一人でそんなことを考えながら、おそらく自室であろうコテージに向かおうと一歩踏み出すと、ちょうど俺の対面上にあったコテージから常前が出てきた。
常前は俺に気づいてはいるものの、眉間に皺を寄せながらこちらへと向かってきていた。
「常前はもうコテージを調べ終わったのか?」
「……えっと、…ごめん。名前、なんだったっけ…?」
コテンと首を傾げて申し訳なさそうに聞いてきた常前に、俺は苦笑しながら電子生徒手帳を取りだし、俺のページを示して改めて名前を教えた。
常前は自分の電子生徒手帳を開いて俺の名前を復唱し、うん、と頷いて俺に頭を下げた。
「……ごめん、向月くん。人数が多くて、覚えきれなくて」
「まぁ自分以外に十五人もいたら一気に覚えられないよな。で、なんで噴水に?特に変わったことなんて…」
「……ううん。ちょっとだけ、気になることがあって」
常前はそう言うと噴水に近づき、その場に屈んだ。
しばらく噴水の土台を触っていたと思うと、「…やっぱり」と呟いた。
「やっぱりって…何かあったのか?」
「……うん。ここ、見てみて」
「ここ、って…うん?」
常前の指さした箇所を見てみると、そこにはうっすらと線の様なものが見えた。
それはよく見ると縦に真っ直ぐに伸びていて、念のため反対側も確認してみると同じような線があった。
「なんだこの線…」
「……さっきモノクマが出てきた時気づいたの。ほっといても良かったんだけど、気になって」
常前はそう言って立ち上がり、すうっとその線をなぞった。
「……わたしはもう少しこの噴水を調べてみるよ。向月くんは?」
「あぁ、俺はぐるっと一通り見ていこうかと」
「……そっか。頑張ってね」
「あぁ、お前もな」
俺は無表情で小さく手を振る常前に苦笑しながら、その場から去った。
先ほど覚えたマップの内容を思い出しながらコテージを一つ一つ見ていく。
やはり、このコテージが俺たちが寝泊まりする宿泊場所らしい。
扉にはその部屋の主の姿がドット絵で描かれており、噴水を正面から見て右側が女子、左側が男子となっているみたいだ。
そのドット絵があまりにも個性的で面白く、男子だけじゃ飽き足らず女子のドット絵も見に行こうとそちらへ向かうと、野宮が(おそらく自室であろう)コテージの前に立っていた。
「野宮?なんでそんな所に立ってるんだ。探索は?」
「…あぁ、キミか」
野宮は俺を横目で確認し、そのまま視線をコテージに向け両腕を組んだ。
「どうやらこのコテージがボクたちが宿泊する場所のようだな」
「うん?あぁ、そうみたいだな。それがどうした?」
「…林間学校なんかは基本複数人で一つの部屋を与えられるんだろう?何故ここは個室なんだ」
「それは……人数が少ないからじゃないか?」
「モノクマは分かってないな。同室だからこそ生まれる感情もあるというのに……」
「は?」
「…いや、独り言だ。それはそうと、向月クン」
野宮は視線をコテージから俺へと移し、死んだ魚のような目を少しだけ輝かせながら、徐々に俺に近づいてきた。
「黒紫峰クンとは以前から顔見知りのようだが、どのような関係だ?」
「どんなって、ただの幼なじみだけど」
「幼なじみ…いつから?」
「確か…幼稚園からだな」
「ほう…。二人の会話からしばらく会っていなかったようだが、どうだ?」
「よ、よく分かったな…。小学生の頃、親の仕事の関係とかで涼の家族全員が引っ越して以来だから、だいたい六年くらい…」
「へぇ…。お互い下の名前で呼ぶくらいには仲が良いんだな…?」
俺が質問に答える度、野宮の死んだ目はギラギラと光を灯し、頬も紅潮して息も荒くなっていく。
さすがにその様子が少し怖くなり、俺はくるりと野宮に背を向け、
「じゃあ、俺他のところ行くから!」
そう言って、その場から逃げるように離れた。
去り際に野宮が何かを言っていたような気がするが、気のせいだ。絶対。
第一エリアに向かうため、第一エリアと中央エリアを繋いでいる道(俺が最初に目を覚ました所)へ行くと、そこには何故か入口の門近くに生えている木に登っている鈴木(姉)の姿があった。
そして、その目の前には一対のガトリング銃が設置されていた。
「ガトリング銃!?なんでこんなものがこんな所に…!?」
「あっ、えーと…向月くん、だ!まぁ、ここに
設置されてる理由は多分脅しとかだろうけど〜…」
鈴木(姉)はぴょい、と木からガトリング銃に飛び移り、何かを探すように忙しなく手と目を動かしている。
「このガトリング銃、歪夢と向月くんが来た時にはなかったでしょ?私たちがここから目を離したのってだいたい二十分くらいだったのに、いつの間にか設置されててさ〜。そんなに短い時間で設置したのかな〜?って思って。それに…あ、やっぱり」
何かを見つけたらしい鈴木(姉)は、ガトリング銃から木に飛び移ると、するすると地上へ降りてきた。
「やっぱり、って…何があったのか?」
「うん。あれ、私が前に作ったやつだよ」
「はぁ?」
あの巨大なガトリング銃を、こんなに小さな女の子が?
