死神幻想奇譚   作:16

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前回のあらすじ

人里を出た後、大量に現れた妖狼の群れに襲われたラグナ。
狼の大群の前に危機が迫ったが、何処からか着いて来ていた妖怪少女『古明地こいし』に命を救われる。
ラグナはこいしと共に妖怪の山を目指す。

到着した時、妖怪の山は天狗と妖狼の二勢力との争いで敵味方入り交じっての大混戦の様相を呈していた。
世話になった恩もあって天狗に手を貸し、狼を斬りながらこいしと共に天狗達の首魁『天魔』の元へ向かう。
一方、天魔の社がある『天狗街中央広場』では、数多の妖狼に対し天狗はたった六人で応戦していた。


第十一話 一難去ってまた一難

ラグナとこいしが狼達を屠り終えた頃には、妖怪の山の山道は数え切れない程の妖狼の躯と血液に覆われていた。天狗達にも少なからず犠牲者が出たのだろう、最初に戦っていた天狗の数と生き残った数は一致しなかった。

生き残った天狗の一人がラグナの元に駆け寄ってくる。

 

「ラグナさん!来てくださったんですね!」

「一体どういうことなんだ、これ。妖怪の山の主勢力は天狗であって、あいつら狼じゃねぇ筈だろ?」

「それが...話せば長くなるのですが、よろしいですか?」

 

その言葉にコクリとラグナが頷くと、天狗は一呼吸置いて話し始めた。彼女の日常から始まって、非日常へ移っていったその経緯を。

 

「最初は山の巡回任務中でした。狼さんが見えたので、いつものように挨拶したんですよ。普段は返してくれる者もいたのですが、今日は一匹も返してくれなかったんです。この時点で疑うべきでした...........。そのまま帰投して、他の同僚と交代したんです。暫く友達と将棋を打っていたら外から声が聞こえて、慌てて飛び出してみれば、そこら一面血と狼とで溢れていたんです。私達も応戦していたんですが、あの状況は多勢に無勢と言うべきでした。私たち一人一人は千疋狼に負けるはず無いんですが、今日はどうにも調子が悪かったんです。一人また一人と倒れていって...........。気付けば私だけしか居なくて敵も味方も皆死んでいたので、今私達がいる広場で別の隊と合流して、戦っていました。そこからはラグナさんが来たので何とかなりました。本当にありがとうございます」

 

所々で止めつつも全てを話し終えた白狼天狗の彼女は、ふぅと息を吐いた。それは顔見知りがいて安心した様な面持ちだとラグナは見た。

 

「そうか...........アヤ達は無事なのか?ハタテは?あいつは確か戦えねぇはずだったと思うんだけどよ」

「文様は......わかりませんが、あの方なら狼程度に後れを取ることはないでしょう。はたてさんの様な非戦闘員は天魔様のおられる御社で守りを固めていたはずです。案内は必要ですか?」

「いや、いい。お前は他の天狗を助けてやれ」

 

そう言うと、その白狼天狗はコクリと頷いてラグナに背を向けて走り出した。その手に握られた刀には多量の血がべっとりとこびりついており、先程まで彼女がいた戦場が凄惨であった事が伺えた。

山の上からはまだ鬨の声が上がっているのが聞こえる。

 

「コイシ、いるか?」

「はーい」

「うおっ......お前はあの天狗について行ってくれねえか?俺は仲間を助けに行く」

「えー?」

「我儘言うんじゃねえ。お前だから頼めるんだ。いいな?」

「......わかった。大切なペットのお願いだからね!」

 

そう言ってこいしはふわりと宙に浮き、木々の奥に消えていった白狼天狗を追っていった。

 

「さってと...........俺も行くか」

 

ラグナも息を深く吐いて少しの間肩の力を抜いていたが、やがて血塗れの山道を見据えて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、数多の狼を前に一歩も退かない壮絶な戦いが椛と鞍馬が立ち戦う戦場を支配していた。軽口を叩いていた二人も数を前にして話す余裕が潰え、無言で敵を見据えて剣を振るっている。

やがて痺れを切らしたかのように鞍馬が叫んだ。

 

「椛殿!無事か!?」

「こっちは大丈夫!そちらは!?」

「変わらん!」

 

時折、相方の無事を確認してからすぐに戦闘に集中し直す。鞍馬の少し離れた場所で、椛が盾と剣を器用に使って相手を確実に葬っていく。既に二人とも殺した数は百を超えそうな所だった。

