拝啓、ハクスラ世界より(更新停止)   作:naow

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 作業用に最適、読み上げ対応ルビ仕様です。
 ぁゃしぃ部分が有ったら小声で教えて下さい。


大人だって、泣く。
大人だから、泣かない。
大人って、大変。


第7話 夢と居場所、現実と仲間

 えーと、何ていうか。

 お見苦しいところを何か色々お見せしてすみませんでした、俺です。

 

 

 

 まだ出会って2日? ジェシカさんとタイラーくんは1日しか経っていないと言うのに、俺はもう既に引っ張りまわされてます。

 

 何だよもぉう!

 もう既に頭の上がんない人が着々と増えてるんですけど⁉

 

 昼飯は落ち着いて食いたいと言う俺の希望で、冒険者ギルド近くの食堂に連れて来られました。

 大丈夫だろうなここ?

 熊のハンスさんとか来やしねェだろうな⁉

 

 どうせ顔を合わせなきゃいけないんだけど、せめて飯食って落ち着いてからにして頂きたい。

 

 あと、よく分からんのでパスタっぽいモノを頼んだんだけど、思った以上にパスタだったわ。

 普通に美味い。

 飯が美味いと、それだけで幸せだよね。

「うんうん。ホントに、幸せそうに食べる子ねえ」

 ジェシカさんが、飯を食う俺を見て、しみじみと呟く。

 いやだってさ、ていうかジェシカさんだけじゃなく、他の連中にも言えないけどさ。

 

 異世界転移ものってさ、飯がマズイってのがなんか、デフォっぽくね?

 それがさー、俺、この世界の食事が合ってるだけなのか、妙に美味いんだよ。

「美味いよ? コレ」

 返事代わりに感想を述べて、俺はパスタをがっつく。

 仮面は外してるけど、テーブルマナーとか知らんし。

 

「食いっぷりと普段のふてぶてしさはベテラン並だな。女にしとくのが勿体ないから、俺はこれからは悪友の1人として接する」

 おぉん?

 随分静かに食事してるかと思えば、上品なお作法の割には随分な口っぷりじゃないの?

 

「なんだよ、恋人にしたいとか、思った事は素直に言って良いんだぞ? んん?」

 無論俺の方にそんなつもりは毛頭無い、と言うか俺は何度でも言うが女が好きなのだが、嫌がらせの為ならこの程度は言えるのだ。

 俺が言うと、タイラーくんは照れる様子を微塵も見せず、心底嫌そうな顔で動きを止める。

 おゥ、なんだコラ?

 お前、普段殆ど表情変えない癖に、なんで今だけマッハで嫌そうなんだ? あぁン?

「……無いな。無い。無さ過ぎてもう、うん、無いな」

()いは1回だコラァ!」

 単純に4回も並べやがって!

 少しはヴァリエーション豊かに言ってみせろや!

 

 少年冒険者達は、俺達の漫才に笑っている。

 ……そんなつもりはないんだけど、まあ、子供が笑ってるなら良いか。

 子供達の笑顔ってのは、基本()やされるもんだ。

 悪くないね。

「笑われてるんだがな」

 

 ッそういうトコだぞメガネェェ!

 

 

 

 食事も終わろうかってタイミングで、フレッドくんが俺に小袋を差し出してきた。

「うん?」

 理解(わか)らないなりに手を伸ばし、手のひらに乗る重さと金属が擦れる音に、中味の大凡を知る。

 中味は何となく理解(わか)ったが、理由が分からん。

「フレッドくん? これは一体?」

 (かね)を貸した覚えもないし、借りる予定もない。

 飯代のつもりなら、だいぶ多いと思うぞ?

 

 あ、ちなみに中味は銅貨か銀貨だと思う。

 

「ギルドの、グスタフさんから。コレで何か食べろって!」

 何処か誇らしげに、フレッドくんが言い切る。

 グスタフ……?

