魔法使いの孤独   作:飛び回る蜂

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 大変長らくお待たせしました。
 今まで続きが思いつかず、ようやく更新が出来ました。
 今後はこちらの作品も少しずつ書いていこうと思います。


13.Love me, love my dog.

 

 

「───なるほど。それでイギリスから親子二人で旅行を?」

 

「ええ。娘にはいろんなものを見てほしくて」

 

 

 

 湿気が少なく、カラッとしたドレスデンの気候は非常に心地よい。

 気温こそ高いが、外での会話も然程苦ではない。

 

 

 

「見た所、歳は私より少し上くらいのようだが……いや、聞くまい。色々事情があるのだろう」

 

「ありがとうございます。……ええ、本当に」

 

 

 

 僕らはドイツに訪れる際、相談の末にイギリスから来た旅行者という設定になっている。

 設定というのも、僕は言わずもがな、ラウラは既に行方不明者か死亡者扱いで戸籍が無く、パスポートが作れないため魔法を用いて密入国をしている。

 

 ……犯罪に犯罪を重ねていることに酷く自己嫌悪を覚えるが、そうでもしなければドイツを訪れることはできない。

 束に偽装戸籍やパスポートの依頼をというのも考えた。しかし、顔写真からラウラの顔が割れるリスクがある。

 万一、空港で止められでもしたら最悪だ。

 

 法に則っても、そうでなくとも、僕達の行動には常にリスクが伴う。

 その度に僕達はまっとうには生きられないのだと、胸が苦しくなる。

 

 

 

「この街はどうだ?私の故郷でな、いい街だと自負している。口さがない連中は、時代に取り残されている、などと言うんだがな」

 

「ええ。本当に素敵な町ですよ、ここは。穏やかで、食事も美味しい。向こうのケバブ屋さんで少しお話もしましたが、人も空気も穏やかです」

 

 

 

 ケバブ屋台の話を出すと、ハルフォーフさんは少し顔を顰め、少し声を抑えて僕に問いかける。

 

 

 

「……あのおばさん、噂好きで通っていてな。私の家のご近所なんだが、何か言ってたか?」

 

「噂……ですか?」

 

 

 

 特には何も言っていなかったと思うけど……

 いや、ISの話しているときに何か言っていたな。確か……

 

 

 

「……娘さんから色々聞かれてる、IS乗りさん?」

 

「うっ、まぁ、そこまでなら大丈夫、か……? うぅん、守秘義務に触れてるわけでは無いが……」

 

 

 

 うんうんと唸ってから、そのままゆっくりと話し始める。

 

 

 

「……まぁ、IS業界はとにかく人手が欲しいのは事実だ。ISの普及はこれからも広まっていくだろうし、習熟は早いに越したことはないしな」

 

「ISについては詳しくないんだけれど、人手は足りていないんですか?」

 

「篠ノ之博士ならともかく、我々にとってはまだまだ未開拓の分野だからなぁ。人手はいくらあっても足りんさ」

 

 

 

 IS発足からまだまだ日が浅く、研究開発も未だ発展途上。

 いや、発展途上どころか進歩自体進みが悪いのだろう。

 それほどまでに束の作ったISという存在の規格外ぶりは度を超えている。

 

 

 

「そういえば娘と来ているのだったな。いくつだか聞いてもいいか?」

 

「娘はもうじき6歳になります」

 

「6歳かぁ。そうか、では今が一番かわいい頃だろうな……」

 

「えぇ、本当に。仕事も手伝ってくれるし、いい子なんですよ」

 

「あぁ、分かるよ……。幼子というのは可愛い物だ……!」

 

 

 

 しみじみと、うんうんと頷いて同意を示す。

 しかし次の言葉を発する直前、途端に顔色を変えて僕に詰め寄る。

 

 

 

「……ッ、そうだ、貴方はフライトでイギリスからドイツに来たんだろうッ!?」

 

「えっ、ええ。まぁそうですね」

 

 

 

 僕らが通っているのは正規な手段ではない。魔法を用いての密入国だ。

 あまりその辺り深く突っ込まれるのはマズイ……

 

 しかしハルフォーフさんは僕の考えなどはお構いなしに、両肩を掴んで詰め寄ってくる。

 その表情は鬼気迫るものがあり、ただ事ではないことが見て取れる。

 

 

 

「人を、いや子供を探しているんだっ!もし東部から来たら見かけていないだろうか!?」

 

「お、落ち着いてください!僕は───」

 

 

 

 

 

 

「ラウラを、ラウラという名に心当たりはないか!?」

 

 

 

 

 

 

 

「───」

 

 

