魔法使いの孤独   作:飛び回る蜂

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1 Lonely Magus Lonely Wizard

 僕の名はアラン・クローリス。年は……しばらく数えていないけど多分45くらいになると思う。見た目こそ若いけど、僕らは見た目で年齢が分かりにくい。ただでさえ魔法使いは老化が遅いのだから尚更に。

 

 そう、僕は正真正銘の「魔法使い」。先人……先骨? の言葉を借りるなら、絶滅危惧種、時代遅れの、がつくけれど。

 

 僕が生まれ落ちた世界は「魔法使いの嫁」という漫画に酷似していた。

 羽鳥チセという精霊に愛された少女がオークションで出品され、それを異形の魔法使いエリアスが買い取り共に生活をしていくというお話。

 細かな所を省くけど、とても素晴らしい漫画だったことは覚えている。

 

 

 

 僕はそんな世界で二度目の生を謳歌していた。苦労したこともいっぱいあったとも。主に灰ノ眼によって。

 

 

 

 魔法使いの素質があると分かってすぐは「あちら側」の存在に酷く怯えていたこともあった。

 彼らへの対処を覚えて、ようやく一端の魔法使いとして生きていけるようになったけれど、今だって本当に恐ろしい。

 

 多くの魔法使いとも関りを持つようになった。

 というより、魔法使いはあまりに業界が狭すぎるから関わらざるを得なかったと言うべきかな。

 

 

 カルタフィルスにも会った。

 一目見た時、これは相対するだけで忌避感を抱き、会話するだけで自身の内を削るような悍ましいものである、と理解した。してしまった。

 

 ノームの加護を得られたのは運が良かったとしか言えない。

「素体」を地に還すことで武器を奪い、その隙に全力の逃走をしてようやく逃げ切ることを可能とするほど、隔絶した何かを彼からは感じてしまう。

 もう二度と、彼と会うのはごめんだ。

 

 

 しかしある時期を境に、とんと話を聞かなくなった。学園にもツテを使ってそれとなく聞いたが有益な話は聞くことは叶わなかった。

 ……ああ、でも魔術師の彼、レンフレッド君は何か知っているようだったが。

 

 

 

 

 本題に入ろう。僕はかつて各地を放浪しながら住処を探していた。

 

 

 

 

 アイルランドに赴きケルト神話の物語、その軌跡を辿りその過程で簡易なルーンを学んだりもした。

 ドルイドの教えを学ぶも今一つ向かず苦笑いされて、なんともこそばゆくなって恥ずかしかったなぁ。

 

 そこからイギリス、フランス、イタリア、ギリシャ等様々な国を旅して、そして多くの出会いに触れた。

 ロンドンではかの高名な魔法機構(マギウスクラフト)アンジェリカ・バーレイ(ジェムズ・ビー)」に会えたし、「エリアス・エインズワース(茨の魔法使い)」にもお目通り願えた。

 

 

 それより古い記憶ではかつての故郷、日本にも訪れた。神秘は薄まっていたが、それでも心は揺れた。

 

 

 日本では、兵庫に古く伝わる千手の松、その枝を枯れる前に譲り受けそれを杖とした。

 

 

 松の木は多くの国で不老長寿と厄払いを意味する木。

 ヘロデから聖母マリアを隠したとされ、死の恐怖からその身を隠すだろう、という神職の言葉もあり杖にしたんだ。

 僕の魂の故郷の枝は必ず、僕を守ってくれると信じていたから。

 

 

 気ままに流れ、個として生きてきた。背負うものもなく、世界の理に触れつつ生きてきた。

 

 

 それがつい二年前、灰の眼に唆されてマジック・アイテムに触れてしまったんだ。……今思えば、僕も悪かったとは思ってる。でも猫をも殺す好奇心には勝てなかった。

 

 

 それに触れた瞬間、チャンネルが狂わされたというか、別な次元、別な世界線を辿った地球に来てしまったらしいんだ。それも神秘がひどく衰退してしまったこの世界に。

 

 

 そんな僕が今何をしているかというと──────

 

 

 

 

 

 

「畜生ッ!! 何重に目くらましかけてると思ってんだよッ!! いい加減離れろよ!」

 

「さっきは見失ったけどもう絶ッ対!! 絶ッッ対に逃がさないよ!!」

 

 

 

 ───フリルのついたパワードスーツ着た女性に追われてるッ! 世界で一番の厄ネタに!! 

 

 

 

 

「なんで逃げるんだよ! ねぇ!!」

 

「君がいると()()()()んだッ! いいからどっかに行ってくれッ!!」

 

 

 

 

 僕はこの世界を見て回って確信した。この世界は───

 

 

 

 

「何度も言ってるだろう! 君には魔法使いの素質はないんだ!」

 

「そうだね何度も聞いたよ! でも魔術師の素質はあるかもしれないんだろ!? じゃあそれを───」

 

 

 

 

 

 この世界には、魔法使いも、魔術師もいない。否───

 

 

 

 

 

「ふざけたことを言うな。君の発明のせいで! 君の我儘のせいでッ! どれほどの魔法使いと魔術師が殺されたと思っているッ!」

 

「───ッ」

 

 

 

 

 

