ある電気屋の記録   作:もよぶ

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ここに書いてあるホテルはガーリッシュナンバーにも出てきた銀山温泉の宿を数倍巨大にした物を想像していただくといいかもしれません。

尚温泉地は硫黄が凄く銅は黒く酸化し鉄もさびやすく家電の寿命は全体的に短め


CASE21 新築温泉ホテルのTV

総武高校に行った数日後事務所にて、俺は客先から引き揚げてきた冷蔵庫の修理をしていた。

コンプレッサーが故障し全く冷えなくなった冷蔵庫の修理である。

基本的に客先で行うものだが、様々な事情で引き上げないといけない場合があるのだ。

 

冷蔵庫のコンプレッサー交換の修理は家電修理の作業の中でも難しい部類に入る、何しろバーナーを使ったロウ付け作業が必要になるからである。

 

「さーてっとガスを抜きますかね」

 

冷蔵庫内には特殊冷媒ガスが循環しているためそれを抜かないといけない、ちなみに可燃性である、ちゃんと抜かないとロウ付け作業したときに漏れ出したガスに引火してそこらじゅうが燃える、簡単に言うと炎の絨毯が出来上がると言えばわかるだろうか、大変危険なのである、ただ手順をちゃんと守って作業していればこの限りではない。

 

そしてこの修理作業は3時間ぐらいかかるのである、途中失敗すると倍の時間がかかる、客先でやる場合は前述の失敗がないように細心の注意を払ってやるので時間がかかるのだ。

 

「やっぱ客先でやるより気が楽だよな」

 

事務所内で作業をやるので床が焦げようが傷がつこうがお構いなしである。

客先でこんなことをやったらクレームどころか弁償である、無論客の冷蔵庫に傷をつけてないように配慮はするが、使い終わった道具を周りを気にすることなく気軽に工具箱へほうり込めたりするので作業速度は早くなり効率も上がるので大変楽だ。

 

「今日はロウの溶け込み具合がいい感じだな、意外と早く終わりそうだ」

しかしながら事務所でやる場合でも2時間ぐらいは必ずかかる、やはり面倒なのは変わりない。

 

「よし、最後に真空引きをしないとな」

 

溶接が終わった配管内をエアコンと同じく真空ポンプを使い空気を抜き、水分を蒸発させるのだ、これを真空引きという、これをしないとうまく冷媒ガスが入っていかないし冷蔵庫を稼働させると変なところが結露したり配管内の水分が凍って配管を詰まらせる等の弊害が起きてしまうのだ、なので真空引きは大変重要である。

 

「この時間が暇なんだよなぁ・・・」

 

エアコンとは違い冷蔵庫の配管はとても細い、その分水分蒸発を確実にしないといけないので30分以上は真空引きをしないといけないのだ、その間暇になるのである、客先だと道具を片づけたりして忙しいのだが事務所なので急ぐ必要もなし

 

「こういう時にスマホがあると便利だよな」

 

と最近読んでいるお気に入りの小説が載っているサイトを暇つぶしに開いて読もうとすると

「おーい、真空引きの間これお願いできないか?」

と、上司から呼び出しを食らう

 

行ってみると修理依頼書を渡される、内容はずいぶんと山奥の物件

「ずいぶんと遠いですね・・・なんすかこれ?ホテル?」

 

「新築のホテルなんだがだいぶ山奥でな、真空引きの間暇だろ?そもそも今日は修理依頼あんまり入ってきてないから今から行ってきてもらえんか?なんでもプレオープンなんだそうだが納入したばかりのテレビが映らなくなったんだと、故障かどうか見てきて故障だったら初期不良ってことで販売したところに取り換えるよう連絡してくれ」

 

こういうことはたまにあるのだ、購入して間もない故障は販売店へ連絡すると初期不良対応をしてくれる場合が圧倒的に多い、でもその前に故障かどうかの判定は必要になる。

しかし状況によっては修理で対応をお願いされるのだ。

たまになんで始めっから新品持ってこないんだとクレームつける客もいるが、うちにそんな権限はないのであしからず。

 

「わかりました、んじゃ行ってきますわ」

サービスカーに乗ると一路新築のホテルへ向かうことにした。

 

山奥まで車を走らせること30分ようやく建物が見えてきた。

「ずいぶんと山奥まできたが・・・あれか・・・すごいな」

 

ちょっとレトロチックな感じに仕上げたホテルである、なんと言うか山の中に唐突にこういうのがあると非現実感が半端ない、少しだけ幻想的な感じもする。

 

源泉かけ流しがうたい文句で露店風呂の設備が巨大であり水着を着てという条件ではあるが混浴もあるんだとか

フロントに行くと該当のテレビはロビーに置いてあるテレビだそうだ

「ふむ、コンセントは入ってるな・・・電源も来ているので問題なしか・・・駄目だな、初期不良だこれ」

と担当者に故障である旨を伝えあとは販売店へ連絡である、電話をしていると聞き覚えのある声がする

 

