波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活   作:働かない段ボール

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第5話 権力欲と自己愛の化身

普段の休日ならば自己鍛錬に費やすのみなのですが今日明日の2日間の休みは違います。

 

シエナさんの文通相手から手紙が届かなくなってしまった、その原因の調査を行うのです。

 

昨日私とシエナさんがこそこそしていたのが気になったのか、カイネさんがそわそわしていたので調査隊の仲間に加えることにしました。カイネさんは、ここのところ様子のおかしかったシエナさんを心配していたわけですし、事情を話してもそれを言いふらすような人ではないでしょう。

 

本日の朝。手始めに私、シエナさん、カイネさんで作戦会議を行うことにしました。

場所は別に私の部屋でもよかったのですが、シエナさんに無言で首を横に振られてしまったので、シエナさんの部屋です。

 

「いやー、シエナが実は文通で愛を育んでいたとは……。ふっふっふ、今日は全部今までのことを吐いてもらうぞ?」

 

ニヤニヤとしたカイネさんにそう言われたシエナさんは、

 

「あ、愛!?そ、そんなのじゃないよぉ!」

 

とわたわたしています。

私は誰が誰と何を育んでいようと構わないので、とりあえず話を進めます。

 

「学外に出られるのは明日だけですから、今日は学内でできることに集中しましょう」

 

外出届は前日の午前中までに提出しないといけません。そのため、今日の分の外出届は間に合わなかったのです。

 

「学内でできること……。男子部の噂をできる範囲で集めるとか。あ、そういえば!カイネさんは確かお兄様いらっしゃったよね?」

 

シエナさんの言葉に待ってました、と言わんばかりにカイネさんが返します。

 

「うん。しかも、今男子部の方に在籍してるよ!」

「これは大きいですね」

 

家族への連絡ならば、学内からでも取ることは難しくありません。

 

「いや~、ここぞというときに役に立っちゃいますよ~」

 

カイネさんはお兄さんから聞いた、男子部の様子を話してくれました。

 

・夜間の校舎立ち入り制限など、基本的な規則は女子部と同じ

・女子部の敷地の立ち入りは厳しく制限されている

・都になら遊びに出かけている男子学生と接点を持つことができるかも

・女子部への覗きはできないようになっている

 

また、これに加えて女子部敷地の境界には、魔法の使用を感知するために幻素の動きを捉える最新式のセンサーが試験運用され始めているという情報まで入ってきました。

ですので、昨日考えた「魔法で手紙を寮の裏に届ける」というのは、セキュリティの面から見ると難しい……。

やるにしてもセンサーの計測範囲のぎりぎり瀬戸際まで運んで、後は魔法に頼らず自然の風に任せるなどとしかできません。いったいどうやったのか、考えれば考えるほど謎は深まります。手紙の主は何者なのでしょうか。

 

人物像を知る手がかりは……。

 

「あと、手紙の主の手がかりとして、手紙の内容ですね。見せていただいても?」

「えっと、はいどうぞ」

「本当にいいの?」

 

ためらわずに手紙が入っていると思われる金属製の缶を手に取ったシエナさんに、カイネさんはやや困惑していました。私ももし、仮に秘密文書のやり取りをみられるかもしれないと思ったら即日焼き払うので、その反応には同意です。

しかし、シエナさんはぽかーんとした顔をして、

 

「え?変なことは特に書いてないと思うけど……?」

 

……これは、後ろ暗い、後ろめたいことが何もなく、素直に育てられてきたのがわかります。そのまぶしさに私とカイネさんは思わず目をつむりました。

 

シエナさんは立方体の缶の蓋を開けて、こちらに差し出してきました。その缶の中には、封筒が丁寧に縦置きに入れられています。

 

「うわっひゃぁ!会ったこともない人とのイチャイチャ文通、ロマンチックだなぁ!!」

「そういわれると恥ずかしくなっちゃうな……」

 

カイネさんはワクワクと言った表情で手紙を見つめています。

 

「ふむ……」

 

私はいくつかの封筒のうち、比較的新しそうな手前の物をいくつか手に取りました。

 