この女に殺された。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「だ、だって魔法というものがあるなんて知らなかったんだよ!? それらは空想上の産物としてしか存在し得なかった! 存在が立証できないものの存在をどうして信じられるというのさ! 現代に生きる以上それは不可能だよっ!」

 

「ハッ! 信じる気なんて無かったくせに? 君が君自身の家の伝統や歴史を軽んじていたのがその証左。その結果がこの世界の神秘の衰退と破滅を招いたんじゃあないかッ!」

 

 

 

 この世界に移動させられてから2年、主に欧州を調査して分かったことがある。

 こちらにもオベイロン様やティターニア様のような「 妖精の国(ティル・ナ・ノーグ)」の住人、すなわち「あちら側」の存在は確かにいた。

 

 そう、()()()()。その多くは既にあちら側に身を隠してしまった。

 人と関わることをやめてしまったのだ。自然の中での営みを諦めてしまった。

 この世界における急激な近代化が、この地球上の神秘を根こそぎ破壊してしまったんだ。

 

 

 

 今やこの世界で純粋な魔法使いは僕だけ。 学園(カレッジ)も無く、魔術師も最早存在しない。

 

 

 

 僕はこの世界でただ「独り」の魔法使いだ───

 

 

 

 

「僕は一人の神秘の体現者として、絶対に君を許さない。故に、僕は君に一切の教えを説くことはない。君とは永遠にさようなら、だ」

 

「ま、待ってよっ! 私はただ───」

 

 

 

 

 

閉じろ 閉じろ 暮れの守り人  隠せ 隠せ 松の葉よ

 

その実は聖者の手の写し 白痴の王からその身を隠せ

 

 

 

 

 

「消えた……? ま、待ってよッ!! 待ってッ!! 行かないでよッ!!」

 

 

「君も私もこの世界では異端だろ!? 君も私と同じなんだろう!?」

 

 

「なら独りにしないでよ! 私は君なら───」

 

 

 

 君となら本当の友達になれると───! 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに僕はこの世界では異端だ。忌み嫌われるべきだろう」

 

 

 

 

 

「それでも僕は人と共存できる。君はどうだ。できるのか」

 

 

 

 

 

 

影にイラクサ ヒイラギの輪

 

十重に二十重に 蜘蛛の巣糸を かの枝に紡げ

 

 

 

 

 

「共……存? 私が……? 人と……?」

 

 

 

「君は魔法使いで、私は科学者。なのに、私はどうして共存できない……?」

 

 

 

「人じゃないのは……私……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ~森~

 

 

 

「───カハッ! ゲホッ! ……ああクソッ! やはり羽鳥さんやエインズワース殿のようにはうまくいかないか……!」

 

 

 どうも着地が悪く、葉っぱの山に突っ込んでしまったようだ。

 うまくいかないことばかりで嫌になってしまう。

 

 羽鳥さんは確か、ロンドン中心から西の端の方まで容易に飛んだ。

 カンタベリー周辺だとすると距離にしておよそ100kmの距離を難なく転移したということだ。

 

 対して僕はどうだ。僕の魔力ではたかだかニューキャッスルからカーリングフォードまで、直線距離でおよそ30kmを飛ぶだけで魔力が枯渇してしまった。

 

 あまりに切羽詰まっていて、頭に浮かんだエインズワース殿の呪文をお借りしたのもあるだろう。

 他人の、それも同じ魔法使いの文言を借りている以上、自分に適性の無い魔法を用いた。

 それらも相まって、消耗が激しすぎる。彼らはこの程度の距離、平然と飛んでみせるのだろう。

 

 

 

「……いや、これは 夜の愛し仔《スレイ・ベガ》である羽鳥さんの魔力とエインズワース殿の技量が凄いんだ。二人が規格外なんだ」

 

 

 

 誰へともなく、言い訳をする。

 それくらいに、自分の能力の低さに呆れてしまう。

 

 

 

「ああもう、心臓が破裂しそうだ……だが、お蔭でなんとか撒けたようだね」

 

 

 

 さて、この後どうするべきかを考えなくては。

 僕の使う転移はそこまでの距離を稼げていないが、幸い向こうはそのことを知らない。

 探知機の類がつけられていれば、この地に未だ住まう数少ないレプラコーン達が騒ぎ出すはずだから問題ないだろう。

 彼らは特定の金属を嫌がる。恐らくは、まだ大丈夫だろう。

 

 

 

「少し遠いけどカーロウ州を目指してみようか。確かあそこにはイチイの森がある。イチイは魔除け、悪い魔女から身を隠すにはちょうどいい……筈」

 

 

 

 一先ずそこに身を隠そう。

 幸い、アイルランドは未だ近代化の影響をあまり受けていない。

 それに魔除けとなるナナカマド、厄除けのハシバミの木も少なくない。きっと身を隠すのに役立つだろう。

 

 ……もはや「あちら側」に逃げることすらできない。

 ただでさえ人を好まない上に、今彼らは酷く人間に対して怯えている。

 僕のような異分子がいけば必ず怖がらせてしまうだろう。

 それに、いるかは分からないがスプリガン(丘の防人)が黙ってはいまい。

 

 

 まだ、この地には神秘が残されている。僕は、それを護らねば───

 

 

 

「せめて水鏡が使えて、向こうと連絡が取れればなぁ。学園かエインズワース殿、教会や魔女集会という手も使えるんだけど……」

 

 

 

 

 

 

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