ぁゃしぃ部分が有ったら小声で教えて下さい。
夢のなかくらい、大胆に行こうよ。
どうせ夢なんだし……現実じゃ……ねぇ……
泣いてないよ?
夢であることを良い事に、マイホームゲットしちゃおうぜ計画。
略して夢の自宅購入計画。
予算的には問題無さそうだったので、不動産屋への案内、それか場所だけ聞いて俺だけ向かうつもりで、解散を宣言。
したのだが。
「うん、流石に金貨が重いから、一度お部屋に置いてくるわ。此処か、
「そのお部屋は俺が支払いしている部屋だ。ああ、俺も荷物を置いてくる。少し待ってろ」
「僕は、鞄で持っても邪魔にならない重さだし、この鞄肩から下げられるから、このまま一緒に行けるよ」
「私も」
「私も!」
「うん、僕も」
誰一人、解散の意味を
いやまあ、別に着いて来てくれる分には心強いし良いけどさ。
俺、この街の地図とか、全然頭に入ってないしな。
結局、また部屋に集まってもグズグズしそうな気がして、
仮面は昨日までと同じで、服は気分を変えて一新。
・胸当て:翡翠採集者の平和
・手袋:メイジフィスト
・ズボン:火鳥の尾
・ブーツ:翡翠採集者の迅速
こんな感じの、見た目だけはセット系レアを中心に組み上げる。
戦闘予定は無しというか、これから行くのは商談、と言うより相談だ。
なるべくシックというか、まあ、落ち着いた雰囲気に「見える」見た目にしてある。
妙に露出の多い服を選んだ所で……その、言い
今まで
その理由は、まあ、顔が幼気に見える、って所で察しはついたと思うが……。
ただでさえ見た目的にインパクトが有るとは言い難いウィザードさんのボディが、より小柄に、慎ましくなってしまったと、想像して頂きたい。
出るトコ出てはいるけれど、ジェシカさんと比べられると泣くしか無い、つまりはそういう事だ。
肌を露出させた所で、風邪を引かない様にと、心配されて終わりそうである。
出るトコって腹の事か、だと?
髪は下ろしてある。
さっきはそこまで手が回らない、お急ぎ準備での外出だった。
今回は余裕が無くもないので改めて鏡を見て、なんだか新鮮で可愛かったので、そのままにしてある。
自分の顔を可愛いとか、って思うかも知れないが。
中味は27のオッサンだぞ? 言うと悲しい事実では有るけれど。
27年付き合った自分の顔に比べたら、この顔は可愛すぎるわ。
何処の馬の骨とも知らん男には触れさせんよ、触れさせられませんよ。
可愛いと言えば、カレンちゃんとティアちゃんがきゃいきゃいと騒ぎながらくるくる追いかけっこしてるのを眺めているとこう、心が
「待たせた……なんでコイツはこんな面白い顔でニヤついてるんだ?」
「誰が
コイツは全く
タイラーくんを見てそう思ってしまった俺に、非はないと思う。
ジェシカさんはいつも通り、クスクス笑っているだけだった。
ジェシカさんもタイラーくんも、宿暮らしが長い。
この世界では賃貸物件という概念が無いのか、と思ったが、職業が冒険者という事がその生活に関係しているらしい。
先に少し触れているが、冒険者として
魔獣や魔物の討伐の
そんな仕事で、ともすれば野営の方が多い生活スタイルになりがち。
決まった住処に憧れはあれど、賃貸で部屋を借りても禄に帰れないのでは資金が勿体ない。
街に帰って来たタイミングで宿を借り、そこで寝泊まりして仕事を請け、また街をしばらく離れて、というサイクル。
冒険者ギルドを中心にして、宿が多い理由もここにある。
「過酷なんだな、冒険者生活」
感心して他人事のような感想を漏らす俺だが、
「お前もその冒険者だよ」
タイラーくんは見逃してくれるつもりは無いらしい。
「……なんでまた唐突に、家を買おうなんて思ったんだ?」
歩きながら、タイラーくんが今更な疑問を投げてくる。
今更だが、確かに俺はきちんとした理由を話していない。
と言っても、大した理由じゃあない。
ひとつは単純に、夢の中でくらい家を持ちたいと思った、っていう軽い理由。
現実ではこんな理由で買えやしないが、夢の中で――あって欲しい――くらい、好きにして良いじゃない。
もうひとつは、明言した通り、いちいち宿のお支払いがかったるいから。
そして、更に。
「まあ、あれだ。折角会った仲間が集って、グダグダ出来る場所くらいは有っても良いだろ?」
たまに酒持って遊びに
そう言って笑う俺に、タイラーくんが肩を竦めて見せる。
「ああ、確かに、
……あれ? 俺、こんな事、今初めて言った筈だけど?