『最近私はあなたのおかげで、園芸のことが少しずつですがわかってくるようになりました。花壇の横を通ったりすると何の花なのか、どうやって手入れされているのか、頭に浮かんで楽しいです』

 

『そろそろ試験のため、勉強で忙しいのですね。こちらも同じようにもうすぐ試験期間です。私は語学が苦手なので、友人らと悲鳴を上げて勉強しています。お互い、頑張りましょう』

 

『編入生の事がたくさん書いてあって、とてもワクワクしていることが伝わりました。仲良くなれるか不安とありますが、きっとあなたなら誰とでも仲良くなれますよ。その点、私は、あまり友好的な人間ではないので、あなたみたいな素敵な人には憧れます』

 

『今日も色々な園芸のお話ありがとうございます。とても勉強になります。

新しく買った苗は素敵な花に育つでしょうね。それで、都のどこの店ですか?自分も行ってみたいです。よかったらこん……←書き損じです。気にしないでください』

 

『大通りの市場の手前にある小道を右に入ると、園芸関連のお店が多く集まっています。そこでもちょっと目立たないところにある、小さなお店で購入しました。他にも珍しい種が置いてあって良かったです。ぜひいらして見ることをおすすめします!』

 

取り立て、怪しいブツのやり取りをしましたとか、暗号みたいなものがあるとか、手紙自体に何か仕込まれているとか、そういった形跡はありません。ごくごく普通の手紙のやり取りみたいです。

 

「この一番新しい手紙はシエナさんの書いたものですか?」

「あ……、うん。送ろうと思ったんだけど」

「いつまでたっても回収されなかったと」

 

というか、編入生って私の事ですよね。たくさん手紙に書いたようですが、まあ私がかわいい系守ってあげたい美少女にして将来的に権力を手に入れる人間だから、魅力がにじみ出てしまったんですね。これは仕方がない。

 

その後も他の手紙を読みましたが、カイネさんがキャーキャー言う以外は、特に収穫はなく。

 

盛り上がったカイネさんは目をキラキラさせて私に、

 

「キーラさんは、こういう手紙のやり取りするような、素敵な彼氏とかいない?」

「いませんね」

 

彼氏よりも権力が欲しい。

 

「ほんと?こんなにかわいいのに!」

 

横でシエナさんがうんうんと頷いています。

 

ふっ。私は己の覇道を実践すべく日々生きていますので、そんじょそこらの男では私に太刀打ちできないでしょう。

私の返答に満足できなかったのか、カイネさんはさらに聞いてきました。

 

「え~、じゃあタイプ!どういう人が好き?」

 

私が好き。以上。

 

ただ、これを直接伝えてしまうと今後の人間関係に影響が出そうなので、ここは柔らかい笑顔で返します。

 

「私は、欲しいものは自分の力で掴み取るタイプなので、人に求めるものはありません」

「……キーラさんってば、顔に似合わず意外と肉食?」

「食肉は好きです」

「あ、うん」

 

シエナさんの手紙を漁っているうちに時間は過ぎて、お昼になりました。

 

「あ~、おしゃべりしてたらお腹減っちゃったなー」

「カイネさん、目的はおしゃべりじゃありませんよ?」

 

このカイネさん、何かと噂やおしゃべりが好きみたいで、会話の実に6割は彼女の発言でした。よくしゃべるなあと思いましたが、その一方で情報収集の面から考えると有能な人材でもあります。

 

「じゃあ、そろそろお昼ご飯にしようか」

 

シエナさんがそう言うと、カイネさんはやったーと立ち上がりました。

 

休日のため普段よりかは空いている食堂でお昼ご飯を食べた後、カイネさんはお兄さんと連絡を取るべく、寮管理室に向かっていきました。寮管理室には魔法による連絡用端末があるためです。

余談ですが、大昔はもっと簡単に連絡を取る方法があったらしいのですが、幻素が妨害をしてしまうため、今はもう使えないという話を聞いたことがあります。魔法が使えるようになった代わりに消えてしまった技術の代表格ですね。

 

カイネさんを待つ間、私とシエナさんは一足先に寮の裏の花壇へ来ています。

 

