死神幻想奇譚   作:16

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あらすじ

ラグナがいた場所は、彼の知らない『日本』だった。
途中、好奇心に釣られて立ち入り禁止の看板が貼られたフェンスを切り開いて森の中に侵入したラグナだったが、森の中で迷ってしまった。
しかし、幸運な事に森の中で一軒の家を見つける。
そこは『アリス=マーガトロイド』という女性の家で、
彼女から、ラグナが迷い込んだ場所は『幻想郷』という
外界から隔絶された地であることを知る。



第二話 死神の軽い運動

「...........濃いな」

 

濃い、とラグナが口走ったのは、恐らく魔素の事だろう。魔素というのはあまりにも濃すぎてしまうと、近くの人間を魔素中毒に陥らせ、最悪死亡させるという。

ラグナのいる幻想郷も、『あの世界』の地上程ではなかったが、充分に濃い。人が生活するのに問題や支障をきたすレベルかもしれなかった。

そんな事を考えていると、平地の向こうに活気づいた街並みが見えてきた。あれが人里なのだろう。

「もうすぐ『人里』に着くな.....ッ、うおッ!?」

 

人里の前で目の前に現れたのは『妖怪』だ。大きい狼の妖怪は牙を向いて襲いかかってくる。

 

「こいつが妖怪...ケッ、あのジジイみてえな外見しやがって。オラ来いよ、相手してやんぜ!!」

 

大剣を握り、ラグナは大狼に向かって挑発する。それに乗せられた狼はラグナに再度牙を向いた。

 

「ガントレット...!」

 

狼の牙と交錯する様に蹴りを繰り出す。獣の牙の如き足が狼の攻撃を相殺し、狼は目の前の獲物の動きが人間離れしている事に驚く。ラグナは続いて二撃目を放つ。

 

「ハーデス!」

 

飛び蹴りに次ぐ飛び蹴り。一撃目は相殺されたが、二撃目を出す事でダメージを与えられた。血で象られた牙が狼の胴を強く打ちつけ、妖怪は大きく吹き飛んだ。

狼が起き上がった時、そこにはラグナの姿は無かった。咄嗟に周囲を見渡すがやはり居ない。そう思っていると、不意に真上から声が聞こえた。跳躍していたのである。

 

「ベリアルエッジ!」

 

剣に体重を乗せて急降下する。その一撃は狼の胴を切り開き、致命傷を与える。この時点で既に瀕死だったが、ラグナは気にも止めずに続けた。

 

「まだ終わりじゃねえぞ...オラァ!」

 

狼の首根っこを掴み、上に投げ飛ばしつつアッパーで追撃する。更に高く吹き飛んだところを、トドメを刺すために飛び上がった。

 

「ブラッドサイズ!」

 

ラグナの、鎌に変形した大剣を強く振り抜いた一撃で狼は地面に叩きつけられて動かなくなった。完全に死んだ事を確認して人里へ歩き始める。道中、同じような狼が襲おうとしてきたが、剣から微かに臭う同胞の血の匂いを感じ取り、敵わない相手だと思ったのか、退散していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構活気付いてんな...」

 

人里の中を覗いた第一印象はそれである。

里とは言うものの、非常に大きな規模の、まさに『町』と呼ぶに相応しい様相だった。

人里は広く、人の往来も多い。何より目につくのは、階層都市カグツチでよく見られた木造の建造物が家のほとんどを占めていた事である。

 

「階層都市じゃねえけど、人は多いんだな」

 

里に足を踏み入れるが、違和感を感じる。誰かに見られている、もとい監視されているような具合である。

一度路地裏に入り込み、術式を展開する。

 

「『迷彩』」

 

かつて行使した術式『迷彩』を展開し、姿を隠す。

術者の生命力を感じる事が出来ないようになる術式で、これを使えば通常の人間が術者の気配を悟る事は無くなる。

 

「ここは飯屋...ここは織物屋...ここは大工.....」

 

自作の地図を作り、詳細が判明した建物を片っ端から書き込んでいく。外周りは殆ど見終えたものの統制機構支部は未だ見つかってはいなかった。

 

「チッ...見つかんねえな.....おっと」

「ん?なんだ?.....気のせいか」

 

人と当たりそうになるが間一髪で避ける。支部が見つからないので外周りには無いと判断し、人混みが激しくなるが中心部へ入っていく事にした。

 

「ここは学校...ここは本屋.....っと、危ねぇ」

 