 名前に覚えがなく、戸惑う俺の動きが止まる。

 受け取って良いものか、迷ってしまったのだ。

「……受け取れよ? ベテランが態々気を使ってくれた物だ」

 そんな俺の内心を見透かしたように、タイラーくんがボソリと言う。

 

 ああ、そうだな。

 俺は小袋を握りしめ、小さく頷く。

理解(わか)った、ありがとよ……。フレッドくん、態々ありがとな!」

 前半は小さく、タイラーくんに向けて。気を取り直してフレッドくんには笑顔で礼を言う。

 嬉しそうに笑うフレッドくんの頭を、思わず撫でてやる。

 

 かわいいやつめ、うははは。

 

「ご機嫌なところ悪いが、笑顔が汚い……じゃない、食事が終わったならギルドへ行くぞ。ベテラン連中にも、お前を持ってこいと念を押されてるからな」

 誰の笑顔が汚いだとあァン⁉

 って言うかさらっと何か言ってるけど、なにそれ。

 特に最後のやつ、俺何も聞いてないんだけど?

 

 

 

 食後の余韻ってさ、大事だと思うんだよね?

 例えばさ、こう、砂糖をたっぷり入れたコーヒーとかさ? 欲しいじゃない?

 

「うははははは! 呑めコラァ!」

「うるせぇ! 抱きつくな髭が(いて)ぇ!」

 

 なにコレ?

 昨日見掛けた気がする冒険者達に囲まれたかと思えば、あっという間にテーブルまで拉致され。

 嬢ちゃんはミードがいいだろ? とか勝手にオーダーが決まり。

 この髭で眼帯のオッサンが、グスタフとか言うベテランらしい。

 言われてみれば昨日見掛けた気はするが、しかしそれだけだ。

 特に絡んだ記憶はないんだが、なんで俺はこんなオッサン達に囲まれて酒呑まされてんだ?

 用事があって呼び出された筈じゃ?

「そうじゃねェんだよ! アレだろ、ハンスのオッサンに呼ばれてるんじゃねェのかよ、俺ァ!」

 ミードのジョッキをテーブルに叩きつけるも、この酔っぱらい共、笑うだけで聞きゃしねぇ……!

「呼んだか?」

 魅惑の低音(バス)に視線を転がせば、出たなギルドの熊さん。

 っていうかいつから居たんだよ?

「呼んだか、じゃねーよ! なんだよ、用があって呼んだのはそっちだろうがァ!」

 もう、俺の落ち込みとか反省とか立ち直りとか、その辺の諸々の俺の心情を返せこの野郎ども!

 

 

 

「明日、葬儀だ」

 やんややんやの宴会ムードの中、ハンスの低い静かな声が、ジョッキを傾ける俺の鼓膜を叩いた。

 一瞬、何を言われたか判らない。

 数秒、間抜けな顔を晒してから、思い当たってジョッキを静かにテーブルに戻す。

「……そっか。もっと時間掛かるかと思ったけど、案外早いのな?」

「ああ。教会に話をつけて、本当ならもっと掛かる筈なんだが、手を尽くしてくれたらしい」

 へぇ……。

 昨日あんな事があって、中1日(なかいちにち)で。

 この世界の常識なんて知らないが、思っていたよりだいぶ早い。

 冠婚葬祭で、急に発生し、待ったが効かないのが葬儀とは良く聞く。

 色々(いろいろ)便利な世界でも手続きやら色々(いろいろ)大変なのに、この世界は……いや、意外とシンプルなのかも知れない。

 システムも含めて、色々と。

 

(なん)にせよ、それで一旦は気持ちの整理も着くかな」

「……さあな。残された方が、歯を食いしばるしかない部分だ」

 この世界の人間も、案外厳しい。

 欲しい答えは、簡単には届かない。

 世界が違えど、そこは変わりが無いらしい。

「違いない」

 俺は追加で頼んだエールを煽り、呟く。

 そう、俺が歯を食いしばり、生きていかなきゃいけない。

 

