魔法使いの孤独   作:飛び回る蜂

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7 Act before thinking.

 その時の僕が何を考えていたのかは今でもわからない。

 

 

 

「……君はどうしたい?」

 

 

 

 心に巣食う寂寥に嫌気がさしたのかもしれない。

 

 

 

「……どうもしない。小娘一人が、ただどこかで野垂れ死ぬだけだ」

 

 

 

 泣いているこの子を見捨てるのに嫌悪したのかもしれない。

 

 

 

「質問に答えてくれ。君はどうしたいんだい?」

 

 

 

 

 いや、言い訳したとて結局のところ、僕も()()()()なんだろう。

 

 

 

「……どうせ届かないのに、希望に手を伸ばして何になる」

 

 

 

 これじゃ灰ノ眼やエリアス殿のことを、悪く言えないな。

 

 

 

「君は何を望む。君は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───君はまだ、生きていたいかい?」

 

 

 

 

 

「生きていたいか、だと……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きていたいに決まってるだろうがッ!!」

 

 

「怖くても、辛くても、寂しくてもッ!!」

 

 

「何も為せず死ぬなんて嫌に決まってるッ!」

 

 

「死ねてよかったなんて口が裂けても言うものかッ!!」

 

 

 

 

 

 

「……だがどうしろと言うんだっ」

 

「力も、技術も、金もない小娘にできることなんて身売りくらいのものだ!」

 

 

 

「死にたくなんてないっ、私はッ! 生きたいんだッ!」

 

「生きたいのに……っ! どうしたらいいか分からないんだ……!」

 

 

 

 息を荒げて叫ぶ彼女は、まるで路傍に迷い癇癪を起こす子供のようで。

 

 あまりに()()()()()()()思ってしまった。

 

 

 

「……そうか。君の意志は理解した」

 

「ならば君に選択肢を与えよう。勿論選ばなくてもいい。君があるべき場所に帰るだけだ」

 

 

 

 

 

「一つは僕の友人の元へ行くこと」

 

「義に篤く、決して君を悪いようにはしない。なにより僕に借りがある。君が欲した力を与えてくれるだろう」

 

 

 

 分かっている。これは()()()()()()()の愛し方だ。

 

 

 

 

 だが僕の心は言うことを聞かない。

 

 たとえそれが妄執の怪物に成り果てる道だとしても

 

 

 

 僕はもう───

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一つは」

 

 

 

 ───もう、独りぼっちは嫌だ

 

 

 

 

「僕の元で魔法使いになること」

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ! この写真! クーちゃん懐かしいね!」

 

 

「はい、お母様。以前訪れたオスロ国立美術館の前で撮影したものですね」

 

 

 

 ここは私の移動研究所、の部屋の一つ。

 クーちゃんとの大切な思い出がいっぱい詰まった部屋。

 自分の家じゃないのかって? ……私がいると分かるといっぱい人がきて鬱陶しいし、箒ちゃんや、まぁ、母さんや父さんに悪いし。それくらい弁えてるし。

 

 私がこの子を育てると約束してから2か月弱。

 出来る限りのことをしてきた。

 色んなところに旅をして、いろんな人と話をした。

 ご飯も自分たちで作るようになった。

 

 

 その甲斐あってか、表情はまだまだ固いけれどとても素直に感情を表現するようになった。

 この前なんて一緒に手を握って街中を歩いたりした。

 

 

 少しずつ遠慮が無くなってきて、その度にこの子の心に寄り添えているんだと実感できて。

 それがたまらなく嬉しくて……! 

 

 

 

 

 

「そーそー! 撮影頼んだ人たち絶対に気づいてなかったよね!」

 

「間違いないかと。まさかお母様が人にものを頼むとは思わないかと」

 

「まーそうだよね! 私が人にものを頼むなんて……ん? あれそれ褒めてる?」

 

「褒めてますよ」

 

 

 

 うーん。ならいっか! 