ジェシカさんを見るが、俺の不思議そうな顔を見て不思議そうにしているだけだ。
うーん? アレかな、さっきの広場で? それか、酒呑んでる時……は無いはずだ。
じゃあ、やっぱ広場か。
全然覚えてないな……。酒入ってたしな……。
「それにしても、お
楽しそうに弾む声に、振り返った俺はカレンちゃんと頷きあうジェシカさんを見る。
あれ?
なに、この違和感。
いやまあ、今まで縁のなかった事に触れられるのは、案外楽しいし興味深いのかも知れない。
ずっとニコニコ顔の子供組と引率のジェシカさん、これは意外と絵になるな。
ブーツいっぱいの金貨をぶんどる度胸の持ち主には見えない笑顔は、ポイント高いと思います。
「おい」
そんな事を考えていると、タイラーくんが俺に声を掛けてきた。
「この辺は商業区だ。なにか商売する気なら、この辺も有りかもな」
言われて顔を上げれば、活気あふれる商店街の入口。
生活には便利そうだが、出来る商売は俺にはない。
「商売の種がねェよ」
「そうか。俺もだ」
2人して顔を見合わせて、肩を竦めて歩く。
「目的の不動産屋はこの通りの中だ。スラム方面と貴族様のお屋敷街の近くを避ければ、どこでもそんなに変わらないと思う」
そんな事を言いながら、先に立って歩くタイラーくん。
「そっか。まあ、立地もそうだけど、必要な資金次第だけどな」
思ったよりも色々と考えてくれているらしい。
ちょっと意外な思いで前を歩くその後頭部を眺める。
時々引っ
ヘンリー不動産。
看板の下、「
「……いや、
ここまで来てちょっと気後れしてしまった、ていうかなんか思ってた不動産屋と違うんだもんよ。
もうちょっと親しみやすい所っていうか、えっと、これ。
ものすごい立派な店構えで、凄く入りづらい。
とまあ、そんな事も言っていられない。
深呼吸して、俺は扉に手を掛けるのだった。
正直、圧倒されてます。
びっくりするほど小市民、そんな俺だが、まず店内に入るなり用件を聞かれ、家の購入検討と伝えると少し奥まった一室に案内された。
綺麗に整頓された、白くて明るい部屋。なんか、買わなきゃ帰れない気がして冷や汗が流れる。
「おい。おい。ホントに俺の手持ちで予算足りるんだよね?」
不安になった俺が、担当さんを待っている間にタイラーくんに小声を向ける。
「幾らなんでも心配しすぎだ。1万枚は有るんだろう? それとも、城でも欲しいのか」
呆れたように、しかし小声でタイラーくんが返事をくれる。
呑まれそうな状況だと、こうやって返事を貰えるだけで有り難い。
「城か……悪くないね、掃除の手間考えなきゃな」
「言ってろ」
小声で軽口のやり取りをする俺達、というか俺をチラチラ見て、なにか言いたそうにしているティアちゃんに気が付く。
どうしたの、そう聞こうとした所で担当者さんが入室。
なんかごめんよティアちゃん、帰りに串焼き買って帰ろうね。
「お待たせしました、本日は……」
担当さんが畏まった挨拶をしようとするのを、俺は右手を翳して制する。
「失礼。あの、あまり堅苦しいのはご容赦頂けますと助かります。俺……私達はただの冒険者ですので、気軽に接してもらえると、とても助かります」
翳した手を口元に運び、笑う口元を隠して見せる。
初老の担当者さんは、少し驚いた顔をした後、メガネを直しながら笑顔で頭を下げ、対面のソファーに腰を下ろす。
「これは驚きました。冒険者の
ニコニコと笑顔を絶やさない、接客の見本の様な担当さん。
話しやすそうで、なんか安心できる。
「丁寧な冒険者なんて、現場じゃあ論外なんだけどな」
メイドさん
「時と場合を弁えておりませんと、冒険者そのものが
そんなタイラーくんに当てつけ気味で言ってのける。
言われた
何だその顔。
予想外過ぎて俺がびっくりするわ。