「昨日の説教は、しなくて良いのか?」

 ポツリと、そんな声が耳に転がり込む。

「ハッ。暴れて全部吹っ飛んで、忘れちまったよ」

 せいぜい仏頂面が作れている事を祈りながら、俺はエールを煽ろうとして、ジョッキが(から)になってる事に気が付く。

 通りかかったウェイトレスのお姉さんにジョッキを掲げ、お代わりをアピール。

「そうか。じゃあ、勝手に反省させて貰おう」

 俺はハンスの声が聞こえなかったフリで、受付カウンターの方へ目を向ける。

 昨日親切に対応してくれたお姉さんが、他の冒険者に依頼(クエスト)の案内をしているらしい。

 

「今回やらかした受付は、これから処分が決まるが」

 殊更声を押さえて、ハンスが呟くように声を寄越す。

 俺はそれにも興味なさげに反応せず、手持ち無沙汰に指先でテーブルを(はじ)く。

「……つまらん余罪が有る所に、洒落にならんことを仕出かした。まあ、死罪だろうな」

 俺はすぐに反応する事をせず、ウェイトレスお姉さんからジョッキを受け取ると、一度それを煽ってから、ジョッキをテーブルに置く。

 ……お姉さん、これミードだよ。エールの方が欲しかったよ。

 

「正直知ったこっちゃ無ェな。無罪放免だってんなら、探し出して殺してやらんでもねぇが。法に則ってきっちり裁かれるんだったら、俺の出る幕じゃねぇ」

 不思議なもんで、このミードは妙に甘ったるくて、妙に重い。

 口当たりも違う気がするが、同じなのは、あんまり美味いと思えない事だ。

「でも良いのかい、新人冒険者にそんな話聞かせて。萎縮しちゃうかも知れないぜ?」

 俺が言うと、ハンスはジョッキを大きく傾け、中味を一気に呷る。

「萎縮して大人しくなるタマが、あんな啖呵を切れるものか。それに、あの馬鹿の事は、もう全員気がついてる」

 ハンスもウェイトレスさんに向けてジョッキを持ち上げ、アピール。

 コレでこのオッサンにもミードが来たら面白ェな、とか無責任に考える。

「まあ、そこに関しては俺が言う事ぁねぇな。今後同じ事は無いんだろ、(サブ)マスさんよぉ」

「ああ。二度と舐めた真似はさせん」

 お代わりのジョッキをを受け取ったハンスはエールを、俺はミードを。

 2人同時に呷り、喉を湿らせる。

 

 テーブルの向こうでは、こちらの様子を伺いつつも冒険者のオッサン(ども)に揉みくちゃにされてる少年たちと、変わらぬ笑顔のジェシカさん、これも変わらぬ仏頂面のタイラーくんが見える。

 この世界で、たった数日でこんな所で冒険者なんてする事になって、気がつきゃ慕ってくれたり、イジられたり、なんか良く分からん扱いされたり。

 ……仲間が、友達(ダチ)が増えたもんだ。

 

「なあ、オッサン」

 特に考えもなく、ハンスに声を掛ける。

「オッサンはよせ。俺はまだ27だ」

 ハンスの思いがけない反応に、虚を突かれた俺は馬鹿みたいな顔でハンスの顔を眺めて、そして爆笑した。

 

 27? コイツ、同い年(タメ)なのかよ。

 

 見た目と釣り合ってるとかいないとか、そういう話と別の所で、俺は可笑しくて堪らず、涙まで零して笑う。

「27でオッサンだと思ってねェのは、本人だけだよ」

 俺にしこたま笑われても、ハンスは特に変わることもなく、しかし溜息を()いていなす。

同い年(タメ)の俺が言うんだ、間違いねェよ」

「お前な……流石にそれは笑えんぞ。そんな30手前が居てたまるか」

 可笑しくて仕方がない俺の視界で、ハンスは憮然としてジョッキを(あお)る。

「ああ、そうだ、説教代わりだ、これだけ聞いてくれ」

 笑いで誤魔化してから、俺はハンスに囁く。

 

「死んだガキどもの名前を、せめて忘れねェでいてくれ」

 

 ジョッキを少し大きな音でテーブルに置くと、ハンスはやおら立ち上がる。

 その眼を俺に向けること無く。

「任せろ」

 だが、しっかりと力強くハンスは頷き、歩み去った。

 

 

 