「だから俺は男湯でいいっつうの!」

 

「今更往生際が悪いわよ?みんな同意してるんだから構わないと言ったはずよ?」

「そうだよ!水着なんだし一緒にお風呂入ろうよ!」

はて?今日はプレオープンと聞いてたのだが?こういうのって関係者しか来ないはずでは?あんな騒ぐ連中が来るとはなんとも質が落ちたものだな。

と勝手に思いつつ販売店へ電話で状況を伝える

 

「さて、商品交換の手続きも終わったし、ちょっと一回りして帰るかな」

こういった温泉宿なんてのはあんまり来ないのでちょっとばかり興味がある、プレオープンとはいえまだ業者が細かい調整をするためあちこちにいるので作業服を着ている人がうろついていても何も言われない、流石に温泉に入るのはアウトだろうが

 

そう思って後ろを振り返ると

「あれ?・・・」

 

比企谷君がそこにいた、女の子たちから呼び止められているようだが

 

「だからなんで混浴なんか!恥ずかしくないのか?」

「ヒキオ!観念するし!みんな水着なんだから構わないって言ってるし!」

「そうだぞ八幡!我も大賛成なり!」

 

「うちもかまわないんだけど・・・こいついまちょっといやらしい目で見た!比企谷!助けてよ」

「貴様!冤罪だぞ冤罪!はちまーん、なんか言ってやってくれよ~」

「この期に及んで怖気づくとか比企谷全然ウケないよ?」

「比企谷君、ちょっと幻滅だな」

「八幡超かっこ悪い・・・」

 

「だから俺抜きでいけばいいだろうが!俺には戸塚がいれば「僕も別にみんな水着だったら構わないと思うよ?」戸塚ぁ・・・」

「比企谷!俺なら裸でもかまない!むしろ裸でいこう!」

「葉山、お前は黙ってろ、話がややこしくなるうえに一人確実に倒れる」

 

確かに一人鼻血を出してぶっ倒れているようだ、大丈夫なんだろうか?

そういやここ水着なら混浴できるんだっけ?と案内板を見るとやたらと広く、あちこちに岩がある様だ、まるで温泉の池のようである。

滑り台ような物や簡単な遊具らしきものもある様なことが書いてある。

「ちょっとしたレジャーランドみたいだなこれ」

山奥だからここまで広くとれたのか?と一人で感心してると比企谷君はまだみんなから逃げたがっているようだ。

流石にあの態度はちょっとどうかと思うぞ?

 

「まあ知らん仲ではないしな・・・何となくだがこれを見逃してはいけない気がする」

そう思うと比企谷君の前をわざと横切るようにして進路妨害をした。

「うわ!あ、すいません・・・ってあれ?」

ちょっとびっくりしている比企谷君、他の人もやばいと思ったのか騒ぐのをいったん止めている

 

ここはわざとらしくいくか

「すみません、ってあれ?久しぶりだね?」

 

「ほら!お前らがはしゃぎすぎるから危うくぶつかるところだったじゃねぇか・・・」

と比企谷君後ろを向いて皆に説教をしようとしている

 

「ちょっといいかな?」

彼の両肩に手を置くとちょっとびくっとされる、まあ当然だろうな

「比企谷君、腕を前に出してくれないか?」

「は、はぁ?」

と比企谷君は両腕を前に突き出してくれた、いいぞそのまま

 

「んじゃあ君たちちょっと来てくれるかな?」

女性陣を呼ぶと

「みんな、比企谷君の腕をつかんで、そうがっちりとつかんで・・・比企谷君?」

「はい?」

不思議そうな目でこちら見てくる、まあそうかもしれんが

 

「いきなさい」

 

言ったとたん女性陣の目が輝きだす

 

「「「「「ありがとうございます!!!」」」」」

 

全員がそう言うと文字通り比企谷君は女性陣から引きずられ奥の方へと連れていかれる

「ちょ!ちょっと!」

 

男性陣も集まってきて

「んじゃ僕が足持つよ」

「んじゃ我はもう片方を」

「んじゃ俺は応援だべ!ヒキタニ君ファイトだべ!」

 

「え?僕は・・・落ちたスリッパでも拾っておくか?なんだかずいぶんなソリューションだな」

 

「残った俺は・・・真ん中だな」

左右両足を持たれているので葉山は足の間に入ると比企谷の腰を持つ、無論自分の腰を必要以上に押し付ける

「おい葉山!腰を押し付けるな!」

 

「バイバーイ」

と俺は手を振ってその場を立ち去ろうとするが

「電気屋さん、すまんな」

平塚先生だ、この人も来てたのか

 