…じゃなくて、どうして彼女の作った武器が、こんな所に置かれているんだ?
「私たち姉妹はね、自分が作った武器にちょっとしたマークを残してるんだ。あのガトリング銃には、私のマークがあった。たぶん一年くらい前に依頼された奴じゃないかな」
「そ、そうなのか……凄いな、鈴木姉妹は…」
「あ!だからって私が犯人と繋がってるとかじゃないから!もちろん歪夢も違うからね、疑わないでね!」
「あ、あぁ。大丈夫だって」
「ならいいけど…。あ、そうだ。私のことは歪見でいいからね、向月くん。苗字だとややこしいし!」
さっきまで焦ったような表情だったのに、今はにこにこと笑っている鈴…歪見。
ころころと表情が変わって、感情がわかりやすいやつだな…なんて、どこか微笑ましい気持ちになった。
同年代だということは頭では分かっているが、これが庇護欲…ってやつなのか…?
「うーん。でもなんであれがこんな所にあるんだろ。まだちょっと調べてみるねー!」
歪見はそう言って、反対側に設置されていたガトリング銃を調べるために再び木に登り始めた。
俺はそんな歪見に手を振って、そのまま第一エリアへ足を進めた。
第一エリアと中央エリアを繋ぐ道。
そこを歩いている道中、道端でしゃがみこんでいる染井を見つけた。
「染井?何してるんだ?」
「…あぁ、…向月、だっけ。…これ見てた」
「これ、って…なんだこの花」
染井が指さしたそれは、椿に似た手のひらサイズの花だった。
しかしその花弁は、墨でも塗りこんだかのように黒ずんでおり、パッと見は綺麗だがどことなく不気味さも感じた。
「椿、か?」
「…似てるけど、違う。…たぶん、この山にしか生えてない花。…毒があるかも」
「染井にも分からないのか?」
「…わからない。…こんな花、初めて見た。…それに…」
染井は立ち上がると、ぐるりと辺りを見回した。
つられるように、俺も同じようにぐるりと見回す。
どれもこれも、見たことの無い植物で…、…まさか。
「…気づいた?…この花と同じように、ここの植物は…ボクでさえ見たことないもの、しかない」
「そんな…超高校級の華道家の染井が知らないんなら、この山がどこにあるのかすら…」
「…それは、多分…他の人が調べてると思うけど。…問題は、この植物たちの名前を知らないこと」
「…え?」
染井は無表情のまま、近くに生えている木の幹に手を当てた。
「…名前が無いと、色々…不便だから」
「…な、ならさ…正式名称が分かるまで、染井が名前をつけておく…ってのは?」
「…ボクが?」
俺の提案に、染井は少し驚いたらしい。無表情のままではあったが、その瞳は大きく見開かれていた。
その目を逸らさずにうんうんと頷くと、染井はふ、と目を細めて先程の椿のような花に視線を移した。
「…キミは、変なことを言うね。…でもまぁ、…考えてはみる」
染井はそう言うと、ふらふらと中央エリアの方へと歩き始めた。
「染井?」
「…ボクのコテージに、何かあるかもしれないから。…探しに行ってくる」
「そっか。頑張れよ」
俺がそう声をかけると染井は小さく頷き、ゆっくりと自室に向かって歩いて行った。