死神幻想奇譚   作:16

9 / 24
前回のあらすじ

紅霧異変を再発させたのは、館の主レミリアの妹
『フランドール・スカーレット』という吸血鬼だった。
彼女が手にしていた杖の力で、霧を顕現させたと知り、
ラグナと魔理沙は彼女の『遊び』に応ずる。

辛勝を掴んだラグナは、フランを信じて杖を預け
紅霧異変はフランの敗北によって終幕へと至った。
レミリアへ報告する二人をよそに思案する霊夢。
彼女の懸念には誰も答えなかった。



第六話 死神と「友人」 上

久々に外に赴くと、五日前はあんな霧が里を覆っていたのにも関わらず凄まじい人々の熱気がラグナを襲った。

あんな危ない事があったにもかかわらずこうして賑わっているところを見るに、彼らも存外図太いのだろう。

魔理沙は魔法の森の自宅へ帰っていった。独自の術式が完成しそうかもしれないとの事で、集中したいそうだ。

紅魔館の連中も、風の噂で聞く限り特に何かをしている訳ではなさそうだった。

はっきり言おう、ラグナは今、ものすごく暇である。

 

「......こんな暇になることなんて無かったな」

「あやや、そうなんですねぇ」

 

声をかけられて振り向くと、そこに居たのは文だった。

黒い翼こそ無かったものの、琥珀色の瞳を忘れはしない。

ラグナがじろりと一瞥すると文は「おお、こわいこわい」等とのたまっている。そんな事は無いのだろうが。

ラグナは詮索されるのは好きでは無いので、それに直結出来る文の事は苦手である。

 

「テメェ......アヤか」

「おっと......やだなぁラグナさん。そんな怖い顔しないでくださいよ。私だって怖いものはあるんです」

「ヘラヘラ笑ってる顔で言う事かよ、それ」

「あやや......痛いとこ、突かれちゃいましたね」

 

そう言って文はニタリと笑った。目を閉じて口角を上げるその笑い方は、やはり『蛇』を彷彿とさせた。

あの男とこの女は似ても似つかないという評価だったが。

こう相対してみれば雰囲気が、というか。中々似ている。

 

「で、テメェ何しに来た?」

「あれれ、この前言いませんでしたっけ?取材の件」

 

『今後もしかしたら取材に伺うかもしれません。

その時は、是非ともよろしくお願いしますよ?』

 

文の言葉を聞いて、ラグナはその発言を思い出した。

前会った時、確かにそんな事を言っていた気がする。

いや、言っていた。取材に来ますよ、と。

 

「あぁ、あん時な......で、俺に何を聞きてぇんだ?」

「お、積極的じゃないですか!記者冥利に尽きます。......では、そうですね......二度目の紅霧異変の『主役』である、ラグナ=ザ=ブラッドエッジさんにお訊ねしたいことが...」

「帰る」

「いやいやいや!そんな事言わないでくださいよぉ!

私、まだ聞きたいこといーっぱいあるんですから!」

「んじゃあ、なんでテメェがその事知ってるか。それを答えたら俺も一つ答えてやるよ」

 

先ず紅霧異変にラグナが関わっていたと知るのは当事者達だけである。勿論、それを誰かに言いふらす理由もない。

だのに、このブン屋は知っていた。何かしらの方法で誰かから聞いたのだろうか、それとも館に侵入したのか。

文は悩んでいる様だった。正直に言って文に何かを話すつもりなど毛頭なかったのだが、ここまで話を聞きたかったのかと思うと少しぐらいはら会話してやってもいいのでは、と思う。

それに、妖怪がどんな生活をしているか、興味が無い訳ではなかった。ラグナも知りたい事はある。つまり、これを利用してどんどん情報を引き出そうという魂胆である。

 

「仕方がないですね......私、こう見えても高位の天狗。

『鴉天狗』という妖怪様なんですよね」

「......それが、どうしてお前が知らない筈の事を知る事ができる理由になるんだ?」

「話は最後まで聞くものですよ。......で、なんで私がラグナさんの活躍を知っているか、それは()()のおかげです」

 

