(ふ~、今日も忙しい日々でした。でも、中川生徒会長さん、もとい、中川先輩の役に立てるのであればそんなもの関係ありません!!なので、とても充実した気持ちです!!)
と、しずく、ニジガクの最寄り駅まで歩いているあいだ、生徒会の仕事をした、それによって疲れた自分の体をいたわっていた。しずくが入ったとはいえ、生徒会の仕事は激務であった。それでも、奈々のためになれる、そのことだけで充実した気分にしずくはなっていた。
だが、そんなときだった。しずく、
(あっ!!)
と、なにかを思いだしたかのように思うとすぐに、
(しまったかもです・・・。私、生徒会室に自分のペンを忘れてきてしまいました・・・)
と、自分のペンを生徒会室に忘れてきたことを思いだしてしまう。そのため、しずく、
(まだ完全下校時刻まで時間があります。ペンを取りに戻りましょう)
と、生徒会室に自分のペンをとりに戻ることにした。まぁ、実際のところ、明日、取りに戻ればいいのだが、しずくにとってそのペンはお気に入りなんだろう、そんなこともあり、しずくはすぐにでもそのペンを取りに戻ることにしたのかもしれない。
そして、しずくは急いでニジガクに戻ると駆け足で生徒会室まで行く・・・のだが、しずく、生徒会室に近づくとその生徒会室から、
「うわ~、やっぱり泣けます!!このラノベは私にとって一生のバイブルになる、そんな気がします!!」
という大きな、いや、とても聞きなれた声が聞こえてきた。これには、しずく、
(えっ、せつ菜先輩!!)
と、驚いてしまう。しずくにとってせつ菜は憧れの先輩である。けれど、数日前の同好会休止宣言以降、その声を耳にすることはなかった。それが、まさか、この場でその声が聞けるとは・・・。しずくにとって寝耳に水、だったのかもしれない。
そんなわけで、しずく、生徒会室へとダッシュすると、
バシッ
というドアを大きく開けては、
「せつ菜先輩!!」
と、声を大きくあげてはせつ菜の名を呼んだ・・・のだが、そこにいたのは・・・、
「って、中川先輩!!」
そう、ある本を呼んでいた、いつもの通り、黒縁メガネと三つ編みの奈々の姿だった。これには、しずく、
(せつ菜先輩・・・)
と、少しがっかりする。まぁ、まさかせつ菜がそこにいると思って来たのだが実際には奈々しかいなかったのだから、しずくが落ち込むのも無理ではなかった。
そんな奈々であったが、奈々、突然、しずくが大声をあげて生徒会室のドアを開けたもん・・・かどうかはわからないものの、きょとんとした姿でしずくを見ていた・・・のだが、すぐに生徒会長らしくふるまいたいのか、しずくに対し、
「しずくさん、突然、ドアを開けて大声をだすとは、なにかあったのですか?」
と言うと、しずく、
「あっ、中川先輩、申し訳ございません。自分にとって大事な先輩がここにいると思ってそんな行動をとってしまいました・・・」
と、ただたんと大声を出して生徒会室に入ってきた理由を述べると、奈々、
「ここは学校です。少しは静かにしてください」
と、しずくに注意をした。むろん、これには、しずく、
「本当に申し訳ございませんでした」
と、反省の弁を述べていた・・・。
だが、このときだった。しずく、奈々の目の前の机にある本が置かれれていることに気づいたのか、奈々に対し、
「ところで、中川先輩、先輩の目の前にある本ってなんでしょうか?なんか、中川先輩、私たちが帰ってから今までその本を呼んでいた気がするのですが・・・」
と、奈々に尋ねた。
すると、奈々、
「こ、これは・・・」
と、突然言葉に窮してしまう。どうやら、奈々、突然のしずくの指摘になにか困惑しているかのようだった。いや、フリーズしたようだ・・・。
なので、突然フリーズした奈々を尻目にしずくはその本を見てみる。すると・・・、
「中川先輩、この本って、今話題になっている「スペース・ホリデー」では・・・」
と、しずく、その本のタイトルを言ってみる。そう、奈々がこれまで呼んでいた本、それは、ここ最近、世間のあいだで話題になっている本である、「スペース・ホリデー」、であった。