「なんで昼過ぎだってのに、俺はあんなに呑まされたんだ? ていうか、俺が呼ばれた理由はアレだけか?」

 (とど)まれば呑まされ続けるだけだと気がついたのは、ハンスが仕事に戻ってしばらく後だった。

 

 ってーか、仕事中に酒飲んでんじゃねぇよ(サブ)マスよ。

 

「あらあら、まだまだ飲めるんだけどなぁ」

 表情どころか顔色も変わっていないジェシカさんが怖いよ。

 この人、見てる限りでジョッキ手放してたタイミングが無かった。

 ついでに言えば、タイラーくんも同様だ。

 当然、顔色が変わってないところまで同じ。

 なんなの、実は酒じゃなかったとか?

「正真正銘のエールだ、当然、まだまだ呑める」

 キリリとした表情で言うことじゃねェよ。

 ただの呑兵衛宣言じゃねぇか。

 少年少女組はお茶と果汁飲料(ジュース)だったらしいが、飲みすぎてちょっと気持ち悪いらしい。

 ギルド前のちょっとした広場で、少し奥まった所に有る屋外のテーブル付きの椅子に座り、ぐったりとした俺は絶賛愚痴真っ盛りである。

 

 俺が愚痴って、タイラーが混ぜっ返して、ジェシカさんが笑って。

 子供達は時々オロオロしつつ、でも結局は笑って。

 軽口の合間に、また愚痴が出て、ほんで(ちい)さな夢みたいな事を話して。

 

 何か、このメンツを眺めていると、唐突に脳裏に閃く物があった。

 俺が欲しかったもの、もしかして此処でなら届くのでは?

 

 実行するかは別として、ちょっと話を振ってみよう。

 

「なあ、あー……こういう相談は無愛想メガネが適任ぽいな」

「誰が知的メガネだ」

「言ってねェよ」

 

 ……コイツ、実はかなり酔ってねェか?

 なんだ今の切れ味バツグンの返しは。

 ほんで、なんだそのドヤ顔は、この野郎。

 

 そんな俺とタイラーくんのやり取りを、ジェシカさんと少女組が笑って眺める。

「実はな、こういう物がそれなり余ってるんだが」

 殊更興味を引くように心がけ、俺は懐に手を入れ、実際には何も持っていないその手をテーブルの上に広げ、滑らせる。

 タネも仕掛も勿論ある、だけど余人(よじん)にゃちょっと出来ない、そんな手品。

 

 空っぽの(たなごころ)が通り過ぎたテーブルの上に、ちゃりんと響く澄んだ音。

 そこには、金貨が12枚。

 

 金貨(これ)は俺がゲーム内で入手し、そのまま持っていたものだが、こちらで使えることは昨日確認している。

 俺の動作に釣られて俺の手元を覗き込んでいた一同は、すぐには反応せず、それぞれ顔を見合わせたりしている。

 さしものジェシカさんも驚いたように表情を変えると、金貨を1枚()にする。

「普通の金貨だけど、どうしたの? ……危ないお金じゃないでしょうね?」

 うん、まあ、割と普通の反応だと思う。

「……なんだ、礼のつもりか? まあ、そういう事なら受け取るのも吝かでは無いな」

 なにが吝かでは無いんだこの野郎。

 間違いねぇ。コイツは酔ってる。

(ちげ)ぇよこのスカタン。……いや別に、欲しいならやるけども」

 ツッコミの後の言葉にはきっちり反応して、全員に2枚づつ金貨を分けるタイラーくん。

 分ける前に礼のひとつも言えよ馬鹿。

 

「あ、あの、リリスさん、良いの?」

 カレンちゃんが凄く申し訳無さそうに聞いてくる。

 普通はこうだよな。

「ああ、良いよ良いよ。大事に使いなよ?」

 ひらひらと手を振って見せると、カレンちゃんとティアちゃんが顔を見合わせ、輝かんばかりの笑顔をこちらに向ける。

「ありがとう! リリスさん!」

 ほら。

 コレだよ、判るか?