「お前、そういう口の聞き方出来たんだな……ただのガサツなバカ……失礼、粗忽な考えなしの女だと思っていた」
この野郎。
言い直した意味無いどころか、お前の言いたいことが明確に伝わりすぎてキツイわ。
担当さんが笑って良いのか困ってるだろうが。
っていうか笑い
「
出掛けに鏡を見てたのが効いてる。
まだなんとか、丁寧な口調はキープ出来てると思う。
内容は兎も角として。
「改めまして、本日ご案内させて頂きます、当館の責任者のヘンリーと申します。お見知り置き頂けますよう、宜しくお願い致します」
素直に驚いて、多分表情を繕うことを忘れ、そこで初めて仮面を外してない事に気が付く。
いや、仮面は着けたままの予定だったし、うん。
このままでもお茶は飲めるし、ね。
いやそんな事はどうでも良い。
初老の担当者さんは、物腰から、このお店でもかなりの地位の人だろうなって思っていたんだけど。
まさか、責任者さん、っていうか名前からしてオーナーさんだよね?
そんな人が出てくるとは思わなかった。
何か、心の何処かに引っかかる名前、そんな気がするが、当然知り合いなんかじゃない。
どういう事だろうか。
少し、考えてみたほうが良いかも知れない。
「これはご丁寧に、責任者様にご案内頂けて、大変嬉しく思います」
ちょっと驚いて、受け答えがしどろもどろになってしまった。
気合い入れ直さないと駄目だな、これは。
多分
それだけは覚悟しておこうと決めた。
地図を見せて貰いながら、こちらの希望を聞くと言うスタイルらしい。
「お勧めは、こちらの商業区の北側、それと貴族様方の邸宅近くですが、こちら。冒険者ギルドから見て南側で、少し距離はありますが、静かで住みよい環境と思います」
指差しで示される2エリア。
ちらりと視線をタイラーくんに向けると、小さく頷き返される。
判らん。
いや、なんか判る気はするけど、なんだそのドヤ顔。
「そうねぇ。貴族様のお住まいに近いのは、ちょっと気を使いそうで、リリスちゃんは窮屈な思いをしそうねぇ」
「それはどういう意味……かしら?」
不意打ち気味のジェシカさんに、
「えー、だってリリスちゃん、絶対貴族様と揉めるでしょう?」
「絶対って……」
何とかそれだけ答えて、今は漫才してる場合じゃないとヘンリーさんの方に顔を向け直せば、何故か驚いた顔で俺をまっすぐに見つめている。
え?
「あの……ヘンリー様?」
俺がちょっと驚いて思わず声を掛けると、ハッとした顔で、我に返った。
「いえ、大変失礼いたしました。それでは、こちらの地域の方が宜しいということで」
ヘンリーさんは
ここから
ちなみに、新築という選択肢は無い。
防壁に囲まれている関係上、土地は当然有限である。
土地は領主様が治めているので、土地を買うと言うのがまず難しいというか、無理だ。
それに加えて、余程老朽化していないと、建て替えも難しい様で、その建て替えも許可制。
一方で空き家はそこそこ有るらしく、無理な新築を望むくらいなら、中古の家を修繕した方が容易で、何より安いとのこと。
俺は別に新築に
そんな訳でヘンリーさんのお勧め物件を伺うわけだが、ここから予想してなかった問題が発生した。
「ふむふむ、なるほど。排水関係がしっかりしてるのは良いですね。お風呂も有るのですか?」
「はい、こちらの住宅は入浴設備が整っております。勿論、手直しは必要ですし、必然費用も掛かりますが」
幾つかの物件を、まずは書類上の話を聞いて選別して行く。
現場にいかなきゃ判らない、というのは物件を絞った後の話だ。
こちらの希望と向こうの持ち駒、そのすり合わせの果てに候補を絞り……。
うん、こんなのみんな知ってる話だね。
「おい」
物件を見て、あれこれと
なんだ? トイレか?