「スペース・ホリデー」・・・、それは・・・、と、ここでフリーズしていた奈々がいきなり、
「しずくさん、この「スペース・ホリデー」はですね・・・」
と、まるで水を得た魚、といった感じで、この本、「スペース・ホリデー」について熱く語り始めた。
「ある宇宙の国のお姫様とある新聞記者の叶わぬ恋物語、ラブストーリー、なのです!!ある宇宙の国のお姫様が姫の業務に嫌気がさして身分を隠してお城をとびだしたのです!!そんなお姫様を新聞記者とは見つけたのですが、お姫様は自分の身分を隠すも、新聞記者はそんなお姫様を自分の家にかくまうのです!!!そのあと、お姫様は街を見てみたいというわがままを言ったので新聞記者はお姫様を連れて街に出かけ1日だけのデートを楽しむのです!!そのデートによって2人は知らないうちにお互いにひかれあおうとしていたのですが、その日の夜のダンスパーティーによってお姫様は自分の身分が新聞記者にバレてしまいます。それによって大騒動が起きてしまい、2人は離れ離れになってしまいます。その後、2人は城で再会しますがお姫様は自分の責務を果たしていくことを決めていたため、そのことを新聞記者に伝えると2人は別々の道を進むことになったのです!!」
と、普段のクールな姿とは違う、とても熱く語っている奈々の姿に、しずく、
「いつもの中川先輩とは違う・・・」
と、唖然となるも、奈々、そんなしずくに対し、
「と、まぁ、この「スペース・ホリデー」ですが、とても悲しいラブストーリーです。そのため、いつもは熱い展開のラノベが好きな私でも、そんな感動できるラノベに邂逅できたことはとても嬉しい感じがします」
と、自分のこの本における感想を述べるとともに熱い解説は終わりを迎えた。
そんな、この本への熱き思いを語った奈々であったが、しずく、そんあ奈々に対しある指摘をする。
「中川先輩、なんか、いつもの感じ、真面目でクールな生徒会長ではない感じがします・・・」
これには、奈々、
「えっ・・・」
と、またもやフリーズしかけるも、しずく、そんな奈々にお構いなしに、
「まるで・・・、まるで・・・」
という言葉のあと、ある人のことを言ってしまった。
「まるで、私にとってあこがれの先輩、せつ菜先輩みたいです・・・」
これには、奈々、
「えっ・・・、えっ・・・」
と、またもやフリーズしてしまった・・・のだが、今日で2度目、ということで、奈々、すぐにフリーズ状態から抜け出したのか、しずくに対し、
「せ、せつ菜先輩って誰のことですか?」
と、なにか慌てふためるかのような感じで答えてしまった・・・。ただ、これには、しずく、
「まぁ、たしかに、私、私の憧れの先輩の方でしたから中川先輩がせつ菜先輩であると誤認してしまったみたいです。中川先輩、困惑させてしまって申し訳ございません・・・」
と、謝ってしまった。これには、奈々、
「ほっ・・・」
と、なぜか胸をなでおろしていた・・・。
そんな奈々であったが、ここで、しずく、奈々に対しある質問をした。
「ところで、中川先輩、この「スペース・ホリデー」、好きなのでしょうか?この本は、今、世間で話題になっておりますが、それでも「ラノベ」ですよね・・・」
そう、この「スペース・ホリデー」、実は小説は小説でもジャンルは「ラノベ」であった。ラノベ、それは「表紙や挿絵にアニメ調のイラストを多用している若年層向けの娯楽小説」のことである。なので、普通は一般向けの小説とは違ったものにみえなくもなかった。いや、演劇や昔の映画、一般向けの小説が好きな、とても真面目なしずくにとって、自分と同じく真面目でラノベなど読まないように感じていた生徒会長である奈々がそのラノベを読んでいたことにちょっと違和感を感じていたのである。
ただ、そんなしずくの質問に、奈々、こう答えた、少し困惑しながらも。
「そ、それは・・・、あのアニメの映画「鬼滅〇刃」みたいに流行しているからです!!たしかにこの本はラノベですが、私とて1人の人間です。流行になっているものを読んでみたい、そんな思いだってちゃんとあります!!だからこそ、このラノベを読んでいるのです!!」