 

『クッ!この数で囲っておるというのに!化け物め......』

「甘いわ!私が鬼と相対した時はこの様なぬるさではなかったぞ!数にものを言わせる時点で貴様らの負けだ!」

『減らず口を!誰ぞ、その生意気な鴉を討ち取れ!』

 

焦っているのか、鞍馬の軽い煽り口にも誘われて、椛の方に向かう敵が少なくなった。その隙を突いて椛が力の限り暴れれば、そちらに注意が向いた妖狼を今度は鞍馬が斬り捨てていく。極まった実力と互いを守ろうとする意志によって、この二対多は成り立っていた。

 

互いが刃と牙をかち合わせていた時、突然空が暗くなり、辺りが怪しい光に蝕まれる。それを肌で感じとった両名は立ち止まり、その光の現れた場所を見やる。

 

『お......おお......!あの方が参られた!お前達、この戦い勝て───ガッ!?』

『ごちゃごちゃうるせぇっての、クソ犬』

 

光の影から現れたその体は瞬く間に指揮を取っていた人狼を暗い色の刃で刺し殺す。その光景を見た椛と鞍馬、そして配下の妖狼は戸惑った。

 

「なんだ、あのドス黒い気配は......っ!?」

「鞍馬さん!私達では手に負えません!引きましょう!」

 

狼が呆気に取られているうちに踵を返して全力で飛び、走る蔵馬と椛。それに気が付く事なく、妖狼達は急に司令塔が失われた事による混乱で自身がどう動くべきかわからず、やがて一匹の妖狼の叫びでバラバラに逃げていった。

 

『おいおい、何処に逃げようとしてんだ鴉共?俺様を見ろ......そして恐怖しろ!』

 

そう言いながら、あの体は手から何か深緑色の鎖とも縄とも形容しがたい物を伸ばして妖狼達を裂き、切り刻んでいく。その様子を後ろ目に見た二人はその様子に無限の悍ましさを感じ、その残虐さに恐れを抱いた。

 

 

 

 

そして、気配は一層濃くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなんだ、ありゃ......まるで()()()みてぇな嫌な感じがしやがる......アヤ、無事でいろよ......!」

 

呟きながら全力で山道を駆け上っていくラグナ。その額には大粒の汗が垂れていて、走ってから既に数十分は経っていただろう事が伺えた。

ラグナが道順通りに進んでいると、ふと地響きがなる。見れば、正面から何かが雪崩てきていた。身構えてよく見えるのを待てば、それらは波のように迫り来る妖狼の群れだった。

 

「チッ、まだ戦い足りねぇってのか!?」

 

そう言って剣を構えて腰を落とし、臨戦の構えを整えた。来る、と思って剣を振ろうとするが、こちらに襲いかかろうとしないのか脇目も振らずにラグナの脇を通り過ぎていく。呆気に取られていた時、狼の一匹が他の群れに叫び呼びかけたのか、その声がラグナの耳にも届いた。

 

『お前達も逃げろ!武疾須佐之男命(タケハヤスサノオノミコト)様が来る!』

「武疾スサノオ...........まさか!」

 

聞いたことのある呼び名にラグナの顔が青ざめていく。そして青は怒りの赤へと代わっていく。忘れもしない、あの時の記憶が呼び起こされる。ラグナから一度全てを奪った男の顔が脳裏をよぎった。

 

「................クソッ....!」

 

ラグナはもう一度剣を仕舞って全力で走り続けた。

 

 

 

 

 

 

場面は変わって、天狗街中央広場。

あまりにも場違いすぎる程の強力無比な力を持つ()()を前に退いた鞍馬、椛の代わりに戦線に出てきたのは、なんと彼女達が守る筈の天狗達の首魁『天魔』だった。天魔の後方から、彼女を呼び止める声が聞こえてくる。

 

「天魔様!危険です、おやめ下さい!」

「私も共に行かせてください!天魔様!」

 

そんな彼女に当てられた声を、腕を挙げて止める。

 

「安心しなさいな。儂だって力は衰えても天狗の神さ。あんな破壊者にだって抵抗くらいは出来よう」

『おお?ザコの中にもちょっとは良さそうな奴がいんじゃねえか。よう、元気そうだな、クソガラス』

「久しいな『武神(タケガミ)』。お前が一番強かったあの時に比べりゃあ随分と矮小でちっぽけな『形』になってしまったなぁ。仲間として儂は情けなく思うよ」

『うるっせぇ。テメェも弱くなってんのは変わらねぇだろうが?あん時と同じ目に会わせてやろうかぁ?』

 

