波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活 作:働かない段ボール
翌日、私は朝早くに教室に向かいました。
まだ他のクラスメートは寮から来ていません。誰もいない教室には私一人のため、なんだか開放感を感じます。イオリ・モノルの席に画鋲とかばらまきたい気持ちを抑えつつ、ある準備を行うことにしました。
使われていない椅子を一つ持ってきて教室の隅に置いていると、イオリ・モノルが箱を持ってやってきました。
「おはようございます、モノルさん」
先に来られた優越感でこれには私もにっこりです。
「おはよう、ホーンボーンさん」
イオリ・モノルは若干イラっとした顔をしています。よしっ!
そして、そのあとすぐに20枚ほどのメモ用紙を持ったカイネさんもやってきました。
「二人とも早いね、おはよう!」
当事者もそろったので早速始めることにしましょう。
イオリ・モノルは持ってきた箱を隅の椅子の上に置きました。
箱の上面には腕一本通すことのできるくらいの穴が開いており、中身はまだ空です。
箱には、
『考えた競争内容を1人1つ書いて入れて下さい』
と貼ってあります。カイネさんはその横にメモ用紙を置きました。
「本当にこんなことで、決闘内容決めるの?」
カイネさんは不安そうに言いました。
「結局ここだけは決まりませんでしたから。天に任せましょう」
実は昨日決闘周りのルールを決めて、いざ競う内容も決めようとしたのですが、私とイオリ・モノルの話は平行線をたどりました。さらには両者の意見にかたくなにカイネさんが反対をし、中々決闘内容が決まりません。
無駄な時間が過ぎていく中、カイネさんの一言で私は閃きました。
『もうこんな変なこと思いつくらいなら、クラスメートの皆に考えてもらった方がいいよ!』
聞いたとき、これだ、と思いました。
クラスメートに匿名で決闘内容を募り、それを箱からくじ引きの要領で引く。そうすれば公平性もあっていいのではないかと考えたのです。
そして、今日それを実行すべく私たちは朝早くから教室につどった訳なのでした。
「まず、私達からいれてしまいましょう」
イオリ・モノルはそう言って、メモ用紙を一枚手に取り自分の席に行ってしまいました。やっぱり画鋲設置しておけばよかった。
私とカイネさんも紙を手に席に着きます。
三人で自分が書いたものを見られないようにこそこそと書いた後、用紙を半分に折って箱の中に入れます。
そのころからちらほらと他のクラスメートも教室に来ており、私たちの行動と箱を見てから、同じようにメモ用紙を持って行っていました。ある人はさらっと書いて、またある人はメモ用紙ぎっしりに何かを書いています。一体どうなるのでしょうか。
クラスメートの皆さんはなんだかんだでノリがいいのか、皆さん何かしら書いて箱に入れてくれました。つまり、箱の中には20通りの決闘内容が入っています。20回戦えますね。
「カイネさんもキーラさんも朝早かったみたいだけどどうしたの?」
箱の中身に思いを馳せているとシエナさんが話しかけてきました。
「ふふん、モノルさんとの決闘に関してなんですが」
「結局内容が決められなかったから、クラスのみんなに考えてもらって、それでくじ引きしようってことになったの」
「えええ……」
ちょっとシエナさんが引いた顔をしています。地味にショックです。
「だから、あそこにあんな箱が置いてあったんだね」
納得したシエナさんにカイネさんが聞きました。
「シエナも何か書いて入れてたよね?」
確かに、カイネさんのもですけど、温厚そうなシエナさんはどんな勝負事を考えたのか気になります。
聞かれたシエナさんは露骨に目が泳ぎました。
「どうしましたか?」
「う、ううん、なんでもないよ。あははは……」
一体彼女は何を書いたんでしょうか。
まあ、折角皆さんには匿名で書いてもらったので、詮索はしないこととします。
筆跡でわかってしまうかもしれませんが。