人を上手く躱しつつ怪しい建物等を探していくが、一向に見つからない。結局今日は収穫無しのまま終わりを告げることとなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『解除』.....どうすっかな」

 

夜になって街道には火によって昏い明かりが灯り、暗き町は灯火によって照らされる。人も少なくなってきていた。

 

一日中歩き回っていた代償と言うべきか、今に至るまで無一文のラグナの腹はひたすらに鳴り続けていた。

 

「しゃあねえ、やっちまうか.....」

 

無銭飲食。それはラグナが幾度か犯した犯罪行為である。

食い逃げ。それは金がないラグナが使う最終手段である。

 

「いや、でもな.....ここ、図書館の奴らはいなさそうだし、

あんまりやるべきじゃねえかもしれねえな...」

「そこの珍しい服装のお兄さん、大丈夫か?」

「.....ん、誰だ?」

 

後ろから声をかけられ、振り返った先にいたのは青と白の髪が目立つ、長身長髪の女性である。180cmを優に超えるラグナと見比べると少しばかり見劣りするが、それでも通りがかった人間と比べると幾らか大きい。しかし、男であるラグナにとって更に目を引かれる部位があった。

どことは言わないが。

 

「.....デケェ」

 

もう一度言う、どことは言わないが。

 

「で、デカい...?.....あ、身長の事か、よく言われるよ。

で、珍しい格好のお兄さん、なにか困り事かな?」

 

「おう。腹が減ってるから飯を食おうと思ったんだが、

あいにく持ち合わせがなくてよ。そんで食い逃.....

い、いやいやいや、里の外で狩りをしようかとな」

 

村の人間に食い逃げの計画を聞かせるなどバカのする事。ここは別の理由で取り繕うが吉と見た。

 

「おいおい、もう夜だよ?妖怪が活発になって危険だから君さえ良ければ寺小屋へ来ないか?嫌ならいいが、私から君に何か作ってやる事も出来ると思うぞ?」

「マジか!?ありがとよ、姉ちゃん!」

「よし!そうと決まれば、早速ついておいで」

 

タダ飯と知って歓喜の表情を露わにするラグナ。それを連れて行く青と白の髪の女性。

二度も無料で食事を摂れる幸運をラグナは噛み締めた。

 

 

 

 

 

時刻は午後11時を過ぎた所だった。

人の居なくなった寺小屋の奥、女性が住む場所にラグナは案内されていて、そこで食事を待ち望んでいた。

空腹を紛らわせる為に辺りを見渡す。

掛け軸や箪笥(たんす)の他、ぜんまい仕掛けのとても大きな時計が壁に立て掛けられているのが目に映った。

食堂から美味しそうな匂いが漂ってくる。魚を焼く時の、香ばしい香りがラグナの鼻をくすぐった。

 

しばらくすると障子が開き、そこには醤油で味付けされた魚の開きと味噌汁、白米をよそった器を載せた盆を持った彼女が自信満々といった具合の表情で食事を運んできた。

 

「おおっ!これは美味そうだな!」

「ああ!おかわりはまだある。幾らでも食べてくれ!」

「へへっ、ありがとうな!いただきまーす!」

 

魚の肉を箸で掴み、白米と共に口に運ぶ。醤油によって魚に程よくついた味が舌を突く。

 

「ん〜、うめぇ!」

「そうかそうか!そう言ってくれて私も嬉しいぞ!」

 

箸が進む。おかずと共に食べる白米も、濃い味をほどよく中和していて、舌に馴染みやすい味へと変換される。

味噌汁の塩っぽさが食欲を更に加速させた。

「美味かったぜ、姉ちゃん。ごちそうさま」

 

ラグナの空腹具合が良くなった事で質問を問いかけたり、逆に返したりする余裕が生まれた。

 

「さて、赤い服のお兄さん。なんという名だい?」

「俺はラグナだ。そういやあんたから名前を聞いてないな」

「おっと、そうだったな。私は上白沢慧音(かみしらさわ けいね)。みんなからは慧音って呼ばれているよ。慧音と呼んでくれ」

 

「ケイネ=カミシラサワか...わかったぜ、ケイネ」

 

ケイネは自己紹介が終わったあと、しばらくは最近起こった出来事などについて話していたが、突然に顔を顰めてラグナに一つ質問した。

 

「さてと、まず君が『外の世界から来た』人間である事は既に調べがついているのだけれど、どうやって来た?」

 

 

 

 

 

 

 

「どうやって来た?」

 

