波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活   作:働かない段ボール

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第2話 ドキドキ☆女だらけの学園生活

記念すべき登校初日、私はとてもわくわくしていました。

 

私の名前はキーラ。庭である都を古今東西縦横無尽東奔西走し、勝手に治安維持活動してきたちょっと権力欲の強いごくごく普通の一般市民でした。

生まれた時から母と二人暮らしで父親のことを知らなかった私は、自分の出生の謎を探ってみたところ、なんと男爵の隠し子。キーラちゃんびっくり。

 

あとはとんとん拍子に男爵家入りが決まり、晴れて貴族の仲間入りに。そして、父親であるホーンボーン男爵は「学校いく?」と提案してくるのでこれを承諾。試験を経て、無事等教育機関に編入する運びとなったのでした。そして、今日がその登校初日なわけです。

 

初等教育は受けていたのですが、中等教育にいきなり途中から飛び込みはどうなの?と思ったりもしましたけど、なんとかなりました。権力を手に入れる上で学は必須でしたので、自習しててそれが役に立ちました。

 

さて、私が通うことになった、やたら長い名前が付いていて正式名称で呼ばれることのない通称”学園”は、この国が誇る国立中等教育機関です。学生はハイレベルでかつ貴族の子女など社会的に地位の高い子供たちが多く、そんな中で編入生というのは不利なのが一般論。

私自身は持ち前の権力欲で、混沌渦巻く令嬢ロードに挑むことを決めていたので、後悔はありません。

 

 

 

現在、私は入り口である正門からとことこと教師に誘導されて歩いております。

 

都は大部分が我が庭ですが、部外者以外立ち入り禁止である学園はまだ勢力圏内ではありません。そのため、学内の敷地に入ったのは編入試験を含めて二度目です。敷地は女子部と男子部に分かれていて、それぞれ本校舎があり、女子部の方にはもう使われていない旧校舎があります。

頭の中に地図を思い描いていると、中庭のところで少し待っていてくれと教師に言われました。

うむ、誘導ご苦労です。

教師がいなくなった後、環境観察のためきょろきょろとしながらあっちへこっちへ視線を動かしていると、中庭の木の上に人がいるのが見えました。上流階級ばかりが通っているとされている学園で、このような奇行に走る学生がいるとは考えがたいのですが……。

 

気になったので木の下まで近づいてみると、にゃーにゃ―言っている女子学生がいました。

猫ではありません。人間です。

しかし彼女は頭部になぜかネコ科の耳、頬には細い三本の髭が生えていました。

 

近づく私に気が付いたのか彼女(?)は、間違いなくこちらに向かってにゃーにゃー言い始めます。

その奇怪な光景には思わず瞬きをしてどうしたらよいのか分かりません。

 

一旦状況を整理しましょう。

 

・彼女の外見は猫のようになっている

・彼女は登った木にしがみついている

・こちらに対して助けを求めるようににゃーにゃ―言っている

 

木から降りられなくなった子猫ムーブですね。

 

「もしかして降りられないんですか?それとも趣味ですか?」

 

彼女はさらににゃーにゃ―と強く言っています。

面倒臭いのでとりあえず下ろそうと思ったとき、ずるっと女子学生が降ってきました。とっさに得意の風魔法で支えようとしますが、なぜか効果がありません。同様により咄嗟によけられなかった私へとそのまま彼女は激突し、それで終わりかと思いきや彼女の質量攻撃は私をもってしても凄まじく、その場に大穴があいたのでした。

 

「ど、どうなってるんですか……?」

 

降ってきた少女はどうみても細すぎず太すぎず、といった体格です。

現に私は彼女の下敷きとなっていますが、通常の人の重さしか感じられません。

 

騒ぎを聞きつけたのか、わらわらと人が集まってきました。

 

「たいへん、中庭に大穴ができてるわ」

 

「またあの方の仕業かしら」

 

「これは比較的軽微な被害じゃない?」

 

「穴に落ちてるのはあの方と……下敷きになっている子は誰?」

 

などなど、学生たちが喋っているのが聞こえます。

 

猫耳ひげ付き謎の女子学生がスッと私の上から退きます。

 

顔をしっかり見ようとするといつの間にか猫耳ひげはなくなっており、その顔は特徴があるようなないような、とにかく印象に残りずらく、このまま人ごみに紛れたらどこにいるのか分からなくなる、そういった相貌でした。

 

「あなたは一体……」

 

私が彼女に話しかけた時に、中年女性の声が響き渡ります。

 

「また何の騒ぎですか⁉」

 

私が穴から這い出てくると、

 

「あなたは編入生の……」

 

そう言って、何かを探すように周囲を見渡します。その中年女性は私を途中まで誘導してくれた方とは別の教師のようでした。

 

「そうですか、彼女の被害にあってしまったのですね」

「彼女?」

 

気が付くと、私を下敷きにした女子学生はどこにも居なくなっていました。

私に気が付かれずに気配を消して去るとは、なかなかの腕の者のようです。

来るべき権力掌握のためには乗り越えていかなくてはなりません。

 

「キーラさん、大丈夫ですか?一旦医務室へまいりましょう。私は学年主任のセリーヌと申します」

 