 

 

 

「……おや? お母様、通信が入っているようです」

 

「んー誰だろ。この回線知ってる人ほとんどいないはずだけど。なんか表示されてる?」

 

「えぇと登録名は……。【serene】と表示されています。初めて見ますが、これは一体……?」

 

「えっ、嘘」

 

 

 

 sereneはアランの登録名。こちらからかける際に分かりやすいよう、「向こう側」で呼ばれていた通称をそのまま登録名にしてたんだけど。まさか向こうからかかってくるなんて考えてもみなかった。

 

 

 

「どしたんだろ、アランに何かあったのかも。ちょっと出てくるね」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 急いでモニターの前について通信をONにする。といってもアランはPCなんて持ってないからSOUND ONLYなんだけど。まぁ気分だよ気分! 

 

 

 

「ハロハロー! アランから連絡なんて超めずらしいじゃん! どしたのー?」

 

『やあ、束に報告があってね。事後報告になってしまって申し訳ないんだけど』

 

 

 

 報告、報告かぁ。なんだろう、全然予想がつかないや。

 同族がいた痕跡があったとか? いや、事後報告にするってことはもう接触したのかもしれない。

 つまりこの世界のは未だ神秘が残されている可能性。

 だとしたら、私はその人に会う義務がある。

 

 

 

「報告って? 結構大事な話?」

 

『そうだね、言葉を濁すのも面倒だし単刀直入に言おう。弟子を取ることにしたんだ』

 

「へー弟子ね。そっか魔法も継承できるんだ。ん? でも前に遺伝的な要因が強いって、ああ在野の魔法使いもいるって言って……って、弟子ぃ!!?? 

 

 

 

 ちょ、ちょっと待って? 頭が追い付いてない。弟子? 

 

 

 

「それってこの世界の人間!? ひょっとして、この世界にまた神秘を根付かせる為とか!?」

 

『うん、こっちの世界の人間。もう一度世界に根付かせる方は無理だね。既にこの世界は魔法を使うのに適さない大地になっているんだ』

 

 

 

 違うか、じゃあ何故。この世界で一番自分を異端と評し、干渉を嫌ったアランが。この世界の人間から弟子を取るなんてありえない。

 

 

 

『ちゃんと事情はあるよ。というのもだね───』

 

 

 

 

 

 

 

『はー、なるほどねー。……うぅ、ごべんねぇウーちゃん……』

 

「束が悩むことではないよ。既にその研究所も軍によって制圧されているようだし。……待って、ひょっとしてウーちゃんってラウラのこと?」

 

 

 

 私の研究成果があらゆる所で孤児を生んでるという事実に頭と胸と胃が痛い。

 いや出来る限りの対応はしているんだけどいかんせん数が多い。

 

 ペーパーカンパニー立ち上げて、目立ちすぎない程度に稼いで、それを寄付やら復興やら根回しに使っているけれど到底追いつかない。

 これ以上やるなら名前と顔を出さないといけなくなる。

 しかしそうなれば、なり振り構わない連中を刺激しかねない。

 

 余計な犠牲を生むことだけは避けないといけない。

 だからこそISがでてまだ三年たたない内に片っ端から悪事の目を潰しているんだけど、中々これが尽きない。

 

 そんな被害者の一人がアランに拾われたのはある意味僥倖かもしれない。今まで人の醜悪さに狂わされた人生、少しでも美しいものに触れて幸せになってほしい。

 

 

 

「じあわせになっでねぇ……!」

 

『娘をやる親みたいなこというもんじゃないよ……。何なら代わろうか?』

 

「ズビッ、……ううん。直接会いたいから今はいいよ。その代わり会ったらいっぱいお話させてほしいな」

 

 

 

 クーちゃんとは出自が出自だけに、姉妹みたいになれるかも。

 家族が私しかいないクーちゃんにとって、いい刺激になると思うんだ。

 

 

 

『分かったよ。ならその時に』

 

「うん。そしたらいつ頃会おっか。しばらくウーちゃんにつきっきりでしょ?」

 

『うーんそうだね……。来月当たりでどうだろう。それまでに教えるべきことは教えるから』

 

「来月、来月ね。ちょっと待ってて」

 

 

 

 予定はなかったと思うけどクーちゃんにも確認しとこっと。勝手にいろいろ決めちゃったら悪いもんね。

 

 

 

「クーちゃーん! 来月頭なんか予定あるー!?」

 

「いえ、主だったものはありません。母様の研究開発に予定がつくならいつでも動けます」

 

 

 そう間を置かず返事は帰ってくる。だよね、特に予定という予定はないはず。

 

 

 

「こっちは大丈夫だよ! いつでもオッケー!」

 

『助かるよ。……さっきのがクロエ?』

 

「そだよ。今から代わるねー。ほいクーちゃん、アランだよ」

 

 

 

 モニター前にクーちゃんを座らせてヘッドホンを被せちゃう。こういうのも慣れだよ慣れ。

 

 

 

「あ、あわわ。その、何を話したら」

 

「話したい事話せばいーんだよ! さっ、早く早く!」

 

 

 

 個人的に二人が何を話すのか少し気になってるというのもあるけど! 束さんったら冴えてるぅ! 