 何か貰ったら「ありがとう」、基本だろうが。

 今度は俺がドヤ顔でタイラーくんに顔を向ける。

 

「なんだ? 受け取った事に礼など要らんぞ、気にするな」

「そうじゃねェよ酔っぱらい! 馬鹿じゃねェのか⁉」

 酔っていようがいまいが、ホントに……! コイツは……!

 

 一瞬、相談するのは辞めようかと思ったが、まあ、反応を見たいだけと言う部分もあるし、ネタとして話を聞いておくのも有りだろう。

 俺は気分を落ち着け、殊更咳払いをしてみせると、切り出した。

 

「毎回宿の手配が面倒臭いし、纏めて払うのも、その間に遠出の依頼(クエスト)受けちまうと勿体ない」

 俺の言葉に、何を言い出すのかと、全員が顔を見合わせる。

「いやまあ、今の俺は新人だし、遠出の予定どころか、そんな依頼(クエスト)請けられるかも判らんけど。それこそこんな商売だ、何が有るかは判らん」

「まあ、それはそうよね?」

 ジェシカさんが頷いてくれる。

 少年少女組はピンと来ていない様子だが、不思議そうながら黙って話を聞いてくれている。

「それでな? いっそ、家でも買おうかとか、考えたわけだが」

 ジェシカさんとタイラーくんが顔を見合わせ、そしてジェシカさんは爆笑し、タイラーくんはやれやれと首を振る。

 だが俺はノーリアクションだ。

 この2人の反応は、予想出来ていたのだ。

 

「あのね、リリスちゃん、金貨が10枚20枚あっても、家を買うには流石に足りないのよ?」

 うんうん、そう来るだろうね。

 ジェシカさんがそっちに行くとなると、タイラーくんが舵を切る方向も概ね予想出来る。

 ……シラフだったらだが。

 頼むから今だけでいい、まともか、せめて俺の意図する方に転がってくれ。

「子供の小遣いにしては破格だが、家を買うとか、少し夢を見すぎだな。そもそもお前は予算をどれくらい持っているんだ?」

 よし。

 なんか人を小馬鹿(こばか)にしたようなドヤ顔が微妙に(いら)つくが、今回は我慢してやる。

 

 今回だけな!

 

 

 

 ところでディアブロ3と言うゲームは、貨幣の価値が本当に掴み(にく)い世界だ。

 宿屋とかが有る訳で無し、どうにも比較対象が少なく、お金の価値が解りにくい。

 そもそもハクスラと言う事で、武器は敵がドロップするのを拾い、そこに付与されたステータスで一喜一憂し、レアを拾ってレジェンドを掘り、エンシェントを狙い、プライマル・エンシェントの夢を見るのがディアブロ3だ。

 じゃあお金を拾っても使わないのかと言うと割とそうでもないから困る。

 拾った武器や防具で「この特殊能力が○○(こう)じゃなくて□□(ああ)だったら……!」と悶絶する場面が結構ある。

 何しろハクスラで入手できる武器は、付与される特殊能力が膨大且つ多岐に渡るため、目当ての武器を入手したと思っても、理想の特殊能力・数値で有る事は少ない。

 どれくらい少ないかと言えば、そんな理想の武器なんか出やしねェ、ゼロだゼロ! っていうレベルである。

 なので基本は妥協して使うわけだが、救済が無くもない。

 ディアブロ3では、各装備1つにつき、特殊能力を1つだけ変更出来る。

 

 それが、NPCミリアム、秘術師による「特性の変更」だ。

 

 ここで、各種装備に付与されている内から、プレイヤー各々が不要と判断した特殊能力を、ランダムで他の能力に付け替えることが出来る。

 

 ランダムである、という事が肝である。

 

 ほしい能力・数値を求めて、只管にチャレンジを続ける。

 能力が合致しても、数値が足りなければどうするか?

