死神幻想奇譚   作:16

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ラグナ=ザ=ブラッドエッジ編
第一話 死神と幻想入り


最初に違和感を感じたのは澄んだ空気を吸った時だ。次に感じたのは右腕と右目の自由が効かなくなった時。三回目は、ここは日本だと知った時。

 

「ハア!?ここが日本だ!?」

「で、ですからそう言っているじゃないですか!」

 

赤いジャケットに巨大な刃物の様なもの、そして何よりも目立つ、日本人にとっては珍しい白髪。それも若い男の。

男は、自分が日本にいる事が全く信じられない様だった。

だがここは日本である。胸倉を掴まれた男の言う通り。

 

「.....信じらんねー。本当に日本なのか、ここ」

「だからここは日本です!...ああもう!俺には仕事があるんだよ!もういいだろ!?」

 

男に向かって怒鳴った彼は走っていってしまった。一方、白髪の男は未だに信じきっていないようだ。

 

「おかしいだろ、ここが日本だとしたら.....

魔素も感じねえ。そもそも人が住める環境じゃねえ」

 

魔素。それは、ここでは白髪の男だけが知っている言葉。

少なくとも日本人はおろか世界中の人間を集めたとして、そんな言葉に心当たりがある筈もない。現実では。

 

ここがどこか知らない白髪の彼は歩き始める。少なくとも、彼の知る日本では無かったのだろう。

街を散策していた時に、開いている店を見つけた。そこは飲食店のようで、今が昼時という事も相まって客足もそこそこに営業している様子だった。

 

「聞きたい事があるんだが」

 

急に入ってきた珍しい見た目の男に、店内の客達は驚く。食事を続けるものもいたが、殆どは支払いを終わらせて帰っていったようだったが、彼には関係ない。

 

「どうしました?」

 

店を営んでいる老夫婦が彼に微笑みつつ訊ねる。

 

「俺は外国からやってきたんだが、この金は使えるか?」

そういって男は、赤ジャケットのポケットの中から小銭や紙幣を取り出した。それは一見すると日本円のようにも見えるが、彼らに馴染み深い偉人達の肖像は無く、代わりに『P$(プラチナダラー)』と印刷された紙幣をカウンターに置いた。

 

「あら、こりゃまた珍しい。私は見た事がないですねぇ」

 

老婆が答え、なんだなんだと厨房から姿を見せた爺も同じように頷く。それを聞いて男は頭を掻きむしる。

 

「マジかよ...腹減ってるってのによ.......」

 

そう言っている時も白髪の男の腹の音は鳴り止まない。見かねた老夫婦は助け舟を出した。

 

「一杯だけだけど、タダでご馳走しますよ」

「本当か、バアさん!助かったぜ!」

 

男は口角を上げ、笑う。長く生きてきた老夫婦には、それが子供の作る笑顔のように見えた。

 

「ご注文は?」

「天玉うどん、一つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはーっ!腹一杯だ!」

「それは良かった、美味しそうに食べてくれてありがとう」

 

心地よい食いっぷりを見せつけた男は、しかし申し訳なさそうに老夫婦にこう告げた。

 

「バアさん、さすがにタダ飯は不味いだろ?なんか手伝える事があったら俺に言ってくれよ。飯の礼はするぜ」

「いいのよ、それぐらい。また来てくれると嬉しいけどね」

 

言葉に甘えて老夫婦に感謝を告げた後、また来る事を約束して店を後にした。一度店を出たあと、道行く人々の奇異の視線に晒される男は、その視線を嫌い路地裏に隠れた。

 

「しかし、どうしたもんか.....こういう変なのはだいたいウサギの奴が関わってる筈なんだが、今回に限って出てきやがらねぇ」

 

独り言をブツブツ言っていると、白髪の男はあるものに気がついた。路地裏の更に奥。まだ手の入っていないだろう森林。自然に体が動く。腹が満たされた事で割と行動的になっているのか、好奇心の誘うままに歩を進める。

 

その森を囲うようにフェンスが設置されており、そこには『立ち入り禁止』の文字がインプットされていた。

しかし譲らない。男は腰に提げた剣を持ち、振り上げる。

 

「フンッ!」

 

力任せの一撃は、フェンスなどいとも容易く粉々にする。遮るものが無くなったことで、彼の歩みを止める事が出来るものはひとりとしていなくなってしまった。

それは、都会の中に佇む自然とて同じ事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようこそ『全てを受け入れる楽園』へ。

