死神幻想奇譚   作:16

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前回のあらすじ

紅霧異変を解決してから五日。
何事も無かったかのように過ごす里の人々を
ラグナがただ眺めていた時だった。
鴉天狗の文がラグナを訊ねてきたのだ。

彼女に言われるまま天狗の住む里に移動し、
天狗の長と会話を済ませた。
文に友達になって欲しいと言われ、快諾するラグナ。
彼が連れていかれる先にいるのは。



第六話 死神と「友人」 下

家に入るやすぐさま二階から足音が聞こえてくる。

どたどたと騒がしい足音を地階に響かせながら二人ぐらいが階段から降りてくるのを予感していた。

「ほらほら、来ましたよ」と、文が言った傍から階段の奥から顔を覗かせる天狗が二人。彼女たちが文の友人......

『モミジ』と『ハタテ』だろうか。

文の事を見た白い方の天狗は目を輝かせたが、もう片方......ツインテールと黒めの衣服を纏った方はラグナを見て顰め面になってしまった。ラグナの強面が彼女を怖がらせたのか、白い天狗の少女より前に出ようとはしなかった。

 

「文さん!待ってました!この一週間はめっきり来てくれないし、大丈夫かなってはたてと話してたんですよ?」

「あはは、心配性ですねぇ椛は。心配しなくとも、私は皆さんの事を忘れてしまったりしませんよ」

 

そう文が椛に言って聞かせると、椛は目に見えて喜んだ。

尾を振るその姿は犬の擬人化と言われても疑われないかもしれないが、彼女は一応、白狼天狗という立派な天狗だ。

...........一応。

 

「文?後ろにいる人は誰?」

「あぁ、彼はラグナさん。私の友達ですよ」

「友達......文の......?......つまり、私の友達でもある......?」

 

ツインテールの天狗が独り言を呟いた。しばらく固まっていたが、急に動きだしたかと思うと、機敏な動きでラグナの両腕を掴み、握手した。ラグナにとっては余りのスピードに脳の処理能力が追いついていなかった。

 

「これからよろしく!私の名前は姫海棠はたて!」

「...........はっ!....あ、ああ。おう、よろしく。俺はラグナだ」

「ラグナ!よろしくね!」

「痛っ......痛てぇ!いだ、いでで!も、もげる!」

 

そうはたてが言うとがっしりホールドされた両手を上下にブンブン振り回される。勢いが強すぎて腕がもげそうになった所で文がはたてを止めた。

 

「こらこら、はたて。ラグナさんが痛がってますよ」

 

文がラグナの表情を指さす。片腕がもう片腕を抱き、その姿はまるで己を抱いている様だった。肝心のラグナの表情は苦悶に満ち溢れていた。とても痛かったのだろう。

 

「あ......ご、ごめんね」

「おう......いいよ。もっとやべぇ奴を知ってるしな」

 

ラグナが目を瞑る。そこに映るは青い軍服を来た彼。

出会い頭にラグナを殺そうとしてくる彼の姿が脳裏に映し出される。ここに居なくてよかったと思うが、反面彼が今どうしているか気にもなっている。が、今はそれを考える時では無い。今は知識を蓄え、今の環境にどれだけ役立てるかを考える時だ。そのためには交友関係も広げねばならない。依然の世界と違って、ここにはラグナの過去を知る者はいない。若干、不安要素がありはするが。

 

「さて、ラグナさん。紹介します。白狼天狗......ああ、白い狼の天狗が椛。もう片方の鴉天狗が、はたて。本当は鞍馬もいると思ってたんですけどね」

「鞍馬なら今も天魔様の警護じゃないかな?」

「あの娘、いつでも天魔様が大切だからね」

 

鞍馬の不在を疑問に思った文に、椛とはたてが、文のその疑問を打ち消す答えを放った。文もそれに納得したようで「ああ、確かにそれもそうですね」と言った。

 

「まあ、紹介も済んだことですし、何をしましょうか」

 

そう文が言うと、これまたはたてが猛スピードで手を挙げ、自分の意見を並べ立てる。

 

「はい!質問タイムにしよ!私達ラグナの事知らないし!」

 

「なるほど、確かにそれは名案ですね」と文が言う。椛もそれに同意見のようで、二回ほど頷いた。ラグナもそれに対して別に言いたくない事がある訳でもなかったので、とりあえずラグナへの質問コーナーという事で場は固まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、あと三回だけ質問しましょう」