私は目の前の『ラグナ』に問いかける。見た事が無い服装で、明らかにここの人間ではない。ズボンは一見黒い袴の様にも見える。が、それを置いても彼の着る赤いジャケットと腰に提げた大剣は異様だった。

 

「『外の世界』?...よく知らねえが、俺は森を歩いてここに来たぜ。途中で会った奴.....えっと、確かアリスだったっけ。そいつに聞けば一発でわかると思うぜ」

 

アリスと言うと時折人里で人形芝居の公演をしてくれる『アリス=マーガトロイド』だろう。

彼女は『結界』と隣接している『魔法の森』の最奥に住んでいるそうだから彼を連れてくることも容易い。

そして、彼が今言った言葉。

 

────外の世界?...よく知らねえが───

 

 

彼にとってここが奇妙な場所に見えないという事なのか、慧音には推察する事が難しかった。

彼にとってこういった『元の世界』より隔離された場所は特に気にならない、という事なのだろうか?

答えはわからないが、彼が向かうべき場所は決まった。

 

「ラグナ、今日はここで泊まっていくといい。明日からは君に向かってもらいたい場所があるのでな」

「おう、わかったぜ」

 

別室、客用の寝室に案内し、布団を敷く。そこにラグナを連れて来てここで寝るよう伝えた。

 

「では、おやすみ」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『返.....せ........!』

『じゃあなー、ラグナくーん。ヒャハハハハハッ!』

 

『ッ.......テルミッ..........くっ.......』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........はっ!.......はあ.....くそっ...またあの夢か.....」

「.....(うな)されているからなんだと思って来てみたが...

ラグナ、大丈夫なのか?」

 

悪夢に魘されていたラグナは目を覚ました。目の前に昨日話した慧音がおり、彼女は魘されていた青年を心配したのだろう。彼の隣で座っていた。

 

「...何でもねぇよ」

「.....深くは聞かないでおこう。それよりも本題だ」

「本題...あ、昨日言っていた奴か」

 

向かってもらう場所がある、という話を思い出してラグナは慧音に訊ねた。

 

「君が『結界』を抜けられた理由を巫女に聞きに行く」

「あんたが言う巫女ってのが、俺が結界を抜けちまった、その理由を知っているってんだな?」

「そうだ。名は博麗霊夢。結界守を務める神社の巫女だ」

「レイム=ハクレイ?」

 

伝えられた名前を反芻する。レイムという女の名を忘れないようにする為だ。

 

「よっし、んじゃあ俺はそろそろ行くわ」

「ああ....って待て待て、里から神社までは妖怪がいる。

ラグナ、人間だけでは危険すぎるんだよ」

「あ?いや、いいよ。俺一人でどうにでもなるっての」

 

ラグナが慧音の忠告を流す。

 

「いや、そういう訳にもいかんだろう。私もついて行く」

「はぁ.....勝手にしろ。俺は一人でも行くけどな」

 

ラグナと慧音は寺小屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人里では、妖怪が人間を襲ってしまわないように、とある決まり...ルールが決められていた。

それは、『妖怪は人里に立ち入らない事』である。人里の中にいる人間を襲わないよう妖怪達の賢者が決め、それを当時の人間と妖怪に言って聞かせていたらしい。

こうして大妖怪の圧力と人間との条約によって、人里の中の人間は襲えないようになったのだ。

 

しかし、そんな安全とも言える人里から二人、美味そうな男女が出てきたら人を喰らう妖怪はどう思うだろうか?

 

 

「.....へっ、また懲りずに来やがったか」

「...うん?おい、どうしたんだラグナ?懲りずに...って?」

 

草むらに潜伏していたのは昨日相手にした狼の群れ。三匹しかいないが、普通の人間には驚異である。

 

普通の人間にとっては、だったが。彼らにとって残念な事にラグナは普通ではない。

 

「テメェらもっかい相手してやっから纏めてかかってこい」

「こいつらは...千疋狼(せんびきおおかみ)か!ラグナ、やはり私が...」

 

慧音はラグナに警告するが時すでに遅し。

 

「カーネージ.....!」

 

剣を握り、素早い動きで狼のうち最も近い個体に近付く。逆手に持った大剣を叩きつけ、その反動で狼は空に浮く。

そしてラグナは身を捩り、剣を両手で持ち、振り上げた。

 

「シザー!!」

 

蒼の魔道書(ブレイブルー)が、ドライブを使う事でどんな危険を呼ぶか考えたくはないので、二度目の剣による攻撃の際にラグナのドライブ『ソウルイーター』を使ってはいない。

