今まで続きが思いつかず、ようやく更新が出来ました。
今後はこちらの作品も少しずつ書いていこうと思います。
「───なるほど。それでイギリスから親子二人で旅行を?」
「ええ。娘にはいろんなものを見てほしくて」
湿気が少なく、カラッとしたドレスデンの気候は非常に心地よい。
気温こそ高いが、外での会話も然程苦ではない。
「見た所、歳は私より少し上くらいのようだが……いや、聞くまい。色々事情があるのだろう」
「ありがとうございます。……ええ、本当に」
僕らはドイツに訪れる際、相談の末にイギリスから来た旅行者という設定になっている。
設定というのも、僕は言わずもがな、ラウラは既に行方不明者か死亡者扱いで戸籍が無く、パスポートが作れないため魔法を用いて密入国をしている。
……犯罪に犯罪を重ねていることに酷く自己嫌悪を覚えるが、そうでもしなければドイツを訪れることはできない。
束に偽装戸籍やパスポートの依頼をというのも考えた。しかし、顔写真からラウラの顔が割れるリスクがある。
万一、空港で止められでもしたら最悪だ。
法に則っても、そうでなくとも、僕達の行動には常にリスクが伴う。
その度に僕達はまっとうには生きられないのだと、胸が苦しくなる。
「この街はどうだ?私の故郷でな、いい街だと自負している。口さがない連中は、時代に取り残されている、などと言うんだがな」
「ええ。本当に素敵な町ですよ、ここは。穏やかで、食事も美味しい。向こうのケバブ屋さんで少しお話もしましたが、人も空気も穏やかです」
ケバブ屋台の話を出すと、ハルフォーフさんは少し顔を顰め、少し声を抑えて僕に問いかける。
「……あのおばさん、噂好きで通っていてな。私の家のご近所なんだが、何か言ってたか?」
「噂……ですか?」
特には何も言っていなかったと思うけど……
いや、ISの話しているときに何か言っていたな。確か……
「……娘さんから色々聞かれてる、IS乗りさん?」
「うっ、まぁ、そこまでなら大丈夫、か……? うぅん、守秘義務に触れてるわけでは無いが……」
うんうんと唸ってから、そのままゆっくりと話し始める。
「……まぁ、IS業界はとにかく人手が欲しいのは事実だ。ISの普及はこれからも広まっていくだろうし、習熟は早いに越したことはないしな」
「ISについては詳しくないんだけれど、人手は足りていないんですか?」
「篠ノ之博士ならともかく、我々にとってはまだまだ未開拓の分野だからなぁ。人手はいくらあっても足りんさ」
IS発足からまだまだ日が浅く、研究開発も未だ発展途上。
いや、発展途上どころか進歩自体進みが悪いのだろう。
それほどまでに束の作ったISという存在の規格外ぶりは度を超えている。
「そういえば娘と来ているのだったな。いくつだか聞いてもいいか?」
「娘はもうじき6歳になります」
「6歳かぁ。そうか、では今が一番かわいい頃だろうな……」
「えぇ、本当に。仕事も手伝ってくれるし、いい子なんですよ」
「あぁ、分かるよ……。幼子というのは可愛い物だ……!」
しみじみと、うんうんと頷いて同意を示す。
しかし次の言葉を発する直前、途端に顔色を変えて僕に詰め寄る。
「……ッ、そうだ、貴方はフライトでイギリスからドイツに来たんだろうッ!?」
「えっ、ええ。まぁそうですね」
僕らが通っているのは正規な手段ではない。魔法を用いての密入国だ。
あまりその辺り深く突っ込まれるのはマズイ……
しかしハルフォーフさんは僕の考えなどはお構いなしに、両肩を掴んで詰め寄ってくる。
その表情は鬼気迫るものがあり、ただ事ではないことが見て取れる。
「人を、いや子供を探しているんだっ!もし東部から来たら見かけていないだろうか!?」
「お、落ち着いてください!僕は───」
「ラウラを、ラウラという名に心当たりはないか!?」
「───」