 ()()

 納得できる数値が出るまで回す。

 このシステムの絶妙にいやらしいポイントは、チャレンジ後、変更前の特殊能力が「残る」ため、変更候補が気に入らなければ変更しない、と言う事も出来るという点だ。

 変更候補は3枠に見えて、ひとつは変更前のものと同じなので、実質新規の候補は2枠。

 毎回全てが入れ替わるシステムだったら、数値はある程度妥協の幅が広がってしまうが、このシステムは「まあ、コレでも良いけど」レベルの数値・能力の物をキープしたまま、チャレンジ出来る。

 失敗しても「悪くない」能力を確保できている為、どんどんチャレンジ出来てしまう。

 

 これに必要なものが、素材アイテムだけだったらまだ良い。

 拾って来さえすれば、何度チャレンジしようとも必要個数が変わることがない。

 

 ……俺の「カリニの後光」は、結局クリティカルダメージが49%のままで、50%には上がってくれなかったな……。

 

 もとい。

 チャレンジに必要なものが、素材プラスお金だった場合が、極限にえげつない旅の始まりとなる。

 お金の必要額が、恐ろしい勢いで増えていく。

 金貨5万枚とかから始まって、気が付くと1千万枚を超え、それでも納得する数値・能力が出ない。

 気が付くと、手持ちのお金がすっからかん、という訳だ。

 なまじ宿とかで使う(かね)がなく、武器の修理で使う程度だったりすると、資金全部使っても直ぐに回収できたりするので、調子に乗って回してしまう。

 

 グレーターリフトの報酬が狂ってるしな!

 今手元に有るのも、一度破産レベルで散財して、その後グレーターリフトを回して居たら回収できた資金だ。

 

 その枚数は、こちらに来て何度か言及している、そう。

 

「金貨で言うなら、50億枚ちょっと、かな」

 正確には、51億1951万3046枚。

 1億枚以上の端数はちょっととは言わないな、うん。

 

 俺が事も無げに言うと、ジェシカさんは言葉を失くし、タイラーくんは小馬鹿(こばか)にしたように首を振る。

「リリス。お前が見栄っ張りなのは良く理解(わか)った。だが、夢と現実をごっちゃにするのはどうかと思うぞ?」

 うんうん、そりゃそういう反応になるわな。

 俺に言わせりゃこっちが夢なのだが、まあ言っても仕方ないし、俺としても夢は見ていたいのでそこは口を噤む。

 

「まあ、見せないとそうなるよな。うし、一度宿に帰ろう。着いてきてくれ」

 俺は余裕の態度を崩さず、椅子から立ち上がる。

「帰る? 帰ってどうするんだ?」

 言いたいことが理解(わか)っているくせに、ニヤニヤとタイラーが問う。

 

 コイツ、酔ってるとホントにヤな奴だな!

 いや、酔って無くてもあんまり変わらないけどな!

 

「全部出すわけじゃないが、此処で大量の金貨出したら目立つだろうが。部屋で一部を見せてやるよ」

 自信満々の俺に、タイラーくんは肩まで竦めて「一部ねぇ」とかほざいてやがる。

 金貨をみっちり詰めた靴下(ゴージャスブラックジャック)でぶん殴ってやろうかと思ったが、ぐっと(こら)えて俺は先頭で歩き出した。

 少年少女組がなんだかオドオドし始めた気がするが、きっと気の所為だ。

 

 

 

 銀の馬の骨に戻り、一度俺の部屋に。

 その前に、タイラーくんが今日の分の宿代を払ってから。

 俺? 俺は昨日のうちに、2日分払ってる。

 

「よし、念の為鍵掛けてくれ」

 俺はそう言うと、何も載っていないテーブルの上に手を翳す。

 そうして無制限に出そうと思ったが、少し意地悪を思い付いた。

 

「じゃあ、出すから、タイラーくんは確認してくれ」

 挑発気味にそう言うが、タイラーくんは面倒くさそうに欠伸する。

「俺1人じゃ時間がかかるだけだ。全員でやるのが良いだろう? なにせ、50億枚だったか?」

 良いねぇ、知らないってのは怖いもん()しだねぇ。

「良いぜ。じゃあ、みんな数えてくれよ? 10枚ずつ纏めて、数えやすく並べてくれれば助かる」

 そう言ってから、まずは机の上いっぱいに広がる程度を出す。

 綺麗に重なるわけでもなく、何枚かはテーブルからこぼれ、床に落ちる。

「どした? こんなもん、全然総数に足りてないぞ? ほら、早く数えてくれ」

 眼を見開くタイラーくんに、俺は此処ぞとばかりに挑発を繰り出す。

「お前、こんな枚数何処から……?」

 突如広がる金貨の小山に、タイラーくんは酔いが醒めかけのようだ。

 少し、余裕が失われている。

「おいおい、理解(わか)ってると思うけど、これまだ全然少ないからな? 早く数えないと、終わんないぞ?」

 ドヤ顔返しでニヤついて見せるが、タイラーくんはもう俺を見ていなかった。

 

