた個体の中でもっとも先頭にいたものにあたり、そのまま頭がつぶれ……なかった。残念。ただ、全体の勢いを殺すことができたのでそのわずかな時間を使って態勢を立て直します。
武器は現地調達派なので、転がっていたレンガを今回は使っていきましょう。
と、思っていたら、上から突然人が降ってきました。一番近くにいたクリーチャーの頭が槍で貫かれています。
空からの襲撃者に、残り3体はいったん距離を取りました。
「遅い登場ですね、モノルさん」
「あなた左耳から血が出てるわよ?ホーンボーンさん」
正直言って、ものすごーく不服。なぜなら5体中2体もこの女に倒されたのです。
しかし準備は満タン。
後退するということは重心が後ろになるため、そこをすかさず一気に接近。今度は超音波対策をしつつ、左手で一体の頭をつかんでそのまま地面に叩きつけます。足で胴体を踏みつけて、そのまま近くにいたもう一体に至近距離から右手でレンガを投げつけて、今度は確実に頭をつぶします。
踏みつけた個体も思いっきり蹴り飛ばしたら動かなくなりました。やったぜ。
残りは1体。あっという間に仲間がいなくなってしまったことにビビっているのか、逃げようとしています。
逃がすかという思いと、イオリ・モノルに倒した数で負けてたまるかという意地から、手近な死体を投げつけて打ち落とそうとすると、ちょうど左翼にヒット。同時にイオリ・モノルの投げた槍が右翼を貫きました。
どうやら土魔法により槍を生成しているみたいです。
両翼にダメージを受けたクリーチャーはそのまま地面へと落ちていきます。次点の攻撃がとどめになりそうです。
私のレンガが先か、イオリ・モノルの槍が先か。
きっと私の方が速い!
その思いの元、レンガを全力投球。イオリ・モノルも槍を投げます。
一瞬の間をおいて、レンガは頭をぶつかり、槍は首を貫きました。
そのまま、クリーチャーは地面に倒れ伏し、動かなくなります。
「今のとどめは私のレンガですよね」
「いえ、今のは私の槍よ」
「レンガです」
「槍よ」
「レンガ!」
「槍!」
「レンガの方が当たるのは早かったし、頭を砕きました。だから私が先です」
「いいえ、槍の一撃で首を貫いてそれで終わりよ」
本当の敵はここにいた。
こうして私とイオリ・モノルがどちらも引かぬ言い争いをしていると、
「キーラさん!モノルさん!」
はあはあと肩で息をしながら、カイネさんが走ってきました。
そして、地面に転がる5体のクリーチャーの残骸にドン引きした表情を浮かべてから、
「……なんだか、うまくいったみたいだね」
と、疲れた声を出しました。
疲れているところ申し訳ないのですが、せっかくの第三者の登場です。
今回の勝者がどちらなのか、彼女に決めてもらいましょう。
イオリ・モノルもそう思ったのか、こっちを向いて頷きました。
「カイネさん、今私とこの人でどちらが最後の一体のとどめをさしたかもめているんですよ」
「う、うん?」
「だから、リプトンさん。あなたが決めてくれない?」
「…え、何を」
「「どちらの勝ちか」」
私たち二人の言葉に、カイネさんはしばらく固まります。
そして、
「うあああああああああん!!!!!もういやだああああああああああ!」
と言って走り出してしまいました。
この後、カイネさんの逃走劇により私、カイネさん、イオリ・モノルは馬車の帰りの便に乗ることができずに徒歩で学園に帰るという事件が起きるのですが、それはまた別の話。
ちなみにシエナさんはカイネさんのお兄さんと先に帰っていたそうです。
後日、シエナさんから、カイネさんのお兄さんが手紙の主であったことと、彼とお付き合いすることになったことが告げられました。
