銀騎士珍道中   作:自称・エリート銀騎士

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銀騎士日記:2

 ***月***日

 

 イザリスへの遠征を開始してから早数年。混沌のデーモンとの戦いは熾烈を極めていた。

 

 大いなる神々と四騎士の庇護下にあり、数百年に渡り続いた平和に慣れていたアノール・ロンドの銀騎士たちにとってイザリス遠征は過酷な旅路となった。精強なる銀騎士たちにとってすらデーモンは強大であり、何より数が多かった。

 

 斯く言う吾輩も何度となく栄光のアノール・ロンドに焦がれ夢枕に見た。古竜との大戦を経験した吾輩をして気を抜けば弱音を吐いてしまいそうになる程だったのだ。

 それは何もデーモンの強大さ故だけではない。最たる要因はここイザリスの環境そのものにあった。とにかく熱い。暑いではなく熱い。その一言に尽きる。

 

 混沌に呑まれた廃都イザリス。そこは火とは似て非なる質量を持った炎熱に蝕まれ、ゆっくりと溶け崩れていく魑魅魍魎の住処と化していた。混沌から生まれ混沌の力を身に宿すデーモンたちは溶岩の海の中でも平然としているが、吾輩たちはそうもいかない。黒銀の鎧は炎に強いが、熱を完全に遮断してくれるわけではないのだ。

 

 正直ここまでとは思っていなかった。敵の強大さではデーモンは古竜に及ぶべくもないが、かの大戦とは決定的に異なるのがこの熱さである。この過酷極まる環境の中で普段通りのパフォーマンスを発揮し続けるのは至難の業だ。本来の実力を出せれば問題なく倒せた敵に足を掬われ、命を落とした同朋も少なくない。

 

 だが侮るなかれ混沌のデーモンたちよ。我らは誉れ高き銀騎士、偉大なるグウィン王より信任を受けアノール・ロンドより罷り越した最強の騎士団である。

 そして恐れよ。我が名は銀騎士ガレア、精強なる銀騎士の中でもエリート中のエリートである。デーモン共よ、その爪牙で我が肉体を砕けるものなら砕いてみるがいい。できぬならば死ぬがいい。この大剣で素っ首叩き斬ってくれようぞ。

 

 それに、当初は頼りなかった一般銀騎士君たちも修羅場を潜り抜ける度に頼もしくなっていった。悍ましいデーモンの威容に怯える新兵さながらの若輩者はもういない。今や一人一人が立派な悪魔殺し(デモンスレイヤー)である。

 

 奮い立て銀騎士諸君。我らが大王、偉大なる太陽の光の王の威光を知らしめるのだ!

 

 

 

 ***月***日

 

 ヒャッハー! デーモンは(みなごろし)だー!

 死んだデーモンだけが良いデーモンだ!

 デーモンの死骸で城を作ろうぜーっ!

 

 

 

 ***月***日

 

 栄光のアノール・ロンドより伝令が来た。イザリス遠征は終了、至急王都に帰還すべしと。

 まだデーモンは残っているが、荷駄に満載していた備蓄もそろそろ尽きようとしていた頃合いだ。武具の消耗も激しい。区切りとするには丁度良いだろう。

 

 ご苦労だった一般銀騎士諸君……いや、もう一般銀騎士ではないな。君たちは既に立派なエリート銀騎士だ。エリートの中のエリートたる吾輩が認めよう。

 さあ、凱旋だ。諸君、よもや疲れて動けぬなどとほざく軟弱者はおるまいな? 一刻も早く王都へ帰還し、我らが偉大なるグウィン王に遠征の成果をお伝えするのだ!

 

 ……ところで、伝令の銀騎士君が我々を見て酷く怯えているのだが何かあったのだろうか?

 

 

 

 ***月***日

 

 灼熱のイザリス遠征より帰還した我々を待っていたのは、常ならぬ疑懼(ぎく)に揺れるアノール・ロンドだった。

 永遠の太陽に包まれ純白に煌めく王都は、何があったか陰りを見せている。よもや偉大なるグウィン王に何かあったのかと色めく我々を出迎えたのは、何と“竜狩り”オーンスタイン殿であった。

 

 騎士長殿直々の出迎えに恐縮する我々に短く労いの言葉を告げると、オーンスタイン殿は何やら深刻な様子で吾輩に後日部屋に来るよう申し付けた。

 言葉少なに立ち去って行ったが、部屋とはオーンスタイン殿に用意された騎士長専用の執務室であろう(正直あまり使っている場面を見たことがないのだが)。

 