 

狼は急接近したラグナの強力な技『カーネージシザー』に対応する事が出来ず、たった一瞬で一匹は(むくろ)となった。

続けてラグナは別の狼に迫る。走りながら剣を変形させ、鎌にすると、大きく飛び上がり刃を叩きつけた。ラグナの得意な攻撃である。

 

「ブラッドサイズ!」

 

回転しつつ勢いに任せて縦に振り回すこの攻撃は、しかし単発の一撃だとしても威力は充分である。鎌を『文字通り』叩きつけられた狼は真っ二つに割れた。いくら妖怪とて二つに裂ければその命もたかが知れる。

 

「『こっ...小癪な!人間風情が調子に乗りおって!』」

 

残る三匹目の狼は激昴し、捨て身の噛みつきを仕掛ける。が、ラグナには当たらなかった。術式を使って身を守り、攻撃が終わった所を掴む。

 

「痛てぇぞ...!」

 

首根っこを掴み、そこに剣の先端を勢いよく突き刺す。そして前に投げつけた後、追撃の為に飛び上がった。

 

「ガントレットハーデス!」

一発目の蹴りを腹に当てて怯ませ、二発目で体を回して、非常に威力の高い回し蹴りを頭部に炸裂させた。

これを受けて狼は立っていることも出来ず、地に倒れた。

 

「これが、俺の力だ...」

「凄まじい...ラグナは本当に人間なのか?」

「お前!.....人間だ、俺は!.......多分

 

その人とは思えない程に高い身体能力に、慧音はただ驚いていたが、ラグナを一人では行かせられない理由がある。彼自身もきっと忘れているだろう。

 

「わかったか?俺について来なくてもいいって」

「いいや、私は君に道を教えていないだろう?」

「.......あ」

「やっと気づいた。ほら案内するから、ついて来なさい」

 

そう、彼に道を教えていないのだ。万が一迷って森に入ってしまうと更に危ない。魔法の森は人の身には毒となる魔力が漂っているのだ。

 

「わーったよ、ついて行くよ...」

 

ようやく観念したのか、ラグナは慧音の後ろを歩く。やがて山の麓に差し掛かった時、社へ向かう為の幾重にも連なる階段が二人を出迎えた。

 

「こんな所にあんのかよ...面倒くせえな.....」

「文句を言うな。歩いて行ける場所なんだ、この土地でもある程度まともな立地だと思ってくれ」

 

数百にも及ぶ階段は、二人の体力を地道に削っていく。山の頂点も目前まで差し迫ってくる頃には二人とも額から汗が滴っている程度には疲れていた。

 

「はあ、はあ.....マジで面倒くせぇな...ったく.......」

「はあ.....そう言うな...今後の為にも必要な事だ.....」

 

悪態をつくラグナとそれを諭す慧音。山頂に着いた頃に慧音はラグナと別れる事にした。

 

「よし、ここが頂点だ。お疲れラグナ」

「おう、マジで疲れたぜ...案内ありがとな」

「それじゃあ、私は帰るよ。あと一刻もしないうちに、

私の寺小屋で授業が始まってしまうからな」

「わかった、じゃあなケイネ。助かったぜ」

 

慧音は先程登ってきた階段を降りていく。去り際に手を振ったので振り返していると、ラグナの後ろから声をかけられる。声質からして少女だとわかる。

振り返ると、赤を基調とした巫女服で身を包んだ少女が、ラグナを奇異の目で見つめていた。

 

「.....アンタが『ハクレイの巫女』か?」

「いかにも、私がこの博麗神社の巫女、霊夢よ。

外の世の人。どうしてここに居るのか知りたいのよね?」

「ああ」

 

巫女は口角を上げ、ラグナを見つめる。その目は珍しい外界の人間に興味を持っているようにも見えた。

 

「ついてきて。お茶を出すわ」

 

そう言うと霊夢は境内から裏手に回り、本殿の中に入っていった。今の所ラグナにとっては順調にことが進んでいると言えるだろう。それも彼女次第であるが。

 

 





次回予告

霊夢の元に辿り着いたラグナ。
次回は彼がここに迷い込んだ理由が
明らかになるのだろうか。

今後の展開について

  • 他キャラとの絡みによるギャグ路線
  • 他キャラとの絡みによるシリアス路線
  • 既登場キャラとの絡みによるギャグ路線
  • 既登場キャラとの絡みによるシリアス路線
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