 

 

 6人が、それぞれ10枚数え、纏め、10回繰り返して。更にそこまでを5回繰り返して。

 1人が500枚で、6人分。

「3千枚、丁度だ……」

 俺はそれを、一度ベッドの上に移動させる。

 

 キッチリ3千枚、キリ良く出るもんなのかって?

 

 収納されてたのは俺のアイテムボックスだよ?

 任意で枚数指定して引き出せるのは、何回か試してる。少ない枚数だけどね。

 そう、今回は「3千枚」を指定して出したんだ、最初から。

 

「よし、続きだ」

 俺が言うと、タイラーは目を見開く。

「なんだよ? 50億分の3千枚でしか無いんだぜ? まだまだ有るんだ、急がないと今日中に終わんないぜ?」

 挑発しつつ、俺は再びテーブルの上に手を翳す。

「……充分だ」

 タイラーくんの押し出したような声が、俺の動きを止める。

「3千枚も有れば、かなりの屋敷が買えるだろう。50億枚有るかどうかなんて、確認する意味が無い」

 おやおや。

 さっきまでの元気は何処へやら、タイラーくんは底知れない物を見る目を俺に向けている。

「そうなのか? 3千枚で充分だったら……」

 言いながら、金貨をテーブルの上に溢れさせる。

 全員が実際にその手で数えて、染み付いてしまった、その枚数。

「もう3千枚とか」

 更に、テーブルに収まり切らなくなり、床に流れ落ちる。

「更に追加とか」

 溢れた金貨が、床を埋めていく。

「もう3千枚出してみたりとか」

 もう言葉もない一同を見回して、改めてタイラーくんに視線をロックしながら口を開く。

 

「取り敢えずこれで、都合1万5千枚の筈だけど、確認するか? 1万5千枚有れば、まあそこそこのお屋敷が買えたりするのかな?」

 いつもマイペースなジェシカさんも、金貨の海にどう反応していいか理解(わか)らない様子で、口をパクパクさせている。

「あ、回収するけど、幻術とか疑われたらつまらんから、何枚か拾って良いよ? 急がないと、全部回収しちゃうぜ?」

 宣言。

 この宣言により、彼らは知らないだろうが、この金貨は俺の物、という扱いを離れる。つまり、拾った枚数だけそいつの物、という、ごく当たり前の状態になる。

 

 そして俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そういう便利機能が無ければ、後片付けが大変なパフォーマンスなんかしないよ。

 

「拾って良いって、お前、これ金貨だぞ?」

 酔も醒めたのか、常識人振りが戻ってきたようだ。

 思ったよりも効いたのかな?

 だったら良し。

「だから、コレが幻覚とか幻術とか思われる(ほう)が癪なんだよ。俺の面子(メンツ)の問題さ。拾って、確かめてくれ」

 俺が促すと、全員、数枚の金貨を手に取る。

 みんな、思った以上に善人である事よ。

 

「そんなんじゃ証拠にゃ足りないだろ? 両手で持てる分だけ取っとけって!」

 俺は無造作に金貨を握ると、まずはフレッドくんの両手に押し付ける。

「わ、わぁ⁉」

 驚いて取り落しそうになるのを何とか回避。

 ついでマシューくん、カレンちゃん、ティアちゃんに押し付ける。

「ホレホレ、大人組。何なら大人の汚さを、子供に見せつけてやんな」

 なんだか楽しくなってきた俺は、余裕顔で2人を煽る。

 顔を見合わせるジェシカさんとタイラーくん。

 まず動いたのは、綺麗な汚いお姉さん、ジェシカさんだ。

「おっとぉ、零しちゃったぁ♪」

 狙いすましてブーツの中に流し込んで、零したも無いでしょうよ。

 こんなモン立派に拾得扱いだし、そのブーツの中の金貨も当然ジェシカさんの物である。

「お前は……恥ずかしげもなく堂々と、良くもそんなマネが出来るな?」

 苦々しい声のタイラーくんは、いっそ清々しいほど堂々と、机の上の金貨を懐に放り込み、掴んでは放り込みを何度か繰り返している。

 

