電気屋と聞いて普通の人はなにを思い浮かべるだろうか?
俺の場合その中でも一般家庭に訪問し電化製品を修理をするというニッチな仕事を生業としている。
ただ俺の場合存在感が薄いのか作業の最中存在を認知されない場合が多い、お客が横で普通に人に聞かれたくないような話をしているようなことがしばしあるのだ。
それだけ信頼されてると言えば聞こえはいいが・・・
「さてと、今日の修理依頼は?」
パソコンを立ち上げ本日入ってきている修理依頼内容を確認する。
「冷蔵庫の冷凍庫だけ冷えない・・・か、このお客さんなんて読むんだ?ヒキタニ?ああ『ひきがや』って読むのか・・・他には・・・っと」
す
「・・・ふむ、他にも結構な件数が来てるな、まあアポイントとって行きますか」
アポイントを取ったのち準備をしてサービスカーに乗り出発である。
これより少し前の日の比企谷家の朝
「おにーちゃん!起きてよ!大変だよ!」
「うるさいな、もう少し寝かせろよ、起きるにはまだはy「いいから起きてよ!冷蔵庫が大変なの!」」
今日は平日だがやたらと早い時間に小町たたき起こされる比企谷八幡。
「冷蔵庫がなんだって?」
「全然冷えてないの!ほら!」
冷凍庫だけだが確かに冷えてない、氷は全部溶けていた
「げ!まじだな、どうすればいいんだこれ?」
「保証書これだけど・・・保証切れてる・・・お兄ちゃん、これ直して?」
「小町ちゃん、お兄ちゃんにもできることとできないことがあるんだよ・・・修理頼めよ、買うより安いだろうが」
「そうかもだけど、この電話するところ10時からってなってるから小町は学校だし携帯持っていけないから無理だよ、お父さんもお母さんももう会社行っちゃったしお兄ちゃんお願いできない?」
「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せとけ」
これが妹以外だったらNOを突き付けるところだが流石千葉の兄、妹には甘々なのであった。
学校にて、さっそく授業の合間にコールセンターへ連絡するがなかなかつながらない、昼休みも同様、結局部活の時間に連絡することになった。
「クッソ全然電話でねぇな」
「ヒッキー今日ずっと電話してたみたいだけどどこに電話してるの?」
「冷蔵庫がぶっ壊れてな、修理依頼するところにかけてるんだが全くでねぇ」
「いつものヒッキーならそんなことめんどくさがってやらないのに、どうしたの?」
「きっと小町さんに言われたのでしょう?」
「ふん、生活かかってるからな、しかし電話でねぇな」
「きっとコールセンターの人もゾンビを相手にするのは嫌なのでしょうね・・・」
「おい、なんで悲しい目でこちらを見るんだ、電話じゃ相手わからんだろ」
「わかってしまうところが比企谷くんなのでしょう・・・電話越しに自分の存在をアピールできるなんて流石比企谷くんね」
とにっこり笑う雪ノ下
「それ全然ほめてないよね?」
「ヒッキーとゆきのんばっかりなんかずるい!」
「おまえ話聞いてた?・・・っとやっとでたな、あーもしもし・・・」
一通りやり取りを終えると
「依頼するだけなのにやたらめんどくせぇな、保証切れてるから金がかかるとか出張費がどうとかメーカーから日程確認して掛けなおしてくれるとかくそめんどくせぇ、でもこれも小町のためだしな」
「やっぱ小町ちゃんの為だった」
雪ノ下と由比ヶ浜から苦笑いされる比企谷であった。
やがってコールセンターから折り返しの連絡が来る
「あーもしもし、ハイ、ハイ、では最短でお願いします」
「どうなったの?」
興味深そうに聞く由比ヶ浜
「あーすまんが最短で明後日きてくれるらしいから学校休むわ、親父もお袋も会社休めんだろうから俺がいるしかないしな」
「すごい!ヒッキーがやる気だ!」
「明後日は槍が降るのではないかしら・・・」
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「さて次はっと」
俺はサービスカーを運転し依頼のあった家に次々と訪問して修理に回る
今日は意外と順調だ、この分で行くと早く帰れるかもな。
「次は・・・ヒキタニ、じゃなかった『ひきがや』さんだな」
比企谷家についた俺は玄関の呼び鈴を鳴らす
「ハーイ!今開けまーす!」
がちゃりと鍵が開けられるとだぼだぼのTシャツを着た女の子が立っていた。
明らかにサイズが合ってないんですが・・・
「あのー冷蔵庫の件で来たんですけど・・・お父さんかお母さんは・・・?」
どう見ても子供だ、子供に修理費を要求するわけもいかないだろうしトラブルの元だがこの家はどうも違うらしい
「両親は二人とも忙しいので私とお兄ちゃんに全部任されてるから大丈夫です!」
と胸をはる少女、そしてその後ろからヌボーっと目が腐った感じの男が現れた。
頭には少女と同様のアホ毛が伸びてる、一目で兄妹とわかるな、でも雰囲気が違いすぎるだろ
「あーそういうことなんで大丈夫っす、ってか小町まで休む必要なかっただろうが」
「お兄ちゃんだけじゃ心配じゃん!せっかく電気屋さん来てもお茶も出さないで帰しちゃうでしょ?」
「あのなぁ、こういう人たちは仕事で来てるんだから・・・」
「だからそういうところが・・・」
なんか言い合いを始めた、仲がいいのか悪いのかわからんが今はやめてほしいね
「あのーとりあえず点検を・・・」
「あ!ごめんなさーい、こっちです!ってお兄ちゃんどったの?ボーッとして」
「いやよく考えたら小町いるから俺は出てくる必要無かったなと思ってな」
「んもーお兄ちゃん!そんなんだからごみいちゃんなんだよ!突っ立ってないで!電気屋さんを冷蔵庫まで案内して!」
「あー ヘイヘイ、んではこちらへ」
この子小町というのか、それよりいまゴミとか言わなかった?大丈夫なのこの兄?
