「師匠、最近あいつ見かけないっすね」
「あいつ? ……サレーンのことか。奴は流浪の魔法使いなんだ、数か月見ないくらい珍しいことじゃないだろう」
「いや、なんつーか言葉にするのは難しいんですけど、最近噂そのものを聞かなくなったような気がするんですよ。チセも会ってねぇらしいし」
「……使い魔はどうした? 同じ魔法使いのあの子なら連絡を取りえるのだろう?」
「それがチセも全然分かんないみたいで。場所も距離も分かんなくなっちまったみたいに届かないそうです」
「あの子ですら繋がらないとなると奇妙だな。不愉快だが奴は学園に薬を卸している。その供給が途絶えるのは少しマズい」
「えっ、あいつそんなことしてたんですか? へー、ただのちゃらんぽらんじゃなかったんですねぇ。どこで何してんのやら……」
『あの気配の薄い魔法使いのことか? 』
「うおっ、にいさん。急に出てくるなよ、びっくりするだろ」
『へっ、そりゃ悪かったな。でもなァ、こりゃ探すのは一苦労だぜ。』
「何かわかるのか」
『いんや、さっぱり。でも分かんねってことが分かるなァ。』
「精霊すら追えない場所、か。……どうせ奴のことだ。死んではいないだろう」
「違いないっすね」
「奴のことはこちらでも少し調べておいてやる。それよりも次の授業までそう時間がないだろう。サボってないで早く行け」
「うへー。ラテン語眠くなるんすよね……」
『……どうだかな。魔法使いが消えちまうってのは、大概ろくでもねぇことさ。それこそ末路なんざ知れてるってもんだぜ。』
『……また魔法使いが減っちまったかァ。あいつの松の匂い、嫌いじゃなかったんだけどなァ。』
「ダメだな、届かん。
『やはり見つかりませんか』
「生への執着だけならば、自生したミントよりしつこいあやつが死んだとは思えん。にも関わらず儂の「声」が届かないなら尚更な」
『……そうですか。残念です』
「アドルフ、まだあやつの薬に頼っておるのか?」
『彼の痛み止めと抗うつ剤は一級品ですよ。副作用の心配が少ないから、一部の生徒と教員はとても重宝しているんです』
「そも薬に頼る生活自体が不健全だがな。……しかし、それはまずいな」
『彼は各地で薬を処方していましたから。学院も例外じゃありません。
「こちらでも捜索はしてみる。だがあまり期待はするな、お前は生徒の心のケアに専念しろ」
『重々承知しています。それでは失礼します』
「ふぅ、まったく、サレーンめ。老体を働かせおって。お前の薬を頼る者が多すぎてわしにまで皺寄せがきているではないか」
「心の病を曇らせるしかできない不良品……だったか。心を治す薬なぞありはしないというに」
「その薬でどれだけの者が救われたことか知らんのか、大バカ者め。見つかったら拳骨の一つでもくれてやる」
「お前を必要とする者達の目の前でな。自身が必要とされていると恥をかいて学べ」
「ママ、アランさん全然来ないね……。魔法教えるの嫌になっちゃったのかな……」
「……大丈夫だよアルシア、そんなことはない。あいつはなんだかんだちゃんと元気にやってるよ。心配しなくてもちゃあんとまた来てくれるさ」
「……うん」
「きっとアランのことだし、変なトラブルに巻き込まれてるだけだよ。……ひょっとしてアルシア、アランのことが気になってる?」
「そ、そういうんじゃ……な、ない、と思う。~っもう、パパのバカッ!」
「アッハッハ! イタッ、ごめんごめん! 叩かないでくれ!」
「……デイビット、私はあいつが帰ってきたときに冷静でいられるか分かんなくなってきたよ」
「……ごめん、アラン。藪蛇したかも」
「とはいえ、少し心配だね。あいつが頼んでたのは物が物だから保管に場所は取らないけど。あいつにしか使えないものばかりだし、まだ試作段階のものもある。これもそうさ」
「彼が最後に頼んだもの……ああ、確か「失せ物探しのコンパス」だっけ。何か、海賊の映画を参考にしたとかって」
「面白そうなのは間違いないね。あいつ曰く、脳科学的には人は生涯見た物全てを記憶している。だから見たことさえあれば、本人の記憶を頼りにそれを探し出す、だったかねぇ」
「へぇ、面白いものを作るんだなぁ。存外、それを使えばアランの居場所が分かったりしてね」
「まさか、それはないね。これは
「見せて見せてー!」
「……まぁ、そこまで危険でも複雑な物でもないし大丈夫か。はいよ、アルシア。一応人の物だからね、丁寧に扱うんだよ」
「はーいっ!」
「しかしアンジェリカ、彼はまだ取りに来ないのかい? もう二か月を過ぎるというのに……」
「……あいつは時間の約束だけは絶対に破らない。私達魔法使いにとって契約は絶対、中でもあいつは時間は絶対に守るやつだし。その点は信頼してる」
「というより人に迷惑をかけるのを好まない、だね。優しい人だよ」
「どうだか。単に
「……前世、か。倫理を守るなとは言わないけど、彼はもう少し自由に生きればいいのにね。羽鳥さんもそうだけど二人とも日本出身だし、そういうお国柄なのかな」
「二人とも妙に周りに気を使うというか、そういうところは否定しきれないよねぇ……」
「ママ見てー! 針がくるくるしてるー!」
「見つけたいものが無い、もしくは見たことが無いとそうなるのさ。ちゃんと探したいものをしっかり頭で考えたかい?」
「むむむ……。コンパスさん! アランさんはどっち?」
「っ!? アルシア! それ!」
「ママ、見て! 針が止まったよ! アランさんの場所はあっちだよ!」
「呼び声だけが聞こえる、か」
「えぇ、エリアスは何か知りませんか?」
「うーん……。ケンタウロスの、というより種族にしか通じないまじないに関しては僕も分からないな。そもそも本人達ですら分からないものが、僕に分かるとは思えないよ」
「そうですか……」
「考察くらいしかできないけれど、恐らくだけど距離のような物理的な障害ではないと思うよ。それなら呼んだ時点で来れないわけがない。幽閉されている線も薄い。ハシバミと石を用意できてるなら、杖だってあるだろうし」
「漫画や小説では別な次元、時空から呼びかけるというものがあります。そういう線はありませんか?」
「無くは無い、かな。とは言っても並行世界の数は無数にあるというのが定説だろう? その中でもケンタウロスへの呼びかけというのはあまり現実的じゃあないね」
「一つ言えるのは、ケンタウロスの配達屋を呼ぶまじないを明確に知ってる者、となると魔法使いの可能性は高いんじゃないかな」
「そうですか……。一体誰なんでしょうか」
『……!』
「……銀の君? 来客かい? おかしいな、今日はそんな予定はないはずだけど。チセ、少し出てくるよ」
「は、はい」
『……』
「……灰ノ眼。何の用だ、また僕らをお前の遊びとやらに───」
『影の仔よ。すまぬ、急ぎだ。助力を頼む。まだ間に合うやもしれん。』
「……協力する理由が無い。せめて事情を話せ」
『我はまだ、あれをくれてやったときのやつの顔を見ていない。』
『惑わしの子を、連れ戻さねば。』
「一つの善行はもう一つの善行に値する」
「情けは人の為ならず」
ここまでが再投稿分となります。
この度は、今まで読んでくださった皆様に多大なご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
今後とも、何卒よろしくお願いします。