そう言うと文は団扇(うちわ)を取り出す。一見すると、その様相は紅葉を模した、ただの団扇に見える。だが『コレ』という言葉から察するに団扇に秘密があるのは明らかだった。

 

「私は神通力を使えるんですよ。神隠しって知ってます?」

「『神隠し』...........『神に隠された』かのように消えるって魔法か。俺は使えねぇが......」

 

魔法とは厳密には違うという。神通力という妖力や魔素と似て非なる力を使い、行使するものだそうだ。

と、魔理沙が言っていたのを覚えている。ここまで聞けば簡単な話だ。その『神隠し』を使って、俺を取材.....という名目で監視していたのだろう。

 

「なるほどな.......」

「お分かりいただけましたか。では、私も質問を......

ラグナさん、宜しいですか?」

「いいぞ」

 

アヤとラグナの間に僅かな時間が流れる。

緊張した空気が場を支配し、一瞬ながら会話を途絶えさせた。すぐに文が質問を開始した。

 

「ラグナさん。ぶっちゃけどこから来ました?」

「どこから......『外の世界』の森から、だそうだ」

「いいや、そんなのじゃありません。もっと根本的な......そうですね。私の勘による推察なんですが、恐らくラグナさんは別の世界から来たのではないでしょうか?」

 

ラグナは一瞬だが文が何を言っているのかわからなかった。外の世界から来たと言っているのに、彼女は別の世界から来たのではと勝手に言う。勿論、ラグナは外の世界から来た、という認識しかしていない為、文の言う別世界の存在は知らない。

 

「その......なんでそう思う?」

「天狗の勘ってやつですよ」

「...........悪ぃんだが、俺はそれとは別の認識はできてねぇよ。少なくとも、俺が来たのは『日本』に居た時だ」

「日本................うーん、考え過ぎでしたかね」

 

そう言うと文は手を顎にあてがって何やら考える。しばらくぶつくさ独り言を呟いていたが、そのうち気になる事が無くなったのか、特に興味も無さげにラグナに話しかけた。

 

「まあ、良い事を聞かせていただきましたよ。そちらの番ですよ、ラグナさん。何か私に質問あります?」

「......妖怪ってのが普段どう暮らしてんのか知りてぇ」

「フフ......奇特な方ですねぇ。そんな事を知りたいと」

 

単なる好奇心だけで聞いているのではない。

最近、里の人間は妖怪からの被害に悩まされている。

時々、巫女が里にフラっと降りてきて皆退治していくのだが、それも間に合わない規模の害を被った事もある。

『敵を知り己を知れば百戦危うからず』という言葉も教わったし、それを文字通り実行に移すのだ。

勿論、妖怪の生活の真似をしながら過ごす事も考えてある。

こう見えてもラグナは山マスター。

自然にも対応出来る人間なのである。

 

「んじゃ、来ます?」

「................え?」

「神風『神隠しの御業』」

 

文がそう言いながら団扇をラグナに向かって二度振る。

そうすると紅の突風がラグナの間に吹き荒れ、瞬く間にその姿は見えなくなってしまった。

「よし、じゃあ私も行きますかね」と、文が言う。

彼女が団扇をもう二度振ると、その突風は強く吹き荒び、文を包み込む。彼女はその姿を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!と、大きな音を立てて地面......床に叩きつけられた。

 

「......痛ってぇ......アヤ、もう少し別の方法はねぇのか」

「そこの男、控えおろう。ここは天魔様の御前なるぞ」

「...あぁ?天魔......だって?」

 

大きな部屋の中心にラグナはいた。話しかけてきたのは、恐らく守衛のような役割を務める天狗だろう。その奥で、華奢な体つきながらも強さを感じさせる天狗が、座布団に座ってパイプをふかしていた。その頭からは一本、雄々しささえ感じさせる程の角がそびえていた。

 

「お前も天狗か...俺はアヤに連れて来られたんだけどよ」

「ええい、控えろと言っているのが聞こえんのか!」

 

ラグナが話しかけると、守衛がその言葉遣いに怒った。

天魔の前に出てラグナに槍の穂先を向ける天狗。

武器を向けられてはさすがに黙ってはいられないだろう。

ラグナも荒正の柄を握り、天狗に目を向ける。

 