授業は少しそわそわしながら受けたその日の放課後。
私たち以外人のいなくなった教室で私とイオリ・モノルは箱を挟んで向かい合っていました。
「箱の中身をひくのは私でいいんだよね?」
「お願いします」
「お願いするわ」
カイネさんはえいやっ、と箱に手を入れてごそごそした後、一枚の紙を取り出します。
紙は折りたたまれているので、まだ何が書かれているかわかりません。
近くではシエナさんが困ったように微笑みながら様子を見ています。
カイネさんは紙を広げてその内容を読み上げました。
「えーと、『私の妹が最近ストーカー行為をしていて困っています。どうにかしてください』。……んんん?」
「なるほど、妹さんのストーカー行為をやめさせたら勝ちなんですね」
「より再犯性を低くしたほうがポイントが高くなりそうだわ」
「いやこれそういう話じゃなくない?私は何を判定したらいいの?倫理観?」
カイネさんにはぜひそのあたり頑張っていただきたいです。
「でもこれ匿名なんだよね?誰が書いたのかわからないんだと、その妹さんにも辿り着くのが難しいと思うんだけど」
シエナさんが気合を入れている私たちに話しかけてきました。
「確かにそうですね、さすがオブザーバーのシエナさんです」
「え?オブザーバー?」
その時でした。
教室の扉がバーンッと開いたのです。
「それを書いたのはワタクシですわ!」
入ってきたのは後ろ髪をドリルのように巻いているクラスメートでした。
シエナさんが目を丸くして、彼女の名前を呼びます。
「レクラッツさんっ!?」
ネア・レクラッツ。この国でも有数の豪商の娘です。ホーンボーン男爵もそれなりに事業に成功していますが、彼女の父が会長を務めるレクラッツ商会は冒険者連盟とも提携して、この国のあちこちで商売をしているという、とんでもなく大きな商会です。
まさに権力。うらやましいかぎりです。
レクラッツさんはふうと溜息をつくと言います。
「最近ずっと朝から晩まで毎日来る日も来る日も妹のことで悩んでいたのだけれど、今朝ちょうどいいところに投書箱があったので入れてしまいましたわ」
「なんでそんなに悩んでることを、こんな箱にひょいっと入れちゃったの……?」
カイネさん、目が死んでますよ。しかし、ここでいちいち突っ込んでいては話が進みません。彼女を手で制して、レクラッツさんに話しかけます。
「それでここに来たということは、具体的なお話を聞かせてもらえるということでしょうか?」
「ええ、ワタクシより3つ下の妹のことです。あの子もこの学園に在籍しているのですが、最近どうも行動が怪しくて……」
「どんな行動をとっていたのかしら」
「ゴミを漁ってましたわ」
「なるほど。どこで?」
「男子部側の図書館です」
学園の敷地内はまず、女子部と男子部の間を塀で隔てられています。そしてそれぞれに学舎やカフェテリア、屋外運動場などが別々に存在しているのですが、図書館だけは男子部と女子部の境にあります。構造は男子部側、女子部側に1棟ずつあり、空中廊下で繋がれていて、学生の行き来はないものの、片方の棟にしかない本を借りたい場合には司書さんが持ってきてくれます。
そのため、女子学生が男子部側の図書館のゴミ箱を漁るのはほぼ不可能だと思うのですが。
この学園、秘密裏に双方の行き来している人、意外にいるんでしょうか。
「ワタクシの大事な大事な妹が、なんだか瞬きの回数や歩幅に変化がみられておかしいなとと思って後をつけてみたら……、ああ」
レクラッツさんはそこまで言うと、ふらふらと机に手をつきました。
もう、ちゃんと最後まで話してくださいな。
私は彼女の肩に手を置いて、
「それで、どうしたんですか?」
「図書館の窓から、男子部側を見ていたのですわ!!!!」
レクラッツさん、魂の叫びです。
それに対してイオリ・モノルが腕を組んで思案気に言います。
「そこからどうやってゴミ漁りとストーカーにつながるのかしら」
私は疑問に思ったことを聞きました。