「なんでそんな狭い物件しか見ないんだ?」
真顔のタイラーくん。
コイツは何を言ってるんだ?
「なんでって、俺……私1人で暮らす家で、無闇に広くてもしょうがないでしょう?」
俺に管理出来る範囲なんて決まってるんだから、無駄に広くてもしょうがないだろう。
そう、思ったままを答えると。
「はあ?」
心底驚いた顔のタイラーくんが間の抜けた声を上げる。
「え?」
俺は反射的に答えて、ハッとして周りを見渡すと。
タイラーくんだけじゃなく、こっちサイドの全員が心底驚いた顔で俺を見つめていたのだ。
仲間たちの様子に、流石に口調を繕う余裕も失くし、話を聞いてみれば。
「リリスさん、一緒に暮らすのかって、楽しみにしてたのに……!」
カレンちゃんに泣かれ。
「……!……‼」
声を殺して泣きじゃくるティアちゃんにぽかぽかと叩かれ。
「驚くほどの薄情さだな。お前はそういう奴か」
タイラーくんの言葉のナイフで理不尽に斬られ。
フレッドくんとマシューくんは何も言わないが、目はしっかりと俺を非難して。
「あらあらあら。意思疎通できてない
ジェシカさんだけは変わらず、笑いながらそんな事を言っていたが。
要するに。
こいつら全員、俺の買う家に一緒に住むつもりだったのだ。
なんでそうなったん??
泣く少女2人を宥め、タイラーくんは無視して、俺はヘンリーさんに向き直る。
「……あの、すみません。申し訳ないんですが、この人数で住めそうな屋敷って、お幾らくらいなんです?」
聞くしか無いじゃん、こんなの。
いや、
当然俺もそう思うんだけど。
視線を転がせば、非難の目を向ける子供達。
一昨日出会って、それから何だかんだと一緒にいる時間が長い。
タイラーくんとジェシカさん。
この2人は昨日から、だけど甘っちょろい俺に喝を入れ、立ち直らせてくれた恩もある。
それを言えば、子供達だって俺のために泣いてくれもした。
そんなもん、理由にするには弱いけど、でも、なんというか。
ホントの事を言えば、一緒に暮らすものだと思っていた、そんな
寧ろ、妙な言い方だけど、ホッとしたと言うか。
無粋なことを言っちゃえばどうせ夢なんだし、これくらい無茶でも悪くないじゃない
それに、こっちは打算的な部分の話だけど、多分そんな大邸宅買えないよ。
7人で住む、今は子供は同じ
それを見越して全員個室で、となると、最低でも7部屋プラス諸々。
そんなの、予算が足りる訳無いじゃない。
みんなも、あんまりな価格を聞けば、流石に諦めるだろう。
そんな打算。
俺は頑張ったんだけど、予算がね? 的な逃げだ。
50億枚?
