波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活   作:働かない段ボール

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第11話 決闘規則及び細則

「イオリ・モノル様、私はあなたに決闘を申し込みます」

 

私はそう言って、この国でも特に名門である貴族、モノル侯爵家令嬢の足元に手袋を投げつけました。

それを見た周囲はざわつきます。

それもそうでしょう。文武両道才色兼備と言われているイオリ・モノルに向かって、最近一般市民から新興貴族である男爵家に入っただけの編入生が決闘を申し込んだのですから。

 

イオリ・モノルは足元の手袋をちらっと見た後、はかなげな笑みを浮かべながら私に聞いてきます。

 

「あら、あなたは……」

「キーラ・ホーンボーンです。先の中間試験で次席だった」

「あらそうなの、最近編入してきたクラスメートさん」

 

私の言葉にわざとらしくうなずいて、彼女はそっとしゃがみこんで手袋を拾いました。

その場の空気が一気に緊迫します。

しかし、イオリ・モノルだけは余裕のある笑みを携えたまま、

 

「いいわ、受けて立ちましょう」

 

と言ってのけたのです。

 

 

 

さて、編入後最初の中間試験で私は生まれて初めての挫折を味わいました。私の結果は次席。教師陣やクラスメートからはすごいと褒められましたが、納得いくはずがありません。

 

主席はキーラ・モノル。

 

彼女を討てば、私がトップ。

 

ならば挑まない選択肢はないのです。

 

こうして私は彼女に決闘を申し込む運びとなったのでした。

この屈辱、どう晴らしてくれよう。

 

なお提案者はカイネさんです。さすが。

そのカイネさんは、

 

「キキキキキーラさん!?」

「私はキーラですよ?」

 

なにやら非常に慌てふためいています。

 

「いやそうじゃなくてね!?まさか本当にモノルさんと決闘することになるなんて!」

「キーラさん、どうしちゃったの……?」

 

シエナさんは心配そうにこちらを見てきました。

 

「私、この前の中間試験、次席だったじゃないですか」

「うん、あれは本当にすごいよ」

「だから、主席を倒せば良いかなと」

「うん?」

 

え?倒す?何を?と呟くシエナさん。

 

「そういえば、この前覇道について語ろうという話だったのにまだでしたね、シエナさん。ぜひ今からでも」

「ちょっと待ってちょっと待って」

 

シエナさんにぐいぐい行こうとしたところ、カイネさんに止められてしまいました。

 

「うん、一回落ち着こう。誰が落ち着こうって私が一番落ち着こう」

 

カイネさんは自身にそう言い聞かせるように話します。そして、

 

「決闘って……、本当にやるやつがいるかぁぁぁ!このおばか!」

 

と叫ばれました。

 

えええ…………、生まれて初めてバカって言われたんですけど。

 

驚きのあまり目を丸くしていると、

 

「いい?キーラさん、学生決闘はちゃんとルールがあるんだよ?無法地帯じゃないんだよ?わかってる?」

 

わかってますとも。

 

私はうむ、と大きくうなずきました。

常に権力を欲する私は、実のところルールを守る側ではなくルールを作る側でありたいのですがそれはさておき、この学園の校則は全て確認済みです。

 

学園における決闘規則は、

 

・公平な立会人を定めること

・命にかかわることはしてはいけないこと

・私刑禁止

 

などなどが盛り込まれています。

 

また競い合う内容やその勝敗に関しては、必ず第三者を立ててあらかじめ取り決めてから行わなければなりません。

 

「勝負の内容はいくつか案があるんです」

「殴り合い?」

 

カイネさんに間髪いれずに返されてしまいました。しかし、そこまで考えなしではありません。それじゃあ少々面白みに欠けますし。遊び心はいつでも持っていたいですよね

 

「いえ、それだと命に関わるかもしれないので……、あ、でも私は死なないから、それも楽しくていいかもしれませんね」

 

すると、シエナさんに真顔になりました。瞬きもしていません。いつか目力だけで人を殺せそうなポテンシャルを感じます。

 