深緑色の気を身に纏う『武神』と天魔が睨み合う。

 

「鞍馬殿......あんなに怒る天魔様を見た事がありますか」

「..........あの方の凄まじい怒りを感じたのは初めてだ」

 

天魔の背からは、まるで空を覆うような錯覚を受けるほど巨大で荘厳な黒い羽根が伸びている。その羽根は風に吹かれて靡いており、時折落ちてくる葉を鋭く裂いた。

 

『おいおい、そんな怒ってんなよクソガラス。俺様とテメェでちょいと手を組もうって言ってんだよ』

「はっ。果たして組む手があるのか、お前さんに」

『うるせぇぞクソガラス、テメェは黙って俺の言う事を聞いてりゃいいんだよ』

「......まあ、昔の喧嘩仲間の好だ。話くらいは聞いてやる」

 

そう言うと天魔は羽根を収める。それと一緒に武神も周囲に散らばっていた黒い気配を抑える。

 

『で、ちょっとやって貰いてぇことがあんだよ』

「......なんだ?」

 

聞くと、武神はなんとも恐ろしい提案を天魔に話し始めた。

 

 

『まず俺様の器『須佐之男(スサノオ)』の回収。んで、次が一番大切だ。─────山の神を殺せ』

「やはりお前と我らは相容れん!『轟破風神』!」

『ま、最初から期待なんてしてねぇよ!『大蛇滅殺』!』

 

二人の技が激しくぶつかり合った。武神の一太刀から発する台風の如き無数の斬撃と、天魔の掌から敵を潰さんとばかりに吹き出される刃と化した風。あまりにも強力な攻撃と攻撃のぶつかり合いに、大地は激しく揺れ木々は吹き飛び、地面は抉れていく。

 

「衰えているというのは本当かな、この様子じゃあ......ッ!」

『俺様だって殺せりゃとっくにテメェを殺してるわ!』

 

二人が話している間、天魔に仕える天狗たちは固まったままだった。今までの天魔からは考えられない程の力と怒りを感じていると言うのに、あの『武神』とかいう奴はまったく引けを取らない......それどころか、少しずつ天魔を押している。その力に恐怖した天狗達の刀を持った腕は震え、抜き身の刃がカタカタと震えていた。

 

『テメェの可愛い可愛いザコ共の恐怖を、感じるぜぇ天魔ちゃんよォ!これだよ、この感じ!俺様を恐れ、崇めるこの感触!たまんねぇぜ......!』

 

そう言いながら武神が身を震わせるとその力強さはより一層大きくなり、既に天魔の力を持ってしても抑えられるか、という次元にまで到達してしまっていた。

 

「チッ......!お前達!奴を恐れるな!奴の力の源はお前達から感じる恐怖だ!お前達は強い!そう思い込め!」

 

しかし、その言葉に呼応したのは僅かに数名。他の天狗は皆、未知の存在に恐怖してしまっていた。

 

「(......くそ、奴の影響下じゃ恐れない方が無茶か!)」

 

少し考えて、天魔は武神から離れた。

 

『どうしたよ。俺様に『恐れ』をなしちまったのかぁ?』

「......クッ!」

 

天魔でさえ重たいプレッシャーに一瞬怯んでしまう。さてどうしたものかと悩んでいると広場の奥、麓から続く山道に赤い何かが見えた。腰の後ろには血に染った鋭い大剣が、走ってくるそれに揺られている。そしてそこまで認識してようやく赤い何かの正体がわかった。

 

「......ラグナ!?」

「『ヘルズファング』!」

『───おおっと、危ねぇな!』

 

出会い頭に全力の一撃をぶつけんとばかりに拳を突き出したラグナ。当たりはしなかったが、武神を天魔から引き離す事には成功した。そのまま武神を睨みつける。

 

「なんでてめぇがここにいやがる......テルミ!」

『テルミだと?はぁ、何言ってんの?俺様は武疾須佐之男!そんなヘンテコな名前じゃねえよなぁ!!』

「何言ってやがる!......てめぇは俺がもう一度殺す!」

 

