波動系男爵令嬢キーラちゃんの楽しい学園生活   作:働かない段ボール

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第7話 無限開閉合戦

私が地下通路から戻ってきた後、休憩ということで各自部屋に戻りました。私も自室で少し汚れてしまった服を着替えます。そして、今日のことを紙にまとめる作業をして、情報整理をしました。

 

さて、寮の裏や地下通路の探索をしているうちに、午後もだいぶ時間が過ぎてしまっていました。もう夕食の時間帯であることから食堂に向かおうと思い、部屋の扉を開けます。

ガチャリという開閉音が二つ響き、私は部屋から出ようとしました。

 

……ん?

扉の開閉音が二つ?

 

その音は自分のもの以外に隣から聞こえてきました。

ゆっくりとそちらに目を向けると、

 

「……」

 

「……」

 

あのいけ好かない、イオリ・モノルが私と同じように部屋から出ようとしていたのです。

 

「……あら、こんばんは。ホーンボーンさん」

「……こんばんは。モノルさん」

 

これは個人的な感情であり理屈では説明が付かないどうしようもないことなのですが、全くもってコイツと同じ動作をするのは気に食わない。よって、一旦出るのを中止。部屋の中へと引き返すことにします。

 

引き返す瞬間隣を見ると、

 

「!?」

 

イオリ・モノルは再び部屋の中へ戻ろうとしていました。

 

「…別に気にせず部屋を出てもいいんですよ、モノルさん?」

 

朗らかに微笑んで言った私に対し、

 

「私は何かを気にしたわけでは全く全然なく少し用事を思い出したので部屋に戻ろうとしただけよ。あなたこそ、どうしたの?部屋を出てもいいのよ、ホーンボーンさん?」

 

と優しく微笑むイオリ・モノル。

 

…………。

 

「いえいえ侯爵令嬢のあなたは私のような男爵家の者など気にせず好きに行動してください。それに、私は部屋に忘れ物をしたので、少し戻ろうとしただけですから」

「確かに私は侯爵家だけれど、侯爵家だから私が偉い、というわけではないの。それと別にあなたのことなんて気にしてないわ。だから、あなたが先に行動して問題ないのよ」

「…………」

「…………」

 

私たち二人の間に沈黙が流れます。

正直自分や他人の家がどうとかどうでも良く、本人の能力により判断する主義である私は、コイツをまだよく知らないので、偉いとかすごいとか判別していません。ただ、純粋かつ直感的に気にくわないだけです。存在するのは感情論なので、理屈と混ぜてはいけません。ここ重要。

1つ言えるのは、この女には優しい微笑みの下に隠された、『私は私だから偉い』という確信があるということ。

 

「……私、先ほど申し上げた通り、忘れ物があるので部屋に戻りますね」

「ええ、私も用事を思い出したから部屋に戻るわ」

 

ひとまず、私は自室に撤退しました。忘れ物というわけではありませんが、シエナさんとカイネさんに合流したあと、先ほど今回の話を整理した紙を手に取ります。口頭だけでなく視覚情報も使った方が、理解がスムーズになりますからね。

 

そうして再び扉を開けます。

二つ聞こえた開閉音とともに、私は廊下に出ました。

 

「…………」

「…………」

 

こうして、私とイオリ・モノルがバッタンバッタンと扉を開けたり閉めたりして、これいつか扉壊れるんじゃないかというくらい時間を無駄に消費してしまったあと、私は正規の出入り口である扉から出ることを諦めました。

すなわち、非正規の出入り口、窓を使います。この出入り口の問題点は、部屋が4階であることから、多少周囲の目を気にして出なければならないことです。まあ私なら平気ですが。

窓を開けて目撃者がいないか、周囲を確認すると、ちょうど私と同じタイミングで窓を開けた者がいました。

 

「……あら、奇遇ね」

「本当に、奇遇ですね」

 

イオリ・モノルが窓から上半身を乗り出していました。

太陽が沈んで暗くなった世界のなかで、都の方がキラキラと輝いているのが見えます。他にもさらに遠くの方で、魔法の光が夜の町を輝かせており、地上にも星があるかのようでした。

 

「今日はいい天気ね」

「そうですね。もう夜ですけど」

「昼間は青空だったし、今は星がよく見えるわよ。難しいかもしれないけれど、風情、というものね」

「確かに雲が少ないから、空の様子がよく見えますね。…別にどうということでもないですけど、窓と反対の方角の方がたくさん星見えますよ」

 

私とイオリ・モノルは微笑み合います。

 

「…………」

「…………」

 

さらに窓をガンガンと開けたり閉めたりすることで、この女と私はまたしても虚無の時間を消費することになりました。振り返るとこのようなことに、この私の大切な時間を使ってしまったのは人類の損失であると言ってもいいほどです。無駄です。イオリ・モノルは私の時間を無駄にしたと、即刻平身低頭謝罪をしなければならないでしょう。

 

最終的にこのくだらない争いにバカらしくなった大人な私は、扉から出ることにしました。あの女も出てきましたがもう知りません。夕食のため、寮の食堂へと足を運びます。

 

しかし、扉の蝶番と窓のサッシの酷使がもたらしたものはただ1つ。

 

「あ、キーラさんにモノルさん?夕食の時間終わっちゃったけど……、大丈夫?」

 

大丈夫じゃないです。

 

 

 

* * *

 

 

 

どこぞの隣人のせいで夕食にありつくことができなかった翌日、私、シエナさん、カイネさんの三人は都の方へくり出すことにしました。

 

主な目的としては、都に遊びに来た男子学生と接触することで、リアルタイムの男子部の情報を入手することです。

 