「危ないからやめて」

「……冗談です。とにかく、案を後でモノルさんに言おうと思うのですが、カイネさん」

 

彼女は耳に両手をあてて、

 

「あーあー聞こえない聞こえない」

「立会人候補として」

「あーあー!聞こえないよぉ!聞こえない!」

「表情筋の動き的に聞こえてますよね。公平性を保つためにモノルさんにも、立会人を誰にするか決めてもらわなければいけないので、あくまでも候補です」

 

それならどうでしょうかと聞くと、カイネさんは言ってくれたのでした

 

「あくまで、候補………、ううう、それなら」

 

生け贄ゲット。

 

 

 

そして、決闘を申し込んだ日の夜の自由時間、私はカイネさんを伴ってイオリ・モノルを訪ねました。

 

「あらあらこれはこれは次席のホーンボーンさんじゃない」

「あらあらあらあらそういうあなたは決闘を申し込んだとき、記憶喪失してたモノルさんじゃないですか」

 

この女、周りに私が何者なのか聞こえるように、わざと既存の情報を話しましたからね。もしかしたら、記憶をなくしてしまっていた可能性を考えて話します。

 

「決闘のことなんですが、今お時間よろしいですか?ちなみに今何時かわかってますよね?ご自分のご予定は把握してますよね?」

「ええ、いいわよ。下の談話スペースで話しましょうか。あと、もちろん今の時刻は把握しているわ。あなた時計の見方を忘れたの?」

「うっかり時計の長針と短針を読み間違えているんじゃないかと思って、心配しただけなんですよ。昔遅刻の理由にそう言ってきた人がいたもので」

「その言い訳苦しすぎない?」

 

寮の一階には、学生らが集まってお喋りや話し合いのできる空間があります。

私たちはそこへ移動することにしました。

 

「それで?」

 

ちょうど他に人はおらず、話し合いには快適です。イオリ・モノルは椅子に優雅に座ると、こちらが話すのを促してきました。

こいつ偉そうなやつだなーと思いつつ、会話を試みます。

 

「まず立会人ですが、そちらのご要望はございますか?侯爵令嬢的な取り巻きとか」

「そんなに取り巻いてないわよ。別に私はリプトンさんでかまわないけれど」

 

イオリ・モノルは、普段の儚げスマイルではなく、おそらく素のツンツン対応です。

流れの速いところに根を張る水生植物並みに、何か取り巻いていたらいいなと思ったんですけど、確かに取り巻いてないですね。残念、きっと取り巻いてたら歩きにくそうで奇襲かけやすいんですけど。

 

「え!?いやいやいや、ほら、私よりももっといい人いますよ!」

 

カイネさんは、立会人に認められたことを受け入れられないようで、ぶんぶんと首を横にふりました。

とりあえず説得するために、適当にそれっぽいことを言います。

 

「カイネさん、これはあなたにしかできないことなんです。どうか、私たちの戦いの行く末を見守ってくれないでしょうか」

「私にしかできないこと……」

「じゃあここにサインお願いしますね」

「うん…………ってあああ!雰囲気に流されてついうっかり!」

 

決闘に関する書類の立会人欄に見事、カイネさんの名前を書かせることに成功しました。

 

「カイネさんはちょっと流されやすいですね。いつか悪い人に騙されるのではないかと心配です」

「いつかじゃなくて今騙されたんだけど!?」

「私は悪い人ではないのでセーフです」

 

それを聞いたイオリ・モノルは鼻で笑うと言いました。

 

「ホーンボーンさんは面白い冗談を言うのね」

「モノルさんの笑いの沸点は独特ですね」

 

「……」

「……」

 

「二人とも無言で虚空に向かってパンチの練習始めるの、怖いからやめて」

 

ふっ、ここはカイネさんに免じて、この私の広い心で許してあげましょう。

イオリ・モノルは私に感謝するように。

 

「立会人はこれで決まりですね。あとは具体的な内容についてなんですが……」

 

こうして私たちは決闘の内容について煮詰めていくのでした。

 

 

 

 


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