そう言ってラグナは右腕をもう片方の腕で抑える。その瞬間から、ラグナの周りでは不吉な色合いの瘴気が辺りを漂い始める。天満はその謂れもない力に固唾を飲んだ。

 

「本気で行くぞ......『ブラッドカインイデア』!」

 

『おーおーおーおー、張り切っちゃって。何分持つかな?いや................ククッ......何『秒』か!ヒャハハッ!』

「チッ、いつもいつも気分が悪くなる話し方しやがる!」

 

「ラグナ!儂も微力ながら手を貸すぞ!」

 

ラグナに向かって手をかざす天魔。すると、天魔の僅かながらも強大な力が、ラグナの辺りを包み込んだのを感じる。妖力を使って障壁を作り上げたのだ。

 

「そう言って、無理すんじゃねぇぞ!」

「儂を誰だと思って───っぐうっ!」

 

彼を心配させまいと吐いた嘘は直ぐに露呈してしまう。そのまま申し訳なさげに天魔は前線から身を引いた。それと同じタイミングで何かが羽ばたく音が聞こえる。

 

「鴉羽......。まさか......文か!?」

「アヤ!?こっちに来てんのか!」

 

上を見上げると、太陽とちょうど重なるように黒い物体が飛んでいる。逆光で姿が上手く見えないが、その黒羽根が文であると直感させる。文は暫く空を飛んでいたが、数秒の内に急降下して、ラグナと天魔の前に着地した。

 

「待たせましたか、すみません。敵を斬るのに夢中で」

 

そう言われれば、文の右手に持つ刀には血がこびりついている。それも仕方ないのかもしれない。聞けば、今の今まで他の天狗を助けて回っていたというのだ。しかし、服には一点の汚れもない。彼女の素早い身のこなしが服に血が着かないように立ち回るという事を成させているのだ。

 

「テルミに近付くな!アイツは今、誰にも殺せねぇ!」

「......どういう事ですか?」

 

「あん時は幾つもの()()が重なってようやくアイツを殺せた。でも今はそれがねぇ。倒す事は出来ても()()()()んだ!」

 

「ッ......そんな馬鹿な事がありますか......!」

 

ラグナが、どうして武神を殺せないのかを説明する。それを聞いた天魔は疑問を抱いた。

 

(こやつ......()()()()ておる...........彼奴の神として持つ秘密を、なぜこやつは知っておるのだ?それに()()とはなんだ?如何様な奇跡があって武神を殺せたというのだ?)

 

もはや力を出し尽くして動けない天魔の思考に答えを教える者はいない。そこにいたのは、神と神に対する二人の英雄だった。ラグナが剣を握って突っ込む。それを武神は迎撃しようと深緑の鎖をラグナに撃ち込む。が、それを風で防いだのは文だった。文の持つ団扇で風を巻き起こし、天魔の妖力障壁と相まって鎖を寄せ付けなかった。

 

「テルミィィィィィィ!」

『チィッ!ザコがいきがってんじゃねえよ!』

 

ラグナが二度剣を叩きつけ、それを武神は鎖で容易くいなす。金属の打ち合う音とも違う、頭に重く響く悍ましさを感じる重音が聞こえるもの達の耳を劈く。

 

「テメェはもう一度俺が殺す!」

『ザコが、死ね!『断チ斬ル閃刃』!』

 

武神が低く腰を落とす。手を握るとそこから黒い剣のようなものが象られ、それを使い潰すかのような豪快さを持ってラグナに叩きつける。攻撃しようとしていたラグナはとっさの防御に間に合わず、振り下ろそうとしていた剣を盾代わりに使う事で何とか被害を最小限に留めた。しかし、それでもラグナへのダメージが大きく、吹き飛ばされて地面に叩きつけられた事もあって肺に空気が行かず、上手く息を吸えなかった。

 

「カハッ......!」

『ヒャハハハァッ!どうしたザコが!俺を殺すんじゃねぇのか!?ああ?...........身の程を弁えよ』

 

息も整わないまま唐突に変わった口調にラグナは驚いた。それは、確かにかつて神という存在に感じた恐怖を携えており、同時にテルミが器とするスサノオから感じる怒りさえ纏っていた。

 

『『討チ狂ウ鬼神ノ──』───っと危ねぇ!』

「ラグナさん!起きて!時間を稼ぐんですよ!」

 

武神の攻撃を文がその力で牽制する。武神とラグナの間に立ち、全力で風を巻き起こす。同時に炎も呼び出し、火と風で武神をそれ以上寄せ付けなかった。

 