「貴様!何のつもりだ!」

「そっちこそ何のつもりだよ。俺はここに連れて来られたって言ってるだろうが。いい加減話を聞きやがれ、バカが」

「馬鹿だと......貴様、我が槍の錆となりたいようだな...」

 

天狗とラグナの視線がぶつかり合う。火花を散らすかの様に視線だけで敵を威圧せんとばかりに。

荒正を握る拳の力が強くなる。槍は依然こちらを指す。

いよいよぶつかるのでは、という時、天魔が声を上げた。

 

「これこれ二人とも止めんか。そこの赤いお主、すまんの。鞍馬、何故お前に槍を持たせたのか忘れてはおるまいな」

「は、決して」

「儂の為にやっているのはわかる。だが、話ぐらいは聞けるだろう?さ、お客人よ、文に呼ばれたと申したな?」

 

そう言うと、鞍馬と呼ばれた天狗を腕で押し退け、彼が本来いた場所に戻させる。そしてラグナに向き直り、話を続けた。

鞍馬も大天狗に言われては反論のしようも無い。

言われるがまま、本来の立ち位置に戻った。

 

「話のわかる天狗で助かったぜ。そう、俺はアヤに団扇で扇がれてここまで連れて来られたんだよ」

「ほうほう、文になあ......あの娘の相手はさぞかし疲れるだろう。少し休んでは如何かな。茶をお出ししよう。鞍馬」

「は、只今」

 

そう言うと鞍馬は団扇を取り出し、自らを扇ぐ。

文の時に見たものとは少し違う、深緑の突風が吹き、

鞍馬の姿も消えてしまった。

 

「......邪魔者もいなくなったか。文に連れられ、という事はお前さんが『ラグナ』という男じゃな?」

「そこまで有名人かよ、俺」

「うむ。ひっきりなしに文がお前の話をするからな。あの娘が他人に夢中になるのは珍しいのでな」

 

そう言うと外から何かが羽ばたく音が聞こえる。

数度のノックの後、扉を開けたのは話をすればなんとやら。

ラグナを神隠した張本人、文その人だった。

 

「おや、ラグナさん。私も随分と上達しましたね」

 

そう言って文は天魔の佇む部屋に入っていく。

幾ら文が遠慮がない奴だからって、ここまで遠慮なしに

振舞っても良いものなのだろうか?

と、ラグナが考えていると、大天狗が文を窘める。

 

「これ、文。客人の前だというのに......」

「良いじゃないですか、義母上。それに、貴女の客ではなく、私の客ですよ。私が呼んだんですから」

 

それだけ言うと「行きましょう」とだけ言ってラグナの腕を掴み、そのまま連れ出されてしまった。

天魔は戻ってきた鞍馬の茶を受け取り、啜っていた。

鞍馬はラグナが消えた事で、淹れた茶の処理に困ったが、自分自身で飲めばいいという事で無理やり完結させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人暮らしするには少し豪華すぎる程の一軒家。

囲炉裏を囲んで文はラグナを見ていた。ラグナの方は、こういった古い様式の家を知らないので、興味のままに見回していた。彼にとって珍しい物もある。

 

「妖怪ってのはこんな良い家に住んでんのか......」

「一部の高尚な大妖怪だけですよ。人間から言わせれば位の高い妖の類が......まあ、私達天狗とか、鬼だとか、まあ人の姿の妖とかですかね?......まあそんな類がこういう良い家に住むんですが、それ程に有名な妖は、人前には滅多に顔を出さないんですよね。人目につかない場所でこうして生活している所為ですかね」

 

そう言うと文は、先程持っていた団扇とは違う、

恐らくお飾りであろう扇子を取り出し、口元を隠す。その目付きから笑っている事がわかった。

 

「実は、この家に他人を呼ぶのは四人目なんですよね」

「四人目......俺の他には誰が?」

「皆、私の友達です。椛にはたてに鞍馬。気の置けない友は彼等くらいなものですから。義母上は別ですが」

 