いざとなったらそんなもん、見栄を張ってました、で何とでも逃げられる。
「はい、そのご条件ですと……」
ヘンリーさんはこちらの悲喜こもごものちっさい修羅場を華麗に無視し、プロの接客技術で地図上の3箇所を順に指差してから、それぞれの間取り図を取り出してくれる。
「こういった所になりますが」
その間取りに添付されている金額に、俺は驚き、覚悟を決めるしか無いと悟る。
かなり広めの邸宅が、多少上下は有るものの、金貨5千枚程度とあっては。
逃げ場を探して袋小路に飛び込んだ感じの俺は、全員を引き連れて、ヘンリーさんの部下の人の後ろを歩く。
まだちょっとご機嫌ナナメのカレンちゃんとティアちゃんに両手を取られ、逃げられないポジショニング。
「こちらで御座います」
そんな俺の様子に小さく苦笑を浮かべ、まずは1軒目の邸宅へと案内してくれた。
現地で見ないとわからない事は多い。
1軒目は思ったより痛みが激しく、要修繕。
痛みが激しいとは言え、建て替えの許可は出ていないので修繕で対応するしか無いらしい。
修繕に金貨2千枚と、時間を
「――だそうだけど、どうする? ここ」
念の為尋ねるが、全員首を横に振る。
まあ、見た目が陰鬱だし、修繕すると言ってもねぇ……。
修繕中は、当然住めないだろうし。
続く2軒目は綺麗で、大きな建物に係員さん曰く小さな庭が有る。
「塀もしっかりしているし、建物に目立つ痛みは見えないな」
しっかりした作りの門を手のひらで叩き、門の中へ踏み込む。
小さい庭と言われたが、そこには東京の一般的な1軒屋を、二棟は余裕で建てられそうな広さは有る。
手入れの問題か、今は剥き出しの土肌だが、芝生を張っても良いだろうし、何なら畑を作るのも有りかも知れない。
ジェシカさんと少年少女組は係員さんに連れられて屋内へ。
俺もタイラーくんに声を掛け、庭を離れて建物へと入る。
派手すぎない玄関のホールで俺は早速立ちすくむ。
広い。
このホールで生活できそうなくらい広い。
「俺、こんな広い家で生活できる気がしねェんだけど?」
「じゃあ、お前は狭い部屋を選べば良いな?」
しれっと人を納戸か何かに押し込もうとするタイラーくんに睨みを利かせるが、全くどこ吹く風で螺旋階段を昇っていく。
コイツはいつか面白可笑しい目に遭わせてやらねば気がすまん。
俺は固く心に誓った。
1階8部屋、2階12部屋。
住むのは7人。
明らかに過剰なので、既に乗り気の6人を宥め、3軒目を見に行く。
こうして徒歩で回れる程の近場に大きな邸宅が犇めく様に立つこのエリアは、クラスで言えば中流階級と言った所らしい。
俺の知ってる中流と規模が違うわけだが、どうなっているんだ。
あれか、中流貴族か、と笑いながら聞くと、似たようなものだとタイラーくん。
嘘でしょ、ご近所貴族さんとか、絶対なんか問題起こすよ、主に俺が。
そんな事を思いながら到着した3軒目。
結論から言えば、2軒目の邸宅を買う事で話がついた。
3軒目、ヤベエくらいでかい。
庭に、2軒目の邸宅が3棟建つレベル。
当然、母屋はそれ以上のデカさの3階建て。
そんな規模が違うデカさの建物、同じ値段なんて絶対訳ありだと思って聞いてみれば、案の定だった。
まあ、ありきたり? な、お家騒動、乱心ご亭主の家族&使用人虐殺パニック。
その後幾人かの手に渡った物の、お約束の幽霊騒ぎで新ご主人ご乱心。
話を聞いたタイラーくんが「ここがあの……」なんて言ってる当たり、有名な話だったんだろう。
正直、曰く付き物件と聞かされて俺はテンション上がったのだが、他のメンバー、特にカレンちゃんとティアちゃんが泣きそうな顔で反対だったので断念。
そういう訳で、当初は「最悪、掘っ立て小屋でも」なんて思っていた俺の家探しは、話の振り方を間違えた俺のせいで「俺達の家探し」になり、結実を迎えたことになる。
……いつ何処で俺、間違ったのかな……。
購入意思を伝えると、心底驚く係員くん。
そりゃまあ、見て即決ってのは今まで
他所様の異世界転移/転生モノで、ご自宅購入系の話は素直に羨ましかったのだ。
夢か現実か判らんとは言え、購入できたのだからどうでも良し。
仮に夢だった所で、目が醒めたら俺が泣き崩れるだけだ。
被害者は居ない、じゃあ問題ないね。
ヘンリーさんのお店に戻り、購入手続き。
簡単な修繕に時間がかかるとのことで、1週間後に引き渡しとなった。
修繕ということで金額を上乗せで千枚プラスすると伝えて仰天され、その場で全額払うと伝えて更に驚かれる。
従業員さんの応援を呼び、金貨6千枚を人海戦術で数える。
それらの作業が終わったのは、夕日が赤くなりつつ有る、17時くらいの事だった。
ダイジェストでお送りしたが、これが俺が家を手に入れた顛末なのであった。
「来週から、新しいお家なんだね?」
マシューくんが楽しそうに俺の手を引く。
うんうん、可愛いもんだ。
可愛いのは良いんだが。
「君たちはホントにそれで良いのかね」
問わざるを得なかった。
今回のこれは、あまりにも皆、勢いに任せすぎだ。
元々仲間だった少年少女組。
ペアで活動していたであろうジェシカさんとメガネ。
……あれ?
