波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活 作:働かない段ボール
このところのシエナさんは少し様子が変でした。何かぼーっと思い悩んで授業が終わったことに気がつかず、そのまま次のコマに遅れかけたかと思えば、夕食のときはやたらとそわそわして、食事の時間がおわるやいなや、急いで食堂棟から出ていったり。
まだ付き合いは浅いですが、カイネさんの戸惑った反応を見る限り、いつもとは違う調子であることはわかりました。
そのこともあって、私は彼女の呼び出しに応じたのです。
寮の裏へ向かった私を待っていたのは、目を潤ませたシエナさんでした。
波動式対話術により、とりあえず彼女を落ち着かせて話を聞くことにします。
「それで、花壇のお手紙とはなんのことなんですか?」
「あのね……、私、ここの花壇でお花の世話をしてるのは、もう知ってると思うんだけど。実は育ててる花の近くに、いつからか手紙が置かれてるようになってたの」
園芸が趣味のシエナさんは、今私たちのいる寮の裏の花壇で花を植えて面倒を見ています。ですので、平日の自由時間や休日はここでよく土をいじっているのはよく見かけていました。
「どんな手紙だったのですか?」
私がそう聞くと、シエナさんは少し顔赤くして、
「一番初めは、ここの花はとてもきれいに育てられているんですね、とか、自分も園芸に興味があるのでどんな風に世話をしているのかぜひお話ししてみたいです、とか。それで、もし返事がいただけるのなら、ここの花壇に手紙を置いていただけると嬉しいです、とも書いてあってね。最初は誉めてもらえて嬉しかったのもあって、冗談半分で返事を書いて、私も置いておいてみたの」
ともじもじにながらも答えました。
「はあ、なるほど」
なんだかこれは、ある種の波動を感じますねぇ……。
シエナさんはさらに続けます。
「次に見に来たら、私の手紙がなくなってて、代わりにお返事が来てて。それから、少しずつお手紙のやり取りをするようになって……。気がついたら、そのお手紙がすごく待ち遠しくなってた」
そう言い終わると、どこか遠くを見るような眼差しをしました。
「その手紙がこなくなってしまったと?」
雨の日どうしてたんだろうと突っ込みをいれたいですが、さすがの私もそのような雰囲気ぶち壊しムーブはしません。自然な相槌を私は打てるのです。
「うん、今まではこんなに間が空いたことはなかったのに。最近全然便りがないの。それどころか、私が置いた手紙もそのままで……」
シエナさんは悲しい気持ちがぶり返したのか、顔を伏せてしまいます。口ぶりから察するに、文通相手とは面識がないようですが、女子部の寮に手紙を遅れる人間は限られています。
「ここに手紙をおける人間って、この場所に入れる、つまり女子寮の誰かではないんですか?」
ここは上流階級の子女が多く在籍している学園です。加えて、女子部の寮なのですから、おいそれと部外者が入ることはできません。
しかし、
「それがその……、男の子みたい」
シエナさんはそう言いました。
「やり取りしてるうちに、自分のこととか、身近な出来事とかも書くようになってね。お手紙の人は、自分は学園の男子部の人間だって書いてあったよ」
「そんな。ここは女子部の寮ですよ?手紙をおけるってことは無断侵入してるってことになってしまいますよね」
手紙の主を仮に男子学生としてしまえば、彼(仮)は女子寮にバレずに侵入できるとんでもないヤツです。
私の言葉に、シエナさんもうなずきます。彼女もこのことが予想できないほど、バカではありません。むしろこの学園に通えていることから、相当優秀です。
「うん……、だから、今まで誰にも言えなくて」
彼女は私をまっすぐ見て、
「私、どうして手紙が来なくなっちゃったのか、理由を知りたい。だけど私だけじゃ、どうすればいいか全然わからなかったから。キーラさんに助けてほしいなって思って呼び出したの。……ごめんね、編入してきてまだ日が浅いのに、こんな無理な相談しちゃって。誰かに話せただけでも少し気が楽になったよ。ありがとう。一方的に相談しちゃったけど、やっぱり気にしないで!」
たぶん手紙の主は女子寮の敷地に侵入したことがばれて捕まったから返事がないんじゃないな。
わりと最初からそう思ってました。
まあ、ただこれだとなんの面白味もありません。それに、今までどうやって手紙を届けたり、回収してたりをしていたのかも気になります。
そこで私はシエナさんの手を両手で包み込み、
「手紙の謎、お助けしますよ」
かわいい系守ってあげたい美少女から、包容力のある美少女へとシフトチェンジしました。
「え!でも」
シエナさんはおろおろしていますが、問題ありません。なぜなら私は力、知、権力を手にいれる女。この程度の問題解決ができなくてどうする。
「気にしないでください。クラスメートじゃないですか」
「……キーラさん、ありがとう!」
私の言葉に、申し訳なさそうにしつつも少し嬉しそうに返しました。
彼女の悩み、私が覇道を実践することで解決してやろうじゃありませんか。
私はシエナさんのお悩み相談を引き受けることにしました。
ただ、一つ気になっていたことがあります。
「どうして私に相談をしたんですか?」
大事な悩み事など、転入して日の浅い私よりも、カイネさんなどに相談している方が自然です。
なぜ彼女はわざわざ新参者の私を相談相手に選んだのでしょうか。天使だからかな?
