『あら、新参者の魔法使いとは貴方ね?』
「……お初にお目にかかります、女王陛下」
『よぉ新参者! 俺もいるよ!』
「陛下もご機嫌麗しく」
『女王、下賤な人如きと話しては御耳が汚れます。これの魂の在り方は異質です』
『クスクス、相変わらずスプリガンはお堅いわねぇ。二度目の生、そう言うこともあるわ』
「……なぜそれを貴女が知っている」
『あらあら、そう怒らないで。この地で生まれた貴方から、別な地の香りがするのだもの。嫌でも気づくというものよ』
「……ご無礼を働き申し訳ありません」
『いやいや!安心しなよ! 俺達はお前を、新しい魔法使いを歓迎するぜ、新入り!』
『うんうん。あいつ程じゃあないけど、お前もまた面白そうな存在だ』
『なぁお前、俺達の何を知っているんだ? 未来か? 過去か? それとも現在か?』
『是非教えてほしいな、輪廻から外れた者よ』
『貴方! 私達は貴重な新芽を潰しに来たわけではないでしょう?』
『いでで、髪を引っ張らないでくれ! ハゲちゃうよ!』
『まったく、ごめんなさいね』
「い、いえ。どうかお気になさらず」
『女王。流石に長居しすぎです。戻りましょう』
『そうね。そろそろお暇するわ。今度よければお茶でもしましょう。招待するわ』
「……帰して下さるならば、喜んで」
『あらあら、また振られてしまったわ。骨の子といい、最近の若い子は冷たいわねぇ……』
『人の子。そう悩まなくてもいいのよ』
「……!」
『お前が何を知っているのかは知らないわ。けれど、お前もまた夜の世界に連なる可愛い仔』
『お前の悩みはきっと、些細なものよ』
「ありがとう、ございます」
『ティターニアは優しいなぁー。まっ、そう言うんなら俺から言うことはないかな。じゃーな!』
「そっか、前世なんて。この世界では大したものでもないのか」
「うーん、君さ。解呪や治癒はできないけどさ、幻覚とか誘導とかそういうのはできるんだよね?」
「……そうだけど」
「うん、君を素材にしたらいいボディーガードになりそうだ! なに、心配しなくても痛くはしないよ。すぐ壊れちゃうだろうし」
「チッ! 報酬目当てに魔女の遣いなんてやるんじゃなかったっ! ままならないなぁ!!」
「アッハハ! 空に逃げるの? 逃げられるかなぁ? こいつはグリフォンを素体にしてるから飛ぶのは早いよ?」
「ああもうそれを早く言えよッ! ああもういい、らちを開けなきゃ。ノーム!」
「還れ巡らせ土の柩」
「還れ巡らせ永久に」
「春待つ命の 眠りの様にッ!」
「あらっ、足が崩れちゃった? うまいことやるねぇ。でもまだ翼は動けるよ」
「嘆く風 暗い風 救う風 夜の風」
「逝くべき場所に 逝く風を」
「土と風の盟約をここに」
「動ける死者に安らぎを」
「───チッ、土還しの魔法。僕にも影響がありそうだし、近づくのは得策じゃないか」
「……今ッ!」
「あっ。行っちゃった」
「……まぁいっか。そこまで価値ある素材でもないし」
「ん? 君は確か……アランだったかな?」
「おや、エインズワース殿! こんな街中で合うとは奇遇ですね」
「君の敬語は怖気立つから普通でいいよ」
「ふふ、これは手厳しいな。そうさせてもらうよ」
「エリアス? この方は……?」
「彼はアラン・クローリス。最近
「
「こんにちは。僕のことは気軽にアランと呼んでくれると嬉しいな。二つ名は謂わば通り名だからね。普段は名前で呼んでほしい」
「は、はじめましてアランさん。羽鳥チセです。よろしくお願いします」
「うーんそうだな……『こんにちは羽鳥さん。よろしくね』」
『! 日本語話せるんですか?』
「『輪廻転生って信じる? 前世が日本人でね』」
「『転生……。本当にあるんですね』」
「『僕以外お目にかかったことはないけどね』……っと、旦那様の眼が怖いからこの辺にしとこう」
「いや、さほど気にしないよ。君からはそういう悪意を感じないし。ニホン語ってやつなんだろう?」
「そうだね。僕等の古い故郷。もっとも今は、お互い別な住処を故郷としているようだけどね」
「は、はい……」