案内されてさっそく点検開始である、冷蔵庫はメーカーや型番によって、冷蔵庫の状態を基板に記録するので確認がしやすい、ハイテク万歳ですな。
端末を冷蔵庫に接続しデータを確認すると冷凍庫のセンサーのエラーが記録されている。
ならばと確認の為冷凍室の引き出しを外してばらしにかかるわけだが
「ほら!ごみいちゃん!そんなところで寝てないで引き出し外すの手伝ってあげて!」
「そんなところに置かないでよ・・・かーくんのおもちゃになっちゃうよ・・・食べるものなんだよ?だからごみいちゃんなんだよ・・・」
散々な言われようだ、ってかやっぱりごみって言ってるよね?ほんと大丈夫なの?
手早く冷凍室をばらして中のセンサーを確認すると・・・ビンゴ、これだな
「すみません、センサーが壊れてしまってるようですね、修理の費用としては出張費と技術費と部品費合わせますと・・・」
と値段を提示するが修理の費用とは得てしてユーザーの予想をはるかに上回る金額になる、その為
「んーちょっと負かりませんか?」
ほらきた、妹さんが値切りに来た
「いやーそういうわけには・・・」
定番のやりとりである、料金はメーカーで定められてるので簡単に値引きはできない。
値引きするにも正当な理由がないと難しいのだ。
「あーそういや・・・ついでに野菜室の扉のしまりが悪いんですわ、そっちも見てもらえませんか?」
さっきから傍観していたごみいちゃんこと兄が話しかけてくる、まあこの場合色々やってあげたほうがお金ももらいやすからな、
と野菜室を開け閉めすると確かに閉まりにくい、野菜室なのにMAXコーヒーの缶がやたらとたくさん入っている、野菜より多い、多すぎる、異常な量だ。
もしかして缶のせいで重すぎてしまりが悪いのか?と引き出しを外そうとするが重くて外せない、仕方ないので結構な時間をかけて中に入っている缶を全部取り出すことにした。
「すみません、うちの兄これが好きなもので・・・」
作業中妹さんが謝ってくる、確かに結構な手間だがこれも仕事だ
ようやく引き出しを外してみると
奥の方につぶれて中身が出ている紙パックのジュースを発見、どうやら引き出しの奥の方に落ちて挟まりこんでしまってたらしい、庫内はべしょべしょに濡れていた。
「これが引っかかってたみたいですね、スポルトップ?ですか、濡れてるとこ拭いときますね、こういうのたまにあるんですよね、後ろに落っこちちゃうの・・・ってお客さん!」
つぶれたパックを妹さんに見せたとたん表情が一変し座布団で兄をしばきはじめた。
「ごみいちゃん!これごみいちゃんのじゃない!最近冷蔵庫から変な水出てくると思ったら!これごみいちゃんしか飲まないでしょ!んもー小町恥ずかしいよ!」
「おいやめろ、そういや学校で買ったやつ、飲まなかったからそこに入れといたんだわ、いつの間にか無くなったから小町が飲んだのかと」
「んなわけないじゃん!んもー謝って!余計な手間をかけさせた電気屋さんに謝って!」
「すんませんでしたー!!!」
ジャンピング土下座というのを初めてみた
「うちの兄のせいで申し訳ありません、汚れたとこまで拭いてもらってありがとうございました、料金はきちんと払いますので修理お願いします」
と結局料金を満額もらえることになる、なので修理続行、センサー交換の作業は30分もかからず終了した。
家を出てサービスカーへと戻る
「引き出しの中身を元に戻すのは自分たちでやると言ってくれたから助かったな、しかしやたらと激しい妹がいる家だった、でもま、もう会うこともないだろ」
この仕事基本的に一期一会みたいなもんである、最も何度も同じ家に行くということは何回も家電が壊れるということだからお互いにあんまりよくない。
警察と自衛隊と消防と医者と修理屋は暇な方が世の中幸せである。
そんな事を考えながら先ほどお詫びにともらったMAXコーヒーを飲みつつ俺は次のお客の元へと急ぐのであったが、これから先何度か彼に遭遇するとはこの時夢にも思っていなかったのである。
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「ということがあってだな、昨日は散々だった」
奉仕部にて、雪ノ下と由比ヶ浜へ昨日の冷蔵庫修理の顛末を語る比企谷
「流石比企谷君ね、よその人にまで土下座を披露するなんて」
「ヒッキーの家の冷蔵庫ってMAXコーヒーでいっぱいなんだ・・・」
「そこ?いやそこじゃないだろ?意外とあっさり修理が終わったとか、それでも料金は結構かかるとか・・・」
「小町さんはこんな人が兄で大変ね・・・」
「何言ってる、俺の半分は小町の愛でできているまである」
「んじゃヒッキー、残り半分は?」
「マッカンへの愛と千葉への愛と戸塚への愛だな」
「即答だ!」
「ざ、財津君への愛はないのかしら?」
「そんなのはしらん、まあとにかくだ、修理を呼ぶなんてそうそう無いからな、貴重な体験ができた」
「そっかー、んじゃ家電壊れたらヒッキーに言うね!」
「コールセンターに言え、そして俺には言うな」
「ひどいし!手伝ってくれてもいいじゃん!」
「別にお前の家の家電が壊れてるわけじゃないだろうが・・・」
彼もまたこれで終わりと思っていたようだが、これから先何度かあの電気屋と遭遇する羽目になるとは夢にも思っていたなかったのである。