 何か内密に話したいことがあるのだろう。突然の遠征中断と何か関係があるのやもしれん。

 気になって仕方がないが、後日と言われたからには大人しく待つより他あるまい。粗相がないよう、長きに渡るデーモンとの戦いで身体にこびりついた混沌の血とソウルの残滓をしっかりと洗い落としておかなければ。

 

 

 

 ***月***日

 

 ……少々混乱している。順を追って今日起こったことを日記に記そうと思う。

 

 

 久し振りに銀騎士の正式甲冑に身を包み、意気揚々と執務室に向かった吾輩を待っていたのはオーンスタイン殿だけではなかった。

 

 灰色の世界に差異を齎した始まりの火、その内より特別な王のソウルを見出した四柱の一。栄光のアノール・ロンドに座し火の時代を実質的に支配している輝ける太陽の光の王、偉大なる大王グウィンがオーンスタイン殿を侍らせ吾輩を待っていたのだ。

 

 ……その時の吾輩の驚きといったら、言語を絶するものがあった。だが、幸いにも心の準備をする時間はあった。何しろ吾輩は大戦時より大王に付き従っていた古参の直臣。その大いなるソウルの気配を見紛う筈もなく。騎士長殿の執務室があるフロアに到着した時点で吾輩はグウィン王の存在を感じ取っていたのである。

 

 普段はその強大なソウルがために半ば隔絶した空間にて玉座にあったグウィン王が、よもや御自ら配下の部屋に足を運ぶとは。驚き言葉もなく平伏する吾輩に、偉大なる大王はイザリス遠征の働きに対するお褒めの言葉と共に驚くべき事実を告げたのだ。

 

 

 火の時代に終焉が迫っていると。

 

 

 ああ、こうして謁見より時間が経ってから日記に書き記すだけでも身体が震える。文字を綴る手の震えがもどかしい。

 だが、吾輩はエリート。銀騎士は狼狽えない。

 

 思えば兆候はあったのだ。イザリスに起きた異変、急に姿を見せなくなったアルトリウス殿、小人の間に現れ始めた不死の呪い。

 どうやら、吾輩がイザリスでデーモン退治に明け暮れている間に事態は取り返しのつかぬところまで進行していたらしい。これら全ての異常は、火の時代の根幹をなす始まりの火に端を発していたのだ。

 今や始まりの火は消えかけ、世界は急速に終わりへと歩みを進めている。あらゆる事象の基盤たる始まりの火が弱まっているならば辻褄は合う。信じたくないことではあるが。

 

 だが偉大なるグウィン王のお言葉に偽りがある筈もなく。ならば全て事実なのであろう。銀騎士たる吾輩はその事実を粛々と受け入れるのみ。

 そうして何とか無様を晒さずに済んだ吾輩であったが、直後に続いた言葉には流石に動揺を隠せなかった。

 

 偉大なるグウィン王は告げられた。御自らが薪となり、始まりの火に往時の勢いを取り戻すのだと。

 

 確かに火が消えかけているというのなら、燃料を焚べることで消失を防ぐのは道理である。だが、何も大王が身を捧げる必要はないのではないか。

 それは代用が効かぬものなのか。我ら銀騎士一同、王と火の時代のためとあらば喜んで自らを薪にする覚悟である。だが、そう声を上げる吾輩に対しグウィン王は静かに首を横に振った。

 

 始まりの火は特別なソウルでなくば熾らない。凡百のソウルを幾万と積み上げたところで薪の代わりにはならないのだと。そして、偉大なる太陽の光の王を超えるソウルはこの世のどこにもありはしない。

 

 吾輩は悔しかった。普段はエリート中のエリート、伝説のスーパー銀騎士などと自称しておきながら、本当に大事な時に王のお役に立つことができない。

 そして吾輩と同じかそれ以上に憔悴した様子のオーンスタイン殿を見て悟った。恐らく騎士長殿も吾輩と同じ考えに至り、だが薪の資格を持たぬが故に力なく頭を垂れているのだ。

 

 そして言葉もない吾輩に対し偉大なるグウィン王は命を下した。吾輩は四騎士と共に銀騎士を率い、王なきアノール・ロンドにありて女神グウィネヴィア様をお守りせよ、と。

 頼んだぞ、我が忠臣ガレアよ──吾輩は声もなく、兜の下で涙した。ああ、よもや、よもや覚えていて下さったのか。一人では石の古竜一体も狩れぬこの矮小な騎士の名を。吾輩など、王からすれば数多いる銀騎士の中の一匹に過ぎぬだろうに。

 

 ……だが、だからこそその王命には従えない。

 幻の女神グウィネヴィア王女もまた吾輩が信仰する偉大なる神の一柱であるが、吾輩はこの身この魂、ソウルの一滴までもグウィン王に捧げると決めている。王なきアノール・ロンドに吾輩の存在意義はないのだ。