「チセ、彼はある程度信用してもいいよ。今時珍しい人格的な魔法使いだ。アンジェリカと同じくらいにはね」
「魔法使いも魔術師も、時折とんでもないのがいるからね。そいつらに比べれば僕は甘いってだけ。買いかぶり過ぎだよ」
「そういえば君、こないだカルタフィルスから逃げ切ったって? 若いのに無茶をする」
「カルタフィルスから!? 大丈夫だったんですか!?」
「逃げ切らなかったら即死亡なんだから無茶もするに決まってるだろう? ああ大丈夫だよ羽鳥さん。むしろ無傷なことを褒めてほしいくらいだよ」
「君、口調崩すと途端に厚かましくなるな……」
「あ、あはは……」
「こんにちはデイビットさん。アンジェリカ殿はいるかな?」
「おお、アラン! ちょうど貴方の道具を作っていたところだよ」
「デイビットさん。僕のような若造は「お前」とか「君」呼びでいいんだと何度も言ってるだろう? 歳こそ
「あぁ、すまんすまん。いや何、時折アルシアの面倒も見てくれるだろう? 二十歳の子供には見えなくってね」
「僕は子供が好きだから構わないけど、アンジェリカ殿はいい顔しないね。魔法使いに娘が懐いてるのは、娘にカタギを選んでもらいたい彼女には複雑だろうし」
「ちょっとクローリス! 私は魔法使いをマフィア扱いはしてないよッ!」
「やあ、アンジェリカ殿。お勤めご苦労様」
「ああどうも! ったく、無駄に複雑なもん頼んで仕事増やしてくれちゃって……」
「その分お金は払っただろう?」
「ああもうあの骨頭といいあんたといい!! 出所が綺麗な金払えば問題ないと思ってるやつらはこれだからっ!! 常識ってもんが無いのかい!?」
「「アッハッハッ!」」
「笑ってんじゃないよ男共!!」
「ママー! パパー! ただいまー! あっ! アランさん! こんにちは! ひょっとして今日も魔法の練習見てくれるの!?」
「やぁアルシア、こんにちは。今日は別件だから、ごめんね。また今度」
「えー! ケチー!」
「こらアルシア。今仕事の話中なんだ。あたしが後で見てあげるからバッグおいて着替えてきな」
「はーい! アランさん、また今度ね!」
「うん、またね。……なんだいアンジェリカ殿。そんな畑の鴉を見るような眼をして」
「40過ぎのおっさんに娘はやらないよ!!」
「アンジェリカ殿は僕を何だと思ってるのかな!?」
「ちょっと若作りだからって調子に乗るんじゃないよ! 絶対に娘はやらないからね!」
「言わないよ!? というか若作りって……!」
「アッハッハッハッハ! アッハ、ゲホッゲホッ……!」
「デイビットさんも笑ってないで止めて!」
「やぁレンフレッド。ご機嫌いかがかな」
「その声、
「少し学長と話があってね。ここは相変わらずギスギスしてるね。学生時代を思い出して息苦しいよ」
「ならさっさと出ていけ。……私はお前と話す気はない」
「君の魔法使い嫌いも中々どうして難しいね。まっ、用事も済んだから僕はお暇するよ」
「ししょー? 飯食いに行きましょー。あれアランじゃんか。アドルフさんに用事か?」
「やぁアリス。いやいやちょっと野暮用でね。ただの調査依頼の報告だよ。最近イタリアの方で魔女集会があってね。目的を探る調査だったんだけど」
「へー。で? 結局何だったんだ?」
「新規メンバーが一人増えるからその歓迎会だってさ。内容が内容だから守秘義務も守らなくていいと。とんだ骨折り損だよ」
「……学長が魔女集会の調査依頼だと? どういうことだ」
「僕に聞かれても困るよ。そういうのは直接聞いてくれると助かるな。それじゃあね!」
「おう! またな、アラン!」
「……フン」
『うぅむこのような盃、我とて見たことが無い。何に使われ、如何様に使うかもわからん。』
「貴方が祝いだと持ってきたものだろう、何故あなたが分からないんだ」
『我をあまり買いかぶってくれるな。長く生きたとて、全知にはなれぬのだからな。むぅ、何か
「ずらされる? 首とか? 困るよ、呪具やアーティファクトの類じゃないよね?」
『そこまで危険とは思えん。いっそ触ってみるか? 』
「触らないよ。何が起こるか分からないし」
『しかし我が触ったとて何も起きん。魔力こそ込められてはいるが危険でも無し。人の身であるお前ならばあるいは……』