「三回かあ。椛、くだらない事聞かないでね!」

「ははは......はたてこそ変な質問しないでね?」

 

「まあ、回数も別に決めないでいいんだけどな」

 

至極単純な質問を浴びせかけられたラグナだが、問題なくスラスラと答えていた。七回、合計で質問され、残るはあと三回と言ったところだった。

ちなみに、それまでの質問の内容というと、好きな物だとか、今の年齢だとか、趣味だとか、そんな他愛のないものだった。

 

「じゃあ文から順番ね!」「次は椛でもいい?」「いいよ」

 

どうやらそれぞれが一回ずつ質問する方向で固まったようだ。ラグナは(きた)るべき質問に身構えた。最初は文だ。

 

「では、そうですね...........貴方は強い。元の世界での二つ名が知りたいです。答えてもらっても大丈夫ですか?」

 

その質問に対して何か考えるそぶりを見せていたラグナだったが、問題ないと判断したのだろう、質問に答えた。

 

「...........ま、いいか。昔は死神って呼ばれてた」

「死神......!ゾクゾクする響きですね......!」

 

椛が身を震わせる。ラグナは気付いていなかったが、よく見ればその腰には剣が、背中には盾が背負われていた。

ゾクゾクする、とは彼女が天狗という妖怪である前に、剣士という生粋の戦士たる事の証拠だ。

 

「言っとくが、俺は強えぞ」

「上等!剣を打ち合うのが楽しみです......!」

「あーあー、ラグナさん。彼女の闘争本能を刺激しないでくださいよ。この子、こう見えても強いんですから」

 

どうやら、こちらを攻撃してこないように釘を刺したのは逆効果であったようだ。椛が尻尾を左に右に振るのを見て「ああ、言い方を間違えた」と、ラグナは心の中で思った。

 

「次の質問いい?」

 

次にそういったのは、はたてだった。助けに船と言わんばかりに同調し、「よしハタテ。お前の番だぜ」と言う。

はたてもその言葉に質問で答えた。

 

「ラグナ、その()()は何があったの?」

 

誰も聞かなかったことだ、直感で察していたのだろう。

その質問に驚いていたラグナを見て、はたては続けた。

 

「無理に答えなくてもいいよ」

「いや、話したくない事じゃねえからいい。でも聞きてえかどうかはお前らに任せるぜ」

 

そう言うと、全員がラグナに視線を合わせる。

どうやら聞くという覚悟を決めたようだ。

 

「昔、俺は四人で暮らしててよ。まあ、弟、妹、んで義母?引き取り先?まあ俺たち兄妹は孤児だったんだよ」

「孤児、ですか。昔は国同士の戦争も多かったですし、そういった類の不幸も不思議ではありませんね」

 

ラグナの話に文が返す。

 

「ま、そんなこんなで結構楽しかったんだけどよ......まあ、それも長くなかったんだよ」

 

更にラグナは続ける。全員が固唾を飲んで口を一文字に結び、ラグナの話に傾聴している。

 

「教会を襲った奴が居てな....そいつがシスターを..................

.........俺の腕もその時にやられた」

「......あれ?でもラグナの腕はここにあるよね?」

 

そう言ってはたてがラグナの右腕を軽く叩く。ぽふっ、という軽やかな音がラグナの右腕から鳴った。

 

「おう。こいつは、見た目は俺の腕だけど中身は俺のじゃねぇ。ずっと昔に人類を襲った『黒き獣』が、これだ」

 

そう言ってラグナがジャケットを脱ぎ、顕になった右腕を突き出す。幾重ものベルトで厳重に封がされ、手袋のせいもあってか右腕の肌が見えることは無い。

インナーの隙間から見える肌は、肩から下が真っ黒に染まっている。それがラグナ本人の腕でない事を直感した。

 

「これが...........」

「文、お前なら蒼の魔道書の存在は知ってる筈だと思うが蒼の魔道書(ブレイブルー)の正体は黒き獣のことだ」

「........あの時言っていた『蒼の魔道書』を起動するとは、これを活性化させる事を言っていたのですか」

 