ソロ、俺だけじゃん?
だ、だってまだこの世界に来て3日目だし?
い、いつ目を醒ますかも判らん夢の中だし?
なんか仲間が出来てほっとなんて、してねーし?
「だって、秘密教えてくれて、一緒に住もうって誘ってくれたんだと思ったし」
ティアちゃんが、俺の正面に立って見上げながら言う。
秘密?
「金持ちだって事だろ。無駄に見せつけられたしな」
タイラーくんが事も無げに言う。
「それが秘密って……いやまあ、確かに吹聴されたい
実はそんなに重要にも考えてなかったので、複雑な心持ちでは有る。
というか、俺が気にしてるのはそういう事じゃなくてだね……。
「お前さんはどうなんだよ、タイラーくんよ。話の流れから、お前さん達も引っ越すんだろ?」
察するとか慮るとか、そういうのが割と苦手な俺は正面から問いかける。
あんまりにも勢い任せなんじゃないかと思ったら、なんだか心配にもなるというものだ。
「なに、宿代の負担が無くなるのは良いことだ」
事も無げに言い切りやがった。
唖然としてジェシカさんを見れば、同感と言うように頷いている。
気が抜けるくらいに
溜息と苦笑を同時になんて、俺、人生で初めてだぞ。
「あー……取り敢えず、良く
こんなにすんなりと、しかも図々しく人様のマイホーム計画に便乗できる奴なんて、居る訳がない。
やはり夢の中なんだなあ、と、こういう時に強く思わされる。
きっと、俺は寂しかったんだろう。
目を醒ましたら、寄り付かなかった実家にも顔を出そう。
そんで、仕事がんばりながら、新しい出会いを、彼女と呼ばせてくれる
「ほう? お前、料理出来るのか?」
心底意外そうに、タイラーくんが声を上げる。
失礼な奴だと言いたい所だが、残念な事にそう問いたい気持ちは良く分かる。
俺の言動を見て、料理が
俺ですらそう思う。
「簡単なもんしか出来ねえよ。パンすら焼けんし、肉とか野菜を焼いたり炒めたり、その程度だ」
変な見栄を張っても絶対に良い事がない。
素直に料理出来ない属性の人間ですよとアピール。
「ま、旅暮らしだったらしいし、そんなものだろうな。俺達だって似たようなもんだ」
そう言うタイラーくんに、ジェシカさんが頷いてみせる。
遠征中の食事なんて干し肉と乾パンがデフォで、たまに獣を捕まえられれば、その焼いた肉はご馳走なんだとか。
そりゃそうよな。
フレッドくん
孤児院では料理が出来る子も居るらしいが、強制で当番が回ってくるとか、そういう事はないご様子。
今は
「……フレッドくん達は、
提案しただけで、輝く4つの表情。
あまりの判り易さに、手近なマシューくんの頭をぐりぐりと撫で回してしまう。
「ああ、パーティ用の大部屋が有る。
すぐにタイラーくんが教えてくれる。
伊達に
……んん?
「なんでさらっとお前らも同室の予定なんだよ。つーか、それで良いのかペア冒険者」
色々と問題ありそうな予感しかしないぞ。
そんな俺の心配を気にする様子もなく、タイラーくんは涼しい顔で言う。
「
「お前らは払え!」
なんで押し掛けといて宿代払わなくて済むと思ってんだこの野郎。
「大体アレだ、お前
教育に大変宜しくないからな。
羨ましいからじゃ無いぞ!
