【完結】アリス·ギア·アイギス 〜空を目指す者〜 作:塊ロック
前半は文嘉視点でお送りします。
…なんか、ほのぼのしないなぁ。
「おはようございます」
「おはよう」
「えっ、隊長…?」
始業前の成子坂製作所。
所属アクトレスである百科文嘉は、最近ちょっとした悩みがあった。
そう、この人だ。
私達の隊長。
履歴書は至って普通。
背は少し高く、見た目はそれほど良くはない。
数カ月前に、アクトレスの比良坂夜露と一緒にふらっとやって来たのだ。
「早いな、百科。まだ始業前だろう」
「それを言うなら隊長もです」
「俺か?あー、まぁ、そうだな」
いやに歯切れが悪い…そう思ってふと、目元に隈があるのを…。
「まさか、泊まったんですか?」
「ぎくっ」
判りやすく動揺した。
全く、この人は…。
「隊長。普段から貴方は私達に体調管理はしっかりしろと仰られてましたね」
「あ、ああ」
「そのくせ自分は徹夜で仕事するなんてどう言う量権ですか!!!」
ああ、またやってしまった。
この人がこんな事してるのを見るとまた口が出てしまう。
それなのに隊長は、
「どうしても片付けたい案件があってな…」
「それで、どういった依頼ですか」
「お、流石。こいつを見てくれ」
悪びれもせずに仕事の話を入れてくる。
そう、少し要領は悪いがこの隊長の能力は高かった。
特に、私達アクトレスの負担になりそうな作業を率先してやってくれている。
以前は事務員がおらず、私しかそういった仕事が出来なかったが今では新しい事務員と隊長がやっている。
私はアクトレスに専念できるけど、少し、何というか、
「…百科?」
「は、はい?」
「お前さ、どうした?」
慌てて首を振る。
らしくもない考え事をしていたみたいだ。
「いえ、何でも。それでは次の宙域は私と…」
「無しだ」
「えっ…」
「今のお前を行かせるのは危険だ。プランを変更して、お前の代わりに小鳥遊に行かせる」
「ちょ、ちょっと待ってください!そんな、」
足元がフラついた。
出撃も出来ないなんて、まるで…。
私が、要らなくなったみたいに思えて、
「お、おい!百科!?」
気付いたら、走り出してしまった。
――――――――――
「百科!」
急に、百科は走り出してしまった。
そこで、彼女が最近何かに悩んでいた様に感じた事を思い出す。
「クソっ…」
慌てて後を追おうと立ち上がる。
「おはようございまーす。ありゃ、隊長どしたのさ」
事務室へ、所属アクトレスの兼志谷シタラが入ってきた。
「なんか文嘉凄い顔で走ってったけど、修羅場?」
「ある意味そんなもんだ。悪いけどこれ読んで小鳥遊とジニーと一緒に出撃してくれ。代わりの指揮は四谷さんに頼む」
「え、ちょっと隊長?」
懐からスマホを取り出して四谷弓を呼び出す。
「もしもし四谷さん?はい、ほんとすんません埋め合わせは絶対します。はい、はいありがとうございます」
「あのー、隊長?」
らしくもなく切羽詰まっている。
自分の行動が百科をここまで追い詰めていたとは。
「百科…!」
兼志谷の静止を振り切って走り出した。
近場の公園のベンチに百科は腰掛けていた。
案外簡単に見付かった事にちょっと苦笑を漏らすが、すぐに表情を引き締める。
「百科」
「隊長…?あの、仕事は」
「その仕事放り投げてきたアクトレスを追い掛けてきた」
「…」
百科は黙り込む。
隣に腰掛けて、事情を聞こう。
「何で逃げた?」
「それは…」
口を開きかけて…閉じる。
大分話しにくそうな内容なのか。
「なんだか、私が必要無くなったみたいで…怖くなって」
「そんなわけが無い」
即答で返してやったが、却って不安にさせてしまった。
「じゃあ何で今日私をメンバーから外したんですか!」
「そんな酷い顔で出させる訳にはいかない…カメラに映るかもしれんしな」
アクトレスの戦闘は中継されていたりする。
たまに成子坂も映っているので油断は出来ない。
「大体、うちはアクトレスの数が少ない。お前ならそれくらい判るだろう」
「…」
「何に切羽詰まってるのかはわからない、けど早とちりも良くはない。前に比良坂とそれでひと悶着あったろう」
以前、比良坂が百科にポンコツと言い放たれたと思い暴走した案件を思い出す。
「…仕事」
ポツリ、と零した。
「私の仕事が…どんどん無くなっていって、不安になったんです」
「仕事って、お前はアクトレスだろう?最近減ったとは言えやっぱり成子坂の最古参だしそれなりには…」
「違います。そうじゃないんです」
「じゃあ…まさか」
百科のもう一つの仕事だったもの。
「…事務、させてなかったな」
そう、嘗て成子坂の事務は全て百科が担当していた。
たまに四谷さんが手伝っていたが、自分が来るまではかなり大変だったらしい。
そして最近になり、自分と、四谷さん、新谷さんが片付けてしまっていて百科には回していなかった。
「そっか…そういう事だったか」
楽をさせてあげたかったが、逆にそれで追い詰めてしまっていたらしい。
つくづく、そういった事に気が回らないなと反省する。
「お前たちに、無理させたくなかったんだがな」
「でもそれで隊長が無理しています」
「うっ、それはそうだが…」
「それに、ちょっと誤字脱字が多いです」
「うぐ…」
「後は…」
「判った、判ったから降参だ」
まだまだ出てきそうな指摘の前に諸手を上げて降参のアピールをする。
いつの間にか自分が糾弾されていた。
「そろそろ落としどころを探そう。百科文嘉。君はどうしたいんだ?」
「隊長」
キッ、といつもの表情に戻る。
「私にも書類を回してください」
「………判った。俺の分を半分回す。これで良いか」
「妥当なところでしょう」
「お前なぁ…」
すっかりいつもの調子に戻った百科の頭に手を置いて、軽めに撫でてやる。
「…何ですか。子供扱いして」
「お前はまだまだ子供だよ。でも、立派になっちゃってまぁ」
「む…」
不服そうだがこの辺で話を切り上げないとな。
「まだこの時間なら出撃してないだろうな。どうする?戻るか?」
「皆さんに謝らないといけませんし…」
「一緒に頭下げるくらいはしてやるよ」
これにて、一件落着、かな…?
――――――――――
あの後、やって来たアダルトアクトレス組にこっぴどく叱られ、一番割を食った四谷さんに財布を思いっ切り絞り尽くされたのは言うまでも無かった。
「隊長。そこ一文抜けてますよ」
「えっ、マジか。うわ本当だ…すまんな」
「全く、隊長一人だと心配ですね」
「何おう。俺だってな…」
「はいはい、まだまだ仕事あるんですから手を動かしてください」
「事務所でイチャ付きながら仕事してんじゃねー!!」
兼志谷、吠える。