そう言うと文は改めてラグナの右腕をまじまじと見つめる。

ラグナにとって、これは力であり、呪縛でもあった。

あの日を忘れられないのはこの右腕のせいでもあるし、

ラグナ(かつての記憶)が忘れる事を恐れているからでもある。

 

「俺を生きながらえさせる物でもある。黒き獣には強い力が備わっててな。それは人だけじゃねえ、木とか草とか、とにかく生きてる全部から命を少しずつ吸ってる」

「そういう事ですか......貴方に近付く度に妖力がほんの少しだけとはいえ吸われていると感じるのはそのためですか」

 

そう文が言い放つと、椛とはたても己の体の......恐らく自分にしかわからないのだろうが、妖力を調べている。

調べ終わった途端に目を見開き、驚いた様子で「無い」と、はたてが言った。それより少し後に椛も「私も少し減っています」と言う。

 

「まあ、俺の右腕の秘密ってのはそういう事だ」

「うーん................でも、これしか吸われないというなら、毎日毎日、それも一年中ベッタリ密着しているぐらいではその吸う力だけで天狗は殺せませんね」

 

そう言うと文が羽根を広げ強く羽ばたいた。

「ほら、まだこんなに元気ですよ」と言いながら続ける。

はたても同じく羽ばたくが、勢いは文と比べて遜色ない。椛も別段体が重いといったことは無い様子だ。

 

「そうですね!これが人なら、まだわからないですけど」

「ラグナさん、良かったですね。友達、続けられますよ」

 

そう言い文が椛、はたてを抱き寄せ、ラグナの裾も掴み、引き寄せた。四人で抱き合う形になった所で、玄関の戸が開いたのか、女性の声が聞こえる。

 

「椛殿〜。文様は来ておられるか?」

「鞍馬さん?上がっていいですよー。文さんも来てます」

「おお、そうだったか。ではお邪魔する」

 

そう言うと玄関の戸を閉めて一人の天狗が居間に来る。

鞍馬、という名前からもラグナの察し通りだった。

 

「テメェ......さっきの奴じゃねえか」

「......貴様、あの赤い奴!何故文様と抱擁を......ど、どけ!」

 

そう言うと、鞍馬は文とラグナを引き剥がしにかかるが、影から現れた手に阻まれて引き寄せられる。

 

「なっ!?」

「ダメですよ、鞍馬。彼はもう私の友達なんですから」

「と、友達!?...........そういう事ならば」

 

文のその言葉を聞いた鞍馬は、渋々ラグナの手を離した。ラグナもその言葉で鞍馬への敵対心を解いたのだろうか、鞍馬への視線も優しくなっていった。

 

「鞍馬、テメェも文の友達なのか?」

「私と文様はその様な浅ましい関係ではない。ですよね?」

「そ。私たちはラグナも含めて親友です」

 

『ラグナも含めて』。

鞍馬がその一言に少し頬を膨らませたのをラグナは見逃さない。途端に不機嫌になっていきそうな雰囲気を察知し、鞍馬のフォローへと回った。

依然と比べて随分と気が利く様になったと自負している。

 

「ま........まあ、俺は今日友達になったばかりだったしさ。一番は前から友達だったお前ら三人だろうぜ」

 

と、ラグナが気の利かせた言葉を投げかけると、鞍馬の表情が明らかに勝ち誇った顔になる。

 

「ふっ、まあそうであろうな。私は文様の親友だからな!えっと、そこのラグナとやらに負けなどせんよ」

 

(めんどくせぇ......)とラグナが考えていると文から天の一言とでも言うべき言葉が舞い降りた。

 

「まあまあ、鞍馬。親友なら仲良くすべきですよ」

「むっ......文様がそう仰られるなら......よ、よろしく」

 

そう鞍馬が言うと、手を差し伸べてくる。

握手する事でとりあえず友達だということにしたいのか。その手を見て、鞍馬の目を見てみる。視線を合わせようとしない。恥ずかしがっているのは目に見えた。

仕方ないので、ラグナも一枚噛む事にした。

 

「...........まあ、こちらこそ」

「おめでと、鞍馬!」

 

 

 

 

 

晴れて天狗達の親友となったラグナだが、肝心な事を知らされていない。すなわち、妖怪達の暮らしである。

 

「それなら良い場所がありますよ。私の家から三件先に、とある家があってですね、今は無人です。どうです?そこに住んでみては?歓迎しますよ、ラグナさん」

 