「......クッ、ウグゥ......くそ、強え......」

 

ラグナが呻きながら起き上がり、悪態をつく。

 

「(......聞こえる、ラグナ?)」

「まさかハタテか!?無事だったのか!」

 

声が頭に響いた。聞いた事のある声の主は姫街道はたてだった。はたてはラグナに一つだけ、役割を伝える。

 

「(聞いて、時間が無いの。私達の『事象の具現化』の力を使ってアイツを封印する。時間稼ぎ、頼める?)」

「上等!俺がテルミを抑えとく!頼むぜ!」

 

そう言ってラグナはもう一度駆け出す。走りながら右手を掲げ、文言を唱え力を込める。そうすると手袋に着いていた装飾はその殻を開く。そこから大量の瘴気が溢れ出した。

 

「イデア機関接続!ブレイブルー起動!」

『チッ......少し面倒だな』

 

武神がラグナから距離を取り、腕をかざす。すると掌から鋭い針のような弾丸がラグナに飛んでいく。それを剣で弾き飛ばし、更に距離を詰める。武神に近付くと、微動だにしなかった筈の武神の表情が僅かに曇った。

 

『クソが!寄んじゃねぇ!』

「無駄だ!『カーネージシザー』!」

『ぐっ!───ぐおおあっ!?』

 

剣で叩きつけ、バウンドした敵を吹き飛ばす。長いことこの技を愛用してきた為に動きもとても洗練され、より一層その凶悪さを発揮する。名に殺戮と付く通りの力を見せつけ、武神の胴を鋭く斬りつける。

 

「どうした、立てよ。俺はザコなんじゃねぇのか?」

『調子乗ってんなよ!このザコがああああああああっ!!』

 

武神が凄まじいスピードの猛連撃を繰り出す。それに剣戟を載せて受け流す事でなんとか対応する。それでもその一撃は重く、ラグナは体幹を崩しそうになっていた。

 

 

 

「(避けてラグナ!)」

 

準備が終わったのか、はたての声がラグナの頭に響く。それを聞いてラグナは走って離れようとしたが、武神が目の前に迫って来ている。このままでは武神諸共封印されてしまう。

 

『テメェだけは俺が殺す!』

「離れやがれ、このクソ野郎ぉぉーッ!」

 

振りかぶって、剣を投げつけた。

刃は武神に深く突き刺さり、一瞬怯ませることに成功した。そのまま全力で走り去る。武神の呻き声と、ラグナに向けた怨嗟の声が後ろから聞こえてきた。

 

『ぐっ...........てめぇえええええええ!!!』

「させません!......くっ!」

「アヤ!」

 

それでも尚ラグナを殺そうと鎖を伸ばす。それを文が庇い、腕の肉を削がれてしまった。そのまま鎖を引きちぎり、風神の神力を持ってして武神を一つの場所に封じ込める。武神の周りが鋭い閃光に包まれたかと思うと、武神は瞬く間に姿を消した。──いや、消されたのだろう。その証明として穿たれた草地が行なわれた事象干渉の強力さを物語っていた

 

「(具現化......終わったよ)」

 

はたてのその声が聞こえると同時に、文もラグナもその場に座り込む。文が痛そうな呻きを上げたのを見て、ラグナは文の元に駆け寄った。

 

「...........おいアヤ!腕、大丈夫か!?」

「あややや......正直に言いますと凄く痛っ.....いてて......」

 

シャツは切り裂かれ、服の下の柔肉はぱっくりと割れている。鎖の攻撃力の高さが頷けた。風神の力である程度は護られている筈だというのにその守りすら容易く貫通する、その威力には恐れ入るしかなかった。

 

「知ってますか、ラグナさん。妖怪というのはね、外傷にとても強いんですよ。それこそ腕の一本、すぐに生えるでしょう。でもね、痛みというのは全く軽減されません。.......っつー..........今、凄く痛いんですよね......っ」

「わかった......今傷を治せるやつを連れてくる!おい!医者はいねぇのか!?」

 

大声で叫ぶと、社のなかったから数人の鴉天狗が顔をひょこりと出す。そして文の傷の深さを見たのか、ラグナの医者を求める声に一人が応じた。そのあと、すぐさま何名かの鴉天狗が術書を携えて社を飛び出す。

 

「ここに!おい、こっちだ!文殿が傷付いておられる!」

「応!」「文様!」「ご無事ですか!?」

 