「昨日はちゃんと聞けなかったんですが、手紙はどの辺においてあったんですか?」

「私が面倒を見てるところ……、ここに置いてあったの」

 

そう言ってシエナさんは、ある花が咲く一画を指さしました。おそらく異国の花なのでしょう。見たことのない種類です。

 

とはいえ、別段変わった点のない、普通の花壇。

 

「このあたりの花壇は日当たりが良くないから、園芸をやる子は皆表の花壇を使ってるの。たぶん、今ここを使ってるのは私だけじゃないかな」

「どうしてシエナさんはわざわざここの花壇を使っているんですか?」

「日光があまり当たらない方がいい品種とかもあるから、そういうのを試してみたくなって。せっかく誰も使ってないんだし、ちょうどいいかなって思ったんだ」

「なるほど」

 

ひとまず分かったこととしては、ここには人はあまり来ないらしいということ。大きな音さえ出さなければ、何かしていて気が付かれることはなさそうです。

 

しかし、私は編入してきて日が浅く、敷地内についてはまだまだ素人。いずれは学園敷地内に抜け穴がないかなどの探索を考えていたのですが、いまのところ自由に動ける休日は自己鍛錬を優先していたため、まだ行っていませんでした。

そういうわけで知識不足である私は、花壇の寮の裏がどのようになっているのか、調べることにしました。シエナさんなど、一般学生はすでにこの学園に何年か在籍しているため、先輩からひそかに受け継いでいる抜け穴なんかありそうですけど、そのあたりはどうなのでしょうか。

 

私がうんうん考えていると、シエナさんがぽつりとつぶやきました。

 

「手紙の人、どんな人だったんだろうな」

「どんな人だったらいいと思いますか?」

 

私的には夜な夜な(夜かどうかは知らない)手紙をバレずに置いていくただの不法侵入者か、はたまたいたずら好きの女子学生か、という発想しかありません。

 

ただ、これはシエナさんの望む返答ではない。

 

よって、質問に質問を返すことで乗り切ります。

 

「園芸に興味持ってくれて、お手紙をくれたわけだし……、植物とか土の話をする友達になれる人だったらいいな」

「そうだといいですね」

「うん」

 

寮の裏は、日当たりはよくなく、そこまで広い空間ではありません。建物の外壁と敷地の仕切りに挟まれています。そして仕切りに沿って、レンガで囲われた花壇があります。隅の方には小さな物置がありました。

物置は何に使われているのか聞いてみたところ、掃除用具や園芸用品が入っているのだそう。

ちょうどよいので柄の長いスコップを拝借することにしました。

 

端の方から仕切りをこんこんと軽くスコップで叩いていき、もろい箇所がないか調べます。なぜ、わざわざスコップを使うのかといえば、仕切りに直接花壇が接していて、花壇の土を踏まずに仕切りの横に立つのは不可能だからです。もし仮に土を踏まずに腕を伸ばして仕切りを叩こうとしても、腕の長さは足りません。

初日に聞いたとおり、寮が丈夫に作られているだけあって、仕切りもすぐに壊せるようなものではなさそうです。仕切りの高さを考えると単純な身体能力だけでも乗り越えることは可能ですが、不審者対策のためか、上には有刺鉄線が張られています。このぶんだと、魔法を使うか使わないかにかかわらず、侵入対策は他にも色々としてそうです。

 

しれっとスコップで仕切りを叩き始めた私を見て、シエナさんは、

 

「えええっと、何してるの、キーラさん……?」

 

と、困惑しています。

 

「どこかもろい箇所がないか、抜け道になるところを探しています。侵にゅ、手紙を送った手口がつかめれば、文通のお相手の正体の手がかりになるかもしれませんから」

「寮は古い建物だから秘密の経路があるって噂はあるけど……」

 

ほう、秘密の経路。

 

「どこかに公式ではない外部との連絡通路があるってことですね?」

「ごめんなさい、私はそんな噂話は詳しくないから、良くわからない。でもカイネさんならもしかしたら」

 

そう私たちが話していると、

 

「おーい、お待たせ―!」

 

カイネさんがタイミングよくやってきました。

 

噂をすればなんとやら、ですね。

 

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