ただ、そんな奈々の姿、どうみても言い訳を言っているかのようだった。なので、しずく、わざとらしく、
「本当ですか~?」
と、奈々に言ってみると、奈々、突然、こぶしをあげては、
「えぇ、本当です!!」
と、しずくに対し毅然と・・・というかまるで反抗する子犬のようにしずくに言い返した。
と、そのときだった。奈々がこぶしをあげたのだが、その際、さぜか生徒会室の資料?を入れていると思われるスチール製の灰色の書庫に当たったしまい、その拍子に書庫の扉が開いてしまった。これには、しずく、開いた書庫のなかをみて驚きの声をあげる。
「こ、これは・・・ラノベの本!!」
そう、その書庫のなかにラノベの本がずらりと並んでいたのである。ここは生徒会室、なのに、生徒会とは関係ないようなラノベの本があるとは・・・。これには、しずく、奈々に対し、
「中川先輩、これはどういうことなのでしょうか?」
と、奈々に問い直す。これには、奈々、もう観念したのか、
「しずくさん、ごめんなさい!!このラノベ、すべて私のものです・・・」
と、白状してしまった。奈々にとってみれば「いつもクールで真面目な生徒会長」という化けの皮が剝がされた瞬間・・・だったのかもしれない。
だが、そんな奈々に対し、しずく、逆に、
「でも、なんで、生徒会長である中川先輩がラノベをなぜ隠しているのかわからないのですが・・・」
と、奈々に尋ねてみると、奈々、正直に、
「実はとある理由で私のラノベをここに隠しているのです。私にとってラノベは命の次の次に大事なものでして・・・。でも、私の家だとそのラノベを置くこともできず、仕方なくここに隠しているのです・・・」
と答えてくれた。
さらに、しずく、こんなことを奈々に言ってしまう。
「そして、今日みたいに、自分の好きなラノベをいつも読んでいた、そんな感じ、ですよね・・・」
しずく、あまりにも鋭い指摘である。奈々がラノベを読んでいた、そのラノベの本が沢山ここにある、そのことだけでこんな結論に導いたようだ。実は、しずく、書庫にあるラノベを見てこう思っていた。
(生徒会の役員たちが生徒会の仕事を終えてニジガクから出ていく時間と中川先輩がニジガクから出ていく時間に差がある、という噂がありましたが、このラノベの量からみて、私、ピンときました。まさか、中川先輩、役員のみなさんが帰ってからこのラノベを読んでいたわけですね!!)
そう、実はニジガクでは奈々にある噂がたっていた。生徒会の仕事も終わり帰っていく生徒会の役員のみなさん、対して、生徒会長である奈々はいつも完全下校時間近くになってようやく学校を出ていくことがしょっちゅうあったのだ。なので、そのことがニジガク内で噂になっていたのだ。ただ、奈々はニジガクの生徒会長、ということもあり、そのあいだの時間は生徒会長としての業務をしている、とも言われていた。だが、しずくは自分の目で書庫にあるラノベの量、そして、声に出してラノベを読んでいたであろう(生徒会長のドアをしずくが開けたときに)ラノベを読んでいた奈々の姿を見て、その噂を含めてすべてを悟ったのである。
まぁ、そんなわけで、もうこれ以上隠すことなんて無理、というわけでして、奈々、
「はい、そうです・・・」
と、素直に認めてしまった・・・、と同時に、
「このことはほかのみんなには内緒にしておいてください、しずくさん・・・」
としずくにお願いをした。
と、ここで、しずく、奈々すら予想にもしない行動をとる。なんて、しずく、自分のかばんから本を取り出しては奈々の隣に座ってその本を読みだしたのだ。これには、奈々、
「し、しずくさん、どうしたのですか?いきなり私の隣に座っては本を読みだすなんて・・・」
とびっくりするも、しずく、
「だって、私、そんな中川先輩みたいに、好きなこと、一緒にしたいのです・・・」
と、たんたんと答えてくれた。このとき、しずく、
(私も中川先輩みたいに、好きなこと、本を読むこと、それをしてみたいです!!そして、「好き」をはっきりと言えるせつ菜先輩に少しでも近づこうと思います!!)