ラグナは鞍馬以外の二人はまだ知らない。

会っても居ないだろう。天狗の住む領域に急に飛ばされたのであって、わざわざラグナが自分で出向いた訳では無いのだから。彼等の名を挙げる文は少し楽しそうだった。ラグナにはそれが寂しい感情に見えたがそれは一瞬で、すぐにラグナの話題に移った。

 

「本題です。ラグナさん、私と『友達』になってください」

「おう、そうだな。...........別に、なってもいいぜ」

 

ラグナは一瞬考えたが、わざわざ自分から友達になりたいと言われて断る理由はどこにもない。文はラグナが自分を友達だと認めたのが嬉しいのか、常に貼り付けていた笑顔が、今だけは本物の笑みのように見えた。

 

「良かったです。......じゃあ、私の友達もご紹介しなくちゃいけませんね。あ、友達というのは椛とはたての事です」

「さっき言ってた奴だな。すぐに会えそうなのか?」

「今日は椛の任務も無い筈ですし、はたても今日はおやすみです。二人で遊んでると思いますよ」

 

仲が良いと言うだけあって、やはり互いに予定を教えあっているのだろうか。件の友人達が今何しているかの推測を言い並べた後に、文はラグナについて来るよう促した。

 

 

 

 

 

道の途中。文は翼を畳み込み、ラグナと歩調を合わせている。正確にはラグナが文について行く形である。

 

「集落として成り立ってんのは里だけだと思ってたよ」

「心外ですね。天狗だってこうして家や仕事、家族だって持っているのですよ。それは私も例外ではありません」

 

そう言うと文もラグナも辺りを見渡した。

大小様々な民家が所狭しと並ぶそこは、木々に囲まれていることからも山の中で成り立つ土地だとわかる。良く整備されている道を歩くと、土の感触だけではない、内側に石が詰められているのだと感じた。途中、幾人もの天狗とすれ違うが、人間である筈の......更に言えば部外者である筈のラグナに対して、奇異の目を向ける事もない。

 

「俺は天狗じゃねえけど、特に変な目で見られたりしないんだな。俺が見てきた所は結構排他的だったりしたけどな......」

「勿論、私達がそんなことするはずありません。古来より天狗と人間は深い関わりを持っているんです」

 

そう言うと文はピタリと足を止める。それに気付いたラグナも足を止め、文を見やる。文は少し小さめの家を見据え、ラグナに向き直り、こう続けた。

 

「さ、着きましたよラグナさん。私の友達を紹介します」

 

それにラグナも頷き、文に続いて家に入っていく。

その時に文が浮かべた表情は、心からの笑みだった。

 

 




妖怪の山

名の通り、数多の妖怪が住み着く山。
危険な場所でもあるため、人は滅多に近付かない。

麓には狼や猪の妖が住処としており、獰猛な性格も相まって人にとっては非常に危険な場所となる。
また、とても澄んだ水質の川が流れており、この付近には河童が住んでいるという。河童は人に対してある程度友好的な為、その付近では害はない。
河童は日本三大妖怪の一つとして数えられる。

中腹には日本三大妖怪の一角、天狗が暮らしている。
風を繰り、大きな力を持つ妖怪であり、また技術においても人より遥かに秀でているという。
かの源義経に剣の術を教えた鞍馬も天狗の一人である。
また、天狗には種族が存在しており、また階級のようなものも種族に応じて存在するのだが、妖怪の山では関係ないのだろうか、あらゆる種族が仲良く接しあっている。

山頂には博麗神社と対を成す守矢神社が立っている。
人々からの信仰も厚く、博麗神社よりも裕福だとされる。
守矢神社と妖怪の山の約定によって、参拝客が襲われる事は無い。おいたをすれば必ずしっぺ返しが来るからだ。
近くには規模は小さいが、比較的大きな池もあり、そこで育つ魚は霊夢曰く『絶品』との事だ。
また、山頂近くにはかつて鬼が住んでいたそうだが、姿を眩ませた今はどこにいるかは一部の者しか知らないそう。

今回の物語で登場した文、鞍馬、天魔の三人は天狗、つまり中腹に居を構えている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。