【完結】アリス·ギア·アイギス 〜空を目指す者〜 作:塊ロック
女神がいた。
「あっ」
「え」
「すまん」
回れ右。
光の速さで事務所から転がり出た。
「…………………はぁ!?」
事務所で成子坂謹製のチア服を着ようとしていたアマ女の面々なんてゲームのし過ぎだ。
「落ち着け……クールになれ……」
決して、仁紀藤の脚とか紺堂のたわわを見てしまったとか言ってはいけない。
深呼吸を2、3度繰り返し、意を決して中に入った。
「隊長、ごきげんよう」
………………夢ではなかった。
「お、おはよう……何故君らがここにこんな格好で?」
「ごきげんよう!隊長!それは学院の先生達も参加されるのでその応援です!」
「へ、へぇー……」
仁紀藤が意気揚々と応える。
……彼女も、なかなかに良いものをお持ちだ。
「いや待て、なんで兼志谷の衣装が出回ってんだ」
「隊長さん、ご存知無いんですか?ライセンス登録されたので色んな所から発注が来てるらしいですよ」
州天頃が二人の後ろから出てくる。
……三人とも揃って例のチア服だった。
「で、何で三人が?」
「隊長、先程から質問ばかりですね」
「混乱してるんだ」
「ふふふ、ならこの衣装を着た甲斐がありましたね」
「もぉ、ちえりったらー。私まで巻き込まないでよー」
「ここまで焦った隊長なんて初めてみました!」
……紺堂はこの間からあの手この手で俺の精神に揺さぶりを掛けてきている。
こちらとしては未成年に対して正直対応に困るから勘弁していただきたい。
「他の奴らはもう先に行ってるぞ」
「隊長は行かれないのですか?」
「仕事だよ。流石に俺がここを空けたら拙い」
目の前に書類の山。
百科が応援、新谷さんが選手として出場、そして何故か安藤さんも居ない。
なので、自分がこの山に向き合わなければならなかった。
「少しお手伝いしましょうか?」
「仁紀藤、ありがたいけどお前らも応援だろ?心遣いだけ受け取っておくよ」
「……そうですかー。頑張ってくださいね」
仁紀藤と州天頃が残念そうにそう言って更衣室に引っ込んだ。
……先程から無言の紺堂を残して。
「紺堂?」
「隊長」
ずいっ、とまたいつぞやの様に詰め寄ってくる。
……反射的に後退る。
「結局貴方はまたそのポーカーフェイスに戻るのね」
「な、何が言いたい」
「貴方も、仮面の下に獣を飼っている筈よ」
「それ、は」
戦闘中の紺堂を知っているからこそ、押し黙った。
俺の獣。
全てのヴァイスを根絶したいと心の底から憎んでいたこと。
「俺は…私怨で君達を動かしたくない」
震える口から、ようやく言葉が出た。
憧れ、羨望、私怨。
アクトレス達と触れ合う時、俺はこの3つの感情にいつも潰されそうになる。
「……いいえ。隊長、見せてください。貴方の夢を。その為に全てを食い潰す覚悟を」
紺堂の手が、俺の顎を撫でる。
……扇情的な衣装の女性に迫られ、自制心が振り切れそうになる。
「私の上に立つ人間が、凡人だなんて許しません」
「お断りだ」
紺堂の手首を掴み、反対の肩を抑え付ける。
「俺は自分の夢のために誰かを使い潰したりしない。最善、最良の結果にしてみせる……!」
全てを犠牲にして実現した夢に、意味なんて無い。
甘かろうが臆病だろうが知ったことでは無い。
「俺の道だ……誰かに邪魔されて堪るか」
「良い啖呵ですね」
「……また煽ったな」
「ご想像にお任せしま」
「ちえりー?早くしないと遅れ……」
「ふ、風紀が乱れてます!!!?」
「「あ」」
更衣室から制服に着替えた二人が出てきた。
……構図としては、俺が紺堂に無理矢理迫っているような絵面だ。
「隊長ー!」
州天頃の小さな体が一瞬で懐に潜り込んだ。
「まっ」
ドグシャァ!!!
その後、夕方に目が覚めた俺は、戻ってきた百科にこってり絞られたのだった。
勿論、後日三人が謝罪に来た。
ええ子や……。
後悔はしてない!!
はっきり白状すると、私は百合の間に挟まりたい。
……というより気に入ったキャラがほかのキャラと百合百合してるだけとも。