飛び出した三人はすぐさまラグナの横に滑り込み、文の容態を確認する。そしてそれを見た天狗のひとりが「拙いぞ」と、口に出した。何がまずいのか聞いてみれば、妖怪というのは外傷に強いが、内からの痛みに弱いのだと言う。所謂、精神的な傷だったり、病だったりと。今回の文のケースでは傷口から入ってくる病が危険だという。

 

「だったら中に運ぶぞ!病気に罹ったらやべえんだろ?なんか平たいやつ持ってこい!乗っけて運ぶぞ!」

 

そのうち三人天狗のひとりが大きな板に布を何重にも巻き付けて即席の担架を作り、ラグナの元に駆け寄った。「旦那、これで運ぼう!」よし、と頑丈さを確かめて、その上に文を乗せる。幸いにも怪我は酷くなかったので治療自体は簡単だった。後は病に気を配るだけだ。

 

 

 

 

 

 

静かになった頃、ラグナは天魔の社の奥に呼ばれた。天魔が佇んでいた上座よりも奥の空間で、茶と団子の置かれた質素な机を囲んでラグナと天魔は向き合っていた。

 

「.............ラグナ。お前さんに二つ、訊ねたい事がある。『彼奴を一度殺した』と言うたな。奴の名は武疾須佐之男命。言ってしまえば、本来儂では相手にもならんはずの大神。...........それを殺す方法は?」

「言葉で説明すんのは難しいな......とにかく、あいつに悪くて俺にとって有利な状況が幾つもあったからとしか」

 

「では二つ目だ。あの神は元々儂らが封じたもの。なぜお主が知っておる?」

「それも良くわかんねぇ。俺が戦った時はアイツは自分で『テルミ』って名乗ってた。でも今のアイツはテルミじゃねぇって言ってやがった........どういう事なんだ?」

 

それを聞き終えた天魔は黙りこくってしまった。考え事をしているのだろうか、煙管をふかしたまま俯き、何やら唸っている。暫くすると天魔が話し出す前に社の扉が開かれ、左腕に包帯を纏った文が姿を現した。

 

「アヤ!もう腕は良いのか?」

「良い訳ないですよ......まだ痛みます。それより今話していたこと、私なら力になれるかも知れません」

「本当か、文?儂でも彼奴をどうすべきかわからぬのだ」

 

そう言うと文はニヤリとほくそ笑む。

 

「『神』という存在は何で成り立っているか、義母様はご存知ですよね?」

「うむ。神は元来『信仰』を経て神になる。崇める対象として大衆から祀られねば、信仰を失った神は廃れ、力を失う。だから山の神は信仰されなくなった『外』を捨ててこの幻想郷にやってきた」

「はい。ラグナさん、あの神が失った物、ありませんか?」

 

そう言ってラグナは過去の記憶を掘り起こす。うんうんと頭を回し、テルミが弱体化した理由を思い出した。

 

「...........そうだ。アイツはスサノオ......つまり人にとって英雄として祀られる存在になった。でもテルミは人の恐怖心を糧にする...........そうかっ!」

 

「そういう事でしょう。スサノオは信仰を失った後、人からの恐怖さえ失った。だからラグナさんに倒せた」

「なるほどな......じゃが、天狗街を壊したのは奴だ。天狗達も皆、神への恐れは打ち消せぬじゃろう」

 

「そこに私の()()()()が来るんですよ」

 

文はウインクして、天魔とラグナの元を後にした。

 

 





『轟破風神』

天魔の強力なディストーションドライブ。敵に掌を向けて、そこから無数の真空刃を作り出して撃ち続ける。
相手の多段ヒット技に対抗出来るのはこの技だけ。


『大蛇滅殺』

正式名称『狂王ノ咆哮大蛇滅殺』。刃を錬成し、相手をひたすら切り刻むスサノオのアストラルヒート。全部が命中した時の総ダメージ量はどのキャラクターをも凌駕し、圧倒的な破壊力を見せつける。


『武疾須佐之男命』
タケハヤスサノオノミコト。あくまで本人はテルミではないと言っていた。天魔曰く幻想郷に長らく封印されていた神。その姿はラグナにとって嫌な意味で縁深い、スサノオユニットを纏ったテルミの姿。肉体は存在していないのか、斬った感触は無いものの、剥き出しの精神体にはダメージは通っていた。
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