 

 王の命に背くなど、きっと吾輩は希代の不忠者なのだろう。だがどうかお許し下さい。吾輩は王なき世に何も見えないのです。

 

 吾輩は王の僕。仰ぐべき太陽なくば息もできぬ愚かな銀騎士。こんな不忠者は火に焼かれ、灰となって世界に降り積もるがお似合いである。

 せめて、せめて。火の時代を一秒でも長く存えさせんとする高潔なる王の意志、その一助とならんことを願う。吾輩の卑小なソウルがその一秒となれるならば本望だ。

 

 結局、王は吾輩の訴えに是とも否とも答えなかった。だが王は近い内に火継ぎに旅立たれる。吾輩は石に齧りついてでもその旅路について行く所存である。

 

 

 

 ***月***日

 

 久し振りに会ったらレド君が非行に走っていた。何と巨大な大槌を得物にするだけでは飽きたらず、銀騎士の魂とでも言うべき甲冑にすら改造を加えていたのだ。

 美々しき翼の立物(たてもの)は見るも無残に捻子くれ、まるで竜の角のように聳え立っている。そして白銀に煌めいていた鎧は分厚さを増し、まるで遠征組に支給された黒銀の鎧のように燻されくすんでいた。

 

 吾輩が悲壮な決意を固めている時にこいつは何をしているのだ。思わずぶん殴ってしまった吾輩は間違っていないと思う。

 拳を痛めた。この鎧硬すぎである。

 

 だが、まあ。元気そうで何よりだった。レド君が変わり者なのは今に始まったことではないし、むしろ彼らしくて結構なのではないか。

 ちょっとセンチメンタルな心境にあった吾輩は「男前で似合っている」とお世辞を言っておいた。

 

 頭でも打ったのかと馬鹿にされた。思わずぶん殴ってしまった吾輩は間違っていないと思う。

 拳が弾かれた。この鎧強靭度高すぎである。

 

 すると、レド君は吾輩に王の勅について尋ねてきた。なるほど、レド君は吾輩が帰ってくる前に火継ぎの話を伝えられていたのだろう。彼は吾輩と同じく古参のエリート銀騎士。知っていても可笑しなことではない。

 なので吾輩は正直に答えた。吾輩は愚かにも王命に背き、王と共に始まりの火に焚べられる道を選ぶと。

 

 不忠者と嗤うがいい。そう言った吾輩に対し、レド君は「君らしい」と柔らかく笑った。

 レド君は火継ぎの旅路に同行せず残るつもりらしい。そして吾輩の決意を称えた。生きながらに燃料として焼かれるが薪の定め。そんな苦難の道を迷わず選んだ吾輩はまこと銀騎士の鑑であると。

 

 いいや、それは違うぞレド君。吾輩は苦難の道を選んだのではない、楽な道に逃げたのだ。

 吾輩は王なき世の絶望に耐えられなかった軟弱者。この選択は絶望を感じる間もなく王と共に燃えて消える「楽」への逃避である。

 むしろ、太陽を失ったアノール・ロンドに残り生き続けることの方が吾輩にとっては苦難に見える。故にその道を選んだレド君のほうが真に称えられるべきであろう。変わり者だったが、レド君は吾輩などより余程銀騎士に相応しい男であった。

 

 この情けない男の代わりに、どうかグウィネヴィア王女をお守りしてくれ。そう言って頭を下げた吾輩だったが、レド君はあっけらかんと言った。自分はアノール・ロンドを離れ旅に出ると。思わずぶん殴ってしまった吾輩は間違っていないと思う。

 でもやっぱり弾かれて拳を痛めた。こいつ全体的に硬すぎである。

 

 ええい、こんな変人のことなんぞもう知らん! どこへなりでも旅に出るがよかろう!

 それでハベルとか巨人とかと仲良くなって、永遠に変わり者として名を残すがいいさ!

 

 バーカバーカ! レド君の脳筋! 絶交だーっ!