私が思考をめぐらせていると、学年主任と名乗ったセリーヌ先生は心配そうに声をかけてきました。

私は一見かわいい系守ってあげたい感じの美少女なので、心配されるのも無理はありません。

 

「いえ、私は問題ございません。無傷です」

 

しかし私はいずれ力、知、権力を手に入れる女。この程度ではびくともしないのです。

私の自信満々な顔にセリーヌ先生は、

 

「そ、そうですか……」

 

と若干引き気味に答えたのでした。

 

 

 

* * *

 

 

 

「キーラ・デオ・ホーンボーンと申します。よろしくお願いいたします」

 

そう言って私は教室で挨拶をしました。皆、興味深そうに見ているのがわかります。

ぐるっと教室内を見渡した後、教師の指示に従って私は席に着きました。

 

学園は男女で敷地自体分かれているため、教室内は女子しかいません。どの子も育ちがよさそうな雰囲気を持っていて、まさに令嬢ロードを突っ走るためには最適な環境ですね。

 

教室内には1人、ひと際存在感を放つ者がいました。見た目ははかなげな美少女と言った様子ですが、私の眼はごまかせません。彼女は相当の実力者のようです。

 

少し武者震いをしてしまった私に近くの席の子が心配そうにこちらを見ていました。

キーラちゃんうっかり。

 

 

 

外見は守ってあげたいかわいい系である私は、内面を知られると1/2が茫然とし、15/32が詐欺だと言い放ち、1/32が喜びます。選ばれし3.125%がいる。

そこで今回は内面を知られることなく権力掌握を目指します。

 

「ホーンボーンさん、何か困ったことがあったら言ってね」

 

初の授業が終わった後の休み時間、そう言ってくれたのはうっすらそばかすがチャームポイントのシエナ・ブックス子爵令嬢。

親しみのある笑顔で素敵です。

 

今はまだ本音で喋れないですが、いつか覇道を語り合いたいものです。

 

「そうそう、慣れないこととかいつでも頼って!」

 

彼女はカイネ・リプトン伯爵令嬢。活発そうな性格の子です。

 

己の力で乗り越えてこそなので頼ることはありません。たぶん何かあるときは対等での対話でしょう。

 

「はい、ありがとうございます」

 

彼女たちと私が話しているのを見たクラスメートたちが、私の席へ集まってきます。

 

「ホーンボーンさんってどのあたりの領地に住んでいらしたの?」

「生まれた時から都で暮らしていました」

「お父様とお母様は身分違いの恋をして、身ごもった彼女は男爵の元を去って、そして今!ようやく感動の再会をしたんでしょ!?なんだか物語みたい!すごいわ!」

「え」

「ここ、女の子しかいないから、そういうのついつい気になっちゃうんだよね。でも本当に『少女漫画』みたい!」

 

『少女漫画』。それは旧時代の遺跡から発掘したその書籍媒体は絵と今ではもう読むことのできない文字によって構成されており、最近通常言語に翻訳されて話題になりました。私は常に最前線を進むので、流行チェックに抜かりはありません。

 

どうやら、男爵や母、それに私の話は噂話としてもう上流階級界隈に拡がっているようでしたが、なにやら勘違いが起きている気がします。

 

「ほんとねー、ついつい気が緩んじゃう。まあ、先生たちの目があるところではちゃんとしてないと怒られちゃうから、そこだけは気を付けて」

「その、ホーンボーンさんって実はお互いに思いあってる相手がいて、実は貴族だったってわかって男爵家に引き取られるときに、『いつか、君に釣り合う男になって迎えに行くよ』なんて言われて……きゃー!!!」

「い、いえ。そういうことは全く」

「妄想だけは豊かになっちゃうのよね~」

「この前は皆で架空の彼氏をつくっておしゃべりするのはとても楽しゅうございました」

「またやりたいね」

 

彼女たちは私を囲んでワイワイキャッキャ。

この私が大勢の女の子たちの勢いにグイグイと少し押されるとは……。しかし、雰囲気は掴みました。私は学習する女。そして力、知、権力を手に入れる者です。

 

てっきり、「ふん!この成り上がりの平民風情が!べちん!」となるような、参謀渦巻く修羅の世界を想定していたのですが、随分と和やかな感じですね。

 

私は会話に相槌を打ちつつも、ある人を視界にとらえ続けていました。

教室で最初にマークした、見た目ははかなげ素顔は多分覇者。

編入初日たるこの私が彼女とコンタクトをとるには、どうするべきでしょうか。

そんな時こんな提案が耳に入りました。

 

「せっかくですから、午後の授業が終わったら、寮で歓迎会しましょう!」

 

お伝えし忘れていましたがこの学園は全寮制。当然私も寮に入ることになります。本来ならば、先に寮に入居してから編入ということになっていたのですが、部屋に不備があったそうで、いきなり編入初日に初登校となりました。

 

「いいですわ!」

「さっそく、先生たちに頼みましょう」

「たくさんお話ししましょうね」

 

ちょうど休み時間が終わり、私を囲んでいたクラスメートたちは各自席に戻って行きます。

 

……ふむ、歓迎会。

 

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