 

 

 

「ええと。も、もしもし?」

 

『もしもし、初めまして。アラン・クローリスだよ』

 

「あ、あの! クロエです! クロエ・クロニクルと申します!」

 

 

 

 クーちゃんガチガチだなぁー! いやそりゃ私以外初めて人と話すんだから緊張もしちゃうかぁ。

 

 可愛いなぁクーちゃん

 

 あんなに心閉ざしたクーちゃんが誰かと話してるのを見ると何だかさ、すっごい嬉しくってさ。

 

 

 

「……えっへへ」

 

 

 

 なんかすっごく心が温かいんだぁ……! 

 

 

 

『束から話は聞いているよ、クロエ。束はいつも、楽しそうに君のことを話すからね』

 

「あ、ありがとうございます! それで、ええと、そのあの」

 

『大丈夫。落ち着いてから、ゆっくり話してくれればそれでいいんだ。僕は待つよ』

 

 

 

 おーさすが。話し方に年季入ってるね。

 声の若さと落ち着き様にギャップがあるから混乱しそうになるけどこの魔法使い50歳、下手したらもう80近いんだよねぇ……

 

 

「は、はい! ええとじゃあ! 聞いてもいいですか!」

 

『うん、どうぞ』

 

 

 

 

 

「あ、貴方が私のお父様ですか!?」

 

 

 

 

 

『……えっ』

 

 ……ん? 

 

 

 

「お母様が仰ってました。命の尊さを教えてくれたお方だと。私に心を下さるきっかけになったお方だと!」

 

 

 

 あ、あー確かに言ったね。うん。間違いない。

 

 

 

「親しい方にもあだ名のお母様と名前で呼び合う程大変親密な仲でいらっしゃると!」

 

 

 

 いや、うん、まぁ違わない。けど私がアランを名前で呼ぶのはアランにとって名前が在り方に関わる大事な物だからだよ? 一種の敬意のつもりなんだけど。

 

 

 

「お母様は私に母と呼ぶことを許して下さいました。ですが、常々父様がいないことに疑問を持っていたのです。ですがこのクロエ、ようやく分かりました。あなたが───」

 

 

 

 そっかー、クーちゃんも「どうしてお父さんがいないんですか?」って思ってたんだね。口にしなかっただけで。

 

 

 

『待って待って待ってほしい。ちょ、ちょっと束、一体これはどういう───』

 

先生! 私には父と呼ぶことを許してくれないのにその相手はいいのか! 何故だ! 私には何が足りないんだ!? 教えてくれ! 言うとおりにして見せる! パパか!? パパと呼べばいいのか!? パパァーっ! 

 

『ラウラ! 通話中だから入ってきちゃダメだって! コラ危ないからしがみつくな!』

 

 

 

 向こうの方でもひと悶着あったっぽい。あーこれはあれだね。収集つかないね。

 

 

 

『ああもう離れないか! 束ッ! 後で話を聞かせてもらうよ! じゃあね!』

 

「えっ、私? ───切れちゃった」

 

 

 

 えっ、私何も悪いことしてないのに? 嘘ぉ

 

 

 

「母様? 切れてしまいました」

 

「そーだね、切れちゃったね」

 

 

 

 ……もう知ーらなーい! どーにでもなれー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、申し開きは?」

 

「……(プイッ)」

 

 

 これだ。正座してはしても顔をそむけてプイッとしている。

 可愛い。いや可愛いじゃないが。

 

 僕自身クロエと会ったことがない、それどころか声を聴いたのも初めてなのに彼女らからは父親扱いされている。

 歳で言えば君達孫だよ、孫。

 

 

 

「僕はヨモギの煎じ薬を調合するようにと言ったはずなんけどね。放り出して飛び込んできたことに弁解はあるかい?」

 