「白くて長い髪の女の子なんだっ。二か月ほど前に行方不明になってしまった子だっ!頼むっ、何か知っていたら教えて欲しい……ッ!」
まさか、この人は……
「……その子とは、どういう……?」
「部下だったんだ。私の所属する部隊の……。大切な、私の部下だったんだ……ッ!」
今にも泣き出してしまいそうな程の顔で僕に言葉を漏らす。
その喉から発せられる声はか細く、苦悶を伴ってすら聞こえる。
……だからと言って、本当に全てを話してもいいのだろうか。
この人がラウラを、また軍に連れ戻さないという保証がどこにあるというんだ。
肩にかかる力が増々強くなる中、それに気づかない程錯乱したように叫び続けている。
「私が、私が悪かったんだ……っ!あの子に心から寄り添うことが出来なかった私が……っ!」
「必死に力を追い求めるあの子に、私はただ優しくすることさえできなかったんだ……っ!」
「頼む、知っているなら教えてくれ!あの子が、ラウラ・ボーデヴィッヒがどこにいるか知らないだろうか……っ!?」
「……ラウラは───」
「離れろッ!!」
バヂッ!!という音が僕ハルフォーフさんの間で響き、肩を掴んでいた手が離れる。
今のは『魔法』だ。強烈な感情を言葉に乗せた、所謂言霊。
しまった、迂闊だった……!
「父様ッ!!」
ラウラが戻ってきた。
なんて、悪いタイミングなんだ……っ。
『───かつて所属していた部隊の隊長も、故郷の教会が修復されたと喜んで───』
あれは、彼女のことだったんだ。
ラウラが所属していた部隊の隊長、クラリッサ・ハルフォーフを指していたんだ。
「ふざけるな、ふざけるなよ……ッ!なぜ貴女なんだ……ッ!!貴女はっ、父様を害そうとしたのかッ!」
「ラウラ……っ!?父とは、いや、そんなことより生きて……!」
「ラウラっ、彼女は───」
「答えてくださいッ!!」
まるで親の仇を見るように、彼女はかつての教官に敵意を向ける。
理解した、ラウラは
このままでは酷い誤解を生んでしまうだろう。
「生きて、いたんだな。ああ、やはり私は間違っていなかった」
先の発言が聞こえているのか、それともいないのか。
彼女はそのやつれた顔に安堵と後悔を滲ませ、笑う。
「すぐに見つけてやれなくてすまなかった。あの日、もう少し早くお前に気づいていればと思わなかった日は無い……」
「ラウラ、ああ、本当に無事で───」
「それ以上近づかないでいただきたい、ハルフォーフ教官ッ!」
しかし、彼女の言葉はあまりに残酷だった。
「……ラウラ?どうしてそんなことを言う?私はただ、お前の力になろうと」
「脱走者であり実験体でもある私に、軍が居場所を用意するとは思えません。……お願いです、これ以上私に関わらないでください」
「……じゃ、じゃあ!お前は、どこへ行くというんだ!私ならお前を庇ってやれる!だから……っ」
最早、彼女の言葉は悲鳴のようだった。
しかし、彼女の願いはあまりに歪。
助けたいと願いながら、それを自らの助けとしているのだから。
(……マズい)
家にいた時、軍にいた頃の話をするラウラはあまりに静かだった。
まさか、相対した時にこれほどまでの激情を向けるとは予想できなかった。
……バカを言うな、予測は出来た筈だ。
初めて会ったとき、軍を抜けた彼女は何て言った?
怖くて、辛くて、寂しかったと言っていたんだ。
これは、予測できなかった僕の不始末だ。
「では軍が私に何をしてくれるというのですかッ!何をしても落ちこぼれでっ、誰を追いかけても、その影すら踏めないような私に何を!?」
「わ、私が必ず───」
「嘘だッ!!……もういい、語ることなんて何もない。貴女は……」
「ラウラッ!!」
ダメだ、それは言葉にしては───!
「貴女は、敵だ」
「私を愛したければ、私の犬も愛しなさい」
「坊主にくけりゃ袈裟まで憎い」