昨日見つけた地下経路を探索することも一手ですが、わざわざ外出許可を出したのですから、ここは都の方へ行くのが効率的です。二手に分かれることも考えましたが、自分の目で情報を確かめた方が良い時もあります。よって今回は三人で行動します。

 

ちなみに、一昨日外出届を出した目的である、『一旦寮の敷地外に出て、手紙を敷地境界ギリギリまで魔法で運んで後は自然の風に任せる』という実験を行いましたが、狙った位置に着陸させるというのはやはり無理でした。

手紙の主は地下経路を通って、女子寮内に侵入していた可能性の方が高いでしょう。

 

 

 

学園は都の郊外に位置します。都と学園間の移動は徒歩だと時間がかかりすぎることから、基本的にはこの区間を走る馬車(厳密にいえば馬が動力源ではないので『馬車』ではないのですが、皆『馬車』と呼んでいる)の高速定期便を利用して行き来をします。万が一、帰りの便に乗れなかった場合は徒歩でなんとしてでも帰れとのことです。この学園には上流階級の子女が多いはずなのですが、そんな対応でいいのでしょうか。

 

私たちは誰かが遅れることもなく、行きの便に乗りました。昼下がりの午後の便で帰ってくれば良いでしょう。

 

「キーラさんと外出するの初めてだね。なんだか楽しみだな」

 

カイネさんが窓から風景を眺めている傍らで、シエナさんが話しかけてきました。

 

「そうですね。私も編入してから学外へ出るのは今回が久しぶりなので、都はどうなってるのか気になります」

 

編入以降の休日は自己鍛錬をしていた都合上、私は私の庭である都の徘徊はしばらく行えませんでした。私が不在の間に変化があったかは把握したいですね。

 

外を眺めていたカイネさんがこちらに向きなおして会話に参加してきます。

 

「私は都から実家の領地が遠いから、実はそんなに都のこと詳しくないんだよね~。こんな感じでたまに外出することはあるんだけど」

「リプトン伯爵領は西の方にあるんでしたよね」

 

頭の中にある地図によると、川に面したリプトン伯爵領は国土の西側に位置しており、確かに国土の東寄りにあるここからは距離があります。

 

「そうそう!川用の船を作ってるから遊びにきてね!去年シエナが来てくれたときは雨で船に乗せてあげられなかったけど、今年こそは乗ろう。3人で!」

 

私は生まれてこの方、都周辺の地域から出たことがないので、こういう誘いをしてくれるのは心情的にも権力欲的にも嬉しいですね。遠慮せずにふてぶてしく行きます。

 

ある程度馬車に揺られたのち、私にとっては慣れた場所である、この国最大の都市『コクレア』、通称『都』につきました。基本的にこの国の人は『コクレア』のことを『都』と呼ぶため、きちんと名前で呼ぶ人は大体が外国人です。

 

「……そういえば、家族とか先生以外の男の人としばらく喋ってないかも」

 

馬車から降り立ったシエナさんがぽつりと呟きます。

カイネさんも若干緊張した表情になって、

 

「ううう、いや!でもたぶん大丈夫!今日はキーラさんがいるし!」

 

彼女たちはかれこれ学園に入学してかれこれ数年、ほぼ女子しかいないコミュニティで過ごしてきた箱入りのご令嬢です。いきなり、同世代の面識のない知らない男子と喋ろう、となるのは厳しいところがあるでしょう。

 

「大丈夫です、まかせてください。都に土地勘ありますし、人から話を聞き出すのは得意ですから」

 

男子学生を見つけることは簡単でした。なぜなら、男子部も女子部と同じく、大多数は上流階級の子女。都に遊びに来たと言っても、表通りの上流階級向けの店が多くある地区にしか足を運びません。その地区にいる浮ついたお坊ちゃまなどすぐ特定できます。

 

「シエナさん、カイネさん。あの人、男子部の学生ですよ」

 

店の前でキョロキョロとしている同世代くらいの男子を指さして二人に伝えました。

 

「キーラさん、良くわかったね……」

「では、少し話を聞きに行きましょうか」

「え!?心の準備がまだできてないよ!?」

「私が話しかけるので」

 

そわそわした二人の手をとり、その男子学生に近づいていきました。

 

「すみません、もしかして学園の学生の方ですか?」

「ん?君たちは……?」

 

突然話しかけてきた女子3人組に驚いたのか、彼は目を丸くしています。

 

「私たちも学園の女子部の学生なんですよ」

 

私はかわいい系守ってあげたい美少女の笑顔を駆使して、男子の警戒心を程気にかかります。

 

「ああ……、そうなのか?僕も、君の言った通り学園の学生だ。第5学年の」

「ええ?じゃあ先輩なんですね!」

 

私がニコニコと逆ナンを始めた横で、二人の「!?」という雰囲気が伝わってきます。

先輩と呼ばれて悪い気がしないのか、やや顔を緩ませつつ、

 

「君たちも都に遊びに来たのかい?」

「はい、友達と3人で来たんです。ね?」

 

同意を求めた二人はこくこくと頷いています。

 

「先輩もお友達と?」

「ああ。アイツ、『寮の裏に用事があるから先行っててくれ』っていうから、僕が先に学園を出てきて、ここで待ち合わせだったんだがなかなか来なくてね。まあちょっと問題を……」

 

ほう。

 

「え?大変ですね…」

 

いかにも心配した声色で言うことで、裏を探られないように気を付けてみました。

 

「ああ、いや、大したことじゃないんだ。……あれ、君どこかで見たような」

 

男子学生はそう言って、カイネさんをまじまじと見ました。

 

「あ、兄が第5学年なので、もしかしたら」

 

カイネさんがそう言いかけると、男子学生は合点がいったようで大きな声で言いました。

 

「……あああ!君もしかしてリプトンの妹か!?」

 

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