「……ずるい、ずるいずるいずるい! 私はこの一週間ずっと父様と呼びたいのに我慢して先生と呼んでいたのに! ずるい!!」

 

「ラウラ。僕は今日初めてクロエと話したし、そもそも僕は結婚したこともない。あれはクロエの勘違い───」

 

「先生、いや父様! 結婚してなくて親なのに一度もあったことが無いというのはどういうことだ!? そんなにも複雑な関係、いや、篠ノ之博士が相手ともなると確かに公的な関係になることは避けたいか。すまないっ、父様。私としたことが配慮していなかったっ」

 

「……君に必要なのは配慮じゃなくて考慮だ。それと僕は父親じゃないし、束とそういう関係でもないから先生と呼んでくれ」

 

 

 

 おかしい、僕は孤独に苛まれて、決してするべきではないと思っていたことをしでかしたというのにどうしてこんなに疲れているんだ。考えるまでもないこの子のおかげだ。

 

 

 

「でも父様、少し安心したぞ」

 

「何がだい? 僕は現在進行形で安心できないんだけど。孫みたいな子たちに父と呼ばれることって結構罪悪感あるよ? だから父様って呼ぶのやめて」

 

「断る。私を育ててくれるのだから父と呼ぶのに何の衒いがあるというんだ」

 

「分かってはいたけど君、意志が強いよね……」

 

 

 

 アンジェリカ殿、こんなにも貴女に会いたくないと思ったのは初めてだ。今会ったら本気のパンチでぶちのめされかねない。

 

 

 

『このペド野郎がッ!! いつかやるんじゃないかと思ったよッ! 二度とウチのの敷居をまたぐんじゃないよッ!!』

 

 

 

 ああ、在りうる……。帰るのがほんの少し、憂鬱だ……

 

 

 

 

 

 未だ自分の中で燻るものはある。

 僕のやっている所業はイーサン君を連れ去ろうとした灰ノ目と何ら変わらない。

 むしろ違う世界に遺恨を残す分、より悪質だ。

 

 こんなものはただの言い訳でしかない。

 僕の心の醜悪さを許すものでは断じてない。

 

 

 

 

 

 

……じゃあ僕は一生この世界にいなくてはいけないのか? 

 

独りで、何十年も、何百年も───? 

 

 

 

 同族はおらず、帰れる保証もない

 

 

 そのことを考えると、夜眠ることがどうしようもなく恐ろしくなる。

 

 

 仲間が欲しかった。薄暗闇を共に歩く者が欲しかった。

 

 

 束が、羨ましかった ()()()()()()()

 

 

 だというのに───

 

 

 

 

 

「父様は私と同じくらい寂しそうな瞳をしてたからな。少しだけ安心、だ」

 

 

 

 

 

 ああこれは、選択を誤ったかもしれない

 

 

 まさかこれ程まで愛しいものだとは思わなかった

 

 

 これでは増々手放せなくなってしまうじゃあないか

 

 

 

「……ありがとう、ラウラ」

 

 

「? うむ!」

 

 

 

 

 

 君を導くのは、善良な魔法使いなんかじゃない

 

 

 灰かぶり姫を美しく着飾るようなものでは決してない

 

 

 黄昏時にあちらに誘う、とても悪い魔法使いだよ

 

 

 

 

 

 

 けれど命ある限り 君を守り、導くと誓おう

 

 

 

「それはそれとして、ごめんなさいは?」

 

「いーやーだー!! 私も父様と呼ぶんだー! ダメならパパと呼ぶぞっ! なぁパパっ!」

 

「ごめんそれだけはやめて。パパは本当にマズい。僕の様々なものが失われてしまう。お願いだから」

 

 

 

 なんか、思ってたのと違う。羽鳥さんみたいにこう、シリアスな感じだと思ってたのに。これでは本当にただの育児だ。とんだピエロじゃないか。

 

 

 

「とりあえず来月頭に束に会いに行くからそのつもりでいてね。それまで魔法使いとしての、最低限の常識を叩きこむよ」

 

「うむ! 私もいつか父様みたいな魔法使いになるぞ!」

 

 

 

 

「……そうか。ありがとう」

 

 

 

 その言葉に少しだけ救われた、気がした。

 

 

 

 




「考えるよりもまず行動」
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