 自分が相方に吐いた台詞の意味を、じっくりと良く考える事をオススメする。

 

 子供達が、大人の汚さに引きながら、金貨を大事に抱えている様子を微笑ましく思いながら、残りの金貨を全て拾得し、収納する。

 

「……なるほど、確かに幻では無いな」

 床やテーブルからは金貨が消えたのに、懐に残った金貨を確認して、ニンマリ笑うタイラーくん。

 お前さん、ちょくちょくキャラ変わんのやめろ。

「ホントよねぇ。こんな重いブーツ、私持ったこと無いわ。あ、なにか(ふくろ)とか無いかしら?」

 ジェシカさんは、あんまり変わった気がしない。

 というか、最初は「履いてるブーツの隙間に流し込む」程度だった筈なのに、ちょっと目を離した隙に、脱いだブーツいっぱいに金貨を注ぎ込んでいた。

 まあ……うん。マイペースで結構なことである。

 ジェシカさん本人は変わりないが、子供達がジェシカさんを見る目は確実に変わっただろうな。

 

 その少年少女組は手にした金貨をどう扱って良いのか判らず、しかしテーブルとかに置いたら消えるとでも思っているのか、混乱の度合いを深めていく。

 

 面白いから見ていたかったが、そういう場面でもないので、落ち着かせるためにキチンと説明し、安心させてあげるのだった。

 

 

 

 どういう訳か俺が近所の道具屋で金貨を収納する為の革の鞄を人数分購入し、全員に振る舞うという良く判らない目に遭いながらも、このメンバーに「俺が金を持っている」事実を認識させた。

 50億枚はまだ半信半疑、というかハッキリと信じられなくても、少なくとも1万枚は持っている事は知っている。

 

「っつー訳で。まあ、家は買えそうって事で、宜しいか?」

 何を考えて全員無言なのかは不明だが、話が進まないのは困るので、思い切って問いかける。

「問題ないだろう……1万枚の屋敷となると、ほぼ城なんじゃないのか……?」

 この街で育ったというタイラーくんが、OKをくれる。

 ……そういや、タイラーくんはこの街の育ち、というか生まれなんだよな?

「……タイラーくんや、そう言えば君、実家はどうしたの? この街の生まれって……」

 少し呆然とした様子のタイラーくんに声を掛けると、ハッとしたようにこちらに顔を向ける。

「あ、ああ、俺は孤児院の()だ。家なんか持っていない」

 お前も孤児だったのか。

 なんだか急にどう声を掛けた物か判らなくなり、照れ隠しに頬を掻こうとして突き指しそうになる。

 まだ仮面に慣れていない。

 

 まあ、兎に角気分を変えて。

「よし、それじゃあ不動産屋に行きたい、誰か案内してくれるかな? 残りは解散で!」

 ふふふ。

 日本人ライフでは家なんてとても手の届く物じゃ無かったが、この世界でなら、どうやら余裕っぽいな!

 こんな都合の良い展開、絶対夢だ。

 でも、どんな原因で見てる夢か判らんが、夢ならば醒めるまでは愉しむのが礼儀よ!

 

 宿で毎回チェックインするのが面倒、たったそれだけの思いつきから始まったマイホームゲット作戦は、ここから本格始動する。

 実はタイラーくんの予想を超えた超高額がデフォで、思い付いたその日の内に頓挫するとかそういうオチが無い事を、俺は心の底から願いつつ、でもちょっとだけ期待しちゃうのだった。




仲間が居て、居場所が有れば、大人だって真面目に巫山戯る。
大人だって頑張れる。
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