と思っていた。奈々は好きなことを、ラノベを読むこと、そのためにみんなに隠れてはそれを楽しんでいた。なら、しずくもその奈々に見習ってそれをしたい、好きなことをしたい、そう考えたのかもしれない。
まぁ、そんなこともあり、しずく、
「いつもはクールで真面目な生徒会長、けれど、本当は隠れてまで好きなことをしよう、好きなものを言おうとしている中川先輩を見ていると私もその秘密の時間を中川先輩と共有したい、2人で好きなことをしてみたい、そんなことを思ってしまいました」
と、答えてしまう。しずくにとって「クールで真面目である生徒会長」という化けの皮をかぶった奈々が秘密のことをしている、それを共有したい、そんな思いもあったのかもしれない。それは、できる限り、しずくにとって憧れであるせつ菜に近づこうと、好きなことをしたい、けれど、そんな仲間が周りにはいない、だって、いつもしずくは「当たり障りのないいい子」を演じていたのだから、そんな演劇、映画という同世代のみんなとは違ったしずくの好きなことをしたい、その時間をほかの人と共有したい、そんな願望がしずくのなかにあった、それを叶えるチャンス、と、しずくはそう思ったのかもしれない。
ただ、これには、奈々、
「でも、本当に私の好きを堪能する時間に付き合っていいのですか?」
としずくに尋ねると、しずく、
「はい、中川先輩!!」
と、元気よく答えてくれた。
それと同時にしずくは奈々に対しこんな恥ずかしいことを言ってきた。
「それに、自分の好きを熱く語れる中川先輩のこと、とても尊敬していますから・・・」
そう、しずくはいつも「当たり障りのないいい子」を演じてきたため、「好き」を大々的に言える、そんな自分になりたい、そう思っていた、でも、いつも「当たり障りのないいい子」を演じてきたため、「好き」ということができなかった、対し、奈々はしずくに対し、自分の好きを、このラノベ、「スペース・ホリデー」を熱く語れることができた、それは、「クールで真面目な生徒会長」なのに、その奥では自分の好きがはっきりと言える、そんな奈々の姿をしずくはみたのかもしれない、そんな奈々になにかしら親近感・・・というか自分もそうなりたい、そんな願望を重ね合わせたのかもしれない。
まぁ、これには、奈々、
「まぁ、この姿で自分の「好き」を言うのちょっと恥ずかしいのですが・・・」
と、なにやら恥ずかしい様子・・・。
それでもしずくは奈々に語り続ける。
「それに、それに、私、まさか、自分の好きを語り合える仲間に出会えるなんて初めてなのです!!だって・・・」
これには、奈々、
「だって・・・」
と、しずくの言葉を反芻すると、しずく、意外なことを言ってしまう。
「だって、「スペース・ホリデー」、実は、その原作が私の好きな「ローマの休日」なのです!!」
そう、「スペース・ホリデー」、このラノベには原作があった。なんと、その原作が、しずくの好きな映画、「ローマの休日」、だったのである。「スペース・ホリデー」は若者向けに宇宙を舞台にしているがストーリーラインなどは「ローマの休日」をベースに作られていた。なので、しずくも「ローマの休日」を原作・・・というかストーリーラインなどが似ている「スペース・ホリデー」のあらすじを知っていたりするのだ。もちろん、しずくはこれまでラノベなどを読んだことがないため、この「スペース・ホリデー」を読んだことがない、にも関わらずだ・・・。まぁ、これも、「ローマの休日」が好きであり、そのまえになんども映画や小説版を読んでいるしずくの力、というのもあるのですがね。
で、このしずくの言葉に、奈々、
「た、たしかに、「スペース・ホリデー」の原作は「ローマの休日」です!!」
と、元気よく答えるとともに、しずくに対し、
「ところで、しずくさんは「ローマの休日」が好きなのでしょうか?」
と尋ねると、しずく、
「はい、そうです!!それに、今、私がカバンから取り出した本、それは「ローマの休日」の小説版ですから!!」
と、鼻高々に答えてくれた。そう、しずくが自分のカバンから取り出したのはいつもしずくが持ち歩いている本、「ローマの休日」の小説版だった。これには、奈々、
「たしかに、私も「スペース・ホリデー」を読んでからそのラノベの原作である「ローマの休日」を見てみたい、誰かと語り合いたいと思っていました」
としずくに言うとしずくも、
「はい、お願いします、中川先輩!!」
と、元気よく言った。しずくにとって同世代のまわりのみんなとは趣味も好きなものも語り合うことが出来なかった、いや、しずくは「当たり障りのないいい子」を演じてきた。だが、ついにしずくにも自分の好きを、「ローマの休日」を、一緒に語り合えることができる同性台の仲間、1年先輩の奈々と出会うことができた、そのことに嬉しさを覚えたのかもしれない。
そんなわけで、しずく、奈々に対しこうお願いした。
「それでは、中川先輩、いや、奈々さん、私と一緒に、私たちの「好き」を・・・、「ローマの休日」と「スペース・ホリデー」について語り合いましょう、私たちだけの秘密の時間を通じて・・・」
これには、奈々、
「うん、そうですね・・・。私たちだけの秘密の時間、一緒に共有しましょう」
と、元気よく答えてくれた・・・。
そして、翌日の放課後・・・。
(ふふふ~、奈々さんとの秘密の時間、「好き」を一緒に語れる時間が来る、そう考えるだけでとても嬉しい気分です!!)