 

 

 

 ***月***日

 

 レド君と(一方的に)喧嘩別れした翌日。ついに大王が火継ぎに旅立たれた。

 当然吾輩もそれについて行く。偉大なるグウィン王は何も仰られなかったが、吾輩の同道を拒絶することもなかった。ならばそういうことなのだろう。

 

 そして驚いたことに吾輩以外にも王に付き従う銀騎士がいた。それも結構な数が。

 よく見れば彼らはイザリス遠征に際して吾輩の指揮下で戦った新エリート銀騎士君たちだった。というか装備してるのが銀騎士の鎧じゃなくて黒銀の甲冑なんだからもっと早く気付けよ吾輩。

 

 暫く首を捻っていた吾輩だったが、新エリート銀騎士君たちの意図に気付きハッとする。

 そうだ、あまりお洒落ではないが対混沌の黒銀鎧は炎の熱に強い耐性を持つ。これを纏うことで少しでも燃え尽きるのを長引かせ、薪となる王の助けになろうということなのだろう。

 

 流石、若い騎士たちは思考が柔軟である。すぐに思いつかなかった自分が恥ずかしい。吾輩も慌てて自らのソウルの器から鎧を引っ張り出し装備した。

 甲冑を着替える際に一々脱いだりしなくて良いのは便利だ。こうした咄嗟の装備変更も慣れれば容易い。まことソウルの業とは素晴らしいものである。

 

 

 

 ***月***日

 

 全ての始まりの地、最初の火の炉は近い。

 王は終始無言であったため吾輩たち銀騎士一同も固く口を噤んでいたが、旅の終わりが近付いてきたことを察しより一層の沈黙が我々を支配した。

 

 この日記も今日で書き修めであろう。今いる野営地を出ればあとは真っ直ぐに火の炉へと向かうのみだ。

 

 おさらばだ、我が友レド。変な別れになってしまったが、最後まで変わらぬ君でいてくれよ。

 おさらばだ、わが友からの贈り物たる日記帳。最初は小人の真似事などと馬鹿にしていたが、思えば随分と長い付き合いになってしまったな。

 

 ……おさらばです、我が永遠の太陽。偉大なる光の君、輝ける神なる王よ。

 大いなる御身と比べ、我が身はあまりに卑しく小さい。きっとすぐにでも燃え尽きてしまうでしょう。ですが、私の灰で御身の愛した火の時代を少しでも長く世界に繋ぎ止めてみせます。

 

 私はガレア。太陽の光の王グウィンより認められし忠臣、銀騎士ガレアである。願わくば、私の灰が世界の礎とならんことを。

 

 ──太陽あれ!

 

 

 

 

 

†††

 

 

 

 

 

 再び熾った火がまた陰り、世界が暗闇に包まれた後の時代。ロードランに至った太陽の戦士ソラールはこう語った。

 

『ここは、まったくおかしな場所だ。

 時の流れが淀んで、百年以上前の伝説がいると思えば、ひどく不安定で、色んなものがすぐにくずれやがる』

 

 火の時代は始まりの火と共に起こり、火の中で育まれた。故に全ての根源たる火に異変があれば、世界そのものがおかしくなるは道理である。ロードランの時の流れの淀みは火の陰りと共に広がった。

 

 ならば、同じく始まりの火が消えようとするガレアの時代にも世界の歪みはあって然るべきである。況や、全ての異常の発生源たる最初の火の炉の中ともなれば。

 

 それは誰にとっても予期せぬ不幸な事故だった。火の炉の中心に立った大王グウィンの身体に火が灯り、その強大なソウルが起爆剤となって始まりの火が爆発的な再点火を起こしたまさにその瞬間、世界のあらゆる法則は限りなく無に近くなった。

 滅びに瀕した世界の再生。揺り籠の再構築。その爆発的な衝撃は綻び歪んでいた世界の壁に間隙を穿ったのだ。

 

 とはいえ所詮は僅かな隙間である。世界が息を吹き返せば瞬く間に塞がってしまい、何ものにも影響を与えることはなかっただろう。

 ……それが、偶然にも銀騎士ガレアの足元に生まれなければ。そして、彼が最初の爆発であっさり燃え尽きてしまう程度の脆弱なソウルの持ち主でしかなかったのであれば。

 

 だから、これは本当にただの事故。悪辣な世界蛇の意思も介在することのない、全き運命の悪戯。だからこそ誰にも予想できなかったし、誰も反応できなかったのだ。瞬時に燃え尽き灰となった騎士たちは元より、大王グウィンでさえも。

 

 

 斯くして、中途半端に強大なソウルを宿すが故に燃え残ったガレアは世界に空いた隙間に落ちた。

 唯一の幸運は、ガレアのいた世界の外側にも別の世界があったことか。そして隙間に落ちた不運の代わりだろうか。彼は世界の狭間に攫われることなく、運良く別の世界に着地することができたのである。

 尤も、王と共に燃え尽きることを望んだガレアにとって、そんなものは何の慰めにもならないだろうが。

 

 




ガレア「解せぬ」


大王グウィンが火継ぎに至るまでのストーリーは全くの想像であり、『DARK SOULS』から設定を拾って作った二次創作です。ご注意下さい。

そして次回からようやくオーバーロードに入ります。緩いノリで進みますのでご承知おきを。
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