「……そう言われると気になるな。やってみようか」
『……何も起きんな。』
「……起きないね」
『つまらん。これでお前が悶絶するなり歓喜するなりすれば面白かったろうに。これではただの器ではないか。』
「入れた中身を別な中身にずれさせるとかそういうものだったりしないかな?」
『フム、そういう線もアリか。盃に水をいれるのは至極当然───』
『───いかん、それから手を離せ! 』
「えっ、なっ───灰ノ眼ッ───!」
『消えた……? 違う、これはまさか。』
『もしや物質ではなく、時間と位相をずらすものだったか! よもや現代にそれほどまでのものが残されているとは。』
『なんということだ、知らずとはいえこの手で若芽を摘み取ってしまったとは』
『嗚呼、サレーンよ。聞こえぬだろうが、我は貴様の一喜一憂が見たかっただけで、消すつもりなどなかった……』
「んん……懐かしい、夢を見てたのかな」
「……いや、違うか。灰ノ眼は、後悔なんてしないだろう」
「座ったまま居眠りしてしまったかな。背中が痛いや……」
「皆元気かなぁ。僕のことなんて、最近見かけないな、くらいにしか思ってないのかな」
「僕は、帰れるのかな」
「僕はここで、誰も僕を知らないまま、死んでいくのか」
「アンジェリカ殿、デイビットさん、アルシア、エインズワース殿、羽鳥さん、レンフレッドくん、アリスさん、アドルフさん」
「皆に、会いたいな……」
「……ん、電話が鳴ってる。誰だろ。もしもし」
『もすもすひねもすぅー? 魔法使いさんで合ってる? えっ、てかなにこれ。なんで発信元が一切特定できないのに繋がるの。こわ』
「自然に回線を探知しないでくれるかな? そういう技術とでも言っておくよ。何の用かな?」
『ああそうそうこないだねぇ! クーちゃんが笑ってね! 「束様、今日は前に作っていただいたフレンチトーストが食べたいです」って顔赤くしながら言ってきてねぇ! もうそれが可愛くて可愛くてさぁ? でも誰かに話がしたくても束さん立場的にできないじゃん? だから───』
「待て待て待て早い早い早い。要はあれか、自慢がしたかったんだね」
「That's right! 」
「そうかお疲れ様じゃあね」
「えっ、まだ欠片も喋ってな───」
「……まったく。確かに物事の尊さを教えろって言ったけど、誰も溺愛しろなんて言ってないというのに」
「……でも、まぁ、あれで良き隣人ともいえるし」
「ふふっ、もう少しくらいゆっくりしてもいいかもね……」
おまけ もしもの未来
「む、一夏。読書とは珍しいな。何を読んでいるのだ?」
「これか? 弾に面白いって言われたラノベだ。なんでも主人公が異世界転生して魔法が使えるようになる、そしてその世界でモテモテになるって話だ」
「……偶の読書かと思えばライトノベルか。いや悪いとは言わんが、私はもっと純文学的なものを勧めたいぞ」
「別にいいだろ? 本を読むのに貴賤はないだろ」
「私としましても、あまり教養になるとは思えませんわ。いくつかオススメを紹介して差し上げますわよ?」
「いいよいいよ。別に読書家ってわけでもないしな。……にしても魔法かー。俺も魔法が使えたらなー」
「何を言っているのだ一夏。そんなものがあるわけないだろう」
「だよなー。でもあったら夢があるだろ? なぁセシリア」
「あら、魔法はありますわよ。魔女はいませんが魔法使いはちゃんと存在します」
「だよなー、魔法使いなんている訳……ハッ!?」
「セ、セシリア? そのだな。魔法使いというのは所謂御伽噺でな? 空想の中の存在であって……」
「いいえ、実在しますわ。私は幼い頃に魔法使いの家に迷い込んでしまい、泣き喚いていたところを慰めてくださったのです。そこでこの指輪を頂いたのです」
「な、なるほど」
「その時とても綺麗な魔法を見せてくださったのです。幼い頃傷心だった私にとって、そして今でも鮮明に思い出せる大切な思い出ですわ」
「ちょ、ちょっと待っててくれ。箒! こっちに来てくれ!」
「わ、分かった!」
「?」