死神の耳にそう声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

散々に歩き回った。よく考えてもみれば、森に入る理由などひとつもありはしなかった。自分の意味不明な行動を呪いつつも、元来た場所を戻る事にした。

 

「っかしーな...」

 

自慢じゃないが森の中で生活していた事もあり、自然への造詣は深い。多少迷う事もあるが、そこは経験でカバー出来る。例えば特徴的な木々や生えている草の種類の並び、果てには踏み抜いた枝でさえ、道を辿る為に参考にできる程には山マスターである。

 

そんな彼が道に迷っている。どういう事か。

無論行く時と帰る時で風景が違って見える事も完全に考慮した結果、ここは元来た道ではないと判断できた。

 

「ここ、元の場所じゃねー。一体どこだ...?」

 

そう思慮していると、不意に草の揺れる音が聞こえた。

咄嗟に振り向くがそこには何もいない。例え自然の動物だったとしても不意打ちされると危険だ。

警戒を強めつつもその付近に近づく。万が一、危険な存在だった場合はその相手を排除する為だ。

 

「?.....何もいねぇ.......とでも言うと思ったかよ!」

 

咄嗟に左腕で腰の大剣を握り、高く跳躍して振り上げる。木々の間に隠れた何者かに攻撃が命中し、血を浴びる。

 

ボトリ。落ちてきたのは見たことの無い生き物だった。いや、正確には見た事があるが、これほど()()()ムカデを彼は全くもって見た事がなかった。

 

「.....っげえ、気持ちわりーぜ.....ったく気色悪ぃ」

 

死ぬ程巨大な蟲を見て気分が悪くなった『死神』は悪態をついて森の中を歩いていった。

 

 

 

 

暫く歩くと、ふと違和感が取り払われた事に気がついた。

 

「お...おぉ?右目が見えるぞ!腕も動く.....なんでだ...?」

 

先程まで振るうことも出来なかった右腕に自由が戻った。右目も見えるようになった事で完全復活を果たした。

 

「...っかし、このまま森を歩いててもな.....ん?」

 

視界の奥に映るのは森の中にひっそりと佇む館。一見不気味に見える館だが、人が住んでいる様に見える。

 

「.....チッ、おっかねぇな、マジで」

 

おっかなびっくりで館を訪れた男。ドアをノックする。

はーい、という声によって人が住んでいる事が証明され、男は内心で安心し、ため息をついた。

しばらくするとドアが開き、中から若い女性が、彼の知らない名前を言いながら話しかけてきた。

 

「魔理沙、意外と早かったの...ね.......え?」

「あ?」

 

金髪の女性は目の前の男を見た途端顔を引き攣らせる。

 

「え.....えっと、どなたですか」

「いや、俺はここを通りがかったモンだ。

すまねえが、ここがどこだか教えて欲しいんだけどよ」

 

女性は無言でしばらく俯き、何かを思慮している様子だ。さすがに黙られると居心地も悪くなってしまう。

話す事を考えているだけかもしれないし、話しかけて___

 

「...上海ッ!」

 

女性は後ろへ飛び退き、人差し指を動かしている。

まるで糸を繰るかのような動きは一瞬で、次に男が感じ取ったのは明確な殺意。それも後ろからである。

 

「...どわっ!?クソッ、危ねぇな!.........人形!?」

 

攻撃してきた主は小さな人形『上海』だった。人形は男のすぐ真横を薙ぎ払い、距離を離して翻った。

 

「まさかテメェも『咎追い』の一人か!?」

「咎追い!?私はそんな者じゃあないわ!」

 

そうするとなると彼女が彼を狙う道理はないのだが...そういえば、相手は青を基調とした服に身を包んでいる。金髪と青い服は、とある少女を彷彿とさせた。

ある一つの考えが脳裏をよぎり、そのままを口に出す。

 

「だったらよ、テメェは図書館の衛士か?」

「と、図書館?衛士?そんな役職は知らないけど...」

 

違う。なら敵として戦う意味は無い。

 

「だったら人形に攻撃するのを止める様に言ってくれ。

俺も危害を加えるつもりはねーからよ」

「.....わかったわ。『上海』戻って」

 

そう彼女の口から発せられた後、人形は彼女の家に入っていった。人形使いには二人ほと心当たりがあるが、知る限りあれ程小型の人形ではなかった。

 

「ごめんなさい、そんな格好見ないから、妖怪だと...」

「...で、教えてくれねーか?」

「...え?何を教えればいいのかしら」

「だから、さっき言った『ここは何処か』って質問だよ」

 

「あ、ああ。ここはね、『幻想郷(全てを受け入れる楽園)』よ」

 

「『幻想郷(げんそうきょう)』.....」

 

聞いた事も無い。そんな階層都市は無いし、最下層の村々にそのような名前がついていた事も記憶に無い。だったら、本当に、ここに関して彼が解ることはないだろう。

 

「なら、その『幻想郷』について教えてもらえねーか?

