序章 1/3
その巨大な学園は、広大な土地のど真ん中にそびえ立っていた。まるで、そこが世界の中心でもあるかのように。
"私立 希望ヶ峰学園"……あらゆる分野の超一流の高校生を集め、育て上げることを目的とした政府公認の超特権的な学園。
卒業すれば人生において成功したも同然と云われていた…が、十数年前まである事件がきっかけで廃校になっていたらしい。
しかし、希望ヶ峰学園の卒業生たちが再興を目指し動いた結果、今の新たな"希望ヶ峰学園"が創立されたそうだ。
俺は今日、"超高校級の記憶力"としてこの学園に入学する、んだが……
「早く来すぎたな…」
学校側から指定された時間は八時。 今は七時十分過ぎだから、かなり早く着いてしまった。そのせいか、この場に俺以外の人間が見当たらない。
まあ、早く来てしまったぶん、校内の探索時間が増えたと思うことにしよう。 俺はそう考えながら、門へと歩を進め、学園内へと足を踏み入れた。 その瞬間。
ぐにゃり。
「…っ!?」
世界が歪んだ。 いや、俺の目が変なのか?
ぐにゃりぐにゃりと俺の視界はぐちゃぐちゃの絵の具のように歪んでいき、俺は何が起きたのかもわからぬまま…
……意識を手放した。
「……ん、」
ぱちりと目を開いた瞬間、俺はいつの間にかジャングルにでも迷いこんだのかと混乱した。 そう思ってしまったのは、何を隠そう俺の周辺に緑しかなかったからだ。
右を見ても、左を見ても、上を見ても、下を見ても。
日本では絶対に生育されていない木々に囲まれていた。 地面に大の字に倒れたまま周囲の状況を確認し、俺は口を開いた。
「…俺、この後ゴリラに拾われて育てられるのかな…」
「んなわけねぇだろ、バカか?オマエ」
ツッコミを期待していなかった独り言に反応があったことに驚きつつ、聞き覚えのない可愛らしい声に未だに倒れたまま頭だけを声が聞こえた方に向ければ、そこには呆れたように俺を見下ろした黄色がかった茶色の髪を腰にまで伸ばした、背の小さい女の子が立っていた。
「ちっ、スカートじゃなかったか…」
「さりげなく女子の下着を覗こうとしてんじゃねぇよ。最低だなオマエ」
ほら、と差し出された手に抵抗せず右手を重ねれば、見た目に似合わない腕の強さで俺は一気に立ち上がらせられた。
「意外と力が強いんだな」
「力がないとやって行けねぇ仕事でな。…で、一応確認なんだが。オマエは超高校級の人間か?」
俺が立ち上がったことにより、見上げながらそう聞いて来た彼女の言葉を耳に入れ、やっぱりジャングルにでも来たのかと思いながらも質問に答える。
「そう、だな。今日から超高校級として入学予定だった
「あ゛?…あぁ、俺も超高校級。超高校級の近距離武器職人、
彼女、改め鈴木はそう言っていたずらが成功した子供のように、にっと笑った。
【超高校級の記憶力 向月直】
【超高校級の近距離武器職人 鈴木歪夢】
「変態じゃない。ちゃんと向月直って名前が」
「うるせぇ、今はんなこと言ってる場合じゃねえんだよ変態」
鈴木は俺の呼び方を変えないまま、握ったままだった手を引き、歩き出した。
「ネットの情報が正しいんなら、オマエで最後のはずなんだよ。ほら、さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと待て。行くってどこに…」
「あ?察しが悪ぃな。んなもん一つしかねぇだろ」
鈴木は俺の手を引いたまま、こちらを振り向かずに言葉を続ける。
「俺ら以外の超高校級がいるところだよ」
"俺ら以外の超高校級"。
それは、文字通り俺と鈴木以外の十四人の入学生のことだろう。
超高校級にスカウトされた俺がまず最初にしたことは、同じく超高校級にスカウトされた人物たちについて調べることだった。
今の世の中、調べたいことは某掲示板を覗けば殆ど答えが書き込みされていると言っても過言ではない。
とは言っても、俺は厄介な記憶力のおかげ(せい?)で変な知識を増やしたくなくて今まで開いたことがなかったのだが、前情報なしで入学するのも超高校級の記憶力としてどうなのかということで、渋々ブラウザを開いた。
〝今年度 超高校級 スカウト〝で検索すれば、吐きそうになるくらいに溢れ出でくる情報。
希望ヶ峰学園職員が直々に立ててるスレッドを開けば、どうやら〝メディアに顔が知られていない生徒の写真や個人情報の掲載は禁止〝と注意されているらしく、それを破ったものはコメントが消去され、掲示板からも追い出され二度と書き込みができなくなるらしく、普通の一般人だった俺はホッと胸を撫で下ろしたものだ。
一安心した俺はそのスレッドから色々と情報を仕入れた。
同級生となる彼ら彼女らは俺を合わせて十六人いること。
その全員の才能、及びスカウトされた理由や経歴。
など、その他エトセトラ。
そのため、目の前で俺の手を引いて何処かへ連れて行こうとしている彼女のことは、才能は知っていたが声や顔は知らなかったわけだ。
超高校級の近距離武器職人、鈴木歪夢。 確か彼女には、双子の姉が…
「おい、変態。何考えてんのかしらねぇけど、その辺にしとけよ。…ついたから」
言われるがままに思考を止めて、俺の手を離した鈴木が指をさした方に顔を向け…
…美男美女しかいない十四人の同級生たちを見て、あまりの驚きにポカンと大きく口を開けた。