と、しずくはウキウキ気分であった。昨日、奈々と秘密の時間を共有する、そのことを2人で決めたことでその時間が待ち遠しかったようだ。そのため、奈々の姿を見てはニヤニヤとしていた。
ただ、このとき、ふとあることをしずくは思っていた。そのこととは・・・。
(でも、「スペース・ホリデー」について熱く語っている奈々さんの姿をみて、一瞬、せつ菜先輩のことが私の脳裏によぎったのはなぜでしょうか?)
そう、ラノベ「スペース・ホリデー」について熱く語った奈々の姿を見て一瞬せつ菜のことを思いだしたことにしずくはちょっと戸惑いを感じていた。なぜなら・・・、
(でも、せつ菜先輩、ここニジガクのスクールアイドルであること以外、一緒に同好会にいた私とてわからないことだらけです。いや、その存在自体、幻、と言われています・・・)(しずく)
そう、せつ菜、優木せつ菜、そのスクールアイドルはここニジガクのスクールアイドルであること以外、その正体を含めて誰もその存在を知らなかったのだ。むろん、同じスクールアイドル同好会に所属していたしずくにとってでもある。同好会のときはすっと現れてはほかのメンバーたちを指導してはすっと消える、そんなことが普通であった。いや、完全にせつ菜の存在自体ニジガクのトップシークレットとも言われているくらい幻の存在だったのである。けれど、せつ菜は本当に実在した。スクールアイドルのイベントのときにには必ず出場するし、同好会のときも必ず現れてくれる。けれど、誰もその正体を知る者がいない、それが優木せつ菜であった。
けれど、しずくは、昨日、奈々の熱いプレゼンを聞いて、一瞬、奈々をせつ菜であると思ってしまったのだ。なので、しずくからすればそれは一瞬の気の迷い・・・だと感じたのかもしれない。けれど、それでも、しずく、
(とはいえ、それについては今は考えないでおきましょう。まずは先にあるこの仕事を早くすまして奈々さんとの秘密の時間を作ることにしましょう!!)
と、目の前にある仕事を早く済ますませようとしていた。
そして、20分後・・・。
「みんさん、さようなら」
と、この日は奈々としずくの頑張りもあり、大量にあった生徒会の仕事もたった20分で終わらせてしまった。ニジガク生徒会、そんなこともあり、生徒会役員たちははやめに帰宅することとなった・・・と同時に、
「奈々さん、私と奈々さんの2人だけになりました。ここからは私と奈々さんの時間です!!」
と言うと黒縁メガネと三つ編み姿の奈々も、
「えぇ、そうです!!ここからは私としずくさんのターンです!!」
と言っては自分たちだけの秘密の時間が始まる、そんな嬉しい気分で答えていた。
その後、2人は奈々が持つ「スペース・ホリデー」としずくが持つ「ローマの休日」を交換してはお互いに黙々と読んでいた。しzくにとってラノベを読むのは初めてである。けれど、自分が持っている「ローマの休日」とストーリーラインが似ていることもあり、
(これが「スペース・ホリデー」なんですね。なんか読みやすいです!!)
と、自分がこれまで読んできた小説より読みやすいことにびっくりしつつも、
(でも、「ローマの休日」のストーリーラインが似ているとはいえ、物語としてはものすごいものを感じます!!)