俺は...まあ、旅人って奴でよ。勝手がわからねぇ」

 

「旅人......ええ、いいわ。入ってきて」

 

旅人という単語に反応したように見えたが、家の中に入る様に勧めてから、彼女も家に入っていった。

 

「んじゃ、お邪魔すんぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

席に着くと、女性は飲み物を運んできた。中は紅茶のようで、甘い匂いが部屋を満たす。

 

「ありがとよ」

 

そう言って、喉の渇きを潤すように紅茶を飲む。

『ウサギ』に言われた事を思い出して口を遠ざけ、紅茶の匂いを嗅ぐ。甘い匂いが鼻腔をくすぐり、そのまま飲む。

 

「紅茶に関しては余り造詣が深いわけではないのだけど、楽しめてくれているようで良かったわ」

「おう、美味かったぜ。それじゃ、そろそろ教えてくれ」

 

そう頼むと、彼女は幻想郷について教えてくれた。

 

「ここはさっきも言った通り『幻想郷』。貴方、自分の事を旅人って言っていたわよね?驚くのも無理は無いかもしれないけれど、ここには『妖怪』が住むの。妖怪は、人よりもずっと強い生き物。見かけても近寄っちゃダメよ。中には友好的な妖怪もいるけれどね」

 

「へえ...妖怪ねぇ.......」

 

妖怪。そんな存在がいるなど、と考えるかもしれないが、彼はその存在を否定出来ずにいた。喋る猫と知り合いなのだから無理もない。

と考えていると、彼女は不機嫌そうに訊ねた。

 

「で、そろそろ自己紹介してくれてもいいんじゃない?」

 

そう、名前を聞いているのである。そう言われて初めて気がついた。そういえば、名乗っていなかったな、と。

 

「俺はラグナだ」

 

「『アリス=マーガトロイド』よ。よろしく」

 

彼.....もとい、ラグナ=ザ=ブラッドエッジはアリスと名乗る女性を見てこう訊ねた。

 

「あんた、人形遣いなんだよな?

『クローバー』って名を知ってたりするか?」

 

「クローバー?いいえ、知らないわね...」

 

いよいよもって関係ない事を確認できたラグナは、あまり長く居るのも悪いと考えた。

 

「世話んなって悪ぃんだけどよ、俺そろそろ行くわ」

 

それを聞いたアリスは身を見開く。驚いていた。

 

「行く...って、ここは魔法の森よ?人間が歩くには危険すぎるわ。私が麓まで案内するわ、ついて来て」

「あ、ああ...わかったよ」

 

どれだけ危険なのか想像がつかないが、ラグナにとって大抵の敵は問題なく処理できる自信があるのだが...

そう言って家を出るアリス。それについて行くラグナ。

 

「これからどこに行くんだ?」

「今から人が住む場所に行くわ。降りてしばらくは平原が続くのだけれど、道を進んでいくと町があるの。

名前も無いし、『人里』と呼んでいるのだけどね」

 

町か...そう考えるラグナ。

彼は『世界虚空情報統制機構』、略して『統制機構』に反逆する『SS級最重要反逆者』である。

『町』にはそういった輩の支部があるのであまり寄りたくないのだが、親切心で案内してくれている様子も相まって、気を遣ってしまって言い出せずにいた。

 

暫くすると森を抜ける。そこには広大に広がる大地と、その丁度中央、窪んだ地の中央部に位置する町が目に入る。

 

「あれが『町』か?」

「そ。もういいわね?人を待たせているかも知れないし」

「おう!ありがとな、アリス」

「じゃあ、縁があればまたね」

 

一見すると階層都市のどこかには到底見えない。ラグナは現在地の謎を解くため歩き始めた。

 

 

 

 

 

 





次回予告

『町』へと向かうラグナ。
住む場所も持たない、貨幣も持たない彼が、
『町』でどう活動するのか。

今後の展開について

  • 他キャラとの絡みによるギャグ路線
  • 他キャラとの絡みによるシリアス路線
  • 既登場キャラとの絡みによるギャグ路線
  • 既登場キャラとの絡みによるシリアス路線
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