「白くて長い髪の女の子なんだっ。二か月ほど前に行方不明になってしまった子だっ!頼むっ、何か知っていたら教えて欲しい……ッ!」

 

 

 まさか、この人は……

 

 

 

「……その子とは、どういう……?」

 

 

「部下だったんだ。私の所属する部隊の……。大切な、私の部下だったんだ……ッ!」

 

 

 

 今にも泣き出してしまいそうな程の顔で僕に言葉を漏らす。

 その喉から発せられる声はか細く、苦悶を伴ってすら聞こえる。

 

 ……だからと言って、本当に全てを話してもいいのだろうか。

 この人がラウラを、また軍に連れ戻さないという保証がどこにあるというんだ。

 

 肩にかかる力が増々強くなる中、それに気づかない程錯乱したように叫び続けている。

 

 

「私が、私が悪かったんだ……っ!あの子に心から寄り添うことが出来なかった私が……っ!」

 

「必死に力を追い求めるあの子に、私はただ優しくすることさえできなかったんだ……っ!」

 

「頼む、知っているなら教えてくれ!あの子が、ラウラ・ボーデヴィッヒがどこにいるか知らないだろうか……っ!?」

 

 

 

 

 

 

「……ラウラは───」

 

 

 

 

 

 

離れろッ!!

 

 

 

 

 

 バヂッ!!という音が僕ハルフォーフさんの間で響き、肩を掴んでいた手が離れる。

 

 今のは『魔法』だ。強烈な感情を言葉に乗せた、所謂言霊。

 しまった、迂闊だった……!

 

 

「父様ッ!!」

 

 

 ラウラが戻ってきた。

 なんて、悪いタイミングなんだ……っ。

 

 

『───かつて所属していた部隊の隊長も、故郷の教会が修復されたと喜んで───』

 

 

 あれは、彼女のことだったんだ。

 ラウラが所属していた部隊の隊長、クラリッサ・ハルフォーフを指していたんだ。

 

 

 

「ふざけるな、ふざけるなよ……ッ!なぜ貴女なんだ……ッ!!貴女はっ、父様を害そうとしたのかッ!」

 

「ラウラ……っ!?父とは、いや、そんなことより生きて……!」

 

「ラウラっ、彼女は───」

 

「答えてくださいッ!!」

 

 

 まるで親の仇を見るように、彼女はかつての教官に敵意を向ける。

 理解した、ラウラは()()()()()()()()()()()()

 

 このままでは酷い誤解を生んでしまうだろう。

 

 

「生きて、いたんだな。ああ、やはり私は間違っていなかった」

 

 

 先の発言が聞こえているのか、それともいないのか。

 彼女はそのやつれた顔に安堵と後悔を滲ませ、笑う。

 

 

「すぐに見つけてやれなくてすまなかった。あの日、もう少し早くお前に気づいていればと思わなかった日は無い……」

 

「ラウラ、ああ、本当に無事で───」

 

 

 

 

「それ以上近づかないでいただきたい、ハルフォーフ教官ッ!」

 

 

 

 しかし、彼女の言葉はあまりに残酷だった。

 

 

 

「……ラウラ?どうしてそんなことを言う?私はただ、お前の力になろうと」

 

「脱走者であり実験体でもある私に、軍が居場所を用意するとは思えません。……お願いです、これ以上私に関わらないでください」

 

「……じゃ、じゃあ!お前は、どこへ行くというんだ!私ならお前を庇ってやれる!だから……っ」

 

 

 最早、彼女の言葉は悲鳴のようだった。

 しかし、彼女の願いはあまりに歪。

 助けたいと願いながら、それを自らの助けとしているのだから。

 

 

(……マズい)

 

 

 家にいた時、軍にいた頃の話をするラウラはあまりに静かだった。

 まさか、相対した時にこれほどまでの激情を向けるとは予想できなかった。

 

 ……バカを言うな、予測は出来た筈だ。

 初めて会ったとき、軍を抜けた彼女は何て言った?

 怖くて、辛くて、寂しかったと言っていたんだ。

 

 これは、予測できなかった僕の不始末だ。

 

 

「では軍が私に何をしてくれるというのですかッ!何をしても落ちこぼれでっ、誰を追いかけても、その影すら踏めないような私に何を!?」

 

「わ、私が必ず───」

 

「嘘だッ!!……もういい、語ることなんて何もない。貴女は……」

 

「ラウラッ!!」

 

 

 ダメだ、それは言葉にしては───!

 

 

 

 

 

 

「貴女は、敵だ」

 

 




「私を愛したければ、私の犬も愛しなさい」

「坊主にくけりゃ袈裟まで憎い」
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