と、「スペース・ホリデー」を褒めちぎっていた。
そして、お互いに読み終えたあと、
「どうでしたか、奈々さん、「ローマの休日」、感動しましたか?」
と、しずくが奈々に尋ねると、すぐに、奈々、
「はいそうです!!私、「ローマの休日」の世界に引き込まれました!!」
と喜びながら答えると続けて、
「ところで、しずくさんもこのラノベは感動しましたか?」
と、逆に質問、これには、しずく、
「はい、とても感動しました!!「ローマの休日」を原作にしつつもところおかしく笑えるところが出てきてはシリアスな部分もある、まるで1つの映画を見ているような気がしました」
と、楽しく「スペース・ホリデー」の感想を述べた。
その後、2人は「ローマの休日」と「スペース・ホリデー」について互いに語り合った。
「しずくさん、王女は主治医にもらった薬が効いたのかベンチに座って眠ってしまいましたね!!」(奈々)
「はい、そうです!!でも、「スペース・ホリデー」だと、薬ではなく、お酒を飲み過ぎて眠った、って書いてありました!!その点が少し違う気がします」(しずく)
とか、
「私もスペイン広場でジェラートを食べたいです!!「ローマの休日」を読んで私もそう思いました」(奈々)
「ジェラートですね。なんかおいしそうですね。でも、「スペース・ホリデー」だとジェラートではなくたこ焼きになっていました。なんで、たこ焼き、なのでしょうか?」(しずく)
「しずくさん、それは、その舞台がスペイン広場ではなくオオサカ広場だからです!!オオサカといえばたこ焼き!!、だからなんです!!」(奈々)
など。2人ともお互いに読みあった本についていきいきと言ってはそれをもとにいろんな会話へとつなげていく、それはまるで2人だけの会話ゲームを、どれだけ会話を続けることができるのか、そんな2人だけのゲームをしているような雰囲気だった。むろん、これには、しずく、
(私、初体験、しました!!私、同じ世代の子と、奈々さんと、自分の「好き」について語り合うことができました!!とても嬉しいです!!)
と、自分にとっての初体験に嬉しい気分をしていた。
だが、そのゲームは1日だけでは終わらず、次の日も、
「ところで、しずくさん、ここだけど・・・」
「奈々さん、面白い着眼点です!!」
と、2人だけの会話ゲームは続いていた。
とはいえ、「ローマの休日」と「スペース・ホリデー」ばかり語り合うのではしのびない、ということで、しずく、奈々に対し、
「ところで、奈々さん、とても感動できるラノベはありませんか?私、少し、ラノベについて読んでみたいのです、演劇のために・・・」
と言っては奈々が書庫のなかに隠しているラノベのなかでとても感動できるラノベを借りようとしていた。でも、なんで、これまでは演劇や映画、一般向けの小説といったものを読んできたしずくが娯楽小説の1つであるラノベに手を出してきたのか。それにはしずくのある思いがあった。それは・・・、
(これからの演劇は古典の者や一般向けの小説ばかりではなく、ラノベや漫画、アニメなどといった二次元的なものまで出てきております。だから、私、これまでとは違うジャンルのものを読んでは自分の目の視野を広げてみたいです!!)(しずく)
そう、演劇の道に進もうとしているしずくにとってこれからの演劇で生きるためにも自分の目の見方、視野を広げようとしているのだ。これまで演劇というと「南太平洋」や「蝶々夫人」などのミュージカルものや「金色夜叉」や「十三夜」といった新派と呼ばれる現代劇などがあったが、ここ最近だと、漫画やアニメなどを原作として、いわゆる2.5次元ともいうべき演劇が多かったりする。例えば、タカラヅカで有名な某歌劇団も漫画原作の「ベルサイユのばら」は十八番ともいえる代表作があるけれど、それ以外にも「ルパン三世」「るろうに剣心」といった漫画なども演じていた。さらに、「テニスの王子様」などの2.5次元の演劇も長いあいだ続く作品もあったりする。それくらい、演劇の世界は、漫画、アニメ、ゲームの世界にまでジャンルが広がっているのだ。そのことを知っているしずく、それならばと自分の世界を広げてみようとしているのだ。ちなみに、タカラヅカで有名な某歌劇団の一番最初の演目はなぜか「桃太郎」だったらしい。
まぁ、そんなしずくの気持ちを悟ったのか、奈々、
「それなら、このラノベがいいかもしれません。このラノベ、「スペース・ホリデー」の次に泣けると思います!!なので、とても感動すること、間違いなし、です!!」
と、そのラノベをしずくに渡してはそう言ってはそのラノベを進めた。すると、しずくも、
「ありがとうございます、奈々さん。私、このラノベをすぐに読んでみます!!」