と、文に誘われたのでその提案を快諾した。

曰く、そこの天狗は十余年も前に何かしらの原因で死んでしまい、今は誰も住んでいないそうだ。

では、今後はその家で過ごす事にしよう。

そう決めてラグナはそこに案内するよう頼んだ。これからしばらくはその家を掃除する時間となるようだ。

向こうでは縁がなかった友達という言葉の響きが少しばかり歯がゆかったものの、ラグナはすこし微笑んでいた。

 

 

 




主要な天狗の紹介と一部過去説明

射命丸文
天狗だけでなく人ともよく付き合う天狗。
自費で新聞を書き、それを出版しているらしい。尚、文快く思わないのは、別の新聞を発行する、言わばライバル。商売敵のような存在。
義母上と呼ぶように、天魔とは強い縁で結ばれている。
源義経に剣を教えたという鞍馬大天狗を真っ向勝負で打ち破った事からも剣の実力は間違いなく上の上と言える。
文の恐ろしい所は、どんななまくらだろうと扱いこなし、文字通り妖刀を握るかの様な切れ味を見せる事だ。


姫海棠はたて
文の商売敵でありながら文の事を敵視しない天狗。
種族として文と同じ鴉天狗であり、その衣服は紫を基調とした珍しい色のシャツを来ているようで、その意匠は文の物ともある程度だが似ている。
風を操る能力を持つ文と比べると、どうもその力に劣る。だが、妖力の扱い方は文よりも今日に扱える。その為か、天狗の知人の中でも一目置かれる存在である。仲良し四人の中では唯一剣を使えないのだが、本人はそれを気にする様子は無い。
実は文より写真写りが良いのが自慢。
河童達とよくつるんでいる。


犬走椛
天狗達の中では飛べないものの、剣術に長ける天狗。
文の事を友達と呼びながらも慕っている。その見た目からもわかる通り、白狼天狗と呼ばれる種族である。
天狗社会では最も位の低い天狗だと言われているが、妖怪の山に住む天狗達には階級などはなく、ある意味で実力社会であるこの地を気に入っている。
腰に提げた刀は本来の日本刀の形ではなく、西洋から伝わったファルシオンを元に天狗の鍛冶が特別に鍛えた業物。切れ味と重さから繰り出される彼女の剣術は非常に実戦的である。妖怪が鍛えた剣は決して刃こぼれしないという伝説を信じるならば、彼女の持つ剣は間違いなく最強の刀、最上大業物の一つとして数えられるだろう。
また、彼女の剣術は盾も使うものであり、その点からも彼女が西洋の剣を学んでいる事がわかる。


鞍馬
とても尊大な態度と口振りを見せる天狗。
かつては剣術に長けた伝説の天狗として名を馳せたが、全力を出してなお文に敗れた為、彼女を好敵手と認め、剣を極める為に文と幾度となく戦ったそう。
後に剣を捨て、当時の妖怪の山に住み着いた。
天魔に絶対的な忠誠を誓っており、敵対する者は誰だろうと決して容赦しない。常に槍を持たされているが、得意ではない上に扱いが雑。
主が真の危機を迎えたと感じた時は腰に提げた刀を抜く。
この刀は世に知られぬ霊刀・楔一文字という名であり、かつて剣に全てを捧げた鞍馬が絶対に離さない業物。


天魔
妖怪の山の中、天狗の集落を治め、天狗たちを統べる。
かつて第六天魔王を自称していたが、年老いた事で退屈になってしまい、名を捨て、天狗として改めて第二の生を過ごすべく、現在の妖怪の山に移住した。
天狗という種族ではあるが、それ以前に天魔は一角の鬼でもある。その為、天狗でありながら鬼の力と酒への強さを持っている。一度鬼と天狗の飲み比べ大会が実施された時は、鬼達全てを抜いて天魔が一位となった事もある。
あまり使わないが、弓術と剣術に精通している。
かつて人間の剣豪と対峙し、三日三晩の激戦の末に敗れ、その時持っていた業物の刀をその人間に託したことは酒の席で何度も聞かされてうんざりしている天狗も多い。



次回予告

場所は変わって冥界。
西行寺幽々子の従者、魂魄妖夢が、
瞑想中に脳に浮かんだ像とは。

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