【完結】アリス·ギア·アイギス 〜空を目指す者〜   作:塊ロック

7 / 49
成子坂の隊長の過去。


隊長の夢

 

空を飛びたいと思っていた。

 

 

幼い頃から見慣れていた、シャードの映像とは違う。

 

古い記憶媒体にしか残っていなかった地球の空。

 

その透き通る青の中を飛んでみたいと思うのは、子供ながらに夢を見ていたとも言うべきか。

 

 

それが、俺がこの道を選んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

「…朝か」

 

朝6時。

きっちりといつもの起床時間に覚醒する。

なんとなく、夢を見ていたことは覚えているが、肝心の内容を忘れてしまった。

 

先日、仁紀藤に指摘された事が原因だろうか…。

 

『何でそんなにアクトレスに優しいんですか?』

「優しくなんか無いよ…俺は」

 

空を飛べる彼女達への嫉妬。

そんなことを思う自分を否定したくてただただ彼女達へ尽くす。

我ながら矛盾しているとは思う。

 

「なんで、こんな事になったんだろうな」

 

あれは、まだ俺が純粋に夢を見ていた頃。

チームの仲間たちと一緒に空を飛ぶための開発をしていた。

自衛官ではあるが同時にテストパイロットでもあった。

人型の有人機動兵器の実験。

 

 

俺は、相棒と空が飛びたかった。

 

 

「…酷え顔してるな」

 

とてもじゃないが、うちの女神たちに見せられる顔じゃなかった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

昔、戯れに映像記録に残されていたロボットを作ってみようぜ、と誰かが言い出したのが切っ掛けだった。

選考に選考を重ね、遂に決定したのだ。

 

 

バイアラン·カスタム。

 

 

とどのつまり、男性が前線に立つためのギア。

モビルスーツの再現だ。

 

そして、それが俺たちと空を飛ぶ相棒の名前だった。

あの時は楽しかった。

誰もがやるべき事、やりたい事を持ってあの場所に集まっていたから。

 

 

少しの失敗も、少しだけの進歩も皆で笑い合った。

 

 

当時、たまたまエミッション能力を有していた俺がたまたまテストパイロットに選ばれたのも、本当に偶然だった。

 

「Hey、隊長」

「ジニーか。どうした?」

 

長く引きずっていた思考を、事務所にいたアクトレス、バージニア·グリーンベレーが引き戻した。

 

「今日、昼からアマ女にお邪魔するんでしょ?こんなゆっくりしてて良いの?」

「…あっ」

 

忘れていた。

完全に失念していた。

慌てて時計を見ると針は12を刺そうとしていた。

 

「あっぶねー…。サンキュージニー」

「もう、隊長ってば今日ずっと上の空だよ?どうかした?」

「んー…ちょっと、昔を思い出してな」

 

あまり、彼女達に語る内容でもあるまい。

 

「隊長の昔って、そんなにオジサマじゃないでしょ?」

「四谷さんたちとタメだよ俺は」

 

さて、アマ女へと向かいますかね…。

そんな俺の様子を、ジニーは何も表情の無い顔で見詰めていた。

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

「以上になります。隊長、本日はご足労頂き感謝します」

 

聖アマルテ女学院。

以前、成子坂の防衛区画だった白金エリアを賭けて戦った間柄ではあったが、先日のある一見を経て協力関係となった。

今回はそんな協力の一環での施設見学であった。

 

「アクトレス候補を抱えるお嬢様学園…か。不思議と背筋を伸ばさなきゃいけない気がするな」

「そう気負わないで下さい。友好を示すために手の内を明かすような物ですから」

「そうは言うが…」

 

視線。

四方八方から注がれる視線。

紺堂と並ぶ時点でまぁ理解はできるが、とにかく自分に対しての視線も多い。

 

「あれが件の成子坂の隊長様ですの?」

「ふぅん…中々」

「背が高いですね…」

「体も相当鍛え込まれていますね…お手合わせ願いたいくらい」

「成子坂の隊長さん…ご結婚なされているのかしら」

 

と、聞こえる限りの囁き声。

俺はまだ結婚するつもりは無い。

 

案内の先々で小鳥遊、一条と遭遇もした。

 

凄まじく微妙そうな顔をされたけど。

 

「そういやここの生徒だったんだな」

「彼女達は、学園…というより、上のしがらみを振り切り貴方の元へ集った」

「いや、あの二人は元は叢雲所属だったろ」

「ですが、今は貴方の下にいます」

「やめろ、俺に特別なものなんてない」

 

ただの、落ちこぼれだ。

 

空を諦めた、ちっぽけな男だ。

 

「この私を配下に入れる以上、貴方には相応しくなってもらわねばなりません」

「だから、言っただろ。ダンスは苦手だと」

「逃しません」

 

ずいっ、と顔を近付けられ思わず引く。

精悍ながらも大人の女性の様な顔つきの美少女に至近距離で見つめられるなど、心臓が保たない。

 

「わかってるよ…所で、今度は何処に向かうんだ?」

「先日、私達が出撃した際に発見したものです」

 

地下へ向けて進んでいく。

ギアの整備室を超えて、更に奥へ。

 

「外観がヴァイスのもの様でしたが、内部にまるで、人間が乗り込めるような空間が存在していました」

「…は?」

「そして、データ上で該当する個体が確認出来ない新種かと思い接触したのですが…動力が動いておらず捕獲して来ました」

「それ、AGiesには?」

「まだ上げてはいません」

 

セキュリティで固く閉ざされた扉が開かれる。

 

「これです…?隊長?どうなされましたか?何故…泣いているのですか」

 

目の前に、強化ガラスの仕切りの向こうに鎮座していたのは…ヴァイスではない。

等の昔に無くなったと思っていた。

破壊されたものだと思っていた。

 

 

色んな感情がぐちゃぐちゃになり、自分の中のダムが決壊した様だった。

 

 

「あ、あぁ…あ…!」

「隊長?隊長!しっかりしてください!」

 

 

紺堂に肩を揺すられるが、それを振り払いガラスの前に行く。

 

 

「嘘だ、そんな筈は、無い…けど、なんで…どうして、」

 

 

人型とはとても言い切れないシルエット。

背中の大容量プロペラントタンク。

両肩のスラスター。

バイザーの下に隠れたデュアルアイ。

 

 

空を飛ぶために、必死に考えた装備。

 

 

「バイアラン…」

 

 

かつて生き別れた相棒が、そこには居た。

 

 

 




正直何でも許せる人向けです。
好きなんだこの機体…許して。

ちょっとやってみたかった。
反省も後悔もありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。