と、元気よく話した。
その後、しずくはこのラノベを寝るまでずっと読んでいた・・・。そして、翌日の放課後、いつもの2人だけの時間が来たとき、今日も黒縁メガネと三つ編みをした奈々に対ししずくはこう言った。
「奈々さん、このラノベ、貸してくれてありがとうございます!!とても感動しました!!」
これには、奈々、
「えっ、たった1日であのラノベを読み切ったのですか・・・。なんかすごい気がします・・・」
と、唖然としていた。だって、しずくに貸したラノベ、ゆうに300ページも超えるくらいの長編だったから。それをたった1日でしずくは読破するとは、奈々としてもしずくは強者として認めざるをえない状況だったのかもしれない・・・。
そんな奈々であったが、すぐにしずくに対しこんなことを言ってきた。
「しずくさん、ところで、このラノベ、どの部分が感動しましたか?」
これには、しずく、なにか悲しそうに話した。
「それはもちろん、主人公とお姫様が別れるシーンです!!ようやくボスを倒したのに、「これは運命だから」と互いに愛しあっているのに別れないといけない、そのシーン、何度読んでも泣いてしまいました!!」
しずくにとってそのシーンはとても悲しいものになったようだ。ようやく最終ボスを倒したのもつかの間、運命だから、という理由で互いに愛し合っていた主人公とお姫様が別れるシーン、しずくにとって何度も読み返して泣けるものだったらしい。そのことを知っているのか、奈々、
「たしかにそうかもしれないです。私もそのシーンは何度読み返しても泣けてきましたから・・・」
と、そのシーンを思い返してはしみじみと涙を流すも、すぐに、
「でも、そのあと、主人公、別れて遠くの星に行ってしまったお姫様を追ってきたのだけど、それについてどうかな?」
と逆にしずくに尋ねてみる。すると、しずく、
「えぇ、とても感動的なフィナーレでした。自分の愛したお姫様を追ってこれまで一緒に旅をしてきた仲間たちと別れてたった1人でそのお姫様のもとに行く、そんな主人公の行動、とても感動しました!!」
と元気よく答えてくれた。
こうして、そのラノベにおける2人の会話ゲームが始まった。と言っても、ラノベの感想を言い合うものだから、しずく、このとき、
(奈々さんと一緒に私の「好き」をずっと言えるなんて、なんかずっとこの幸せな時間がずっと続いてほしいです・・・)
と、その幸せな時間が続いてほしい、そんな願望が現れようとしていた。
だが、時間というのはあっという間に過ぎ去るものである。
「その場面ですが・・・」
と、しずくが言った瞬間、
「生徒のみなさん、完全下校時間になりました・・・」
という完全下校時間を知らせる放送が学校中に流れた。これには、奈々、
「っと、ここでタイムアップですね。でも、しずくさんとこのラノベについて語り合うことができて幸せでした」
と奈々がしずくに対しお礼を言うとしずくも、
「いえ、私の方こそ奈々さんとこのラノベについて語り合うことができて本当に幸せでした・・・」
と、逆に奈々にお礼を言ってしまう。
そんなしずくに対し、奈々、あることを言いだす。
「ですが、しずくさん、なんか、ここ最近、私の前にいると自分の思っていることをいろいろと話してくれるようになったから、最初、生徒会室に来たときよりも自分の意見を言えるようになった気がします」
この奈々の意見に、しずく、
(あっ、たしかに、奈々さんの言う通りです・・・。私、奈々さんの前だと自分の思っていること、ついつい話してしまいます・・・)
と、自分の変化に驚いていた。たしかにその通りであった。しずくはこれまで「当たり障りのないいい子」を演じてきたため、自分の思っていることを人に言ったりしなかった。けれど、奈々の前だと2人だけの時間限定ではあるが奈々に対し自分の意見をいろいろと言っているのだ。それはこれまでのしずくにとって考えられないことだった。そのため、しずく、
(それもこれも奈々さんのおかげです・・・)
と、自分の心のなかで奈々にお礼を言うとともに、
(それに、私、この2人だけの時間が、2人で自分たちの「好き」を言い合える時間が、ずっと続いてほしい、そう思いました・・・)
と、自分の心のなかにある願望を叶えてほしい、そう思い込むようになった。
だが、次の瞬間、しずくの心臓が、
ドクンッ
と鳴った。これには、しずく、
(えっ、今、私の心臓が「ドクンっ」っと鳴りました・・・」
と、少し困惑気味になってしまった。
と、同時に、奈々はしずくに対しこう言ってきた。
「しずくさん、今日は金曜日だから明日はお休みですね」
これには、しずく、
(明日が休み!!私、そんなの、嫌です!!もっと奈々さんといたいです!!)