「電気屋さんから見て彼はどう見える?ああ見ても奴はリア充爆発しろなんて作文に書くような奴だったんだが」

「彼が?どう見てもリア充でしょう?自分が爆発することになるのでは?」

フっと笑う平塚先生

「実はさっき電気屋さんがやったこと、、詳しい説明は省くがあれと似たようなことを私もやったのだ、上からは一部の生徒に肩入れするなと色々言われたがね、もしかしたら君と私は気が合うのかも知れんな」

 

またその話題かと正直うんざりするが平塚先生は俺を見ていなかった、比企谷君の方を見つめている。

 

視線の先では結局宙吊り状態から解放された比企谷君、とうとう諦めたのか皆の後を着いていくことにしたようだ。

 

「皆いい笑顔をしているがあの結果がいいか悪いかは本人に任せるしかないな、私はもう見ることしかできない、あいつらはこれからどういう道を進んでいくんだろうな」

そう呟く平塚先生はとても優しい顔をしていた。

その横顔に見惚れてしまう。

 

でもなんか顔が若干赤いような?

「そういえば電気屋さんは・・・」

おいまたこの質問かよ、あ!よく見るとこの人ビールの缶持ってるじゃねぇか!

しかも座っていたところテーブルには空き缶でピラミッドが作られている、酔っ払いは駄目だ!

「あーすんません!担当者とお話があるのでこれで失礼!」

と俺はフロント裏の事務所へ逃げ込む

 

実際担当者からサイン貰わないといけなかったしな、貰ったら即退散だと逃げるルートを考えていたら

「すいません、実は来た業者さんに渡してるんですが」

と担当の人からなんと招待券を貰った!しかもペア!行く人いねぇー!!!

 

「有効期限は来年までですので是非いらしてください」

 

車に戻り招待券をよく見たら

「プレミアム宿泊チケットって書いてるじゃねぇか!はぁー部屋も食事も結構豪華なんだろうな・・・流石にこれをネットで転売するのはまずいな」

 

どのみち一緒に行く人はいないのだから一人で行くしかないのだ。

「比企谷君みたいなリア充がうらやましいぜ、このチケット上司に売りつけてストロングゼロに変えるか?」

もしくは気が向いたらいずれ使うかなと思いながら

「しかし本当に夢の中見たいな感じだったな。青春ねぇ・・・結構前に置いてきてしまったな・・・青春か何もかもみな懐かしい・・・」

 

どこかの宇宙戦艦の艦長のセリフをパクりつつ俺は山奥から下界の街中へと、幻想的な世界から仕事が待つ現実の中へと帰るのであった。

 

 

 

 

一年後

 

 

 

 

「やっぱ来ないと損でしょ」

結局処分できなかったので期限ぎりぎりでホテルに来ることにした俺だった。

 

部屋に案内されるまでの間ロビーで一息入れる、あのテレビは無事新品交換したらしいな、そう思っていると久々に比企谷君と遭遇した、でも今回は違うようだ、彼は笑顔だった。

そして彼の隣にはあの時の女の子の一人が同じく笑顔で並んで歩いていた。

 

ぼーっと見てると比企谷君の方から見つけて声をかけてくれた

「どうも、お久しぶりです」

「やあ、久しぶり、今日はデート?」

「ええ、まあ・・・大学にも慣れて余裕ができたんで遊びに来たんです」

「へぇー泊りがけで?」

というと二人の顔は真っ赤になってしまった。

まあ俺も泊まりなんだけどね、これ宿泊チケットだし

 

「お部屋の案内をしますがよろしいですか?」

ホテルの人が来たので

「んじゃ」

と比企谷君と別れる、成程彼は彼女を選んだわけか。

二人とも腕を組んでとても楽しそうにしているのがよく分かる。

 

ただ選んだ中に残念ながら洗濯機を素手で破壊する自称若手の女教師は入っていないのだ。

 

何故ならその女は紆余曲折を経て現在大変なことに成っていたのだ。

 

何しろ、現在俺の隣でペアチケットの半券を持ち、比企谷君達との高校のときの思いでや、周りの連中は今どこで何をしているかをいい笑顔で楽しく語っていたからである。

 

尚、数年後二世帯住宅となった比企谷家の新婚夫婦の所へとうとう限界に来たと思われる冷蔵庫の点検にお邪魔することになるのだが、その時の新妻の格好や、俺がお邪魔する直前までリビングでやっていたであろうことについては、状況から見て彼の性癖が丸出しになっているR18な説明になるのは間違いないので多くを語ることができず、飼っている猫が増えていたというぼかした表現で記録させてもらうのだが、それはまた別な話である。

 

 

 




最後にもう一話あります。
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