【完結】アリス·ギア·アイギス 〜空を目指す者〜   作:塊ロック

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今回は先日誕生日を迎えた洲天頃椎奈ことコロちゃんです。
(投稿当初)


拳で創る明日

 

 

「くっそ、ふざんけんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

 

ガンッ!!

思いっきり自宅の壁を殴った。

隊長は珍しくキレていた。

アクトレス達には絶対に見せない、ガチな怒り。

 

事の発端は、先日行われた成子坂製作所とノーブルヒルズとのアクトレス事業を賭けた争奪戦。

様々な不正と工作、乱入に裏切りと目まぐるしく事態が動いた。

 

そんな中届いた一通のメール。

内容は、アクトレスへの誹謗中傷と今回協力しなかったアマ女へのバッシング。

特に、正々堂々と戦ったアマ女への批判に腹がたった。

 

「あの子達が何したってんだ…!」

 

しきりに壁を殴った。

ふと、我に帰り、自宅を出た。

 

 

 

 

「あ、隊長さん。ごきげんよう」

 

成子坂製作所前に、洲天頃椎奈が立っていた。

 

「洲天頃さん?なんでここに」

「隊長さん」

「…おはよう。いい天気だね」

「はい、よく出来ました」

 

ニッコリと笑う。

柔らかい雰囲気だが、その奥に見え隠れする武闘家としての本質が油断をさせない。

 

「ナデちゃんを迎えに来ました」

「ナデちゃん…あー、仁紀藤奏か」

 

同じくアマ女所属、仁紀藤奏を迎えに来たらしい。

どこで知り合ったのか度々成子坂に来ては百科にべったりだと言う。

 

「大方百科に会いに来たんだろうな」

「そうですね。ナデちゃんったら最近百科さんの話ばっかりで」

「良いじゃないか。交友関係が拡がるのは悪いことじゃない。それに、うちの百科も仁紀藤の前じゃ楽しそうにしてるしな」

「百科さんの事、大事にしてるんですね」

「あいつだけじゃない。アクトレス皆大事だ」

「優しいんですね、隊長さんは」

「あたぼうよ。俺が支えになってるなら願ったりだ」

 

それが、俺にできる事ならな。

心の中で独りごちる。

 

そこで、はたと洲天頃がずっと一点を見ていることに気が付く。

 

「…どうした?」

「隊長さん、その右手はどうしたんですか?」

「右手って…あっ」

 

…右手から血が滴っていた。

今朝割と本気で壁を殴っていたのを思い出す。

しかも何度も。

 

大家さんに怒られそうだ。

 

「やっべ、気が付かなかった。こりゃ通報されるかも…ありがとう、ちょっと手当してく」

「失礼しますね」

「ちょ」

「動かないでください」

 

ぴしゃりと言い切られて、洲天頃に手を取られた。

じっ、と眺めた後、徐ろにポケットから小さな救急箱を取り出した。

 

「…用意が良いな」

「ナデちゃんもちえりも気が付いたら怪我したりしてますからね」

「意外だ」

「ちえりは案外天然さんな所もあるんですよ?」

「あの会長様がね…」

 

慣れた手付きで右手に包帯が巻かれた。

 

「はい、終わりました」

「すまないな」

「いえいえ。それで、何を殴ったんですか?」

 

直球な質問にちょっと面食らう。

顔はいつものふんわり笑顔であるが、真剣さが伝わってくる。

 

「…少し、嫌な事がな。君達に話す事じゃない」

「今の成子坂を見てれば、隊長さんがピリピリひてるのは何となくわかりますよ」

「…あの二人が君に頭が上がらないのが判ったよ」

 

この子は本当に人を見ているし、聡い。

隠し事もすぐに察するんだろうなと苦笑した。

 

「ちょっとした八つ当たり…かな」

「誰かに手を上げた訳じゃないんですね?」

「誓って」

「…良くはないですけど、それなら良いです」

 

武闘家として何か思う所があるのだろうか。

 

「隊長さんの手、デスクワークだけじゃなくてしっかりと鍛えた人の手をしています。ここに来る前に何かなされてましたか?」

 

…本当に聡い子だ。

 

「愛と平和を守る正義のヒーロー」

「茶化さないでください」

「嘘は言ってないぞ…」

 

本当の事を話したくは無い。

その時が来るまでは。

 

「見た所によると軍隊式の格闘術。銃を持っての行動ですね」

「バレバレである」

「…自衛官だったんですか?」

「そうだ」

 

アクトレスとヴァイスのせいで、世間から白い目で見られている職業ナンバーワンの名を欲しいままにしていたので、なるべくなら伏せておきたかった。

 

「確かに、愛と平和を守るヒーローですね」

 

ようやく、洲天頃が笑った。

今までは笑みを浮かべるだけだったのに、ちゃんと笑ったのだ。

 

「カッコいいと思いますよ」

「…えっ」

「誰かの為に拳を握る事は、悪いことじゃないと思います。けど、それで自分を傷付けるのはいけませんからね」

 

そんな事を言われたのは、初めてだ。

俺は、この少女に、

 

「…ありがとう。そんな事を言われたのは、初めてだ」

「えぇっ、そうなんですか!?」

「君は本当に良い子だな…将来の旦那さんが羨ましいくらいに」

「あらあら、止めてくださいよー。今はちえりとナデちゃんで精いっぱいなんですから」

「なら、紺堂が羨ましいかな」

「もー、隊長さんってば」

 

空気が一気に緩んだ。

この子の雰囲気が、やっぱりそうさせるのだろうか。

 

「しかし、洲天頃ってちょっと呼びにくいな…なんて呼んだらいい?」

「そうですねー。ナデちゃんは『コロちゃん』って呼んでくれます」

「OK、じゃあそれで」

「わかりました」

「さて、そろそろ仁紀藤呼びに行くか」

「あ、隊長さんとお話してたらこんな時間に…」

 

30分も立ち話をしていたらしい。

早く行かないと百科がカンカンになってるかもしれない。

 

「なんなら上がっておいき。お茶くらい出すぞ」

「いえ、流石にそこまでは。心遣い痛み入ります」

 

洲天頃椎奈。

 

この子はアマ女のメンバーにとって掛け替えのない存在になってるのかもしれない。

 

(強い、な。本当に)

 

俺にも、そんな強さがあればな…。

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