「箒、どういうことだ。セシリアはいつも理論的で現実的で、でああいうファンタジーなのは全然って感じじゃなかったか!?」
「わ、私に聞かれても困るぞ!? いや待て、幼い頃に、家に迷い込んで、魔法使いに、指輪を貰ったということだろう……?」
「ま、まさか……!?」
「「これは所謂、事案では……?」」
「違いますわよ!!」
「うわ! 聞こえてたか! すまん、でもそういう風にしか聞こえなかったんだ!」
「すまない! だが私も同感だ。正直、この科学蔓延る時代に魔法があるとは思えん。幼い頃に見た夢という線はないだろうか?」
「ですから! 魔法は本当にあるのですわ! アラン様は本当の魔法使いですわ!」
「でも実際魔法なんてあるわけが───」
「あるよ?」
「そうですよ、姉さんも言ってください。魔法なんてあるわけ───ハッ!?」
「やほー♪ いっくんに箒ちゃん! それと……金髪の子! うん、魔法はあるよ」
「あっ、束さん。お邪魔してます。……じゃなくて! えっ? あの魔法ですよ? 束さんが?」
「ど、どうしよう一夏。科学の申し子、科学そのものみたいな姉さんが魔法とか言い出した。わ、私はどうしたら……!」
「お、落ち着け箒! その、進化した化学は魔法と見分けがつかないというそういうあれですか?」
「うんにゃ? マジの魔法使い。私が昔解明しようとして追い掛け回した挙句死ぬほど凹まされた人だし。精神的に」
「姉さんが追いかけて追いつかなかったって言われると不思議と魔法使いかなとは思ってしまうが……」
「俺も思った。確かに魔法でも使わないと逃げ切れる気がしない」
「も、もしやそれはアラン様では!?」
「そだよ! やっぱり、昔お世話したオルコットさんって君のことだよね? いやーまさかこんなとことで会うなんてね!」
「まさかあの方の仰っていたご友人というのが篠ノ之博士とは思いませんでしたわ! 縁というのはあるものですわねぇ……」
「かもね。あっ今呼べたりする? 束さんは皆に嫌われてるのもあって呼び出せたりしないから。積もる話もあるだろうしさ!」
「少々お待ちを。えぇと確かこの鈴とトウヒの枝を紐で結って、文言は確か……えぇっと……」
「お、おい。セシリア? 一体何を」
「箒ちゃん静かにしてて。ただでさえ私がいて彼らのご機嫌は斜めだから、これ以上は何が起こるか分かんないんだ」
「ご、ごめんなさい」
「(ほ、箒に対してダダ甘の束さんが叱った!? 嘘だろ!?)」
「導くものよ 霧の向こうの我が縁者の元へ知らせ給う」
「ッ!? 消えた!?」
「ということは届くはずですわ。あの方の家は「向こう側」にありますから」
「おーっ、やっぱり君には素質があるんだねぇ! いいなぁー、羨ましいなぁー! ねぇねぇその指輪見せてくれたりしない? 精霊のとても強い加護が掛かってるんでしょ? 是非見たいなぁ! 欲を言えば欲しいなぁ!」
「だ、ダメです! いくら博士でもこれは正真正銘世界に一つしかないとっても大切なものです! ISを積まれたってあげませんわ! それに博士だって! 私もリンデル様の歌を聞いてみたいのに「あの光景は友人へのプレゼントだからね」って言って見せてくれないのですよ!?」
「あ~~~……確かにあれは凄いものだったけどね? いやほんと人生で一番美しくて洗練されたものを見たけどね? あーそれはそれとして指輪欲しいなぁ~~~……ちょうだい?」
「ダメですっ!!」
「二人が何を言ってるか分からない……」
「お、俺もだ……。っと、誰かお客さんか?」
「私が出てこよう。ついでに少し頭を冷やしてくる……」
「だから見せてくれるだけでいいって!」
「いーやーでーすーわー!」
「二人共聞いてないし、いってらー」
「すみません、遅くなりました。どちら様で……?」
「やぁ、こんにちは。友人達に呼ばれたからお邪魔しに来たよ。束とオルコットさんはこちらにいらっしゃるかな?」
「え、えぇ。確かにいますが……あなたは?」
「あぁ、申し遅れたね。では改めて」
「僕の名はアラン。アラン・クローリス」
「正真正銘の魔法使いだよ」
「やったことは、やったことだ」
「覆水盆に返らず」