と、思ってしまう。なんか奈々とは離れたくないようだ。ただ、奈々はそんなしずくの様子に関係なくこう言ってしまう。
「なので、しずくさん、明日、しずくさんの家に遊びに行っていいでしょうか?」
これには、しずく、
(えっ、私の家に来るのですか、奈々さん!?それって・・・、お宅訪問!!)
と、はっとしてしまう。いや、しずくの顔が真っ赤になってしまった。
と、同時に、奈々はしずくにこう告げた。
「しずくさんの家には「ローマの休日」のDVDがあると思います。それを2人で見たいのですが・・・」
この奈々の言葉に、しずく、
(えっ、2人で「ローマの休日」を見るのですか!?私、心臓が破裂しそうです!!)
と、しずくの心臓が破裂しそうになってしまった。ただ、これも奈々からすればそんなしずくの気持ちなんてお構いなし、
「しずくさん、どうでしょうか?」
と、優しく尋ねた。これには、しずく、
(う~、ノックアウト・・・です・・・)
と、頭に湯気を出しそうな思いでこう答えた。
「はい、いいです・・・」
これには、奈々、
「しずくさん、ありがとうございます!!あとで連絡先などを交換しましょう!!」
と元気いっぱいに答えていた。
ただ、このとき、しずくはこう思っていた。
(もしかして、私、奈々さんに惚れてしまった・・・のですね・・・)
そう、このとき、しずくは確信した、しずくは奈々に惚れてしまったのだと・・・。これまで自分の「好き」を言えずにいた。それが奈々によってそれができるようになった。いや、奈々の前ならそれができる、そのことがこの4日間で実感できた。そんなこともあり、奈々と一緒にいれば自分の「好き」を大々的に言える、だからこそ、しずくは奈々のことが好きになった、惚れた、とも言えた。
だが、このとき、しずくは別のことも考えていた。それは・・・、
(けれど、私には憧れの先輩がいます・・・。せつ菜先輩・・・、憧れ・・・、それも、惚れたことになるかもしれません・・・)
そう、せつ菜のことである。しずくにとってせつ菜は自分の「好き」を大々的に言える、そんなところに憧れを抱いていた。だが、その憧れは、いわば、「惚れた」、とも言えなくもない。奈々みたいにせつ菜も自分の「好き」をはっきりと言う、その点にしずくは憧れていた・・・というかひかれていた。その点でしずくはせつ菜に惚れていた、ひかれていた、のかもしれない。
けれど、その2人のうち1人を選べ、と言われた場合、しずくからすると、
(うぅ、私、奈々さんとせつ菜先輩、どっちも選べないです・・・)
と、ついつい悩んでしまう、どっちも選べずにいたのだ、しずくは・・・。そのため、しずく、悶絶しそうになる。
とはいえ、奈々はそんなしずくとの思いのことなんて知らずにしずくの連絡先などを交換するとともに、
「しずくさん、ありがとうございます!!明日、しずくさんの家に訪れますのでしずくさんの家に近づいたときには連絡します。そのときは宜しくお願いいたします」
と、先に話を進めてしまった・・・。ただ、このときのしずくはと言うと・・・、
(うぅ、明日、奈々さんが私の家に来てしまいます・・・。一体どうすればいいのでしょうか・・・)
と、とても心配そうになってしまった・・・。