ちらりとジェシカさんに目を向ける。
俺と目があって、ニッコリ笑いながら手を振ってくれる。
……羨ましいからじゃ無いんだぞ‼
「お前はバカなのか?」
言外に否定しているのは判るが、口にしたのは
案外しっくり来るのが頭に来る。
よぉし上等、いかがわしい行為に及ぼうもんなら、お前は宿の軒先に吊るしてやる。
何なら
そんな、今後の予定では有るものの、分類で言えばどうでも良い話をしながら歩く内に、冒険者ギルドの前を通りかかる。
その建物の前で、見慣れた街の熊さんことハンスさんとグスタフさん、それに見慣れない冒険者が何やら話し込んでいる。
「ん? おお、なんだお前ら。雁首揃えて飯でも食ってたのか?」
こちらに気付いたグスタフさんが声を掛けてくる。
「ああ、
飯食ってきたレベルの軽さで言うと、グスタフさんは「おう」と答えてから、少し変な顔をする。
「家だぁ? また随分急じゃねえか、なんだ、この街に腰を落ち着けるつもりなのか?」
言いながら俺達を見渡す。
驚いているようだが、資金とかの疑問は無いもんかな?
いやまあ、問われても誤魔化すけども。
「ああ、好き好んで旅してた訳でもないしな」
適当にそれっぽいことを言ってみる。
グスタフさんもハンスさんも俺の言葉に頷いている辺り、それだけで納得してくれたらしい。
まあ、ハンスさんは受付さんから、俺が金貨持ってることは報告
ローンとか有るか知らんけど。
「
ハンスさんの台詞から、特に何か疑問を持っては居ないご様子。
後ろ暗い所は無いものの、それでも変な追求が無いのは助かる。
「所で、お前ら暇か? なんか仕事抱えてたりするか?」
グスタフさんが、ふと思い付いたようにこちらに話題を振る。
随分急だが、俺は当然フリーだ。
手を繋ぐマシューくんを見るが、首を横に振っている。
タイラーくんを見るが、そちらも同様。
「全員暇だよ。今日はもう、帰って飯食って、酒飲みに
俺の返事に、オッサン3人は顔を見合わせて頷きあっている。
……1人は知らない人だけど、この2人と顔つき合わせてなんか話し合える間柄のようだし、それなりベテランなのだろう。
そう思ってみれば、なるほど風格が有る。
「明日から、少し遠出してもらえるか? なに、
ハンスさんの言葉に顔を見合わせる俺達。
いや、多分そんなトコだろうなーって予感は有ったし、俺自身は別にイヤじゃない。
仲間も、困惑とか嫌悪の表情ではない。
「良いぜ、全員問題ない」
「あー、待て待て」
事も無げな
「討伐が絡むかも知れん
ハンスさんの言葉に、俺はなるほどと納得。
子供扱いの子供達は不満顔で口々に文句を言い募るが、ハンスさんの一言。
「お前たちの同行の許可を出すと、俺がリリスに説教される。勘弁してくれ」
俺の説教、と言うワードにピタリと不平が
下手に文句を言えば、自分たちも説教コースだとでも思ったのだろう。
人様に説教出来るほどご立派じゃない訳だが、聞き分けてくれて居るんだからそのままにしておこう。
取り敢えず、明日、昼前には俺・タイラーくん・ジェシカさんの3人でギルドに顔を出し、詳しい説明を受けて出発する事に。
行き先は大森林の指定地域の調査。
今回はあくまでも入口付近とも言える部分の調査、
大森林と聞いて、ざわりと心が揺らぐが、焦らないように抑え込む。
いずれ、明日の話だ。
一旦オッサン3人衆と別れ、屋台村で串焼きなんかをしこたま買って子供達に振る舞ってから、俺とタイラー・ジェシカ組は「銀の馬の骨」へ、子供達は自分達の宿へと向かう。
「なあ、提案なんだが」
宿へ向かう道すがら、タイラーくんが口を開く。
思ったよりも考え込んでそうな声色に、興味が湧く。
「あん? どした?」
返事しつつ先を促す。
「いや、何でも無い」
……じゃあなんで声掛けたん?
とは言わない。
まだ考えが纏まって無かったんだろう。
あれか、明日からの大部屋生活のキャンセルとかか?
まあ、便利な半面色々不都合とか出てきそうだしな?
俺は野暮な事を言わずに
だから、この短いやり取りを、タイラーくんの相方であるジェシカさんが何を思い、
お引越しは1週間後の急過ぎるスケジュール。
それまでに一仕事、冒険者だしね。