医療器具も調べておきたいとあの部屋に残った岩崎を置いて、病院を出て最後の施設の図書館へと向かう。
体育館とさほど変わらない大きさの図書館は二階建てらしく、中に入ると大きなテーブルが六つほど並んでいて、その周りを囲むように本棚が置かれてあった。
「なんだ、あんた来たのね」
「輝…って、なんだその本の数」
本棚の影からひょこっと出てきたのは、沢山の本を腕いっぱいに持てるだけ持って、やけに嬉しそうな表情をした輝だった。
「ここあたし好みの本がいっぱいあるのよね。絶版の本も揃ってたからかなり嬉しい」
輝はにこにこと可愛らしい笑顔を浮かべながら持っていた本をテーブルの上に置き、椅子に座ってそれらを読み始めた。
「こら。探索は…、…え…?」
「なによ。ここには他にも人いるんだから、少しくらいサボってもいいでしょう?」
「いや、そうじゃなくて…お前それ、読んでる本…」
「あぁ、これ?面白いわよ」
そう言って、輝は本を…"世界の殺人鬼百科"という悪趣味な本を閉じ、表紙にいる妙なお面を被った男…、女…?の写真を指さした。
「これはキラキラちゃん、っていうシリアルキラーで…」
「い、いや。解説はいいから…」
まさか、と思いテーブルの上にある本のタイトルをよく見てみると、"世にも珍しい奇病一覧"やら"犯罪者の心理"やら、俺が進んで読もうとも思わないものばかりを集めていた。
「…どこが面白いんだ?」
「なんて言うのかしら。現実味が無いのに全部実際に起こったこと、ってところ?」
「…そうか…」
俺には全く理解できないが、輝はそういった、…オカルト?が好きなんだろう。
ついに俺を無視して本を読み始めた輝に、俺は何も言えなくなってしまった。
二階へ向かおうと階段を探していると、ある本棚の前で何かを立ち読みしている九里田を見つけた。
「九里田、何読んでるんだ?」
「…あら、向月くん。貴方も来たのね。まぁ、見た方が早いわよ」
九里田は読んでいた本を閉じ、俺に差し出した。
さっきの輝のこともあって若干警戒しながら受け取ると、その本の表紙には"espoirr montagne"と書かれていた。
「…何語だ?」
「フランス語よ。エスポワールモンターニュ。直訳すると、"希望の山"」
「希望の山…」
「そう。この山と正反対よね」
九里田は俺から本を取り、パラパラとあるページを開き、とん、と指さした。
そのページには希望の山の上から見た全体図が描かれていた。
「…これ、その…希望の山の全体図だよな?」
「ええ。espoirr montagne…この山はどこの国が所有しているのか定かでは無いけど、大富豪やそこら辺の人たちにとっての観光地だったみたいなのよ。それで、これを見て」
九里田はスカートのポケットから電子生徒手帳を取り出し、MAPを開いた。
「…!」
「さすが超高校級の記憶力、と言ったところかしら。気がついたみたいね」
九里田の開いた電子生徒手帳のMAPと希望の山の全体図。この二つは似ていた。それどころか…ピッタリ、完全に一致していた。
ということは、この山は…
「…私はもう少しこの本を調べてみる。ついでにこんな本が他にもないか探してみるわ」
「あぁ…」
九里田はそう言って、他の本棚へ向かっていった。
あの本、ほとんど読めなかったけど…フランス語が読めるなんて、さすが超高校級の数学者…ってことなのか?
…フランス語と数学が何か関わっている、とかは知らないけど。
ようやく階段を見つけて二階へ上がると、そこは一階とは別に、子供向けの本や漫画などが置かれていた。
あの双子は見た目こそ幼く見えるけど、一応俺たちと同年代だよな…?なんて思いつつぐるぐる見回っていると、カウンターらしき所にアレクが座っているのを見つけた。
「えーと、呼び方はアレクで良かったよな?」
「…向月か」
アレクは俺に気がつくと下げていた視線を俺に向け、ふぅ、とため息を吐いた。
「アレクで構わない。卍里もそう呼んでいただろう」
「んじゃアレク。お前何してたんだ?」
「これを使えないかと調べていた」
これ、と言いながらアレクは再び視線を下に落とした。
その視線の先を追いかけると、そこには少し前の世代の、一台のノートパソコンが置かれていた。
「パソコン!これで助けを呼べるんじゃ…」
「無理だな。先ほどから試しているがインターネットに繋がらない。使える機能は残っていないし、ファイルはパスワードでロックされている。その上パスワードは全て異なっているらしい」
「そうなのか…」
やっと見つけた脱出のための道具。
それが使えないと知り俺ががっかりとため息を吐く中、アレクはカタカタとキーボードを叩き続けていた。
「…それ、使えないんだろ?」
「使えないのなら使えるようにするまでだ。私はまがりなりにも一国の帝王となる男。このくらい容易い。…が、ロックがかなり頑丈だ。今の時間でExcelを使えるようになっただけでもマシだろう」
「待て、Excelにもロックが掛かってたのか…?」
脱出に必要のない機能にもロックがされていた理由は分からないが、そのロックをあっさり解除したアレクのチートさに若干驚く。
まぁでも、一国の帝王になるんならそれも普通のことなんだろうな…と思ってしまったのは仕方ないだろう。