「カイネさん、男子部側を見ることのできる場所があるんですか?」
「うん、図書館の窓際の一席だけね。いつも席の争奪戦になってる」
「レクラッツさん、妹さんがそこに座っていたという認識でよろしいですか?」
「よろしいですわ」
レクラッツさんは教壇のほうにつかつかと歩いて、くるっと私たちの方に向き直ると、
「あの子、男子部側を見た後、人気のない本棚の前へ向かいましたの。その本棚を押したら抜け道があって、ためらいなく進んでいっていたのでワタクシも追いかけました。抜け道の先は男子部側の図書館のゴミ捨て場でしたの。そしたら、ゴミ箱に迷わず手を入れていて……、あああああああああああああ!これは男の臭いがしますわっ!!!!!!!」
イオリ・モノルが黙って首を振っています。
レクラッツさんからこれ以上話を聞くのは難しそうですね。なんか発狂しちゃいましたし。
肝心のストーカー行為まで話が進まなかったことは少々痛手ですが、それよりも私は図書館の抜け道が気になります。思ったよりも男子部と女子部間の行き来ガバガバじゃないですか。
「とりあえず私は、図書館の抜け道が本当にあったことに驚いたよ……」
カイネさんはレクラッツさんから目を逸らしながら呟きました。ということは噂自体はあったんですね。
「まあ、大体わかったわ。じゃあ私はもう行くから。じゃあね、ホーンボーンさん」
イオリ・モノルは教室内に視線を一巡させたのち、そう言って教室を去ろうとします。
なんかむかついたので、軽く喧嘩を売っておきましょう。
「大体わかったっていう人は大体わかってないと思いますよ」
「それはあなたと私の『大体』の感覚が違うことから生まれる認識の差よ。ごめんなさいね、そのあたりがあなたと違って」
「人間1人1人違うのは当たり前じゃないですか。はー、そういうことなんで言っちゃうかなー。これだからモノルさんは」
「ああ言えばこう言う……っ!」
いやー、イオリ・モノル煽るの楽しいー!
イオリ・モノルはイライラした顔で教室を去っていきました。
「キーラさんは反射的にモノルさんに喧嘩売るのやめようね?」
「それは無理ですね」
「だよねぇ!そうでなきゃ決闘なんてしないよねぇ!」
カイネさんも、うわあああああと頭を抱えてしまいました。
一方のシエナさんは、
「……」
完全に空気と同化しています。さすがオブザーバー。
さて、私はどう動きましょうかね。
登場人物の名前のつけ方と生え方について
名前はアナグラム的な何かで無理やり読んでます。
キーラ・デオ・ホーンボーン:
どろぼうねこヒロイン→dorobonekoheroine→keira deo hornbone
…元々はイオリの横から男を掻っ攫っていく悪役令嬢転生モノにあるヒロインみたいな権力欲の持ち主にしようと思ったため。しかし権力欲が溢れすぎてしまったせいで、泥棒猫設定は消えてしまいました。
イオリ・ジョー・モノル:
色物令嬢→iromonoreijo→iori joe monor
…元々は悪役令嬢転生モノにある悪役令嬢枠かつ当初のキ〇ガイ枠。しかし他のキャラ達とバランスをとるためにまともになりました。
・シエナ・ブーア・ブックス:
へいぼんそばかす→heibonsobakasu→shiena bua books
…『人間関係ガチプロシエナさんの一切匂わせなしムーブ』は、友人Aの「もし、自分の兄弟姉妹が自分の友人と付き合ったとして、それを友人が何気ない会話の中で少しでも匂わせるようなことがあったとしたら、それは絶対に嫌だ……!」という魂のこもった言葉から生えてきました。
・カイネ・ジーニック・リプトン:
げんきポニーテール→genki ponytail→ kayne gnik lipton
…昔自動車学校で免許をとったとき、インストラクターが明るくて元気な素敵なお姉さんだったことがあり、友人Bに「明るくて元気なお姉さんが好きなのかもしれない……」と言ったら、「それは全人類好きだから」と諭された経験から生えてきました。