なぜ、差出人不明の手紙をわざわざ女子寮の敷地内に侵入してまで送っていたかというと、去年シエナさんにひとめぼれしたものの、どうコンタクトをとればいいか悩んでいるうちに、偶然地下経路を見つけ、面白半分に進むと女子寮の裏の物置に繋がっていたそうです。そこで、カイネさんからシエナさんが寮の裏で花を育てていることを聞いていたお兄さんは、とりあえず手紙を送ろうと思い立ち、現在に至ったのこと。悪用する人でなくて良かったです。
そして、シエナさんには色々忙しくて手紙の返信が出来なかったと言ったそうですが、カイネさん情報によると、恋愛にうつつを抜かして勉学をおろそかにしたしわ寄せの結果だそう。
ちなみにカイネさんは自分の兄と友人がお付き合いしていることに関して若干何とも言えない気まずさがあるのではと思ったのですが、カイネさん本人がさっぱりとした性格であることと、人間関係ガチプロシエナさんの一切匂わせなしムーブにより、今のところは大丈夫みたいです。
カイネさんには若干変な目で見られるようになりましたが、その後も仲良くやっています。
私とイオリ・モノルが授業の移動などで物理的に接近したときは全力でどこかに行こうとはしていますが、行く先は同じなので意味がないと思います。
イオリ・モノルとはあの日以降、特に会話はありません。ただ、たまに自室の扉の蝶番が消耗する程度です。
そして時は経ち、編入初の中間試験がやってまいりました。
今回の中間試験は全て筆記でした。もちろん狙うは主席。解き終わった感想としては手ごたえは感じています。
前回はイオリ・モノルがトップ。次点が、編入した最初の日以降一度も顔を合わせていない謎の隣人の公爵令嬢。
まずは彼女たちに勝つことが権力掌握への第一歩。どんな勝負事でも負けたくありません。
試験から数日後、個人の結果が返却されるとともに1学年約40人中のトップ5人が廊下の掲示板に貼り出されます。
「たぶん平均は取れてると思うけど、どうかな~」
3人で寮から教室へ向かう途中、カイネさんが呟きます。
シエナさんは、
「わたしはどうだろう。……苦手科目と得意科目で差が大きそうかな」
と、テストの内容を振り返っています。
そうこうしているうちに、教室の階までたどり着きました。
廊下には先にきていた学生たちが結果を見ています。
「私には関係ないと思うけどみるか~」
カイネさんが覗きに行くので、私もついていきます。
一番上には私の名前が煌々と輝いていることでしょう。
近づいて貼られている紙を見ると、
『
中間試験 結果
第一位 イオリ・モノル
第二位 キーラ・ホーンボーン
第三位 …………
』
…………。
一番上に私の名前が、ないだと……?
「うわあ!キーラさん、すごい!二番だ!」
横からカイネさんの声が聞こえますが、耳から耳へ通り抜けていきます。
……結果は結果。これに関しては受け入れましょう。
だがしかし、ここで折れてしまっては、湧き上がる権力欲の持ち主の風上にも置けません。
どうにかして、勝ちたい。
その日はそれだけで頭の中がいっぱいでした。
教師陣やクラスメートからも褒められましたが、イオリ・モノルは一瞬こっちを見て「ふっ」と鼻で笑います。
前言撤回。
どうにかして、この殺意を処理したい。
それだけで頭の中がいっぱいでした。
すると、もやもやしている私に気がついたカイネさんがあることを言いました。
「えーと、ほら!次の試験で頑張ればいいよ!……それか決闘でも申し込んじゃえば、なーんて」
「それだ」
「あ、やってしまった」
カイネさんの『決闘』という言葉にピンときました。他国では決闘を禁止する法律があるところもあるそうですが、この国にはありません。つまり、決闘を申し込んでも全く問題ない。
「良いことを言ってくれましたね、カイネさん」
「……ソウダネ」
この前のクリーチャー退治も含めて、あの女とは武力で白黒つけようじゃありませんか。