シエナさんはスカートをぎゅっと握ったり離したりしながら言いました。
「だって、キーラさん、こういうこと言っちゃうのは、そのなんだか失礼かもしれないけれど、いままで庶民として暮らしてきたでしょ?だからそのぉ…」
そして顔を赤くして一呼吸おき、
「こ、こういう男女な話、くわ、詳しいかなって!」
「特に詳しくないです」
ラブコメの波動だったかぁ……。
思わず包容力のある美少女の外面が剥がれかけてしまいました。
「え!?でもお父様とお母様の身分を越えた愛に感動の再会は」
……感動?
三次元振動するホーンボーン男爵と泣く子も黙るお掃除大好きな母が、私の脳内を横切っていきます。
「やつら再会してないです。それに母が感動という感性を持ち合わせているかも怪しいです」
「!?」
ロマンもへったくれもない返答に、シエナさんは驚愕の表情。
皆さんとお話ししてて気がついたんですけど、この学園の学生は良くも悪くも箱入りなせいか、男女のアレコレに夢を見がちな気質がありますね。
「ですが、手紙がどのように送られてきたのか、この謎の解明は間違いなく我が覇道の助けとなるでしょう。シエナさん、任せて下さい」
この学園の女子寮にいかにして、手紙を送ったのか。この技術を我が物とすれば、私は新たな力を手にいれることができるかもしれません。
そう思うとつい熱が入ってしまい、覇道という言葉を口にしてしまいました。もうこれは私の完璧な外面をえいやっ、と投げ捨ててしまいましょう。
「は、覇道?」
「シエナさんは覇道にご興味をお持ちですか?そうですかそうですかでしたらこの私と語り合いましょうぜひともあなたと話したいと思っていたんです」
いやぁ、嬉しいですね。語り合える同志がいるというものは。
「え?あ、いや」
「さっさと問題解決しましょう。そして覇道を語りましょう」
「は、はい」
「さて、何らかの手段で手紙を運んでいるのですね。魔法でしょうか?」
魔法。
新しい時代になって人類が手にいれた、新たな法則。
簡単なものなら誰でも使うことができますし、一説によると人は常時何かの魔法を使っている痕跡があるそう。とはいえ、複雑な事象の発生、例えば遠くの場所まで正確に物を運ぶような動作は困難を極めます。
魔法を正しく理解し、より本質的に開発や使用をするためには、数学や物理学など基礎を勉強しなくてはなりません。そして自分がどの程度魔法を使えるか、スペックを把握する。そうすることによって初めてこの力を行使することができるのです。
だから、私たちは無茶なスケジュールの下、学園で机にへばりついて勉強する必要があるんですね。
研究が進んでいなかったその昔、身の丈に合わない魔法を無理やり使おうとして、頭がパーになってしまう人が結構いたそうです。怖いですね。なぜ頭がパーになってしまうのか、いくつかの仮説は立てられていますが、完全には証明されていないのもなかなか恐ろしいところではあります。人が誰しも潜在的に爆弾を抱えてしまっているという問題を、解決できていないことにつながっているので。
話がそれてしまいましたが、ありえなさそうなことはとりあえず魔法のせいにしとけ、みたいな風潮もあるので、原因の一つとして挙げさせていただいた次第です。
「うーん、それは考えたんだけど。仮に風魔法で手紙を運んだとして、誰にも気がつかれずにそんな高度な魔法を使うなんて、学生レベルでできるかな」
幻素には
「では今度の休日に実験してみましょう。外部の人間が近づけるギリギリのところから、寮に向けて手紙を風魔法で送ってみませんか」
シエナさんも色々と考えてみているようですが、それだけでは結論は出せません。せっかく人手が二人分あるわけなので、手紙郵送の謎についてはいくつかの仮説を検証してみたほうがよいでしょう。
そして、未来の権力者たるこの私、もちろんシエナさんの相談の本質を見失ってはいけませんよ?
「確認のため聞きますが、一番シエナさんが知りたいことは、なぜ手紙が来なくなってしまったか、ですよね?」
「うん」
「男子部がちょうどテスト期間で手紙を書く余裕がないとか、そういうわけではないはずですし……。男子部の噂なり、人の動きなりを調べる必要もありそう。そちらの方につてはありますか?」
テスト期間など、行事のスケジュールは女子部・男子部で違いはないはずです。そうすると、男子部内のトラブルが原因で、手紙の主が文通不可能になってしまった可能性も考えられます。
「私は弟がいるけど、ここにはまだ入学してないし……。でも、クラスの何人かは在籍中の御兄弟がいらしたと思う」
残念ですが、つい最近まで一般市民だった身。まだまだ私には上流階級に通用するコネというものが圧倒的に足りません。切実に早く欲しい。
「ではそう言った方々から情報を集めましょうか。……とりあえず、そろそろ夕食の時間ですし、今日はお開きにして続きは明日の休日でもいいですか?」
まあいろいろ議論しましたけど、時間も時間です。私たちは育ち盛りですからね。しっかり食べて、しっかり休まなければ。
決して空腹に耐えかねたわけではないことをここに記します。