【完結】アリス·ギア·アイギス 〜空を目指す者〜 作:塊ロック
今回は吾つ…紗那仮面とのドタバタをお送りします。
あ、今更ですけどキャラエピのネタバレ注意。
あと、隊長がアクトレス達並に強いです。
それは、春先の夜の繁華街で起こった。
「きゃあ!ひったくりよ!!」
「…?」
背後から聞こえる悲鳴。
振り返り、被害者の女性から走り去る男性を見付ける。
「世も末だな…!」
独りごちながら走り出す冴えない男…我らが成子坂の新人隊長であった。
割と早いペースで走り抜け、あっという間に路地裏へ駆け込んだ男に追い付いた。
「なんだてめぇ!分け前でも欲しいのか!」
「違う。そいつを取り返しに来た」
男は、背後がちょうど行き止まりだったらしく鞄を抱えながらこちらを見据えてきた。
「詰みだ。おとなしく返せば見逃す」
「チィ…!」
お世辞にも整っているとは言えない顔だが、それなりに場数は踏んでいるため凄めば怯ませるくらい効果はあった。
本人は気付いていなかったようだが。
「ここまでか…」
「お、案外あっさり諦めたな」
隊長の気配で完全にビビりきったひったくり犯は簡単に折れて鞄をこちらに渡した。
「俺だってこんなとこで死ぬなんざまっぴらだ」
「大袈裟だな…まぁ、警察には突き出さねぇよ。面倒だし」
「すまねぇな…これからは心入れ替えて真面目に働くよ」
がくりと肩を落として男は路地裏から出ていった。
「さて、こいつを返しに行くか。比良坂にいい土産話が出来たな」
「待ちなさい!」
どこかで聞いたことのある凛とした声。
あれ、この声は…。
「吾つ『紗那仮面参上!!』フォッ!?」
そこには、木刀を携え…何故か狐の面をした少女が立っていた。
「お覚悟をッ!!」
「おっと!?」
「何っ…」
素早い踏み込みからの上段。
脳天を叩き割られる前に慌てて避ける。
こんな冗談みたいな所でやられるのはゴメンだ。
「上段だけに…フフっ」
「何を笑っているのですか」
引くような格好している相手から引かれた。
む、地味に傷付く。
「はぁ、何やってんだ吾妻」
結局、少女…紗那仮面?に声を掛けることにした。
「えっ!隊長…何でひったくりなんて」
「俺がやった前提にしないでもらえるか!?」
「見損ないました…成敗します!」
「話聞けよ」
説得は失敗に終わった。
取り付く島も無いとはこの事か。
解せぬ。
解せぬのでちょっと困らせてやろう。
「ハァッ!!」
烈迫の気合と共に振り下ろされた木刀。
それを、
「ふっ…!!」
「なっ…!?」
ぱしいっ!!
頭の上で合わせた手の中に、木刀は収まった。
所謂真剣白刃取り…まぁ木刀だが。
「ちょっと話を…聞いてもらえるか吾妻ァ…!」
「くっ…わかりました…」
10分後。
おとなしく仮面を外して、吾妻楓はちゃんと俺の話を聞いてくれた。
この子素直だから扱いやすいけど今回なんでまた暴走じみた事をしたんだろうか。
「と、言う訳でこいつを持ち主に返す」
「それで、犯人の方は…」
路地裏から出る。
鞄の持ち主はすぐに見付かった。
「ああ…ありがとうございます!今月のお給料がはいったばかりだったので…助かりました」
「間に合って何よりです」
「本当に、ありがとうございました」
最後までペコペコしながら帰っていった。
…隣にいた楓が、口を開く。
「隊長。正義って何だと思いますか」
「…わからないよ、なんでまた?」
「私は、自分の剣が正義のためになると思い今まで研鑽を続けてきました。けれど、幾度振ろうとも世の中から悪事が消えません」
じっ、と去っていった女性の方を見て、楓は続ける。
「だから、こんな事を?」
仮面を付けて、木刀を振るう。
正義のためとは言うが、それはただの。
「エゴだよ、これは」
「ッ!わかって、います。こんな事をいくら続けても意味がないと」
「じっとしてられなかった?」
「…はい」
伏目がちにそう言った。
…しばし、無言。
おもむろに左腕にした腕時計を確認する。
「もうこんな時間か。送っていくよ」
「でも…」
「なぁ、吾妻」
渋る楓に、意を決したように話す。
「正義の反対って、何だと思う?」
「…悪です」
「いんや?正義だよ」
「どういう事ですか」
納得しかねる、と顔に書いてある。
本当に、会ったばかりの頃と比べたら表情が豊かになった。
「悪っていうのは、また別の誰かの正義なんだよ」
「…」
「犯罪をする人が全員が全員悪意がある訳じゃない。中には生活の為、家族の為って人もいる。それって正義なんじゃないかな」
静かに聞いている楓が目を閉じた。
隊長は語るのを続ける。
「だから、判断には第三者が要るんだ。一方が勝手に決め付けたら、争いになる。吾妻」
考え込む楓の頭の上に手を乗せる。
優しく、撫でる。
「焦らなくていい」
「はい…」
これで、伝わっていると良いが。
アクトレスの実力は感情に起因するところも多少はあると思っている。
今の迷いのある楓は少し危うかったから柄にも無くこんな語りをしてしまったなと、後になってから恥ずかしくなる。
「隊長」
「ありがとう、ございました」
彼女を家に送り届けた後、綺麗なお辞儀と共にそんな言葉が投げられた。
「おやすみ。吾妻」
「はい、おやすみなさい」
その後、楓の暴走癖は少しなりを潜めヴァイス討伐のスコアも伸びていった。
何かしらの心のつかえは取れたのだろうか。
今になってそれを知る由もない、が。
「隊長」
「隊長?」
「あ、隊長。今日の私はどうでしたか?」
「隊長ー」
…近い。
主に距離感が。
(あれっ、なんかめっちゃ懐かれてない?)
やたらと距離感が近くなった楓に悩まされるのは、また別の話。
「あー!隊長また楓さんとべったりして!」
「比良坂、語弊がある」
「へー、隊長未成年に手を出すの?」
「四谷さん!?誤解だ!」
しばらく弄られる事になるが、楓は満更でも無さそうだった。